もう少し茸にこだわって見ることにした。
直径が10mくらいもあるような魔女の輪を見つけた。灰色シメジの輪でなかなかの圧巻だ。輪の中を見ると他の茸が小さなコロニーを作っている。
どんよりと今にも雨粒が落ちてきそうな空の土曜日の昼前に森に出かけた。
きっと散歩者も少なかろうと見込んでのことだが、雨でも雪でもしっかり散歩をするドイツ人は多いのだ。このくらいの天気では散歩者はくじけない。
しかしいつもの土曜日よりは少ないのは事実だった。
ハイイロシメジの傍にはムラサキシメジも群れていたし、その間間にナラタケも背を伸ばしている。
いつもならほんの少し一握りだけ収穫して帰るのだがこの日はハイイロ、ムラサキシメジのほかナラタケ、オニナラタケがふんだんに揃って頭を出していたので遠慮なく摘んだ。
茸の魔法にかかったか、あっという間に時間が経って気が付くと訪ねる約束していた友人の展覧会のオープニングの時間が迫っていた。あわてて切り上げていったん帰宅し、紙の上に茸を仕分けしてから支度をするのももどかしく髪の毛に絡んでいた枯葉を払って出かけた。
展覧会は電車で12,3分したところの駅の傍にある美術館で無事間に合い、一通り作品を鑑賞し数人の知り合いと話をし、美味しい珈琲屋でカプチーノを一杯楽しみ、珈琲豆を買って帰路に着いた。(この店の自家焙煎珈琲は美味しい)
家に戻ると机の上に茸の山が待っていたので、刷毛で綺麗に汚れを落とし湯でこぼしをして、塩漬けと醤油煮を作ってみた。
こうしておけば後で御飯に放り込んで炊き込むだけで美味しく食べられるという手筈だ。
一仕事して美味しい珈琲を淹れ、歩き疲れた足を投げ出すのは快いものだ。
Clitocybe nebularis ハイイロシメジ
可食だ非可食だと色々意見の分かれる茸の一つだけれども結構美味しい。反応は個人差もある。私は食べてしまうが今まで問題が起こった事は無い。もっとも御飯に炊き込んだりする程度の少量しか食べない。
Lepista nuda ムラサキシメジ
若い茸のほうが味がよく紫色も濃い、育ちすぎると埃臭いような匂いが少し気になることもある。
Armillaria ostoyae オニナラタケ
オニナラタケ、ナラタケ両方とも茹でこぼしをしてから料理をする。なかなか美味しい茸なので山ほど集める人も多い。香もよく歯ごたえもよい茸だ。土曜日にも籠一杯に摘んでいる人の姿が見えた。固まってごっそりと生えるのですっかり坊主にされた跡の姿はかなり目だって気の毒でもある。
Pleurotus ostreatus?
私がこの茸をじっと眺めていると近づいてきた三人あり、一人がこれは食べられるヒラタケじゃないか?という。彼女は茸図鑑を鞄から取り出して早速調べたがはっきりせず、別の一人が自信が無ければやめたほうがよいと力説するので皆手を出さなかった。そんな視線集中する中私は調べるために採集することもし辛くなってその場を離れたが、帰り際やはり気になってもう一度見ようと茸が生えていた倒木を見ると、すでにすっかり消え去っていた。これは本当にPleurotus ostreatusか?傘の径は大きいもので6,7cmあった。
Strobilurus esculentus
調べると、この茸も食べられるというがよほど集めなければ歯に挟まるくらいで食べた気がしないだろうと思うくらいに小さい。食べるよりも眺めて楽しむほうに向いている。
森の中にばら撒かれたボタン。
よく見かける茸たちだがまだ正体を突き止めていない。傘の径2,3cm。
怪しげに地に咲く白い花という様子。
まだ正体不明。
Fomes fomentarius?
この手の茸にも色々ある。傘の縁に連なる水滴がまるでガラスビーズを飾ったようでとても美しかった。
Xerocomus badius
ドイツ名:Maronenpilz(栗茸)傘の色からその名を貰ったのか?ヤマドリタケ、アンズタケなどの上等な食菌に続く人気茸である。かさ裏はスポンジ状でクリーム色だが固体が古くなったりまたは傷つくと緑色に変色する。実に美味しい茸で今回はフライにしていただいた。もう一度くらい会えないものかとほんの少し淡い期待を抱いているが今年はもう駄目かもしれない。
時には森からの美味しい恵みをありがたくいただいて森と同化する気分を味わうのも素敵なのだが、そればかりでなく菌糸類は本当に興味深い生命体だし、美しい。
上の写真のオニナラタケなどアメリカで巨大なコロニーが見つかり、その菌糸で繋がる茸たちを単体とすれば世の中でもっとも巨大な生命体とされるほどに重量があるというからすごいものだ。
私は森の中で茸の菌糸網の上を歩いているのだなと思いながら歩く。ひょっとして茸は私の足音を体重を感じてあたりに警告を発しているかもしれない。
大きな生命体の上を歩いているのだとおもうと面白いね。思わず妄想に走ってしまう。
変形菌の世界になると又それも楽しいけれど、それは次の機会にまとめることにしよう。
茸茸と騒いでいて、茸が頭の天辺や耳から生えてくるような夢を見てしまいそうだから今日のところはこれくらいでお終いとする。
今日はドイツを東西を分けていたベルリンの壁が消えた20周年記念日だった。
壁の崩れた日、そのニュースを聞いて私は冗談かと思ったものだった。あれからもう20年もたってしまったのか、と個人的には時の流れの速さに驚いている。