ぽつぽつぽつぽつと音がするので、聞き耳を立てていると
外は明るいのに雨が降っている。
勝手に生えた芥子の株がぐんぐんと成長して数え切れないほどの蕾が細い茎の上でゆらゆらと風の調べにあわせて踊っていた。
雨に打たれても、あの頼りなげな茎はしゃっきりと、眩しいように紅い花の杯を支える逞しさだ。
雨雲が通り過ぎて、陽の光は葉の上に一時腰掛けている雨雫に入り込み、小さな光る玉となる。
ナルコユリの葉になにやら沢山の芋虫が食事中で、しばしためらったが退いてもらう事にした。
しかし何の幼虫だかわからない。
透けるような肌の下には紫色の体液が流れているような感じで、実際食事中の彼らをのけていたら、薄紫色の体液を出した。
一体なんだろう?調べてみたがまだわからない。紫色の蝶が現れるのだろうか?
2,3匹残しておけばよかったかもしれないと後悔した、又でてきたら一体どんな蝶(蛾)へと変身するのか確認したい。
彼らはナルコユリだけにご執心のようだった。
雨が上がって虫たちがやれやれという感じに行動をし始めたのに違いない、なんだかそこここで動くものが居るようだ。
最近目が悪くなって良く見えないとはいえ気配は感じるのだ。
じっと目を凝らすとカミキリムシのような触覚を広げた小さな虫(体長2cmほどの小さな甲虫)が、やはり勝手に生えて茂っている Achillera millefolium = セイヨウノコギリソウ、グリーン・アローの蕾の上で考え深げに(なんとなくそのように見えたのだよね。)立ち止まっていた。
これも又手持ちの本では正体を明かす事が出来ずにいる。
あまり私がうるさく眺め回すのが鬱陶しくなったと見えて飛び立ち、キスゲの葉へと非難した。
貴方は誰?
セイヨウノコギリソウ
上記のセイヨウノコギリソウは昔、薬草として使われた。止血効果がある。ビタミン、ミネラルが豊富なので食欲不振のときや風引きの際はこれを食べたりお茶としてのむとよいようだ。
ヒルデガルド・フォン・ビンゲンもこう書いている。
『事故にで外傷を受けた場合、この草をワインにつけてそれで傷口を洗う事。または水の中で煮た暖かな葉を傷口に当てると、化膿せずに治る。打ち身などの場合は草を乾燥させて粉末にしぬるま湯に入れて内服する事。症状に改善が見られた頃、暖めたワインにこの粉末を混ぜてのむと良い。』
他にも色々な効用があるようだ。
17世紀にはゆがいたりスープに入れて、好んで食された植物であるとも言う。
葉を炒めて食べる事も出来るし、若葉は細かく刻んでサラダに入れても良い。これはもちろん私も試してみて、おなかもこわさず元気なので問題は無い事が実証済みだから、もしも見つけたらお試しあれ。
ラテン名Achillera millefoliumは英雄アキレスが戦士達の傷の手当てにこの植物を使ったという話から来ている。
ドイツ名でも血止め草、大工の薬草、傷口草、腹痛止草、など、効用をあらわす呼び名が多いということからも、良く使われた薬草だった事がうかがわれる。
面白いのは昔、この植物を枕の下において願いをかけながら眠ると、将来のパートナーが夢に現れるとか、恋占いに使われたそうだ。花嫁の持つ花束や教会の飾り付けにも欠かせない花だったらしい。
例を挙げると、セイヨウノコギリソウの花束をベットのうえに吊るしておくと、その恋人達の恋愛は少なくとも2年は続く。2年たったら又新しい花束を吊るす。
(なんだか妙なまじないだと思うけれどね。)
又中国でも、この植物の茎を占いに利用したという事である。どうしてこの草の茎なのかは残念ながら知らない。
邪魔扱いにして引き抜いてしまおうと思っていたが、かなり役に立つ薬草らしいのでとりあえず引き抜くのはやめて、今夜のジャガイモスープに混ぜ込んでみようか?
まれに紅色の花が見られる。
園芸種になるとかなり濃いピンクや黄色、薄いオレンジがかったピンクなどもある。
メモ)
調査結果、甲虫の正体解明! Agapanthia villosoviridescens やはりカミキリムシの仲間だ。