

朝、いつもの道を歩く。台所の窓からうっすらと地平線あたりに茜色が差すのを見つけたので慌てて身支度を済ませて出かけたのだ。
一週間前の同じ時刻はまだ薄暗かったというのにすっかり明るい。今年の冬はいつに無く暖かな日が続いていて楽ではあるけれど、どこか間の抜けた感じがある。
もっともこれから本番の冬がドカンと来るのかもしれない。確かに天気予報では来週あたり冷え込みそうな予報が出ている。
そんな事を聞けば、やっぱり寒くならない方がいいのにと思い始めている。
朝やけを眺め、空の写真を撮りながらいつもの道をあるく。左手には小さな羊雲がコップの中に泡立つサイダーのように見える。右手に広がる絵はささっとたくみに描かれた羽ばたく白鳥か、ペガサスの様で、眺めるうちに羽は少しずつ流れて帯になった。
夕暮れ。
街からの帰り道の空がやはり美しかった。
銀色に光る綾織の雲を背景に金色の細かい粒子が舞い上がり、神々しいばかりの美しさだったが、電車の中の大半の乗客の注意は手元の携帯電話やタブレットPCに注がれていて残念ながら私の感動を分かちあおうと言う人は少なくとも近くには見当たらなかった。
駅を降りてから夕暮れの幕引き寸前の空の数枚写真を撮った。
ふと気がつくと前方を歩いていた青年がくるりときびすを返して私の横を走りぬけ、まもなく戻ってきた。
すれ違い様に「僕も写真を撮りましたよ」と笑顔を見せて彼は言った。
