(緋村抜刀斎と雪代巴。写真はネットより。以下同じ)
今回ご紹介するのは映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」(主演:佐藤健)です。
-----内容&感想-----
人気漫画「るろうに剣心」(原作:和月伸宏)を映画化したシリーズの最終作です。
この作品は「るろうに剣心」の主人公緋村剣心(佐藤健さん)が幕末の動乱期に反徳川幕府勢力の長州藩(現在の山口県)で
「人斬り抜刀斎(ばっとうさい)」となって京都に行き、幕府側の要人を次々と暗殺していた時代が舞台です。
その時代に抜刀斎は左頬に十字傷を負い、後にトレードマークになりますが、この作品ではなぜ十時傷が出来ることになったのかが描かれています。
「スターウォーズ」という有名映画でフォースに安定(平和)をもたらす者と予言されたアナキン・スカイウォーカーがなぜ暗黒面に堕ちてダース・ヴェイダーになったのかを描いたのと通じるものがあり、謎が明らかになる話は興味を引きます。
Beginningは始まりという意味で、シリーズ最終作にして「るろうに剣心」の物語の始まりでもあります。
そして最終作にして私が劇場で観る初めての作品となりました。
先日ネットでこの作品の特集を読み、十字傷誕生に大きく関わる重要登場人物の雪代巴(ゆきしろともえ)役の有村架純さんが素晴らしく似合っていて、これはぜひ観に行こうと思いました
(雪代巴。有村架純さんのこの雰囲気を見て一気に映画への興味が強まりました。)
雪代巴という悲劇的な役のイメージと有村架純さんが醸し出す雰囲気がピッタリだと思いました。
また今作は悲しきラブストーリーにもなっていて、今まで「るろうに剣心」を知らなかった人が観ても十分興味深く観られる内容だと思います。
1864年(元治元年)1月、幕末の動乱に揺れる京都を舞台に物語が始まります。
冒頭からいきなり抜刀斎の殺陣(たて)が凄まじかったです。
対馬藩の敵達を前に
「新時代のため、あなた方には死んでもらう」と言ったかと思いきや、次の瞬間から物凄い速さのアクションが始まり次々と敵が倒されて行きました。
暗殺仕事の後、現代の歴史の教科書で「維新三傑(明治維新立役者の中でも特に優れた三人)」と称される長州藩の重要人物、桂小五郎(高橋一生さん)と話す場面になります。
その時に抜刀斎が「人斬り抜刀斎になって半年」と語っていました。
桂は最近幕府の力が増していて「壬生(みぶ)に現れた狼」が特に強いと語ります。
桂の他に高杉晋作(安藤政信さん)も登場していて、幕末に実在した重要人物が登場すると気持ちがワクワクします
(抜刀斎と話す桂小五郎)
抜刀斎による対馬藩大勢暗殺の惨劇の舞台を
壬生の狼、新選組が検分しにやって来ます。
三番隊組長の斎藤一が「誰の仕業だ」と誰にともなく問うと、一番隊組長の沖田総司が「この太刀筋にこの人数、言うまでもなく人斬り抜刀斎でしょう」と返していて、表向きは秘密にされている抜刀斎の存在を既に新選組は知っていました。
(新選組三番隊組長の斎藤一(江口洋介さん))
抜刀斎が居酒屋で静かに酒を飲んでいると、同じ店に巴がやって来ます。
その時の巴の澄ました表情とゆったりとした所作がかなり良く、超然とした存在感を放っていました。
抜刀斎は酔っ払いに「酒をつげ」と絡まれていた巴を助けてあげます。
居酒屋からの帰り道、抜刀斎の前に忍び装束を着た男が現れ「抜刀斎だな?」と言い襲いかかってきます。
秘密のはずの抜刀斎の存在はどこからか漏れ、刺客に狙われるようになっていました。
抜刀斎は男を斬り殺しますが、その時にお礼を言おうとして後を追いかけてきた巴が大量の返り血を浴びます。
「惨劇の場では血の雨が降ると言いますが、あなたは本当に血の雨を降らすのですね」と静かに淡々と言っているのが印象的でした。
巴は血の雨の雰囲気に当てられ倒れてしまい、抜刀斎は長州藩士がアジトにしている宿に連れて帰って介抱します。
翌朝抜刀斎は巴に
「みなが安心して暮らせる新時代のために人を斬っている。武器を持っている敵が対象で、市井(しせい)の人を斬っているわけではない」と語りますが、ならば私が刀を持てば斬るのかと反論されます。
巴が一緒に祭りを見に行ってくれないかと言い二人で見に行きます。
その時に巴が
「平和のための戦いなど本当にあるのか」と問い、これも印象的な言葉だと思いました。
また今作は悲劇を描いた作品でもあり、明かりが全体的に薄暗いかもしくは暗くなっています。
抜刀斎も巴も口数が少なく淡々と話すタイプなので、照明の暗さはこの作品がどんな作品なのかを表すとともに二人の雰囲気にもよく合っていました。
(人斬りとして暗躍する抜刀斎。佐藤健さんはかなりのはまり役だと思います
)
やがて「池田屋事件」が起きます。
史実において維新獅子達が倒幕のための密会を開いているところを新選組が襲撃して壊滅させた有名事件です。
飯塚という桂小五郎の側近から池田屋襲撃の知らせを受けた抜刀斎は現場に急行しますが、その途中で逃げた維新獅子を追撃していた一番隊組長の沖田総司と遭遇して戦いになります。
アクションが凄まじく、殺陣の凄さは「るろうに剣心」映画シリーズの大きな特徴だと思います。
(激闘を繰り広げる抜刀斎と新選組一番隊組長の沖田総司(村上虹郎さん))
巴が寝ている抜刀斎に毛布を掛けようとしたシーンは良かったです。
常に澄ました表情で他の人からは「愛想がない」と言われている巴が毛布を掛ける時少し微笑んだように見えました。
しかし直後、気配に気付いた抜刀斎が瞬く間に刀を取り刃を巴の首に突き付けます。
(抜刀斎に敵の襲撃と思われて斬られそうになる雪代巴)
斬られそうになり、巴に初めて動揺が走り恐怖に引きつった声が出ますが、それ以上に抜刀斎も信じられないものを見るような驚愕の表情で自身の手元を見ていました。
一体自身は何をしているのか、とんでもないことをしてしまうところだったと表情が物語っていてかなり良い演技だと思いました
抜刀斎は「市井の人間は斬らないと言っていたのにこの有様だ。(このままでは殺してしまうかも知れないから)出て行ってくれ」と言いますが、巴は恐怖しながらも抜刀斎に近寄り、「もうしばらくおそばに居させて頂きます。今のあなたには、狂気を収める鞘が必要です」と言います。
(雪代巴を斬りそうになって悔やむ抜刀斎と、恐怖しながらもその場に留まる巴)
このシーンが凄く良くて、怖いという感情は表情に出て、この人のそばに居たいという感情は座ったままジリジリと間合いを詰める態度に出て、この人のそばに居たい感情が何とか勝ったのが上手く表されていました。
佐藤健さんと有村架純さん、両者揃って高い演技力が発揮された今作最大の名シーンだと思います
池田屋事件以降、新選組の勢いが増し、長州藩士がアジトにしている宿にも藩士潜伏の情報を聞きつけたようで捜査をしにやって来ます。
間一髪のところで抜刀斎は巴を連れて逃げ、守ってあげていました。
(雪代巴を守る抜刀斎。佐藤健さんの醸し出す雰囲気と刀の構えが凄く良いと思います
)
徳川幕府との戦いが激化し、長州藩は劣勢に立たされていたため、抜刀斎と巴は桂から京都の外れにある農村でしばらく2人で夫婦に扮して暮らすように言われます。
桂は巴に「形だけで良い」と言いますが、巴の方は「そんなことを言わなくて良いのに」といった感じの無表情で佇んでいました。
しかし抜刀斎は「出来れば形だけでなく共に暮らそう」と言い、すると巴は微笑んで「はい」と言っていて、それぞれがお互いのことを想っているのがよく分かりました。
農村での暮らしでは巴が再び寝ている抜刀斎に毛布を掛けるシーンがあり、今度は起きずに眠っていました。
抜刀斎が巴に気を許しているのがここでも分かりました。
ある晩、巴が鏡を見ながら涙を流す場面があり、なぜ泣いていたのか最後に明らかになりますが、原作を知っていると表情だけでも自身の境遇と抜刀斎への想いの板挟みで泣いているのだろうな、とすぐに想像がつくくらい印象的な涙でした。
(農村で暮らす抜刀斎と雪代巴。その様子はまさに夫婦でした)
巴が抜刀斎に
「あなたは近頃、よく笑うようになりましたね」と言う場面があり、その時の言葉の雰囲気がとても優しいと思いました。
最後の「なりましたね」の辺りで声量を少し弱めていて、それでいて同時に温かさが滲む言い方でかなり上手いと思いました
しかし温かい雰囲気は長くは続きませんでした。
闇乃武(やみのぶ)と呼ばれる徳川幕府側の暗殺諜報組織が動き出します。
長州藩士の中にかねてから存在が囁かれていた裏切り者がいて、闇乃武と結託して抜刀斎暗殺を企てていました。
巴の弟の縁(えにし)が農村にやって来て、巴はどうしてここが分かったのかと驚きます。
縁の話を聞くうちに巴は何が起こっているのかを悟ります。
その夜、巴は抜刀斎に実家は江戸にあるなどの自身の生い立ちを話します。
10代の頃に「るろうに剣心」の漫画を読んだ時は分かっていませんでしたが、人が突然生い立ちを話したりするのは何か心境の変化があった時の可能性が高く、映画が佳境を迎えているのがよく分かる場面でした。
また抜刀斎は巴に
「新しい時代が来たら、人を斬るのではなく人を守れる道を探したい」と言います。
巴は抜刀斎の思いを聞いて「はい」と穏やかに言っていて、序盤では反論していたのが「はい」になったのが良いなと思いました。
先に眠った抜刀斎の横で巴は自身の短刀を手に取り、思い詰めた顔になります。
その最後、抜刀斎を見て悲しそうに微笑んだのが印象的で、出向いた先で生きて帰って来られそうにないのを悟っているのだと思いました。
巴は一人で自身と関わりのある闇乃武のアジトに向かいます。
(闇乃武のアジトに向かう雪代巴)
翌朝抜刀斎も長州藩の裏切り者の謀略によって動揺した心境でアジトに向かいますが、様々な罠を仕掛け地の利を得て戦う相手達を前にボロボロになります。
そんな中、巴が窮地の抜刀斎を助けに来ますが…
スローモーションで描かれた場面を見て「巴さん…
」という心境になり目にじわりと涙が浮かびました。
結末を知っていても涙が浮かぶのは抜刀斎役の佐藤健さんと巴役の有村架純さんの作り出す世界観がそれだけ凄かったのだと思います。
闇乃武との戦いの後、「じゃあ、行ってくるよ、巴」という寂しそうな言葉とともに、抜刀斎は新しい時代のために再び徳川幕府との戦いに向かって行きます。
この作品を観て、紛れもないラブストーリーだと思いました。
元来どちらも愛想がなく、さらには意見も違っていて恋愛には程遠い関係だった二人が、段々と心を通わせていく様子はとても良かったです。
二人揃って口数が少ない分、表情や所作、間から伝わって来るものがたくさんあり、特に巴が抜刀斎の方を静かに見る回数がたくさんあったので、どういった心境なのかに思いを馳せながら見ました。
悲劇のラブストーリーになるのが分かってはいても、せっかく心を通わせたこの関係が終わらないでほしいと願わずにはいられないような良い雰囲気で、観に行って良かったと思う素敵な映画でした。