らいちゃんの家庭菜園日記

家庭菜園、家庭果樹栽培及び雑学日記

蝉の声

2019-07-16 | 地元紹介

大阪・泉州地方では、今年も7月10日を境に蝉の鳴き声が聞かれるようになりました。
蝉の声と言えば松尾芭蕉のこの句が思い出されます。

    「閑(しずか)さや 岩にしみいる 蝉の声」

この句は元禄2年5月27日、松尾芭蕉が出羽国(現在の山形県)の立石寺(りっしゃくじ)を参詣した時に詠んだ句です。
この日を太陽暦に直すと1689年7月13日だそうで、330年前のちょうど今頃に詠まれたものです。

・立石寺本堂です。(2008年10月撮影)


後世、このセミについてどんな蝉だったのか気になる方がいたようです。
その方の名は歌人の斎藤茂吉で、彼は大正の末ごろに、このセミはアブラゼミだと主張しました。
立石寺の静寂さの中に騒がしく鳴く蝉の声はアブラゼミの声が相応しいと思ったということです。

しかし、これに異を唱える人もいたことから、後に茂吉は確かめるために立石寺に足を運びました。
すると、この時期、立石寺にはアブラゼミは鳴いておらず、ニイニイゼミが繁殖期を迎えていたということです。
そこで茂吉はアブラゼミという自説をニイニイゼミに修正したと言うことです。

「立石寺(山寺)」
立石寺は正式名称を「宝珠山 阿所川院立石寺(ほうじゅさんあそかわいんりっ しゃくじ)」と言い、歴然とした天台宗の寺院です。
860年(貞観2年)、清和天皇の勅命によって、円仁(えんにん・慈覚大師)が開基したといわれています。
また、「立石寺」は別称を「山寺」と言います。
「山寺」はこの土地の地名ですが、観光客には通称の「山寺」の名称の方がよく知られているのではないでしょうか?

・立石寺(山寺)の全景です。


ところで、奥の細道の中で、芭蕉がここで詠んだ「閑さや」の句ですが、蝉が岩にしみいるように鳴いているのなら「閑かさ」どころか、「やかましさ」ではないかと思うのですが、なぜ、「閑さや」なのでしょうか?
調べてみると、ここに詠まれている「閑さ」は、心の中の「閑さ」なのだそうです。

芭蕉は山寺の山上に立ち、眼下にうねる緑の大地を見わします。頭上には梅雨明けの大空が果てしなくつづいています。
そこで蝉の声を聞いているうちに芭蕉は広大な天地に満ちる「閑さ」を感じとったと言うことです。

このように「閑さ」とは現実の静けさではなく、現実のかなたに広がる天地の、いいかえると宇宙の「閑さ」なのだそうです。
梅雨の雲が吹きはらわれて夏の青空が広がるように、突然、蝉の鳴きしきる現実の向こうから深閑と静まりかえる宇宙が姿を現わしたという訳です。

誰でも知っているこの有名な句ですが、その意味するところはなかなか奥が深いようです。
芭蕉の心の内は、凡人には理解しがたいですね。