ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

雌犬

2022-07-27 14:33:43 | 読書
 ヒラール・キンタナ『雌犬』



 表紙には、ジャングルの中じっと座る白い犬の姿。

 警戒しているように見える。

 本を裏にすると、表4には両腕を前に差し出す女性がいる。

 それぞれを別々に見ると、犬と女性が向き合っているように思えるが、実はひと続きのイラストで、女性と犬は同じ場所にいるのに、お互いを見ていない。


 生まれて間もない雌犬を、ダマリスがもらうシーンから物語は始まる。

 母犬は毒物を食べて死んだばかり。

 ミルクの匂いのする子犬を、胸に押しつけて彼女は家へと向かう。

 長い砂の道の両脇に建つ家々は、壁や屋根に黒カビが生えていて、村の貧しさが窺われる。

 断崖の上、急な階段を登った先にある別荘地の小屋に、彼女は夫と住んでいる。

 別荘の管理をしているのだが、オーナーは忘れたかのように長年管理費を払ってくれない。


 ダマリスは子どもができず、それがもとで夫との仲がぎくしゃくしている。

 彼女にとって雌犬は、生まれてこなかった娘のような存在になる。

 あるとき、犬はジャングルに逃げ、何日も戻らなかった。

 痩せこけ帰ってきた犬を躾けようとするが、その後も何度も逃げ出してしまう。

 そしてダマリスは犬が妊娠していることに気づく。


 犬への愛情が落胆とともに憎しみに変わる。

 それは人間に対するもののようで常軌を逸しているが、ダマリスの人生を覆う閉塞感が、彼女への同情を生む。


 装画はPOOL氏、装丁はアルビレオ。(2022)








コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 男たちを知らない女 | トップ | 戦時の愛 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事