アレックス・シュルマン『生存者』
表紙には、モノクロ写真の木彫りの像。
湖面に浮かぶボートに乗る人は、細い枝のオールを握っている。
これでは船は動かないだろう。
船も時間も、決して進むことなく止まってしまったかのようだ。
静謐な湖面に刻まれたタイトルの『生存者』に感じる死者の匂い。
生き残った者の後ろには、亡くなった人がいるのだから。
2つの時間が流れていく物語。
男3人兄弟の現在と、彼らの子ども時代、両親と過ごした湖畔のコテージでの話。
現在の話は、章ごとに時間が遡る構成になっている。
最初の章が、一番新しい時間、次の章はその2時間前のこと。
新しい時間の冒頭と、過去の時間の最後の文章が一緒なので、一度読んだものをまた読むことになり、既視感に包まれる。
時間が停滞した感じになる。
進まない時間とは、故意に止めた時間なのだ。
書き換えた記憶の中に、真実は永遠に止まってしまう。
緊張感が途切れないのは、兄弟の関係、親の定まらない視点に、常に危うさを感じるからだ。
「忘れる」という時間の経過を、この物語は許してくれなさそうだ。
カバー作品は西浦裕太氏、写真は大隅圭介氏、装丁は早川書房デザイン室。(2023)
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