骨太の社会派作品で知られるシドニー・ルメット監督が気に入って、過去作品を少しずつ追いかけて見ています。そんな中からの2作品です。
ポール・ニューマンがどん底から再起する弁護士を演じる、医療過誤訴訟を題材にした法廷劇です。
酒におぼれ、4年間まともに仕事をしていない弁護士フランク(ポール・ニューマン)を見かねた先輩弁護士が、簡単に片付きそうな訴訟を紹介します。それは出産のために入院した女性が麻酔時のミスで植物状態になったという事件。病院側は多額の和解金を用意しており、示談を受け入れればそれで済む話でした。
実はフランクはかつて大手弁護士事務所に所属し、将来を約束されていた敏腕弁護士でした。上層部が陪審員を買収していることを告発したために、仕事も未来も情熱もすべて失い、自堕落な生活を送っていたのです。調査のために病院を訪れたフランクは、忘れかけていた正義感がふつふつと湧き上がるのを感じます。
示談を蹴って病院と法廷で対決することを決意したフランク。とはいえ相手はカトリック教会系の大病院で、強力な大手弁護士事務所がついています。相手事務所からあの手この手の妨害を受け、証人探しにも苦労するフランクですが、ようやく重要なカギをにぎるある人物に行き当たります...。
主演がポール・ニューマンですから結果は予想できたものの、最初はあまりにも不利な状況でどうなることかと思いました。クライアントの意に沿わずに裁判に持ち込んだことや、最終的には陪審員の良心頼みの結末など、プロとしてどうかという部分もありましたが、正義感から巨悪に立ち向かう姿勢には素直に心打たれました。
「デトロイト」のところで私は”法の素人が人間を裁く、陪審員制度の限界を感じた”と書きましたが、本作では法の限界を超えて、人間の良心が悪に打ち勝ちます。「十二人の怒れる男」のルメット監督らしい作品でした。
狼たちの午後 (Dog Day Afternoon) 1975
アル・パチーノ主演、1972年8月22日ニューヨークのブルックリンで起こった銀行強盗事件を映画化した作品です。
夏の暑い午後、ブルックリンの銀行に3人組の強盗が押し入ります。1人は怖気づいて逃亡。あとの2人、ソニー(アル・パチーノ)とサル(ジョン・カザール)が行員を急き立てて現金をかき集めていると、間もなく警察に包囲されてしまいます。逃げそびれた2人は、9人の行員を人質に立てこもらざるを得なくなり...。
ソニーとサルがあまりに素人強盗なので、あっという間に逮捕して終わると思いきや、事件は思わぬ方向に向かいます。最初は怖がっていた行員たちとソニーたちの間に、いつしか不思議な連帯感が生まれます。陽気で抜けていてどこか憎めないソニーと、成功しなければ殺しも辞さない覚悟で、終始だまっている不気味なサル。
銀行の周りには警察だけでなく、マスコミや野次馬が集まりたいへんな騒ぎになります。ソニーが警察と交渉したり、テレビ局のインタビューに答えたりしている間に、いつしかヒーローのような存在になっていくのがおもしろい。ソニーが人質のためにピザをたのんだり、倒れた支店長のために医者をよぶ一幕もありました。^^
やがて主導権が警察からFBIに移り、交渉も緊張を増していきます。母や妻、恋人による説得にも応じなかったソニーは、空港に国外逃亡用の飛行機を用意するよう要求します。人質とともに警察が用意した車で移動するソニーとサル。さて2人は無事に国外に脱出することができるでしょうか...。
ベトナム帰還兵のPTSDや、アッティカ刑務所暴動、ゲイの人権問題など、70年代のアメリカの事件や世相がさりげなく織り込まれているのが興味深い。個人的には、終盤サルが人質のひとりからお守りをもらい、初めてにこっとするシーンが好きです。