ロビンソン本を読む

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生存者

2023-10-09 12:26:19 | 読書
 アレックス・シュルマン『生存者』




 表紙には、モノクロ写真の木彫りの像。

 湖面に浮かぶボートに乗る人は、細い枝のオールを握っている。

 これでは船は動かないだろう。

 船も時間も、決して進むことなく止まってしまったかのようだ。

 静謐な湖面に刻まれたタイトルの『生存者』に感じる死者の匂い。

 生き残った者の後ろには、亡くなった人がいるのだから。

 
 2つの時間が流れていく物語。

 男3人兄弟の現在と、彼らの子ども時代、両親と過ごした湖畔のコテージでの話。

 現在の話は、章ごとに時間が遡る構成になっている。

 最初の章が、一番新しい時間、次の章はその2時間前のこと。

 新しい時間の冒頭と、過去の時間の最後の文章が一緒なので、一度読んだものをまた読むことになり、既視感に包まれる。

 時間が停滞した感じになる。


 進まない時間とは、故意に止めた時間なのだ。

 書き換えた記憶の中に、真実は永遠に止まってしまう。


 緊張感が途切れないのは、兄弟の関係、親の定まらない視点に、常に危うさを感じるからだ。

 「忘れる」という時間の経過を、この物語は許してくれなさそうだ。


 カバー作品は西浦裕太氏、写真は大隅圭介氏、装丁は早川書房デザイン室。(2023)




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