今回ご紹介するのは「ジェノサイド 下」(著:高野和明)です。
-----内容-----
研人に託された研究には、想像を絶する遠大な狙いが秘められていた。
一方、戦地からの脱出に転じたイエーガーを待ち受けていたのは、人間という生き物が作り出した、この世の地獄だった。
人類の命運を賭けた二人の戦いは、度重なる絶体絶命の危機を乗り越えて、いよいよクライマックスへ―
日本推理作家協会賞、山田風太郎賞、そして各種ランキングの首位に輝いた、現代エンタテインメント小説の最高峰。
-----感想-----
※「ジェノサイド 上」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
研人はジョナサン・イエーガーの妻であるリディア・イエーガーに「必ずあなたのお子さんを助ける」と約束。
肺胞上皮細胞硬化症の特効薬開発に決意を新たにします。
研人はリディア・イエーガーの母としての強さについて、次のように胸中で述懐しています。
きっとこの強さは、言語も宗教も人種をも超えた、すべての人類に共通した善なのだろう。
「すべての人類に共通した」のところで、
「面白くてよくわかる! ユング心理学」(著:福島哲夫)が思い浮かびました。
この本の中で次のように書かれています。
「神話を重視したユングは各地の伝承を研究した。その結果、人間の心の中には、場所や時代を超えて受け継がれてきた共通のイメージパターンがあることに気づく。これをユングは「元型」(アーキタイプ)と名付けた。」
「場所や時代を超えて受け継がれてきた共通のイメージパターン」がまさに「すべての人類に共通した」という意味で、心理学的にも解明されているようです。
ホワイトハウスの真の狙いに気付き、コンゴ民主共和国からの脱出を図るイエーガー達は現地の村を次々と襲い虐殺の限りを尽くす凶悪な民兵組織の一団に遭遇。
アマンベレ村を襲う民兵組織の描写はぞっとするものでした。
その際、民兵組織による虐殺を草むらから見ていたイエーガーがP50で「南京大虐殺の際に、日本人が中国人を相手にやった手口だ」と胸中で言っていました。
ここでもさらっと「悪い日本」を読者に印象づけるようになっているので、南京大虐殺についていくつか指摘させて頂きます。
南京大虐殺については、中国の主張によると日本軍が非道の限りを尽くし30万人も虐殺したとのことですが、その割に南京市の人口は減るどころか増えています。
また、当時軍人も武器弾薬の数も不足していた日本軍がそんな大虐殺をできたのか甚だ疑問です。
南京大虐殺は元々日本の朝日新聞が突如として記事を書き、そこに中国が乗り朝日新聞とタッグを組んで日本を攻撃し始めました。
しかし2014年9月、元朝日新聞記者で南京大虐殺を大々的に宣伝してきた本多勝一氏が、使用していた写真の捏造を認めました。
朝日新聞は昨年、吉田調書捏造報道、従軍慰安婦捏造報道、ジャーナリストの池上彰さんへの言論封殺事件と不祥事が次々と明るみになり、社長が謝罪会見するまでに追い込まれたので、この本多勝一氏もこのまま捏造を真実と言い張るのは無理があると判断したのではと思います。
よって、南京大虐殺の信憑性についてはかなりの疑問があります。
これを全面的に真実かのように作品の中に潜り込ませるようなやり方は感心しません。
上巻に続き作者の高野和明さんの強い反日左翼思想を感じる一幕でした。
研人は悲観的なところがあり、肺胞上皮細胞硬化症の原因である「変異型GPR769」を活性化させる特効薬を作る作業の際にも、何度も「無理だ、駄目だ」と考えています。
しかし常に前向きな韓国人留学生李正勲(イ・ジョンフン)を見ていて、考えを改めることになります。
何もしないうちから挫折する悪い癖は改めよう。
たしかに何かする時、最初から「無理だ、駄目だ」では成功するはずがないですね。
やってみなくては分からない側面はあります。
下巻ではメルヴィン・ガードナー化学技術担当大統領補佐官や「ハイズマン・レポート」の執筆者で既に研究の第一線からは引退しているジョゼフ・ハイズマン博士にスポットが当たる場面があります。
特にメルヴィン・ガードナーの胆力には驚かされました。
メルヴィン・ガードナーがグレゴリー・S・バーンズ大統領との会話で言った言葉は印象的でした。
「恐ろしいのは知力ではなく、ましてや武力でもない。この世でもっとも恐ろしいのは、それを使う人格なんです」
たしかにすぐに相手を攻撃したがる人や癇癪を起こしやすい人が核ミサイルの発射スイッチを持っていたりしたら大変なことになります。
誰がその武器を扱うかで状況は一変するのだと思います。
追っ手から逃れながら新薬開発を進める研人はパピーという人から指示を受けるのですが、この人物が一体誰なのかが謎です。
上巻では「30分以内に今居る部屋から逃げろ」と研人に電話をかけてきたアメリカ人男性もいましたし、研人の味方となる勢力も存在します。
イエーガー達のコンゴからの脱出作戦も熾烈を極めます。
イエーガー、マイヤーズ、ギャレット、ミキヒコ(ミック)の兵士四人は無事に危機を切り抜けられるのか、それとも誰か死んでしまうのか、ハラハラしながら読んでいきました。
血まみれ将軍(ブラッディ・ジェネラル)率いる少年兵軍団との銃撃戦は凄惨を極めていました。
研人のほうは、不用意に携帯電話を使ったことからCIAに電波を逆探知されて潜伏場所を絞り込まれてしまいます。
あれほど警告されていたのになぜ携帯電話を使う軽率なことをするのかと思いました。
研人にはそういったことを思うことが何度もあります。
世界最大の諜報機関NSA(国家安全保障局)は興味深かったです。
作中では次のように書かれていました。
『世界最大の諜報機関、NSA(国家安全保障局)は、規模があまりに大きいため、メリーランド州の一角に街を形成していた。いかなる地図にも載っていないこの区域には、五十棟を超えるビルが立ち並び、六万人以上の職員や関係者が働いている。彼らの目的は世界中の通信を盗聴し、暗号を解読し、合衆国の国益に利するすべての情報を入手することだった。サイバー戦争を制するためのあらゆる技術開発もNSAの得意分野である。』
ネットで調べてみるとCIA(中央情報局)がヒューミント(HUMINT; human intelligence) と呼ばれるスパイなどの人間を使った諜報活動を担当するのに対し、NSAはシギント(SIGINT; signal intelligence) と呼ばれる電子機器を使った情報収集活動とその分析、集積、報告を担当するとのことです。
こういった組織の名がよく出てくる規模の大きな物語になっていました。
NSAが解析した日本とアフリカでやり取りされていたメッセージは謎めいたものでした。
普段私達が使っている言語が「一次元」で時間軸に沿って一方向に進むのに対し、そこで使われていたのは「三次元の言語」。
平面上に置かれている概念や命題を行ったり来たりして全体のメッセージが完成され、さらに言語にz座標が存在し、言語そのものが階層を持っています。
この意味不明な言語から導き出された答えは驚愕のものでした。
終盤はものすごくスリリングな展開になりました。
コンゴ、そしてアフリカからの脱出を図るイエーガー達の作戦は上手く行くのか。
研人の肺胞上皮細胞硬化症の特効薬開発はジャスティン・イエーガーの命が尽きるまでに間に合うのか。
人類と未知の生物の戦いはどうなってしまうのか。
予断を許さない展開でした。
終盤での研人の亡くなった父、誠治からのメッセージは印象的でした。
失敗のない人生などあり得ないし、その失敗を生かすも殺すも自分次第だということだ。人間は失敗するだけ強くなれる。
これは良い言葉だと思いました。
作中で何度か大量殺戮(ジェノサイド)になる場面が出てきたりして人間の愚かさが露になっていた中で、この言葉は少し救いになりました。
日本、アメリカ、コンゴを舞台にした壮大な物語、とても面白かったです。
物語が進んでいくと読むのが止まらなくなり、11月22日、23日と三連休のうちの二日間で一気に最後まで読みました。
読み終わるとしばらく力が抜けて呆然となる作品でもありました。
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