できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

子どもの自殺防止策をめぐって(4)

2011-10-03 21:40:06 | 受験・学校

前回は告知だけで終わりましたが、今回は子どもの自殺防止策について、以前書いた文部科学省の通知「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の在り方について(通知)」の話の続きを書きます。

ちなみに、この通知の「1 基本的な考え方」の部分については、このブログで、9月10日に書きました。今回は「2 背景調査を行う際の留意事項」の(1)~(3)についてコメントをします。残りについては、また今後、続けて書きます。

さて、この(1)~(3)の内容は、次のとおりです。色を変えて紹介します。

(1)万が一自殺等事案が起きたときは、学校又は教育委員会は、速やかに遺族と連絡を取り、できる限り遺族の要望・意見を聴取するとともに、その後の学校の対応方針等について説明をすることが重要であること。また、当該児童生徒が置かれていた状況について、できる限り全ての教員から迅速に聴き取り調査を行うとともに、当該児童生徒と関わりの深い在校生からも迅速に、かつ、慎重に聴き取り調査を行う必要があること。なお、在校生からの聴き取り調査については、遺族の要望や心情、当該在校生の心情、聴き取り調査について他の在校生等に知られないようにする必要性等に配慮し、場所、方法等を工夫し、必要に応じ後日の実施とすることも検討することが必要であること。

あえて2色に分けて表記してみました。この上記の内容のうち、青字部分については、これまで我が子の自殺に直面した遺族の側からの要望などが汲み取られており、一定、評価すべきところではないかと思われます。

しかし、上記のピンク色の字の部分については、場所、方法の工夫などは必要かと思いますが、なぜ「後日の実施」の検討が必要なのかがよくわかりません。文科省としてはこの「後日の実施」が必要なケースとして、どういうケースを想定しているのでしょうか? これだと、青字部分にある「迅速に、かつ、慎重に」行うべきとした在校生への聞き取りが、さまざまな理由をつけて後回しにされる危険性が残ります。

(2)学校又は教育委員会は、2(1)の全ての教員や関わりの深い在校生からの迅速な聴き取り調査(以下「初期調査」という。)の実施後、できるだけ速やかに、その経過について、遺族に対して説明する必要があること。なお、その際、予断のない説明に努める必要があること。

ここでいう「予断のない説明」とは、どういうものなのでしょうか? 前半の青字部分のほうは、遺族側の要望している点でもあって妥当と思われるのですが、このピンク色の字の部分がどういう意味なのか、よくわかりません。「初期調査」の結果わかったことを、学校・教育行政側がきちんと遺族に伝える。そのことをきちんと表記するだけで、なぜこの文章は終われないのでしょうか?

(3)学校又は教育委員会は、遺族に初期調査の経過を説明した後、次の場合は、より詳しい調査の実施について遺族と協議を行う必要があること。

ア 当該児童生徒が置かれていた状況として、学校における出来事などの学校に関わる背景がある可能性がある場合

イ 遺族から更なる調査の要望がある場合

ウ その他、更なる調査が必要と考えられる場合

アの場合、学校又は教育委員会は、在校生へのアンケート調査や一斉聴き取り調査を含む詳しい調査(以下「詳しい調査」という。)の実施を遺族に対して主体的に提案することが重要であること。

ここはすべて、ピンク色の字にしました。この文章でいけば、遺族側から特に要望がでるか、もしくは学校・教育行政側が「何か学校に背景要因がある」と思わなければ、「詳しい調査」を行わないことになってしまいます。また、私がこれまでの事例を見る限り、子どもの自殺事案について、学校・教育行政側が自ら主体的に、学校の側に背景要因があることを認めて調査をしたことは、きわめて稀なケースのように思います。とすれば、これは事実上、遺族側が強く求めなければ、背景要因に関する「詳しい調査」を「しない」というのに等しい、とも解釈できます。

「詳しい調査」実施に遺族側の意向を反映させようという点では、教育行政側の従来との姿勢の転換をうかがわせるとしても、しかし、「これではだめなのでは?」というのが、率直な私の意見です。

本来は、どのような事例であっても、遺族側が「もう調査しないでほしい」と申し出ない限りは、学校・教育行政が責任を持って、子どもがなぜ死を選んだのか、自らの責務として詳しく調査すべきでしょう。学校・教育行政が、本気でひとりひとりの子どもの「いのちを守る」という立場に立つのならば、どのような自殺のケースであれ、「なぜその子どもが死を選んだのか?」をきちんと調査し、検証したうえで、今後の教育活動にその教訓を反映させる道を選ぶべきでしょう。でなければ、ほんとうに実のある自殺防止の取り組みなど、できないのではないでしょうか。

今日のところは、ひとまず、ここでいったん話を終えます。次は「2 背景調査を行う際の留意事項」の(4)~(7)についてコメントをします。そのあと、「3 学校及び教育委員会における平素の取組に関する留意事項」について述べることにしたいと思います。おそらくあす以降、この話は最低2回、ブログで何かコメントすることになるかと思います。どうぞよろしくお願いします。


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