「ダイエットしなくちゃ。」
と年明け一番に彼女は言った。
ほうれん草のクリームスープ
(翡翠色のスープに生クリームの渦巻き。)
ゴルゴンゾーラ入りクロケット
(芋ピンポン玉の中身にとろけるブルーチーズ。)
牛肉たたきとキャロットのフラン
(とろけるようにやわらかい赤身肉、淡いオレンジ色のこってりしたフラン。)
ラム腿肉の香草焼き(多種ハーブ、ナッツたっぷり擦り込んで焼いた腿。)
チコリとマンゴーのサラダ(マスタードソース付き。)
ルッコラ、ビーツ、若芽入りサラダ(和風ドレッシング添え。)
マッシュルームのマリネ(ライムと大蒜にコリアンダーザクザク入れて。。。)
ライムトルテ(ライムクリームの酸味が少しきつかったので、生クリーム添え。)
ライムとチリ入りアイス(こってりの食事後にはピッタリのさわやか系アイス。微かにピリッとする。)
エスプレッソとコーヒークリーム入りマカロン
(うまくまあるく出来上がったマカロンはコーヒークリームをはさんだ。)
大晦日の晩に我々は枯れ木を端から突き崩すシロアリのように食べ続けた。
もう当分の間は肉を食べる必要はないね、といいながら駅裏のモロッコ人の食堂は安くて美味しいなんていうような話を、延々続けて元旦に突入したのだ。
昔は大晦日の晩の食事は少し残しておいて新年に持ち越したのだそうだ。
新年も充分に食べられる年である事を願いが込められている。
エルツ山脈地方では今でもパンと塩をテーブルに置いて年を越す習慣があると聞いた。
我々の場合ちょっとそれとは違うわけなのだけど、結果として新年に持ち越した食べ物は今年も充分に美味しい食べ物にありつける願いをかなえてくれるのだろうか。
ところで昨日は駅裏のモロッコ人の簡素な食堂に大晦日の顔ぶれで出向いた。
水曜日の特別料理は”山羊の頭”だという事を聞いてから、どうしても試してみたいという友人に付き合うことになったのだ。
これはどういうわけだかドイツ語のメニューには載っていないくて、アラビア語でしかわからない仕組みになっている。 だから通じていなければありつけない代物らしい。
それが気に入るかどうかわからなかったし、取りあえず一つだけ頼んで4人で頭を突きまわすと、あっという間に綺麗な骨の山が皿の上に残った。
なんだかハゲタカかハイエナの気分になって実に野性的な気分が出て来る。
「私達って全く野蛮だねえ」などといいながら、辛いソースをつけながら食べる。
ひとまず甘くて美味しいペパーミントティーを飲みながら
「それじゃあ、どうする同じもの続けて頼む?それとも他のもの頼もうか? 私は山羊頭もっと食べたい。食べる!」
と常にワイルドでパワフルな彼女は宣言するので、他の3人はそれに引きずられるように“山羊頭”3皿“クスクスと兎肉”と”羊肉と野菜のタジン”一皿づつをいきおいで注文してしまった。
(何しろ彼女は昔、自転車でモロッコを走り回った経験の持ち主であって、肝っ玉とパワーが服を来てあるいているような人なので、私たちは頭が上がらない。)
店内を見回すと、お客は殆どがモロッコ人らしく、“水曜日の山羊頭”を突きまわしている男性(女性は我々の席意外にはいなかった)が多い。
隙間風の入る店はアノラックを着たままで充分と言う感じにうす寒く、これがほんとにモロッコならこんなに震えなくてもいいだろうになぁ。。とつぶやきながら目の前に並んだ物を片付け始めた。
私達は自分の腹具合を過信しすぎたらしく、皿の上のものは魔法でもかけられたかのようになかなか減ってくれない。
無理する事もないねという事になって、残りを持ち帰ることにした。
「もう当分肉はいらないわ。ダイエットしなきゃ。」と彼女は言った。
「どうかな? まあ、見て見ようか。」と他3人顔をニヤニヤ見合わせながら肩をすくめて店の外に出た。
その隣はモロッコ人のカフェでピンク色の壁に向ってシーシャの煙をくゆらせながら眉の濃い、熱い顔の男共がたむろしている。
その異国情緒を放つ空間に男女混合白黄色組みは乱入しシーシャやミントティーをいただきながらモロッコ人向け放送の流れるテレビを見たり、それをはやしたりしながらしばらく過ごし、お腹の中もミントのおかげか大分すっきりして来たのでそろそろモロッコからドイツへとゆ~らり帰ってきたのだった。
夕飯は残り物のクスクスが昼間の幻みたいに机の上に残されているのを暖めてホロホロと匙で掬って食べ、残り物の野菜やサラダをまるで“山羊”の様にシャリシャリ食べた。

山羊頭