(自然は正直に、春夏秋冬の季節をくり返して進みます)
松下幸之助の、ちょっと耳に痛いお話を、そのまま書きます紹介します。
時代の流れ、世の中の変化に対応していくことが大事だといっても、世間の動きに心をうばわれるあまり、みずからの信念なり自分の店の伝統というものを軽視することがあっては決してならないと思います。ここが非常に大事なところだと思います。「根なし草には花が咲かぬ」といいますが、自分自身にしっかりした信念がなければ、ほんとうの商売というものはやはり営めないと思うのです。
ですから、お互い、五年なり十年なり自分の店を経営してきた過程で培(つちか)ったそれぞれの伝統というものを、この際さらに深く再認識し、自分の体験にもとづいた自分自身の信念というものを固めなければならない、そういう確固とした信念に立って熱心に創意工夫を重ねてゆくならば、今日の早い時代の流れというものにも、臨機応変、自由自在についてゆくことができると思います。
要は、お互い商売人としての心がまえ、精神の問題です。店をきれいにするとか、お得意様に親切にするとかいう具体的なことももちろん大事ですが、今日、ほんとうの商売を進めていくための一番の根本は、世間の動きに動揺しない信念を持っているか否か、またその信念にもとづいて力強く進歩する方策をみずから考え、生み出しているか否かだと思うのです。その点お互い、三省、四省してみたいものです。
昭和42年8月号・松下電器店会タイムスより
《身に着けた 信念なくば 根なし草》