マーティン・マクドナー監督、フランシス・マクドーマンド主演。ミズリー州の架空の田舎町に巻き起こる騒動を描いた、コメディタッチのヒューマンドラマです。
スリー・ビルボード (Three Billboards Outside Ebbing, Missouri)
ミズーリ州の田舎町エビング。ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、娘がレイプされ焼き殺されてから7ヵ月過ぎても犯人が捕まらないことに業を煮やし、町はずれに立つ3枚の看板に広告を出します。ウィロビー警察署長(ウディ・ハレルソン)を名指しで批判するその広告は物議をかもし、ミルドレッドは住民たちの非難の的となりますが...。
数々の映画賞で高い評価を得ている本作。予告を見た時からピンとくるものを感じ、楽しみにしていました。正直にいうと、そこまでどんぴしゃりの私の好みではなかったですが、予測のつかない展開に翻弄されつつ、最後には不思議な安堵を覚える作品でした。なかなかおもしろかったです。
朝露が立ち上る緑の草原に”庭の千草”の美しい調べが流れるオープニングに意表を突かれました。いかにものどかな田舎の風景ですが、これは嵐の前の静けさにすぎなかった。ミルドレッドが町はずれの忘れ去られていた看板に広告を出した時から、小さな町に波乱が訪れます。
名指しで批判された警察署長のウィロビーは、誰からも慕われている好人物。彼は捜査をさぼっているわけではなく、手がかりがなく捜査が手詰まりな状況ですが、それをミルドレッドに話しても聞き入れてもらえません。ミルドレッドの唐突な行動は誰からも理解されず、彼女はどんどん孤立していきますが、本人はお構いなし。
特にウィロビーを尊敬している部下のディクソン警官(サム・ロックウェル)にとって、ミルドレッドの行動は我慢がなりません。彼の怒りの矛先は、なぜか広告会社に向かい、若い社員を2階から投げ飛ばして大けがをさせてしまいます。
挙句のはてには看板に火をつけて燃やしてしまい、それに対してミルドレッドは警察に放火して報復し、騒ぎはどんどんエスカレートしていきます。
どれも立派な犯罪ですが、罪に問われることはありません。^^ ミルドレッドも孤立しているといっても、陰湿な嫌がらせがあるわけでなく、町の人たちもどこかにこにこなりゆきを見守っているようなところがあるし、彼女に対して好意的な人たちもいます。
そして北風と太陽の話ではないけれど、怒りを鎮めるのは怒りではなく、心のこもった一通の手紙でした。そんな単純な、と思うけれど、ことばにはそれだけの力があるというのもまた真実。
ラストは、いつしかすっかり意気投合したディクソンとミルドレッドが、事件と何の関係もないレイプ犯(かどうかすら怪しい)を殺しにアイダホまで行くという、どこまでもずれまくりの2人なのでした。^^