アメリカで生まれた世界最大のハンバーガーチェーン、マクドナルドの創業物語を、マイケル・キートン主演で描きます。監督は「幸せの隠れ場所」(The Blind Side・2009)のジョン・リー・ハンコック。
ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ (The Founder)
1954年。レイ・クロックは、シェイク・ミキサーのセールスマンとして、アメリカ中西部をまわっていました。ある日、カルフォルニア、サンバーナーディーノのドライブインから8台もの注文が入り、どんな店かとルート66をひたすら走って見に行った先は、マクドナルド兄弟が経営するハンバーガーショップでした。
合理的なサービス、コスト削減、高品質という革新的コンセプトに目をつけたクロックは、マクドナルド兄弟を説得して契約を交わし、全米へのフランチャイズ化を進めていきますが...。
ビジネス系映画が好きなので、楽しみにしていた本作ですが、意外に小規模上映で驚きました。映画サイトでは、見て不愉快になるというレビューも散見しましたが、知られざる創業物語は興味深く、私はとっても楽しめました。モラルなく突っ走る、ギラギラしたごり押し経営者を、マイケル・キートンが好演しています。
クロックがマクドナルド兄弟に出会ったシーンで、私も生まれて初めてマクドナルドを食べた時のことを思い出しました。成形した薄いパティ、ポテトの独特なシーズニング、なかなか吸い込めないシェイク、当初は椅子がなかったことなど、すべてが新しく衝撃的でした。
それからアメリカでは、特にドライヴ旅行でマクドナルドのお世話になりました。高速道路を移動のためにひたすら走ってて、食事にかける時間がない、でも休憩したい、土地勘がない場所でレストランを探してうろうろしたくない。そんな時にマクドナルドのサインを見ると、灯台を見つけた船乗りのようにほっとしたものでした。
以前、東理夫さんの「アメリカは食べる。」で、アメリカの広い国土で、誰もが安心してありつける食べ物として、チェーンレストランが発展したとありました。マクドナルド兄弟の生み出した合理的で無駄のないシステム、ばらつきのない品質。それをクロックが標準化、マニュアル化したことが、アメリカという国土のニーズにマッチしていたのだと思います。
とはいえ、クロックがやったことはあくどい乗っ取り。もしもマクドナルド兄弟がクロックに出会わなかったら、彼らはファミリービジネスで成功し、地元で愛される経営者として幸せな人生を送ることができたはずだと思うのです。
マクドナルド兄がストレスがもとで入院し、クロックが見舞いに来た時、一瞬ですが病室に飾られた小さな宗教画が大写しになった場面が心に残りました。マクドナルド兄弟は、クロックが拡大路線を進めるあまりに、品質を軽視する姿勢を受け入れられなかった。たとえ損をしても神に背く生き方はしたくなかったのだと理解しました。
マクドナルド兄弟はクロックに、商売のノウハウをすべて教えました。マクドナルド弟が、クロックに「自分の店を持てばよかったのに、なぜそうしなかったのか」と尋ねた時のクロックの答えは深い...と考えさせられました。マクドナルド兄弟は、クロックが羨むあるものを持っていた。アメリカの移民社会の一面に気づかされた思いがしました。