ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

誰もいないホテルで

2018-09-21 18:24:21 | 読書
ペーター・シュタム『誰もいないホテルで』




 表紙の絵を見ていると、とても穏やかで静かな世界を想像する。

 牧草地に、ところどころ茂る木々、かすかに見える湖、遥か先に連なる山。

 人々が散歩している。
 親子、恋人、仲間たち、犬を連れている人や、乳母車を押す母親。
 
 この平和な絵に描かれた人たちが、物語を読み進めるうちに、ささやき出す。
 
 10の短編は、書き手が異なっているのではと思うほど、雰囲気を変える。

 似ているのは、どれも危うい縁に立たされている感じがすること。

 異質な世界に手を引かれながらも、なんとか現実の世界に踏みとどまる。

 言ってはいけなかったひとこと、持たなければ良かった感情。
 意識せず、うっかり足を踏み入れてしまう場所はある。

 緑豊かな心和む風景の中で、表紙の恋人たちは口論をしているのかもしれない。

 イラストは矢吹申彦氏。(2018)