今回ご紹介するのは「下鴨アンティーク」(著:白川紺子)です。
-----内容-----
京都、下鴨―。
高校生の鹿乃は、旧華族である野々宮家の娘だ。
両親を早くに亡くし、兄の良鷹と、准教授をしている下宿人の慧と三人で、古びた洋館に住んでいる。
アンティーク着物を愛する鹿乃は、休日はたいてい、祖母のおさがりの着物で過ごす。
そんなある日、「開けてはいけない」と言われていた蔵を開けてしまう!
すると、次々に不思議なことが起こって…!?
-----感想-----
小説タイトルの「下鴨」から森見登美彦さんの作品が連想され、その縁で手に取ってみた一冊です。
野々宮鹿乃(かの)はこの春から高校三年生になります。
兄の良鷹は古美術商をしていて、離れに住む下宿人の八島慧(けい)は私立大学で近世文学を教えている准教授です。
物語の主要登場人物はこの三人となります。
鹿乃には「おふじさん」こと芙二子(ふじこ)という亡くなった祖母がいました。
その祖母のお下がりの着物を色々なコーディネートで着こなすのが鹿乃の休日の過ごし方です。
また、鹿乃は着物を着る時にテーマを設定するのが好きです。
赤い紬(つむぎ)に油彩調で森を描いた染め帯を合わせて『赤ずきん』、浅葱の縞御召(しまおめし)に蛙柄の帯で『梅雨』などという具合に着ています。
古くからの言葉もたくさん出てきて興味深かったです。
行李(こうり)という、竹や柳、籐などを編んで作られた葛籠(つづらかご)の一種など、言葉を見ただけではどんなものか分からないものがたくさんありました。
兄の良鷹は「たいへんぐうたら」とのことで、古美術商ですが家で寝転がっているばかりで滅多に仕事をしません。
しかしかなりの目利きでもあり、物凄い高値の取引をしたりもしています。
美しい衣服や紅葉などをたとえていう言葉の「綾錦(あやにしき)」も知らない言葉でした。
「色とりどりの着物や帯を吊るした部屋の中が幾重にも綾錦の幕を張ったようになっていて美しい」という使われ方をしていて、なるほどと思いました。
衣桁(いこう)という着物を掛けておくための衝立も聞き慣れない言葉でした。
全体的に着物にまつわる和の言葉がたくさん出てきて、かなり造詣が深い人なのかなと思いました。
ある時、祖母から「開けてはいけない」と言われていた蔵を鹿乃が開けてしまいます。
蔵にある着物を虫干ししようと思ったのでした。
それが引き金となり、次々と着物にまつわる不思議なことが起こるようになります。
古美術商の良鷹曰く、蔵の着物には幽霊や物の怪が憑いているとのこと。
異様な状態となった着物を元に戻すべく、鹿乃は蔵の着物の謎と向き合っていくことになります。
ちなみに野々宮家は京都の左京区、下鴨神社糺(ただす)の森の近くにあります。
私はこれを見て森見登美彦さんが思い浮かびました。
物語は「アリスと紫式部」「牡丹と薔薇のソネット」「星月夜」の三章に分かれていて、第一章の「アリスと紫式部」では源氏物語の話がよく出てきました。
まだ通しで全て読んだことはないのですが、この話を読んでいたら源氏物語のほうも気になりました。
あとになって気づくことは、いくらでもある。それだから、何度もなんども立ちどまって、ふり返らずにはいられないのだろうか。
鹿乃が祖母のことを思い返していた時のこの心境は印象的でした。
私も亡くなった祖父について、もっとできることがあったのではないか、話を聞いておくべきだったのではないかと思ったりすることがあります。
辛夷(こぶし)の花が出てきて、これはどんな花かと思い調べてみたら、春に咲く白い花で、見たことのある花でした。
ただ木蓮の花との違いがよく分からないので詳しい違いを調べてみようかと思います。
「おなじものを見ているのに、まるで違うとらえ方をしていたら、不安だろう。気が合わないってことだ」
「せやろか」
鹿乃は、首をかしげて、考える。
「おなじもん見とって、別々のとらえ方するんやったら―そっちのほうが、得やない?ひとつのものに、ふたつ、見方ができるんやもん」
この場面は印象的でした。
たしかに同じものを見て全く同じ捉え方をするとは限らず、感性の違いによって違う捉え方をしたりもします。
「もとには戻れんでも、先には進めるんとちゃうやろか」
鹿乃のこの言葉も良い言葉だと思いました。
過ぎたことを悔やむより、前に進もうという意思が良いなと思います。
「鴨川デルタ」も登場。
加茂川と高野川が交わって鴨川になるところで、その合流地点の突端にあたる河原は飛び石で両岸と行き来できるようになっています。
この三角形の河原が「鴨川デルタ」と呼ばれていて、森見登美彦さんの作品に何度も出てきていました。
さらには「珍妙な招き猫の置物」や、「先刻承知」という言葉まで登場。
どうも白川紺子(こうこ)さんは森見登美彦さんの作品の影響を受けている気がしました。
それと鹿乃が通っている高校では「ごきげんよう」が学校名物の伝統的なあいさつとのことで、なかなか興味深かったです。
モデルになった学校はあるのかなと思いました。
また、第二章「牡丹と薔薇のソネット」に出てきた「ぽかぽかとその背中をたたいた」という表現も森見登美彦さんの言い回しが思い浮かびました。
やはり森見さんの作品の影響を受けているのではという印象を持ちました。
ちなみにこの第二章では蔵から女性のすすり泣く声が聞こえてきます。
しかもその声は長襦袢から聞こえてくるのです。
何とも不気味なのですが、作品が軽いタッチのためあまり怖さはないです。
どうにかして長襦袢を泣きやませて蔵に戻すため、鹿乃は慧と良鷹の力を借りながら奮闘します。
舞台が京都で言い回しも森見登美彦さんに似ているため、最初は同氏の二番煎じになりかねないのではと思ったりもしました。
それでも着物についての造詣が相当深いのか、それを生かして明るい和の作品世界を展開していました。
幽霊や物の怪という怖い要素を織り込みながらも明るく読みやすい作品になっていたのは良かったと思います。
※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。
※図書ランキングはこちらをどうぞ。
-----内容-----
京都、下鴨―。
高校生の鹿乃は、旧華族である野々宮家の娘だ。
両親を早くに亡くし、兄の良鷹と、准教授をしている下宿人の慧と三人で、古びた洋館に住んでいる。
アンティーク着物を愛する鹿乃は、休日はたいてい、祖母のおさがりの着物で過ごす。
そんなある日、「開けてはいけない」と言われていた蔵を開けてしまう!
すると、次々に不思議なことが起こって…!?
-----感想-----
小説タイトルの「下鴨」から森見登美彦さんの作品が連想され、その縁で手に取ってみた一冊です。
野々宮鹿乃(かの)はこの春から高校三年生になります。
兄の良鷹は古美術商をしていて、離れに住む下宿人の八島慧(けい)は私立大学で近世文学を教えている准教授です。
物語の主要登場人物はこの三人となります。
鹿乃には「おふじさん」こと芙二子(ふじこ)という亡くなった祖母がいました。
その祖母のお下がりの着物を色々なコーディネートで着こなすのが鹿乃の休日の過ごし方です。
また、鹿乃は着物を着る時にテーマを設定するのが好きです。
赤い紬(つむぎ)に油彩調で森を描いた染め帯を合わせて『赤ずきん』、浅葱の縞御召(しまおめし)に蛙柄の帯で『梅雨』などという具合に着ています。
古くからの言葉もたくさん出てきて興味深かったです。
行李(こうり)という、竹や柳、籐などを編んで作られた葛籠(つづらかご)の一種など、言葉を見ただけではどんなものか分からないものがたくさんありました。
兄の良鷹は「たいへんぐうたら」とのことで、古美術商ですが家で寝転がっているばかりで滅多に仕事をしません。
しかしかなりの目利きでもあり、物凄い高値の取引をしたりもしています。
美しい衣服や紅葉などをたとえていう言葉の「綾錦(あやにしき)」も知らない言葉でした。
「色とりどりの着物や帯を吊るした部屋の中が幾重にも綾錦の幕を張ったようになっていて美しい」という使われ方をしていて、なるほどと思いました。
衣桁(いこう)という着物を掛けておくための衝立も聞き慣れない言葉でした。
全体的に着物にまつわる和の言葉がたくさん出てきて、かなり造詣が深い人なのかなと思いました。
ある時、祖母から「開けてはいけない」と言われていた蔵を鹿乃が開けてしまいます。
蔵にある着物を虫干ししようと思ったのでした。
それが引き金となり、次々と着物にまつわる不思議なことが起こるようになります。
古美術商の良鷹曰く、蔵の着物には幽霊や物の怪が憑いているとのこと。
異様な状態となった着物を元に戻すべく、鹿乃は蔵の着物の謎と向き合っていくことになります。
ちなみに野々宮家は京都の左京区、下鴨神社糺(ただす)の森の近くにあります。
私はこれを見て森見登美彦さんが思い浮かびました。
物語は「アリスと紫式部」「牡丹と薔薇のソネット」「星月夜」の三章に分かれていて、第一章の「アリスと紫式部」では源氏物語の話がよく出てきました。
まだ通しで全て読んだことはないのですが、この話を読んでいたら源氏物語のほうも気になりました。
あとになって気づくことは、いくらでもある。それだから、何度もなんども立ちどまって、ふり返らずにはいられないのだろうか。
鹿乃が祖母のことを思い返していた時のこの心境は印象的でした。
私も亡くなった祖父について、もっとできることがあったのではないか、話を聞いておくべきだったのではないかと思ったりすることがあります。
辛夷(こぶし)の花が出てきて、これはどんな花かと思い調べてみたら、春に咲く白い花で、見たことのある花でした。
ただ木蓮の花との違いがよく分からないので詳しい違いを調べてみようかと思います。
「おなじものを見ているのに、まるで違うとらえ方をしていたら、不安だろう。気が合わないってことだ」
「せやろか」
鹿乃は、首をかしげて、考える。
「おなじもん見とって、別々のとらえ方するんやったら―そっちのほうが、得やない?ひとつのものに、ふたつ、見方ができるんやもん」
この場面は印象的でした。
たしかに同じものを見て全く同じ捉え方をするとは限らず、感性の違いによって違う捉え方をしたりもします。
「もとには戻れんでも、先には進めるんとちゃうやろか」
鹿乃のこの言葉も良い言葉だと思いました。
過ぎたことを悔やむより、前に進もうという意思が良いなと思います。
「鴨川デルタ」も登場。
加茂川と高野川が交わって鴨川になるところで、その合流地点の突端にあたる河原は飛び石で両岸と行き来できるようになっています。
この三角形の河原が「鴨川デルタ」と呼ばれていて、森見登美彦さんの作品に何度も出てきていました。
さらには「珍妙な招き猫の置物」や、「先刻承知」という言葉まで登場。
どうも白川紺子(こうこ)さんは森見登美彦さんの作品の影響を受けている気がしました。
それと鹿乃が通っている高校では「ごきげんよう」が学校名物の伝統的なあいさつとのことで、なかなか興味深かったです。
モデルになった学校はあるのかなと思いました。
また、第二章「牡丹と薔薇のソネット」に出てきた「ぽかぽかとその背中をたたいた」という表現も森見登美彦さんの言い回しが思い浮かびました。
やはり森見さんの作品の影響を受けているのではという印象を持ちました。
ちなみにこの第二章では蔵から女性のすすり泣く声が聞こえてきます。
しかもその声は長襦袢から聞こえてくるのです。
何とも不気味なのですが、作品が軽いタッチのためあまり怖さはないです。
どうにかして長襦袢を泣きやませて蔵に戻すため、鹿乃は慧と良鷹の力を借りながら奮闘します。
舞台が京都で言い回しも森見登美彦さんに似ているため、最初は同氏の二番煎じになりかねないのではと思ったりもしました。
それでも着物についての造詣が相当深いのか、それを生かして明るい和の作品世界を展開していました。
幽霊や物の怪という怖い要素を織り込みながらも明るく読みやすい作品になっていたのは良かったと思います。
※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。
※図書ランキングはこちらをどうぞ。