今回ご紹介するのは「予言村の同窓会」(著:堀川アサコ)です。
-----内容-----
不思議な事が日常的に起こる「こよみ村」。
地元中学の同窓会開催にあたり村役場まで乗り出す大騒ぎに。
転校生・湯木奈央とボーイフレンド・溝江麒麟は大人の恋のさや当てに巻き込まれ、有力者の孫・十文字覚は人知れず重い悩みを抱える。
恋あり、怪談あり、SFあり、ミステリーありの濃密ファンタジー第2弾。
-----感想-----
この作品は
「予言村の転校生」の続編となります。
今作は以下の四話で構成されています。
第一話 恋愛ジャック!
第二話 心霊写真始末記
第三話 B級民俗学同好会
第四話 夕方のシンデレラ
「第一話 恋愛ジャック!」
前作の終わりから二ヶ月ほど経ち秋になった10月初旬、深山閣という高級旅館でこよみ村中学校の同窓会が行われているところから物語は始まります。
前作で湯木奈央の父、育雄とこよみ村村長の座を争った十文字丈太郎が大広間でカラオケを歌っていました。
深山閣は十文字家が経営するリゾート施設で、十文字丈太郎はこよみ村では村長を凌ぐ実力者です。
この同窓会は大友大輝という村役場の解決課の課長が実行委員をしているのですが、大友大輝が並外れた男前であるがゆえに、この場にいる三人の女性の心が掻き乱されていました。
一人目がこよみ村中学校教諭の朝比奈ゆず子。
大友大輝の同級生で、湯木奈央とボーイフレンドの溝江麒麟、そして最近竜胆市の中学校から転校してきた十文字覚(さとる)らの担任の先生です。
二人目が解決課の部下である水野香澄。
朝比奈ゆず子や大友大輝の二年後輩となります。
三人目が水野香澄の同級生の長井風美(ふみ)で、こよみ村を出て竜胆市役所に勤めています。
それともう一人、片倉和夫という男も異彩を放つ存在として同窓会の会場にいます。
片倉和夫は中学校時代から一途に長井風美を想い続けていて、こっそりと長井風美の写真を撮りまくるストーカーじみたところがあります。
同窓会の会場にはこよみ村中学校二年の湯木奈央、溝江麒麟、十文字覚の三人も来ていました。
覚には過換気症候群という過呼吸の発作があるのですが、同窓会の会場で覚が発作を起こし倒れます。
覚は息も絶え絶えに
「あいつが―来た。あいつが―来た。来たんだよ」
と言っていました。
あいつとは誰のことなのか、気になるところでした。
覚が担ぎ出されてすぐ、同窓会の会場で事件が起こります。
大友大輝に想いを寄せる三人の女性のうちの一人が猟銃を携えた仲間とともに会場をジャック。
同窓会の会場を結婚式の会場に見立て、大友との結婚を強行しようとしたのです
猟銃が放たれシャンデリアが砕け散り、ジャックされた会場の中で強制結婚式が執り行われました。
想いが募り犯罪に走ってまで結婚しようとするのは尋常ではないと思いました。
三人の女性の立ち位置は次のようになります。
水野香澄はこよみ村の村役場で大友の部下として働いているのですが、村役場に入ったのは大友先輩が好きで追いかけてきたからです。
長井風美は昔から人のものを欲しがる人で、水野香澄が大友を好きなのを知り、略奪しようとしています。
朝比奈ゆず子は最初水野香澄から大友のことについて相談を受けていたのですが、香澄が大友を大好きなのを見て、自分も大友に恋愛感情を抱くようになりました。
長井風美と同じく略奪的なことになっていて、香澄はドロボウ猫と非難していました。
物語は一度事件から一ヶ月前に戻り、事件までの間にどんなことがあったのかが明かされていきます。
湯木奈央、溝江麒麟、十文字覚の三人が大友と女性三人の痴情のもつれを巡りかなり動き回っていました。
奈央は「生来のおせっかいで好奇心旺盛」と形容されるように気になることにはどんどん関わっていくタイプです。
覚は気弱なところがあり明朗活発なモーレツ人間が苦手なのですが、なぜかその急先鋒である奈央が嫌いではないとありました。
奈央はサイバーオタクでもある片倉和夫に頼んで調査に乗り出します。
長井風美のことが大好きな片倉にとっても、風美が深く関わる今回の問題は一大事でした。
「第二話 心霊写真始末記」
この話では覚が学校を休みがちになっています。
こよみ村中学校同窓会で過呼吸の発作を起こしてからでした。
あの時覚は「あいつが―来た。あいつが―来た。来たんだよ」と言っていて、どうやらその時に見たものが学校を休むことにつながっているようです。
こよみ村は今、空前の幽霊ブームになっています。
心霊写真を撮影しようとするお客たちが村に詰め掛けていました。
騒ぎの震源地は十文字丈太郎が経営する高級旅館・深山閣で、最初の心霊写真が撮られたのは同窓会の頃でした。
半透明の女の顔が映し出されていました
以来、こよみ村ではあちこちでこの女の心霊写真が撮られています。
覚によると心霊写真の女は覚を探しているとのことでした。
夏休み、覚は海で泳いでいて溺れます。
それを女の人が助けてくれたのですが、女の人も溺れてしまいました。
二人はライフガードに助けられるのですが、女の人のほうが症状が重く、救急車で運ばれたとのことです。
覚は女の人が死んでしまい、覚のことを恨んで霊になって探し回っていると奈央と麒麟に打ち明けます。
恨みから覚のこともあの世に連れて行こうとしていると言っていました。
そのため学校にも行かず極力外に出ないようにして家に籠もっていました。
このままでは学校に行けない日々が続くため、奈央と麒麟は心霊写真の女の問題を解決するために動き出します。
奈央には竜胆市に住む小川静花という親友がいるのですが、その静花の兄、京輔(きょうすけ)は竜胆大学のB級民俗学同好会というサークルに所属しています。
B級民俗学同好会は超常現象や幽霊的なものを調べるのが好きで、こよみ村の心霊写真のことも既に知っていました。
同好会からの助言を参考に心霊写真の女に迫ります。
「第三話 B級民俗学同好会」
この話では第二話に少し登場した小川京輔が語り手になります。
B級民俗学同好会の話です。
B級民俗学同好会のメンバーは四人で、部長の岬忠信と小川京輔は二年生、後輩の雨宮さんが一年生、伊藤海渡(かいと)という部室で常に小説を書いている人が三年生です。
京輔は雨宮さんのことが好きです。
しかし雨宮さんは岬忠信のことが好きで、この三人で三角関係になっていました。
『今昔異端書物語』という本に収録されている『うつろ舟の蛮女』なる物語に、うつろ舟という円盤(UFO)が出てきます。
そのうつろ舟がこよみ村の民俗資料館に展示されているということで、伊藤海渡以外の三人はこよみ村を訪ねます。
そして実際にうつろ舟を目の当たりにしますが、展示されているのは模型でした。
ただし模型を寄贈した木ノ内家のおじいさんとおばあさんが出てきてからは思わぬ方向に話が向かっていきました。
「はらやどり」という『うつろ舟の蛮女』の舞台となった地名が出てきたり、その「はらやどり」が木ノ内家の先祖が本物の「うつろ舟」を見つけた場所であることが明らかになったりします。
さらには『うつろ舟の蛮女』そのものなのではという木ノ内時子なる女性も登場しました。
小川京輔も危険な目に遭います。
「予言村」シリーズでは始めて奈央があまり登場しない話になっていました。
「第四話 夕方のシンデレラ」
この話ではB級民俗学同好会に所属しているものの超常現象を調べることには参加せず、部室でひたすら小説を書いている伊藤海渡が語り手となります。
冒頭、海渡は小学校からの友達でアングラ芝居の役者をやっているタミオ、そしてB級民俗学同好会の後輩、小川京輔の三人で居酒屋にいました。
超常現象を調べる活動には参加しませんが飲み会は好きでよく参加しています。
飲み会の帰り道、海渡は公園で謎の女に遭遇します。
海渡はこの女の美しさに呆気に取られることになりました。
この女は駅のホームで再び見かけ、さらにビル清掃のバイト先でも見かけます。
女はビルの会議室で、夫の白戸氏が浮気をしているのでは、それで出張先から帰ってこず行方をくらましたのではと夫の会社の人に相談していました。
やがて女は白戸真夏(まなつ)という名前だと明らかになります。
ある日、海渡の部屋の前に不審な男がいました。
その男が去ってから部屋を開けると、部屋には母が来ていて海渡は二連続で驚くことになりました。
海渡は母のことが嫌いです。
さらに公園では謎の老人が海渡に話しかけてきて、アルバイトをしないかと持ちかけてきました。
海渡の周りで色々なことが次々起こります。
老人は坂田といい、病気によりもうすぐ死んでしまうので見舞いと遺品整理、墓参りをしてほしいと頼んできました。
それがアルバイトの内容です。
非常に怪しいのですが、海渡はこのバイトを引き受けることにします。
やがて坂田氏の謎、白戸真夏の謎、それぞれ明らかになります。
この話では奈央が全く登場しませんでした。
ただ話の面白さはかなりのもので、特に終盤で明らかになった謎には驚かされました。
続編も出そうなので、このシリーズが今後どんな展開を見せていくのか楽しみにしています
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