「騙すことが尊ばれる」「物の理を理解できない」人々との付き合い方とは――
「嘘と裏切り」に「開き直り」が加わった「中国革命」の先に待ち受ける“恐ろしい未来”
http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/sapio-20110117-01/1.htm
尖閣問題を受けた世論調査では、現在の日中関係を「悪い」と回答した人が実に90%にのぼり、87%の人が中国を「信頼できない」とした。中国は理不尽で傲慢な振る舞いを繰り返してきたのだから、それは当然だろう。だが、ジャーナリストの櫻井よしこ氏は、中国の「嘘と裏切り」が、その軍事力・経済力を背景に、新たなフェーズに入ったと指摘する。
日本は戦前、戦後を通じて、中国の嘘と裏切りによって外交的敗北を繰り返してきました。尖閣諸島沖の漁船衝突事件は、まさにその直近の事例だと言えます。
今回の中国の「嘘」はあまりにも露骨でした。事件後すぐに、中国政府の機関メディア『新華社』が、日本の海上保安庁の巡視船が中国漁船を取り囲んで追いかけ回し、日本側から衝突してきたと発表。中国国内のメディアはそれを転載し、“事実”として大々的に報じました。
さらには丹羽宇一郎駐中国大使を複数回呼び出して抗議した上で、温家宝首相は「船長を釈放しなければ中国はさらなる対抗措置を取る用意がある。その結果についてすべての責任は日本側が負わなければならない」などと発言しました。
日本側が船長を釈放した後も、中国は、日本側が悪いとして「謝罪と賠償」まで要求したのですから、きつい表現ですが「盗人猛々しい」とはこのことです。
●事実軽視の“常識”が生む「中国人は何をしてもいい」
1978年4月、その夏の日中平和友好条約締結を前に、100隻以上の武装中国船団が尖閣諸島付近で領海を侵犯。当時、トウ小平氏は「偶発的な出来事」と弁明し、「このような事件を2度と起こさない」と日本に確約しました。この時日本は尖閣諸島問題を解決する好機を逃し、一方で、巨額のODAを中国に与え始めたのです。
そうして中国の成長を助けてきた日本が、いまや「衝突は日本側のせい」などという嘘によって、謝罪と賠償まで要求される側になってしまいました。なぜこれほどまでに日本は負け続けてきたのか。
それは、日本政府も日本国民も「中国とはどんな国なのか」を真に理解していないからだと考えます。
日本人は「嘘をついてはいけない」「人を騙したり、裏切ったりするのは恥ずべきことだ」と教えられて育ちます。しかし、中国人の常識はまったく逆で、嘘をついたり人を裏切ることは「賢いこと」なのです。
『孫子の兵法』で、孫子が最上の勝ち方としているのが、謀略です。上手に嘘をつき、騙すことが尊ばれる。中でも「二重スパイ」が、一番価値が高いとしています。
歴史において、「中国」という国名の国は実は存在してこなかったのです。私たちが「中国」と呼ぶその地域には数千年も前から、さまざまな民族が侵入し、各々、独自の王朝を作って君臨しました。支配したのは、必ずしも今の中国を支配する漢民族ではなく、蒙古人だったり満州の女真人だったりしました。彼らはそれぞれ何世紀かにわたる繁栄を築き、衰退し、新たな民族の台頭で滅びていきました。そして王朝が変わるたびに、歴史が時の為政者に都合よく書き換えられてきました。
中国にとっては、歴史は勝った側が作るもの。事実や真実には意味がなく、いかなる手段でも勝てばいいと考えるのが、彼らの常識です。
島国であり、戦国時代など一時期を除けば安定した社会が長く続いた日本で、正直さや誠実さが尊ばれてきたのとはまったく違うのです。
ノーベル平和賞を受賞し、いまなお中国政府に拘束されている劉暁波氏も著書の中で、〈中国の『実用理性』は、事実や真実と向き合うことを最も嫌〉うことを特徴とすると書いています。
また、私が理事長を務める国家基本問題研究所の客員研究員・金谷譲氏は、『中国はなぜ「軍拡」「膨張」「恫喝」をやめないのか』(文藝春秋刊)の中で、中国人は「物の理」を理解できない人々だと指摘しています。
〈現代日本、すくなくとも現代日本語において、“理”は「論理」と「物理」の二つを意味するが、この二つが混同されることはない。
一方、中国の“理”は、「論理」と「物理」が古代以来、基本的にいまだに未分化で、あるいは完全には分化しきっていない。また、それに関連するが、中国人の思考様式には、仮説・推論・実験による検証という(自然)科学的思考様式が存在しない〉というのです。
これが彼らの“常識”であり、その考えから、「中国人は正しい。だから何をしてもいい」という中華帝国的思考が生まれ、傍若無人の振る舞いとなるのです。
歴史を繙けば、中国は嘘と謀略によって他国を侵略し、覇権を拡大してきました。
例えば、これまで『SAPIO』誌でも指摘してきた通り、かつてチベットは中国に一度も属したことのない独立国家であり、「藩部」という位置づけで、中国と対等の「同盟国関係」にありました。ところが、共産党政権が誕生すると、突然、自らを「チベットの統治者」と言い出し、「解放」と称してチベットを軍事制圧してしまいました。
1992年には尖閣諸島や、南シナ海の島すべてを自国領だと一方的に宣言し、「領海法」を制定しました。歴史や現実とはかけ離れた「嘘」ですが、中国は堂々とそれを宣言し、法律まで作って、軍事力を背景に支配を既成事実化してしまう。現実に南シナ海はすでに中国の海となり、続いてその矛先が今、東シナ海に鋭く向けられているのです。
●以前は「日本は軍事力を強化せよ」と主張していた
日本との間でも、中国の嘘と裏切りによる歴史が繰り返されてきました。
1921年から22年にかけてワシントン会議が開かれました。これによって、列強はこれ以上中国に進出せず、その時点での現状を維持することを取り決めました。いわゆる「ワシントン体制」です。ここでは関係各国が、条約や契約などを誠実に守ることが求められました。
当時米国の外交官だったジョン・マクマリー氏はメモランダム(同氏が国務省に宛てた報告書。のちに単行本としてまとめられ、日本では、『平和はいかに失われたか』の書名で原書房から出版)に、日本政府は〈ワシントン会議の協約文書ならびにその精神を守ることにきわめて忠実であった。そのことは、中国に駐在していた当時の各国外交団全員がひとしく認めていた〉と書き残しています。
逆に一番守らなかったのが中国でした。特に日本に対しては、関税の取り決めを破り、ビジネスの契約も破り、略奪を繰り返しました。
のちに敗戦した日本は一方的に「侵略国家」にされ、中国の謀略によって、南京大虐殺などが捏造されたのです。
中国の「嘘と裏切り」はまだまだあります。
今でこそ日本の軍事力強化に激しく反対する中国ですが、78年に日中友好条約を締結した当時は、ソ連の脅威を受けて、日本に軍事力強化を求めていました。80年に訪中した中曽根康弘氏に対し、中国人民解放軍の幹部は、軍事予算をGNP比2%に倍増するよう要求していたほどです。
しかし、80年代前半にソ連の力が衰え、米ソ対立のなかで中国がソ連を恐れなくてもいい状況になると、中国の態度は一変しました。日本から多額のODAを受け取りながら、一方では日本の国際的な地位を貶め、軍事的にも心理的にも圧力をかける戦略をとり始めたのです。
そのひとつが靖国参拝批判です。靖国神社がいわゆるA級戦犯を合祀したことが公になったのは79年。それ以降、当時の鈴木善幸首相らが参拝しても、中国は一言も批判していませんでした。ところが、85年以降、中国が突然、抗議を始めたのです。
それについて、05年11月、外国特派員協会で会見した王毅駐日大使(当時)は、200名以上の記者らを前にこう語りました。
「中国の立場ですね、継続性のあるもので、変わっておりません。1985年、このことですね。A級戦犯が祀られていることが公になってから、我々も反対の立場を貫いてきました」
もちろん「85年に公になった」というのも、「貫いてきた」というのも嘘です。情けないのはその場に居合わせた日本メディアの記者たちで、明らかな事実歪曲をまったく指摘しませんでした。結果、王毅氏の発言はそのまま海外に流れてしまいました。
中国の嘘に嘘を重ねる手法に、きちんと反論するどころか、日本側が自ら騙されるような愚もありました。
東シナ海のガス田開発問題は、その典型です。
中国は92年に領海法を制定すると、すぐに東シナ海に鉱区を設定し、国際法を無視して日本の排他的経済水域での資源調査を始めました。当然、海上保安庁や海上自衛隊は危機感をつのらせましたが、驚くべきことに森政権時代の00年、当時の河野洋平外相は、中国側に「事前通報制」を提唱したのです。通報すれば調査を是とするもので、事実上自由行動を許したに等しい内容でした。しかも中国はそれさえも無視し、通報もなく堂々と資源調査を行なうようになっています。
一方の日本政府は、長年にわたって資源調査の申請をしてきた日本の企業に対して、日中関係に摩擦が生ずるとの理由で許可しませんでした。自分たちだけが四角四面に、もっと言えば馬鹿正直にルールを守り、相手のルール破りには一切目をつぶってきたのです。
そして中国は08年の日中共同開発の合意さえ無視し、ついにガス田「白樺」の掘削を開始したと見られます。この状況を導いた外務省と親中国派の政治家の責任は、極めて重いと言わざるをえません。
●“自由も人権もない”中国的価値観が世界に拡大する日
中国が「嘘と裏切り」で覇権拡大を続けてきたのはこれまで述べた通りですが、約1年半前、中国は戦略を大転換する決定をしました。
09年7月、胡錦濤国家主席は駐外使節会議で訓示を行ないました。トウ小平氏の「韜光養晦」(才能を隠して姿勢を低く保ち、力を蓄える)、日本風に言えば「能ある鷹は爪を隠す」から、「積極有所作為」(より積極的に、為すべきことは為す)に方針を変えることを宣言したのです。
これまで中国は世界からの孤立を避けるため、むやみに力を前面に押し出すことは控えてきました。しかし、これからは軍事力や経済力を前面に押し出すということです。
10年4月に沖縄の海で中国海軍が大規模訓練を行ない、「こういうことは以降、常態化する。日本はそれに慣れるべきだ」と言い放ったのも、今回の尖閣漁船事件をめぐる強硬な姿勢も、中国が戦略転換によって「新たな段階」に入ったことを示すと考えればわかりやすいでしょう。
国内の人権派への弾圧はもちろん、ノーベル平和賞授賞式に出席しないよう各国に露骨に圧力をかける。日本の新幹線技術をそっくり盗んでおきながら、「独自の開発だ」といって海外に売り込む。
こうしたことを堂々と行なうのは、「嘘と裏切り」に、軍事力や経済力を背景にした「開き直り」が加わったと見るべきです。そして、これからは中国独自の手法によって、彼らの価値観で世界の新たな秩序を作るということをも意味しています。
米国の中国問題専門家、エリザベス・エコノミー氏は、これを「革命」と呼びました。“中国革命”が招くのは恐るべき世界です。私たちが大切だと思っている、自由や人権、民主主義、知的財産権に対する考え方も含めて、国際ルールを守るといった価値観が、中国の手法や全体主義的価値観の脅威によって、破壊されるということです。
例えば国民を弾圧・虐殺するスーダンのような国家に対し、中国は武器支援と経済援助の見返りとして石油資源などを手に入れました。こうした中国的価値観が世界に拡大し、場合によっては国連で多数を占めるようになってしまうと、「価値観の大逆転」の可能性も否定できません。そこには、自由も人権もなく、むしろ嘘や謀略が尊ばれて、弾圧が当たり前になるという世界が待っています。
しかし、忘れてはならないのは、中国のしたたかさと“柔軟さ”です。
中国は、国際社会の批判を浴びると、柔軟路線に転じてレアアースの輸出解禁に動いたように、状況を見て戦術を変える国です。私たちは、飽くなき領土拡大と覇権を目指す彼らの戦略が不変であることを認識しておかなければなりません。
仮に中国が微笑みかけてきたとしても、それは「世論の分断」を狙った嘘と裏切りの微笑みです。その先には、「開き直り」による中国の覇権拡大、そして価値観の大逆転が待っています。それを許すようなことはしてはならず、そのためには、政治家もメディアも、中国が「真実のない国」であることをあらためて認識することが必要です。
(SAPIO 2010年12月22日・2011年1月6日号掲載) 2011年1月17日(月)配信
「嘘と裏切り」に「開き直り」が加わった「中国革命」の先に待ち受ける“恐ろしい未来”
http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/sapio-20110117-01/1.htm
尖閣問題を受けた世論調査では、現在の日中関係を「悪い」と回答した人が実に90%にのぼり、87%の人が中国を「信頼できない」とした。中国は理不尽で傲慢な振る舞いを繰り返してきたのだから、それは当然だろう。だが、ジャーナリストの櫻井よしこ氏は、中国の「嘘と裏切り」が、その軍事力・経済力を背景に、新たなフェーズに入ったと指摘する。
日本は戦前、戦後を通じて、中国の嘘と裏切りによって外交的敗北を繰り返してきました。尖閣諸島沖の漁船衝突事件は、まさにその直近の事例だと言えます。
今回の中国の「嘘」はあまりにも露骨でした。事件後すぐに、中国政府の機関メディア『新華社』が、日本の海上保安庁の巡視船が中国漁船を取り囲んで追いかけ回し、日本側から衝突してきたと発表。中国国内のメディアはそれを転載し、“事実”として大々的に報じました。
さらには丹羽宇一郎駐中国大使を複数回呼び出して抗議した上で、温家宝首相は「船長を釈放しなければ中国はさらなる対抗措置を取る用意がある。その結果についてすべての責任は日本側が負わなければならない」などと発言しました。
日本側が船長を釈放した後も、中国は、日本側が悪いとして「謝罪と賠償」まで要求したのですから、きつい表現ですが「盗人猛々しい」とはこのことです。
●事実軽視の“常識”が生む「中国人は何をしてもいい」
1978年4月、その夏の日中平和友好条約締結を前に、100隻以上の武装中国船団が尖閣諸島付近で領海を侵犯。当時、トウ小平氏は「偶発的な出来事」と弁明し、「このような事件を2度と起こさない」と日本に確約しました。この時日本は尖閣諸島問題を解決する好機を逃し、一方で、巨額のODAを中国に与え始めたのです。
そうして中国の成長を助けてきた日本が、いまや「衝突は日本側のせい」などという嘘によって、謝罪と賠償まで要求される側になってしまいました。なぜこれほどまでに日本は負け続けてきたのか。
それは、日本政府も日本国民も「中国とはどんな国なのか」を真に理解していないからだと考えます。
日本人は「嘘をついてはいけない」「人を騙したり、裏切ったりするのは恥ずべきことだ」と教えられて育ちます。しかし、中国人の常識はまったく逆で、嘘をついたり人を裏切ることは「賢いこと」なのです。
『孫子の兵法』で、孫子が最上の勝ち方としているのが、謀略です。上手に嘘をつき、騙すことが尊ばれる。中でも「二重スパイ」が、一番価値が高いとしています。
歴史において、「中国」という国名の国は実は存在してこなかったのです。私たちが「中国」と呼ぶその地域には数千年も前から、さまざまな民族が侵入し、各々、独自の王朝を作って君臨しました。支配したのは、必ずしも今の中国を支配する漢民族ではなく、蒙古人だったり満州の女真人だったりしました。彼らはそれぞれ何世紀かにわたる繁栄を築き、衰退し、新たな民族の台頭で滅びていきました。そして王朝が変わるたびに、歴史が時の為政者に都合よく書き換えられてきました。
中国にとっては、歴史は勝った側が作るもの。事実や真実には意味がなく、いかなる手段でも勝てばいいと考えるのが、彼らの常識です。
島国であり、戦国時代など一時期を除けば安定した社会が長く続いた日本で、正直さや誠実さが尊ばれてきたのとはまったく違うのです。
ノーベル平和賞を受賞し、いまなお中国政府に拘束されている劉暁波氏も著書の中で、〈中国の『実用理性』は、事実や真実と向き合うことを最も嫌〉うことを特徴とすると書いています。
また、私が理事長を務める国家基本問題研究所の客員研究員・金谷譲氏は、『中国はなぜ「軍拡」「膨張」「恫喝」をやめないのか』(文藝春秋刊)の中で、中国人は「物の理」を理解できない人々だと指摘しています。
〈現代日本、すくなくとも現代日本語において、“理”は「論理」と「物理」の二つを意味するが、この二つが混同されることはない。
一方、中国の“理”は、「論理」と「物理」が古代以来、基本的にいまだに未分化で、あるいは完全には分化しきっていない。また、それに関連するが、中国人の思考様式には、仮説・推論・実験による検証という(自然)科学的思考様式が存在しない〉というのです。
これが彼らの“常識”であり、その考えから、「中国人は正しい。だから何をしてもいい」という中華帝国的思考が生まれ、傍若無人の振る舞いとなるのです。
歴史を繙けば、中国は嘘と謀略によって他国を侵略し、覇権を拡大してきました。
例えば、これまで『SAPIO』誌でも指摘してきた通り、かつてチベットは中国に一度も属したことのない独立国家であり、「藩部」という位置づけで、中国と対等の「同盟国関係」にありました。ところが、共産党政権が誕生すると、突然、自らを「チベットの統治者」と言い出し、「解放」と称してチベットを軍事制圧してしまいました。
1992年には尖閣諸島や、南シナ海の島すべてを自国領だと一方的に宣言し、「領海法」を制定しました。歴史や現実とはかけ離れた「嘘」ですが、中国は堂々とそれを宣言し、法律まで作って、軍事力を背景に支配を既成事実化してしまう。現実に南シナ海はすでに中国の海となり、続いてその矛先が今、東シナ海に鋭く向けられているのです。
●以前は「日本は軍事力を強化せよ」と主張していた
日本との間でも、中国の嘘と裏切りによる歴史が繰り返されてきました。
1921年から22年にかけてワシントン会議が開かれました。これによって、列強はこれ以上中国に進出せず、その時点での現状を維持することを取り決めました。いわゆる「ワシントン体制」です。ここでは関係各国が、条約や契約などを誠実に守ることが求められました。
当時米国の外交官だったジョン・マクマリー氏はメモランダム(同氏が国務省に宛てた報告書。のちに単行本としてまとめられ、日本では、『平和はいかに失われたか』の書名で原書房から出版)に、日本政府は〈ワシントン会議の協約文書ならびにその精神を守ることにきわめて忠実であった。そのことは、中国に駐在していた当時の各国外交団全員がひとしく認めていた〉と書き残しています。
逆に一番守らなかったのが中国でした。特に日本に対しては、関税の取り決めを破り、ビジネスの契約も破り、略奪を繰り返しました。
のちに敗戦した日本は一方的に「侵略国家」にされ、中国の謀略によって、南京大虐殺などが捏造されたのです。
中国の「嘘と裏切り」はまだまだあります。
今でこそ日本の軍事力強化に激しく反対する中国ですが、78年に日中友好条約を締結した当時は、ソ連の脅威を受けて、日本に軍事力強化を求めていました。80年に訪中した中曽根康弘氏に対し、中国人民解放軍の幹部は、軍事予算をGNP比2%に倍増するよう要求していたほどです。
しかし、80年代前半にソ連の力が衰え、米ソ対立のなかで中国がソ連を恐れなくてもいい状況になると、中国の態度は一変しました。日本から多額のODAを受け取りながら、一方では日本の国際的な地位を貶め、軍事的にも心理的にも圧力をかける戦略をとり始めたのです。
そのひとつが靖国参拝批判です。靖国神社がいわゆるA級戦犯を合祀したことが公になったのは79年。それ以降、当時の鈴木善幸首相らが参拝しても、中国は一言も批判していませんでした。ところが、85年以降、中国が突然、抗議を始めたのです。
それについて、05年11月、外国特派員協会で会見した王毅駐日大使(当時)は、200名以上の記者らを前にこう語りました。
「中国の立場ですね、継続性のあるもので、変わっておりません。1985年、このことですね。A級戦犯が祀られていることが公になってから、我々も反対の立場を貫いてきました」
もちろん「85年に公になった」というのも、「貫いてきた」というのも嘘です。情けないのはその場に居合わせた日本メディアの記者たちで、明らかな事実歪曲をまったく指摘しませんでした。結果、王毅氏の発言はそのまま海外に流れてしまいました。
中国の嘘に嘘を重ねる手法に、きちんと反論するどころか、日本側が自ら騙されるような愚もありました。
東シナ海のガス田開発問題は、その典型です。
中国は92年に領海法を制定すると、すぐに東シナ海に鉱区を設定し、国際法を無視して日本の排他的経済水域での資源調査を始めました。当然、海上保安庁や海上自衛隊は危機感をつのらせましたが、驚くべきことに森政権時代の00年、当時の河野洋平外相は、中国側に「事前通報制」を提唱したのです。通報すれば調査を是とするもので、事実上自由行動を許したに等しい内容でした。しかも中国はそれさえも無視し、通報もなく堂々と資源調査を行なうようになっています。
一方の日本政府は、長年にわたって資源調査の申請をしてきた日本の企業に対して、日中関係に摩擦が生ずるとの理由で許可しませんでした。自分たちだけが四角四面に、もっと言えば馬鹿正直にルールを守り、相手のルール破りには一切目をつぶってきたのです。
そして中国は08年の日中共同開発の合意さえ無視し、ついにガス田「白樺」の掘削を開始したと見られます。この状況を導いた外務省と親中国派の政治家の責任は、極めて重いと言わざるをえません。
●“自由も人権もない”中国的価値観が世界に拡大する日
中国が「嘘と裏切り」で覇権拡大を続けてきたのはこれまで述べた通りですが、約1年半前、中国は戦略を大転換する決定をしました。
09年7月、胡錦濤国家主席は駐外使節会議で訓示を行ないました。トウ小平氏の「韜光養晦」(才能を隠して姿勢を低く保ち、力を蓄える)、日本風に言えば「能ある鷹は爪を隠す」から、「積極有所作為」(より積極的に、為すべきことは為す)に方針を変えることを宣言したのです。
これまで中国は世界からの孤立を避けるため、むやみに力を前面に押し出すことは控えてきました。しかし、これからは軍事力や経済力を前面に押し出すということです。
10年4月に沖縄の海で中国海軍が大規模訓練を行ない、「こういうことは以降、常態化する。日本はそれに慣れるべきだ」と言い放ったのも、今回の尖閣漁船事件をめぐる強硬な姿勢も、中国が戦略転換によって「新たな段階」に入ったことを示すと考えればわかりやすいでしょう。
国内の人権派への弾圧はもちろん、ノーベル平和賞授賞式に出席しないよう各国に露骨に圧力をかける。日本の新幹線技術をそっくり盗んでおきながら、「独自の開発だ」といって海外に売り込む。
こうしたことを堂々と行なうのは、「嘘と裏切り」に、軍事力や経済力を背景にした「開き直り」が加わったと見るべきです。そして、これからは中国独自の手法によって、彼らの価値観で世界の新たな秩序を作るということをも意味しています。
米国の中国問題専門家、エリザベス・エコノミー氏は、これを「革命」と呼びました。“中国革命”が招くのは恐るべき世界です。私たちが大切だと思っている、自由や人権、民主主義、知的財産権に対する考え方も含めて、国際ルールを守るといった価値観が、中国の手法や全体主義的価値観の脅威によって、破壊されるということです。
例えば国民を弾圧・虐殺するスーダンのような国家に対し、中国は武器支援と経済援助の見返りとして石油資源などを手に入れました。こうした中国的価値観が世界に拡大し、場合によっては国連で多数を占めるようになってしまうと、「価値観の大逆転」の可能性も否定できません。そこには、自由も人権もなく、むしろ嘘や謀略が尊ばれて、弾圧が当たり前になるという世界が待っています。
しかし、忘れてはならないのは、中国のしたたかさと“柔軟さ”です。
中国は、国際社会の批判を浴びると、柔軟路線に転じてレアアースの輸出解禁に動いたように、状況を見て戦術を変える国です。私たちは、飽くなき領土拡大と覇権を目指す彼らの戦略が不変であることを認識しておかなければなりません。
仮に中国が微笑みかけてきたとしても、それは「世論の分断」を狙った嘘と裏切りの微笑みです。その先には、「開き直り」による中国の覇権拡大、そして価値観の大逆転が待っています。それを許すようなことはしてはならず、そのためには、政治家もメディアも、中国が「真実のない国」であることをあらためて認識することが必要です。
(SAPIO 2010年12月22日・2011年1月6日号掲載) 2011年1月17日(月)配信