できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

字面だけ読んでいたらダメ

2006-12-25 19:09:17 | ネット上でのバッシング考

あたりまえの話だが、字面を見ればわかるように、「解体」と「改革」はぜんぜん意味がちがう。「解体」はバラバラにしてしまうことであり、「改革」は大事な何かを守るために、古くなった枠組みを新しい枠組みに置き換えていくことであろう。

今、大阪市の青少年会館条例「廃止」の問題をめぐって、この間の事情や歴史的経過などをあまり知らない人などが、大阪市長の公式発表の文面だけを見て、例えば「条例だけがなくなるだけで、施設はそのまま残るんだ」とか、インターネット上で発信していたりする。

「とんでもない。字面だけしか、あるいは一部分だけ読んでいたらそう読めるかもしれないが、青少年会館条例を廃止し、各種事業を廃止していけば、これで事実上、今まで行なってきた青少年会館事業は解体される。だから、今までのような青少年会館も存在しなくなる。これは青少年会館の改革ではなくて、解体なんだ」と、あえてその人々に言っておきたい。

たとえ青少年会館条例そのものが廃止されたとしても、今までの事業が全部残り、青少年会館でその事業を継続するのであれば、「なんだ、条例だけ廃止か」といえるであろう。しかし、今後「全市展開」されるのは、青少年会館事業のなかの「課題を抱えた青少年の居場所づくり」「青少年の体験学習」「若年者の職業観育成など」に関するものだけである。また、市長の出した方針には、その他の事業は2006年度末で廃止とはっきり書いてある。

ということは、青少年会館で行なってきた放課後の子どもたちの育成活動や識字教室、人権学習・啓発活動、子育て学習活動、各種の講座活動などは、今後どうなるのであろうか。そこを考えると、市長方針を読んで「なんだ、条例だけ廃止ってことか」などということは、そう簡単にはいえないはずである。大阪市の青少年会館は、今までも「青少年育成」ということを入り口にしながら、幼い子どもからおとな・高齢者まで集まってくる多目的な施設として運営されてきたのである。

また、青少年会館のこういった活動の存続を求めている人々のなかには、さまざまな形で社会的に不利益を被りやすい立場の人々が多く含まれている。このままでいけば、大阪市内における子どもや子育て中の家庭の生活環境面での「格差拡大」、もしくは「セーフティーネットの崩壊」が予想されるのであるが、大阪市長はこの点についてどう考えているのであろうか。地方自治体行政が住民に対して果たすべき最も重要な役割は、この「セーフティーネット」の役割ではないのだろうか。

また、「全市展開」される3つの取組み以外のものがなくなってしまえば、青少年会館の施設がたとえ2007年度も使えるとしても、そこはやはり、雰囲気や集まる人々の層が変わってくる以上、今までと同じ青少年会館ではなくなる。特に、「課題を抱えた青少年の居場所づくり」の諸活動は、同じ青少年会館内の他の活動ともリンクしてよいという前提で展開してきた。だから、今後たとえ青少年会館を「間借り」する形で活動を続けても、「課題を抱えた青少年の居場所づくり」の取組みとて、従来同様の効果を発揮するかどうかは大変あやしい。

さらに2007年度は暫定的に残るといっても、青少年会館の既存施設などをよくチェックして、利用可能なスポーツ設備は別条例に位置づけて「指定管理者制度」を適用するとか、それ以外の設備部分を「市民利用施設」として使うとか、そんな話も市長方針には出ていたはずである。これなどは、これまで青少年会館がスポーツ設備とそれ以外の部分を一体にして運営する形で、青少年育成に各種の機能を果たしてきたことを「無視」しているから言えることである。また、今まで一体にして運営してきた施設をバラバラに位置づけて運営するというのは、これこそまさに「解体」の論理であろう。

そして確か、青少年会館の既存施設について「補修」等は行なわない旨、市役所側は市議会でも答弁をしていたように思う。だから、たとえ2007年度以降も青少年会館の施設が残り、誰かが継続利用していたとしても、大阪市側は「あとは野となれ山となれ」で、ボロボロになっても直さない、ということであろう。

おまけに、青少年会館条例を廃止して、既存施設や敷地を「普通財産」化するわけだから、今後、市役所側が適当な売り時を見て更地にして、どこか引き取ってくれるところに売るということだってありうる。

これでも、「条例が廃止されるだけで、施設や事業は残る」というのであろうか。それは、今までの青少年会館の取組みや歴史的経過などを知らず、大阪市長側の公式発表を字面だけ追う形で理解したからこそ言える話である。

もっとも、おそらく「条例が廃止されるだけで、施設や事業は残る」とネット上で言っている人、しかも「匿名」で言っている人のなかには、最初から市長方針を字面だけ追って「ほら、こうだろ」ということで、私を含めた「市民」や、あるいは子どもを含めた利用者・地元住民の反対の意見表明の取組みを「おとしめる」意図があるのかもしれない。

だとしたら、こういう意図の持ち主に対しては、「実際におのれの姿をさらけだして、青少年会館に行って、子どもを含めた利用者や地元住民、現場職員やNPO関係者に接して、今、ネット上で配信している意見を直接言ってみろ」といいたい。また、「そこで面と向かえっていえないような意見なら、書くのをやめろ」ともいいたい。

少なくとも、私はこのブログ上では実名で出ているし、すでに新聞や雑誌にも名前は出ているし、今後も何かの形で名前も出るだろう。また、利用者や地元住民、現場職員やNPO関係者、さらには大阪市教委や大阪市役所の職員にも、必要があれば、あるいは都合がつけば、今後も引き続き、この青少年会館の問題にひと段落つくまでは、直接会って話をするつもりである。それはたとえ自分が納得していない案を出した側の人間であっても同じである。そして、そこで言う意見は、このブログで配信している中身とそれほど大きくズレないようにしたいと心がけている。


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