久しぶりのブログ更新が続きます。
今回は「運動」をテーマに不妊症を考えていきたいと思います。
昨年は、当院へ通われていた12名の不妊症の皆様がめでたく妊娠されました 本当に嬉しいですね。自然妊娠の方もおられましたが、ほとんどは生殖補助医療(ART)を受けられての妊娠です。
鍼灸治療だけでなく漢方も服用されている方もありますし、サプリメントやビタミン剤等なども服用されている方もいます。鍼灸治療だけで効果がということは言えませんが、鍼灸治療も何らかの良い刺激になって妊娠率を高めていることは確かだと思います。
今年は、1月にお一人妊娠報告がありました
34歳の方で、1年間タイミング療法を行い、昨年のはじめから3回の体外受精を行うも良い結果が得られませんでした。3回ともに採卵し、胚盤胞まで育てて移植。内膜も充分な厚さあり。ご結婚は6年前。
3回目のあと1周期休ませ、今周期は年末年始自営の仕事も忙しく、不妊専門病院も、当院もあまり通院できないということでタイミングをとることを計画。当院の鍼灸治療はタイミング前に週1回ペースで5回、タイミングとった後に1回の合計6回。
年が明けて1月にご来院。うまく着床し現在も妊娠を維持できているということです。
この患者さま、卵も胚盤胞まで育つし、内膜も充分な厚さが常にありましたので、何かのタイミングで妊娠しやすい状態ではあったと思われます。そこに鍼灸治療を行ったことで子宮や卵巣の血流やホルモンのバランスが改善されたことが妊娠を後押ししたとも考えられます。
ここまでは今年第1号の妊娠報告でした
当院では、不妊症患者さまに限らず、常に、いろんな会話の中で「運動してくださいね」と耳にタコができるくらいお話します 患者さんによっては、「はい、運動しなさいですね」って先に言われてしまうこともあるほどです。
今の世の中、日常生活の中で運動する機会が減っています。昔は、買い物に行くにも、洗濯をするにも、掃除をするにも、食事をつくるにも、トイレをすることも運動が伴っていました。便利になった文明社会を批判するわけではありませんが、昭和初期や大正、明治の人に比べると確実に運動量が減っていることは、誰の目からも分かる現実です。
ですから、老若男女、みな運動を求めてフィットネスジムや健康教室に出かけるわけです。運動を渇望し、運動を求めて。
さて、運動について、なぜ不妊症の人は運動が大切なのかということを書きたいと思います。
まず、 第一話
平成22年7月28日、29日に横浜で、第28回日本受精着床学会総会が開催されました。テーマは「ARTとaging」。要は”卵巣の機能や卵子の質が低下した不妊症に対して、どのような方法で克服するか”ということです。
この時に、抗加齢医学の第一人者の、同志社大学生命医科学部 アンチエイジングリサーチセンター教授の米井 嘉一先生により「アンチエイジング医学への期待~卵子、卵巣のアンチエイジングを考える~」と題し講演がありました。
講演内容は、抗加齢医学の観点から、「いかに卵子や卵巣の老化を遅らせるか」というもので、食、運動、ストレス、サプリメントのことなど、科学的根拠に基ずいた 妊娠しやすカラダづくり についてのものでした。
抗加齢医学とは、老化のメカニズムを追究することで、不老長寿ではなく、避けては通れない老化は受け入れながらも、病的な老化は避け、健康に長生きする医学です。まさに東洋医学の考え方や、未病治、いわゆる予防医学という鍼灸治療が得意とするところであると思います。
老化は、年をとるに伴って、「神経機能の低下」や若さと健康を保つ「ホルモンレベルの低下」、活性酸素の攻撃による「酸化」、グルコース(糖質)がタンパク質と結合して起こる「糖化」、そして、「カロリーの過多と過少」が、老化遺伝子に働きかけて進行するものと考えられています。
ここでの、その先天的影響は3割、生活環境などの後天的影響が7割と言われていますから、老化を遅らせる、いわゆるアンチエイジングの対処方法はあるということになります。
老化の内容やスピードは、人それぞれです。大切なのは、戸籍上の年齢ではなく、その年齢において最もイキイキとした健康状態を保つことです
卵子、卵巣のアンチエイジングを実現するためには、ホルモン年齢を実年齢より若く保つことが大切です。
卵巣機能を低下させるもので注目すべきは、成長ホルモンやDHEA、メラトニンの減少。そして、酸化ストレスや終末糖化産物が増加することです。これらにより卵巣刺激への反応や卵子の質が低下し、卵巣機能が低下することで、採卵数や受精率、妊娠率が低くなることが分かっているそうです。
上記の卵巣機能を低下させる可能性のあるものは、食生活や運動、ストレスなどライフスタイルに影響を受けることが知られています。
成長ホルモン
成長ホルモンの働きは、子どもの成長だけでなく、卵巣機能にも密接に関連しています。成長ホルモンは成長を促進し、代謝をコントロールする働きがあります。故に老化にも関連しています。二つの経路で働き、直接器官へ働きかける場合と、肝臓に蓄えられIGF-1(インスリン様成長因子)を介して器官に働きかける方法があります。睡眠や食事、運動により影響を受けます。質の良い睡眠を得ることとは、このホルモンのゴールデンタイム(睡眠後3時間中が分泌が最大に)にいかにグッスリ眠るかだと言われています。食事はできらだけ空腹になってから食べるのがいいらしいです。グレリンが分泌され、成長ホルモンを活性化させます。
≪運動≫15分程度のダンベル体操は成長ホルモンの分泌を促します。
DHEA(デヒドロエピアンアンドロステロン)
副腎から分泌され女性ホルモンや男性ホルモンになります。DHEAのサプリメントを摂取することで。40歳以上の卵巣の反応低下を改善することがあると報告されています。ただし、日本ではサプリメントとして販売することは法律で禁止されているため、必ず医療管理者の管理のもとで使用すべきですね。
≪運動≫筋力トレーニングや有酸素運動でDHEAの分泌量が増えます。
副腎は、皮質と髄質にわかれており、身体の内外の環境に応じてホルモンを放出します。すなわち恒常性の維持において重要な役割を担っています。子宮や卵巣など生殖器にも関わりがあります。このお話は、ストレスや脳と運動の関りということで第ニ話で詳しく触れたいと思います。
酸化ストレス(活性酸素)
卵胞は、卵原細胞から分化し卵子を育て排卵までに至ります。卵胞が生育するということは細胞の代謝が高くなり、それだけエネルギーが必要ですので、酸化ストレスも高くなります。もしも、抗酸化能力が低下していると、卵の発育を阻害します。
対処としては、新鮮な野菜や果物をとることです。またサプリメントとして、抗酸化ビタミン、ミネラル、コエンザイムQ10などで抗酸化ネットワークを強化します。強いストレスは抗酸化酵素を減少させますのでお気をつけくださいね
この活性酸素は人がエネルギーを産生し、代謝や成長など人として活動していくためには必ず放出される物質です。適量であれば、それは体に必要なもの(異物の処理など生体防御、血圧の調節など)なのです。活性酸素は人のエネルギープラントであるミトコンドリアから発生します。ミトコンドリアからみた運動は第三話で詳しく触れたいと思います。
終末糖化産物(AGE)
AGEは、胚の発育を抑制し、胚の分割率や胚盤胞形成率を低下させると言われています。AGEは加齢や高血糖、喫煙などに伴う酸化ストレスにより産生されます。糖尿病の指標とされるヘモグロビンA1cなどがAGEであり、タンパク質であるヘモグロビンと血液中の糖質がひっつき、化学反応を起こして変化していきます。赤血球は寿命が120日なので、その後は代謝されますが、高血糖の状態が続くとAGEが大量に存在する状態が続き、それが合併症に繋がると考えられています。
そのような反応が体の各所に起きるということです。卵巣、子宮にしても同様です。
これらは食事がまず大切となります。・朝食をとる・ゆっくり食べる・食べ過ぎない・ファーストフードや精製された食品にはAGEが多く含まれていますので控える・食べる順番は野菜からスタートし、肉や魚などのタンパク質の次に炭水化物(ご飯、パンなど)を食べることで、血糖値の上昇を緩やかにする、などの対処法があります。
≪運動≫ 運動習慣を身につけましょう。
運動習慣のなかった40代の女性が運動を始めたら…
それまで運動習慣のなかった40歳の女性が40分の筋力トレーニングかウォーキングを週3回、2ヶ月間続けた後に成長ホルモンとDHEAを測定したところ…筋力トレーニングでは成長ホルモンが17%、DHEAが30%増加し、ウォーキングでも成長ホルモンが17%、DHEAが20%増加したことが確かめられています。
要は、どのような運動でも継続して、定期的に行えば、必ず身体にいい反応がみられるということです。そして、卵巣や卵子をより老化させるような上記のような因子に、余分な老化を進めないようなアンチエイジングを促す効果があるということです。
私が「運動してくださいね」と、耳にタコができるほど言う理由の一端を書かせていただきました。
不妊症でお悩みの方は、まず運動など自身の生活習慣から見直していくことも必要なのですね。
いつも長くなりましてすいません 最後までお読みいただき、ありがとうございます
次回、第ニ話では、脳と運動から女性の身体を考えていきます。また、第三話では、ミトコンドリアと運動というエネルギーの観点から生殖というものを考えていきたいと思います。
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