今回ご紹介するのは「書店ガール7 旅立ち」(著:碧野圭)です。
-----内容-----
中学の読書クラブの顧問として、生徒たちのビブリオバトル開催を手伝う愛奈。
故郷の沼津に戻り、ブックカフェの開業に挑む彩加。
仙台の歴史ある書店の閉店騒動の渦中にいる理子。
そして亜紀は吉祥寺に戻り……。
それでも本と本屋が好きだから、四人の「書店ガール」たちは、今日も特別な一冊を手渡し続ける。
すべての働く人に送る、書店を舞台としたお仕事エンタテインメント、ついに完結!
-----感想-----
「第1章 愛奈」
高梨愛奈は吉祥寺にある中高一貫の私立で中学校の司書教諭をして二年になり、読書クラブの顧問もしています。
5月の終わり、読書クラブが体育祭のクラス対抗リレーで三年連続優勝し、愛奈がクラブ員達に三連覇のお祝いをねだられ「びいどろ」というブックカフェで奢ることになります。
読書クラブは元々読書が好きな人の他に、クラブよりも趣味や勉強やスポーツに力を入れたい生徒達の受け皿にもなっていて、井出聡司という三年生のクラブ員はサッカーの全国大会でも上位を争う強豪クラブチームのエースです。
福永卓也という二年生のクラブ員も井出とは別のサッカーのクラブチームに所属しています。
さらに碇信一郎という三年生のクラブ員は芸能事務所のアイドル養成スクールに出入りしていて、そんな人が次々と出てきて驚きました。
私立の学校ならそんなこともあるのだと思います。
中村奏大(かなた)という入学以来学内テストでトップの座を明け渡したことがない秀才の三年生クラブ員だけが「びいどろ」に行くのを断り周りを戸惑わせます。
しかし愛奈は読書クラブの子達を次のように評していました。
ほかのクラブなら、中村のような単独行動をする人間は冷たい目で見られがちだ。仲間外れになるかもしれない。しかし、このクラブの子たちは、次に中村に会った時にはふつうの態度で接するだろう。そういう優しさが、読書クラブの体質だった。
この体質は良いなと思いました。
「びいどろ」で部長の高田ふみと書記の松川知弥(ちや)が「今年の文化祭ではビブリオバトルをやりたい」と案を出します。
ビブリオバトルは最初にそれぞれの人が読んで面白いと思った本を一冊決め、次にみんなの前で一人5分で順番にその本を紹介し、それぞれの人の紹介の後に参加者全員でその発表についてディスカッションします。
最後にみんなで一番読みたくなった本に投票し、一番多く票を集めた本がチャンプ本になります。
「チャンプ本」とあり、一番良い発表をした人が優勝しても主役はあくまで本なのは読書の催しらしくて良いと思います。
多数決の結果文化祭ではビブリオバトルをやることになり、まず三年生がお手本としてみんなの前で実際にビブリオバトルをやってみることになります。
ビブリオバトルで井手が「脳に悪い7つの習慣」という本を紹介した時、人は「もうゴールだ」と思うと脳の血流が落ちてパフォーマンスが落ちるとあったのは初めて知ったので興味深かったです。
そして全員発表後の投票の結果中村だけ一票も入りませんでした。
発表はよくできたものでしたが言葉が平坦で感情が込もっておらず、みんなを退屈させる内容だったことによるものでした。
二日後、中村が文化祭のビブリオバトルには出ないと言います。
高田や松川が反発して不穏な雰囲気になりますが高野大介という三年生がのんびりと仲裁に入ります。
中村が紹介した「きみの友だち」(著:重松清)という小説は中学入試に出やすい本で読書クラブ員にも既に読んだことのある人がいるはずで、そういった人はもう読んだことのある本には投票しないことが予想され最初から不利だったというのは興味深かったです。
やがて中村は小学校時代にいじめに遭ったのが原因でありのままの自分を出して回りに嫌われるのが怖いと思っていることが明らかになります。
また中村は読書クラブを気に入っていることも明らかになり、読書クラブの活動には常に淡白に対応しているように見えたのでこれは意外でした。
愛奈がビブリオバトル用の本を探したいと言う一、二年生を連れて新興堂書店吉祥寺店に行くと店長の西岡理子がいます。
理子は東日本のエリア長でもあります。
また新興堂チェーンが取次に吸収合併されたとあり、今どんなことになっているのか気になりました。
愛奈は新興堂書店吉祥寺店で中村に遭遇します。
中村は都立高校入試問題集を見ていて、金銭問題で今の私立を止めて都立高校に行こうとしていることが明らかになります。
また中村が「びいどろ」の集まりに行かなかったのは付き合いが悪いわけではなかったことも明らかになります。
愛奈からの頼みで中村はもう一度みんなの前でビブリオバトルをすることになります。
そのビブリオバトルで中村が自身のことを話し、今度はみんな食い入るように聞き、発表が終わると拍手が起きました。
私もかなり引き込まれて読み、心に触れる言葉の凄さを感じました。
「第2章 彩加」
宮崎彩加は28歳になり、沼津駅前のパスタ店で久しぶりに荒木百合香、小澤まなみという友達と会います。
三人で話している中でトルコパン職人で彩加のビジネスパートナーの大田英司がかなり有名になっているのが分かりました。
友達二人は地元の不満を口にしますが彩加は離れてみると地元も良いものだと思っていてこれは私もそう思います。
近年故郷の魅力を感じています。
彩加はまなみの地元への辛辣な言い方に刺を感じ、なぜかと思います。
三人で丸三書店という地元密着の書店の偵察に行きます。
彩加が英司とオープンさせるブックカフェから一番近いライバル店です。
丸三書店に行くと高校三年で同じクラスだった増田潤が店員をしていて彩加の活躍を知っていましたが彩加のほうは覚えていなくて思い出すのに時間がかかっていました。
まなみはその後もしきりにひがみっぽいことを言い、都会慣れした彩加に劣等感を抱いているのかも知れないと思いました。
やがて彩加が高校の卒業式の前日にまなみ達に酷いことを言い、それでまなみは彩加に怒っていたことが明らかになります。
彩加が胸中で語っていた「言葉は、文字にならなくても、ひとのこころに残る。」という言葉は印象的でした。
うっかり言った言葉が災いをもたらすことはあると思います。
この話ではもう一つ、彩加が「言葉は不思議だ。言い方ひとつでこちらの捉え方も変わってくる。」と胸中で語っていてこれも印象的でそのとおりだと思いました。
言い方によって強い不信感を抱かせることもあれば上手く収められることもあると思います。
「第3章 理子」
西岡理子が語り手の物語は久しぶりです。
シリーズが進んでからはたまに少し登場するくらいだったので意外でした。
理子が東日本エリアで統括するお店は多賀城店が閉店して八店舗から七店舗になっていました。
理子は櫂文堂(かいぶんどう)書店仙台本店に来て沢村稔という店長と話をします。
5年前、理子がエリア長になったと同時に宮城県を中心にしたローカルチェーンの櫂文堂書店が新興堂チェーンの傘下に入りました。
岡村真理子という20代前半のかつての小幡亜紀を思わせるような文芸書担当の店員とも話をします。
沢村は仙台の書店員の間で絶大な人気があり、沢村の作った棚は書店員なら誰もが一目置き、地元ラジオ局でお勧め本のコーナーを担当したり新聞にも時々寄稿したりしています。
岡村はそんな沢村のことを尊敬し信奉しています。
理子がバックヤードに行くと新興堂書店本部の総務部長の星野が来ていました。
星野は理子を夕御飯に誘い、その席で新会社が設立され近々正式発表になることを話します。
1ヶ月後、理子は再び櫂文堂書店仙台本店に来ます。
本部の重役会議で仙台本店を閉店させ仙台駅前に新たに大規模なお店をオープンさせることが決まったため沢村に閉店を伝えに来ました。
岡村が理子に話しかけてきて閉店の噂があると迫りますが理子は何とか誤魔化します。
岡村が去った後、理子は「あの子の言うように、この年季の入った店構え、立地、そしてスタッフ。どれ一つ欠けても、櫂文堂は櫂文堂でなくなるだろう。」と胸中で語ります。
櫂文堂書店仙台本店はとてもレトロな雰囲気で、最近では若い女性などがよくお店の中に写真を撮りに来るようにもなっています。
しかし理子はお店を守るために戦うのは無理だと考え、自分にできることは穏やかに新店への移転を進めることと考えます。
かつて自身が店長だったペガサス書房で閉店の危機を前に会社の上層部と戦い、お店を守れずスタッフも散り散りになった理子は今度はスタッフだけは守りたいと考え、新店のオープンをつつがなく進める代わりに櫂文堂書店仙台本店のスタッフの希望者全員を新店で働かせてもらおうとしています。
新聞記事に櫂文堂書店仙台本店の閉店のことが取り上げられ寝耳に水だった現場スタッフに動揺が走り、理子が仙台本店に行き自身の口でスタッフ達に仙台本店の閉店と新店のオープンのことを伝えます。
岡村が店名はどうなるのかと質問し、理子が会社が新しくなることで店名も変わるかも知れないと言うと、岡村は場所が変わって名前も変わるならもうそれは櫂文堂とは言えないのではと言います。
さらに他の従業員達も櫂文堂の名前を残してほしいと理子に詰め寄ります。
すると沢村が凄く良いことを言います。
櫂文堂の名前を残すには本部に「これなら櫂文堂の名前を残したほうが得と思わせるのが良策で、スタッフ一人ひとりが本部の人達にこれなら名前を変えず櫂文堂のままで行こうと思わせるには何をしたら良いかを考えてほしい」ということを言っていました。
ただ騒いだり理子に詰め寄っても何にもならないのはそのとおりだと思います。
理子は沢村がスタッフに「会社の立場を理解してほしい」「雇用は守られるから協力してほしい」ということを言ってくれるのを期待していたため、策を練って櫂文堂の名前を残すために戦おうということを言ったことにショックを受けます。
そんな理子に沢村は「おためごかしを言っても、みんなは納得しません」と言い、これもそのとおりだと思います。
理論だけ言っても現場で働いている人達からは総スカンになると思います。
沢村が今の時代は本を買うことにも物語が必要と言っていたのは興味深かったです。
ただ本を買うならネットでも良いため、そのお店で買う意味が必要とあり、ネットが台頭する中で生き残るために考えているのがよく分かりました。
ある日お客達が店にやってきて閉店は本当なのかと理子に詰め寄ります。
理子は騒がれれば騒がれるだけことは面倒になり本部からの心証が悪くなりスタッフ達の新店舗での雇用も危うくなると考え、何とか穏便に済まそうとします。
岡村が自身が作っている「ウサ耳通信」というフリーペーパーの号外を出して閉店の危機を知らせ、さらに騒ぎが広がることに理子は焦ります。
理子はしきりに「ことを荒立てたくない」という言葉を使っていて、荒立てたくないという気持ちに取り憑かれているかのように見えたのが印象的でした。
岡村はむしろ大騒ぎにして本部の人達に櫂文堂書店仙台本店がどれほどこの街で必要とされているかを分からせたいと言いますが理子はそんな岡村を説得します。
理子は東京の本部で事業部長の中田哲也の話を聞いて、会社が消したいのは櫂文堂の名前のみならず商売の仕方そのものだと理解します。
効率を追い求める本部にとって櫂文堂書店仙台本店のお客に寄り添うきめ細かいサービスの仕方は効率的ではないと考えられ排除されようとしています。
理子は本部で亜紀と再会します。
亜紀はフェイスブックで書店員とつながっているので櫂文堂の騒動を知っていました。
理子が櫂文堂書店仙台本店に行き、新店舗の名前が「REAL BOOKS仙台店」になると会社から正式発表されたことを告げると岡村は激怒し他のスタッフ達もざわつきます。
すると沢村が仙台市から櫂文堂を存続できないかというメールを貰ったと言い、さらに新聞社から「櫂文堂の百年」という集中連載をしたいと言われていると言いみんなを鼓舞します。
どんどん話が大きくなっていき、呆然とする理子とは対照的に岡村達は盛り上がります。
ついに理子はある決意をします。
櫂文堂書店仙台本店の閉店騒動は意外な形での決着になりました。
さらに沢村が驚きの決断をします。
この展開を見てなかなか思うようには行かないのがよく分かりました。
しかし理子が最後に「ことを荒立てたくない」と強迫観念のように思っているだけではなくなったのは読んでいてワクワクしました。
「第4章 亜紀」
この話はとても短い話で、亜紀の新たな旅立ちが描かれていました。
亜紀は新興堂書店吉祥寺店の店長として現場に戻ることになります。
理子と先週会った時の回想があり、理子が「その地にいられるうちにしかできないことを楽しむ」といったことを言っていたのは良い言葉だと思いました。
亜紀の店長としての最初の一日が始まるところで物語は終わります。
「書店ガール」シリーズは今作が最終巻となります。
理子、亜紀、愛奈、彩加それぞれの近況が描かれ、四人全員がそれぞれどう進んでいくのかを知ることができて良かったです。
四人ともシリーズの中で様々なことがありながらも本に携わり続けられているのも良かったです。
四人のこれからの本に携わっていく日々が明るいものであることを願います
「書店ガール」シリーズの感想記事
「書店ガール」
「書店ガール2 最強のふたり」
「書店ガール3 託された一冊」
「書店ガール4 パンと就活」
「書店ガール5 ラノベとブンガク」
「書店ガール6 遅れて来た客」
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