今回ご紹介するのは「校閲ガール」(著:宮木あや子)です。
-----内容-----
憧れのファッション誌の編集者を夢見て出版社に就職した河野悦子。
しかし「名前がそれっぽい」という理由で(!?)、配属されたのは校閲部だった。
校閲の仕事とは、原稿に誤りがないか確かめること。
入社して2年目、苦手な文芸書の仕事に向かい合う日々だ。
そして悦子が担当の原稿や周囲ではたびたび、ちょっとしたトラブルが巻き起こり……!?
読んでスッキリ元気になる!
最強のワーキングガールズエンタメ。
-----感想-----
初めて書店の文庫本コーナーでこの小説を見かけた時、タイトルの「校閲ガール」が気にかかりました。
「書店ガール」「水族館ガール」など、近頃「⚪⚪ガール」というタイトルの小説をよく目にするようになったなと思います。
何となくマンネリを感じ、その時はこの小説は手に取りませんでした。
しかしこの10月からテレビドラマ化されたようで、書店で目立つ場所に置かれているのを再び目にし、ついに読んでみることにしました。
物語は次のように構成されています。
第一話 校閲ガール!?
第二話 校閲ガールと編集ウーマン
第三話 校閲ガールとファッショニスタとアフロ
第四話 校閲ガールとワイシャツとうなぎ
第五話 校閲ガール~ロシアと湯葉とその他のうなぎ
エピローグ 愛して校閲ガール
語り手は河野悦子。
景凡社という出版社に勤めていて二年目です。
景凡社は紀尾井町に本社ビルを持つ週刊誌と女性ファッション雑誌が主力の総合出版社とありました。
本人はファッション誌の編集者を熱望していたのですが、校閲(こうえつ)の「こう」と「えつ」が名前に入っていてそれっぽいということで校閲部に配属されました。
第一話で悦子は文芸のミステリーの校閲をしていました。
その著者の本郷大作は校閲担当に悦子を指名してきました。
通常、校閲者は作家と直接のやりとりを行わないし名前も出ないとのことで、悦子はなぜ本郷が「前回の校閲と同じ人で」と自身を指名してきたのか気にしていました。
悦子の隣の席には米岡という28歳のおねえ言葉の先輩がいます。
しかし悦子はため口で話していて、一瞬同期か後輩なのかと思ったくらいでした。
さらに本郷大作を担当する編集者で二年先輩の貝塚とは物凄い罵り合いを展開します。
しかも二人の罵り合いは大抵悦子が優勢で、マシンガンのように飛び出す罵倒の言葉の数々は読んでいて笑ってしまいます。
実は悦子は早く校閲部から離れて女性誌に異動したいので、校閲部に気に入られないために演技して口の悪いふりをしているらしく、米岡以外は全員騙されてくれているとのことです。
誰に対してもタメ口をきき、校閲部の部長に対しても心の中で「エリンギ」と呼び(髪型が似ているため)普通にため口をきく様子はもはや正真正銘の口の悪い人のようにも見えます。
ちなみに本郷大作の作品を校閲していたら電車での移動時間がなぜか全て実際よりも二時間長くなっていることに悦子は気付きます。
なぜずれているのかの謎に迫っていく、ちょっとしたミステリーにもなっていました。
第二話の「校閲ガールと編集ウーマン」では最初、今井という受付嬢が登場。
悦子は昼休みによく受付ロビーに行き棚に置いてある女性ファッション誌を読んでいて、同じく受付ロビーにいる今井が興味を持って話しかけてくるようです。
今井は短大卒の縁故入社で、悦子より入社が一年早いとありました。
専務の縁故とのことで、やはり重役の身内となるとそういうこともあるのだなと思います。
今井と悦子が話していると藤岩という悦子と同期の女性編集者が通りかかります。
悦子の描写によると「ひっつめ髪に眼鏡、踵の磨り減った三センチヒールのパンプスを履いたスーツ姿、入社二年目の悦子の同期だが、齢38くらいに見える」とありました。
藤岩は悦子を敵視しているようで、よく因縁をつけてきて口論になります。
「あなたみたいな人、文学に関わってほしくない」
「私だって関りたくて関ってんじゃないし。ほっとけよ」
「恥知らず、校閲のくせに何よその爪、チャラチャラしちゃって」
「どっちがよ。景凡社の社員のくせになんなのその服、貧乏くさい」
やがてもう一人の女子同期入社で「C.C」という女性ファッション誌の編集をしている森尾により、なぜ藤岩に目の敵にされているかが明らかになります。
森尾も悦子と同じく目の敵にされています。
ちなみに藤岩は最初から文芸編集者になりたくて文芸最大手の燐朝社と冬虫夏草社を受けたりもしたとありました。
この二社は新潮社と文藝春秋社がモデルだろうなと思いました。
そうなると景凡社は名前の響きから講談社がモデルなのかなと思いました。
文藝春秋社の春と秋を夏と冬に変えたパロディのセンスが良かったです。
第二話で悦子は是永是之(これながこれゆき)という変わったペンネームの作家の校閲をします。
今井がこの名前を読んだ時に読み方が分からずそのままの読み方をしていたのが面白かったです。
そして悦子は是永に恋をしてしまいます。
第三話では冒頭から貝塚と悦子の激しい罵り合いになっていたのが印象的でした。
「俺はおまえと違って先生たちの接待つづきで忙しいんだよ!毎日二日酔いだし!」
「知るかボケ!こっちは毎日コンビニ飯食って細々と生きてんだよ!」
「それこそ知ったこっちゃねえよ、おまえは服ばっか買ってるから貧乏なだけだろうが!」
「オシャレは私の生きがいなんですー」
「校閲のくせになー、ファッション誌でもないのになー、あー可哀想でちゅねー」
「うるせえマジ往生しろ荼毘に付されろこの野郎!そんで解脱(げだつ)できずに三悪道(さんなくどう)ばっかし永遠に輪廻するがいいわこの下品下生(げぼんげしょう)が!」
しかし悦子は物凄く口が悪いなと思います。
そして校閲で難しい言葉と向き合うことが多い影響か、一般の人が普段あまり使わない言葉を次々使っているのも面白かったです。
二人の罵り合いは「校閲ガール」のお約束だなと思います。
悦子はついに是永と話すことに成功します。
そしてその正体がモデルであることを知り、益々胸を高鳴らせるのでした。
モデルとしての名前は幸人(ゆきと)です。
そんな悦子でしたが、「Lassy」という女性ファッション誌で8年前から連載され、自身も高校時代から欠かさず読んでいたフロイライン登紀子という人のエッセイを巡る校閲で失敗をしてしまい、第四話では一時的に文芸の校閲から外され雑誌校閲に行くことになります。
校閲とはいえファッション誌に近付けるので本当は喜びたいところですが、失敗による異動なので喜べずにいました。
気分がふさぎ気味ではあったものの、間もなくバレンタインデーということで是永にチョコを渡したい悦子は気持ちを高まらせていきます。
第四話では編集部が本郷大作と連絡が取れなくなるという事件が起こります。
貝塚も大慌てで何か手がかりはないか悦子のところに来たりしていました。
そして悦子はその本郷から電話が来て、「あなたの不倫相手達に会いに行く」という書き置きを残して失踪した妻、亮子を探すのを手伝うように頼まれます。
悦子は嫌がりますが一緒に電話を聞いていた加奈子という、悦子の二歳下で短大卒業後は不動産の仕事と悦子の住む家の一階でたい焼き屋の仕事をしている人が乗り気になります。
本郷が潜伏している東京の銀座近くにあるインペリアルホテルの名を聞いて、そこのタルトタタンが美味しいらしいねと言っていたところ、それを聞いた本郷が「食べさせてやる」と言ったため食べ物に釣られる形で乗り気になってしまいました。
乗り気ではなかった悦子のほうも「手伝ってくれたら、女性誌に口を利いてやってもいいぞ。『Lassy』と付き合いはないが、『Every』になら知り合いの編集者がいる」と言われ、
「いやだもう、そういうことは早く言ってくださらなきゃ困りますね先生」
と態度を豹変させて乗り気になっていました。
悦子の変わりぶりが面白かったです。
第五話も本郷の妻、亮子を探すのが続いていきました。
悦子は亮子が残した書き置きに誤字がいくつもあったことに注目し、実はその誤字に意味があるのではと考えます。
再び少しミステリーな展開になりました。
そしてどうなるのか気になっていた是永への恋にも少し進展がありました。
「ガール」というタイトルにマンネリを感じながら読み始めましたが、読んでみると予想以上に面白かったです。
悦子の強烈なキャラクターが織り成す物語は随所に笑える要素がありテンポよくすらすら読めてそれでいて物語構成もしっかりしています。
続編が三巻まで出ているようなのでいずれそちらも読んでみたいと思います。
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