今回ご紹介するのは「まほろ駅前狂騒曲」(著:三浦しをん)です。
-----内容-----
まほろ駅前で起きる、混沌と狂乱の大騒ぎ!
まほろ市で便利屋稼業を営む多田と行天。
ある日多田は行天の元妻から子供を無理やり預けられて困惑する。
待望のシリーズ第三弾。
-----感想-----
※「まほろ駅前多田便利軒」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「まほろ駅前多田便利軒」-再読-のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「まほろ駅前番外地」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
まほろ駅前多田便利軒のシリーズ第三弾、以前から気になっていました。
私の好きな作家である三浦しをんさんの本でもあります。
だいぶ厚い本だったのでいつ読むかタイミングを考えていました。
先日書店に行ったら「10.18 全国ロードショー! 映画『まほろ駅前狂騒曲』 主演:瑛太×松田龍平」と帯にあり、来月映画が公開されることを知りました。
そこで気分も盛り上がってきて、ついにこの作品を読んでみることにしました
東京都の南西部に位置するまほろ市は、人口三十万人を擁する一大ベッドタウンです。
JR八王子線と私鉄箱根急行線(通称ハコキュー)が交差するまほろ駅前は、複数のデパートが林立し、商店街にも活気があります。
ハコキューで新宿まで30分なので、若いサラリーマン家庭向けの大型マンションも建設ラッシュです。
今作も冒頭でまほろ市の説明がされていました。
まほろ市は、東京都町田市をモデルにしています。
町田市は東京都南西部最大の都市として栄えています。
JR八王子線はJR横浜線をモデルにし、私鉄箱根急行線(通称ハコキュー)は小田急小田原線(通称オダキュー)をモデルにしています。
そして二つの路線が交差する町田駅前は、複数のデパートが林立し、商店街にも活気があり、まさにまほろ市のモデルであることが分かります。
多田啓介がまほろ市で始めた便利屋稼業は、低空飛行ながらも何とか収益を上げ、地道かつ堅実な商いで信頼を得て続けることができています。
そして多くの人が、忙しい日常の中でちょっとした雑事をこなすとき、だれかの手を借りられればなと思ったりする。
重い箪笥の後ろに年金手帳を落としてしまったとき、庭掃除をしなければならないのに気乗りしないとき、スーパーへ買い物に行きたいのにぎっくり腰になってしまったとき。
そこで登場するのが、多田便利軒だ。
色々な立場や事情の人々が住んでいるおかげで、多田はまほろ市で便利屋として暮らしていけるのだった。
多田便利軒にはもう一人、行天(ぎょうてん)春彦という男がいます。
多田とは都立まほろ高校時代の同級生で、多田の事務所兼自宅に居候しています。
行天が事務所に転がり込んだのは二年前のお正月で、そのまま居座って今に至っています。
今回の物語の冒頭もお正月なので、行天の居候は三年目に突入というわけです。
今作でも行天は相変わらずハチャメチャな発言や行動をたくさんしていました。
事務所にルルとハイシーがやってきてみんなでお正月を楽しんでいたところ、山城町の岡老人から電話がかかってきて今作の便利屋稼業が幕を開けます。
岡老人のところに向かう途中、まほろ駅前にあるバスターミナルへ向かうために南口ロータリーを突っ切った時、幟を立てた団体に遭遇しました。
幟には「家庭と健康食品協会~Home & Healthy Food Association~」と書かれていました。
通称「HHFA」と言い、無農薬野菜を栽培して販売している団体です。
物語の終盤まで関わってくることになる団体です。
行天には小さな子どもと接するのを嫌がるという性質があります。
多田はその理由が行天自身の子ども時代にあるらしいことを察していて、今回この謎が明らかになるかも知れないと思いました。
岡老人には横浜中央交通のバスの間引き運転を監視する習性があります。
「横中バスめ、今年も絶賛間引き運転実施中だ」
岡老人はさっそく気炎を上げていました。
そして多田便利軒によくバスの運行状況を監視するように依頼してきて、多田と行天はこの退屈すぎる依頼に辟易しています。
ちなみに何度監視してもバスは時間通りに運行されていて、未だに多田と行天が間引き運転を目の当たりにしたことはありません。
しかし今回、岡老人は今までのような監視だけでなく、何か別の方法を企んでいるようでした。
多田はそこに嫌な予感を覚えます。
便利屋稼業で大切なのは、地雷をなるべく避けることだ。
便利屋は、他人の家に入り込んで仕事をする。必然的に、依頼主やその家庭の、個人的な事情が垣間見えてしまうことが多い。
多田はそこには立ち入らないように気をつけています。
岡が何を画策していようが、顧客の事情に首を突っ込まないのが便利屋のたしなみというわけです。
季節が春になります
まほろ街道沿いにある「キッチンまほろ」は、地元発祥の洋食チェーン店。
大手のファミリーレストランほど画一的でも機能的でもないが、店内はいつも明るく清潔で、料理もなかなか美味しい。
まほろ市民にとって、「家族で外食」といえば、まっさきに浮かぶのが「キッチンまほろ」だとありました。
これもきっとモデルの店があるのだろうなと思い、どんなお店がモデルなのか気になりました。
多田は「キッチンまほろ」によく行っています。
柏木亜沙子は「キッチンまほろ」グループの社長。
多田は亜沙子に恋心を抱いていて、亜沙子に会えるかもという思いがあって「キッチンまほろ」によく来ています。
曽根田菊子、通称曽根田のばあちゃん。
曽根田のばあちゃんは高齢のため、以前からまほろ市民病院に入院しています。
多田はばあちゃんの息子から依頼を受け、見舞いの代行をしています。
曽根田のばあちゃんはたまに予言じみた物言いをすることがあります。
多田が依頼を受けてばあちゃんの見舞いに行った際にも予言のような発言がありました。
「便利屋さんは今年、なんだか騒ぎに巻きこまれそうだから」
タイトルに「狂騒曲」と付くだけに、今回は騒がしい展開になるんだろうなと思いました。
三峯凪子は行天の元妻です。
凪子は自身が海外出張になる一ヶ月半の間、娘のはるを預かってほしいと頼んできます。
しかし行天は大の子ども嫌いであるため、多田は困ってしまいます。
凪子のほうは行天に対し、この機会に行天の娘でもあるはると交流を持ってほしいと願っているようでした。
星良一はヤクザまがいの、自称「多少スネに傷を持つ一般市民」。
星のところにもHHFAの名が知れ渡ってきていました。
HHFAはヤクザに接触しています。
学校給食用に野菜を卸したいと考えていて、そのためにまほろ市をシマにしている岡山組を利用しようとしています。
沢村というHHFAの幹部の男がなかなかのやり手で、南口ロータリーに立つHHFAを追い払おうとした若頭を相手に一歩も引かず、いつの間にか仲良くなってしまいました。
「コーヒーの神殿 アポロン」はまほろ大通りに古くからある喫茶店。
これもモデルになっている喫茶店があるのかなと気になりました。
今作に何度か出てくるお店です。
やがて星が多田便利軒に依頼をしてきます。
HHFAは無農薬栽培の野菜を売っているのですが、実際には農薬を使っています。
星はHHFAが農薬を撒いている証拠の写真を撮るように依頼してきました。
「キッチンまほろ」の柏木亜沙子社長もHHFAに困っています。
HHFAの野菜販売車が『ご家庭で手作りした料理を』とスピーカーで流しながら「キッチンまほろ」のような外食のお店の周りを走るため、一種の営業妨害になっています。
さらに外食のお店に対し、HHFAの野菜を使ってくれとしきりに営業もしてきています。
「ここだけの話……HHFAって、なんだか胡散臭くないですか?」
「ここだけの話ですが、俺もそう思います」
やはり今作は謎の野菜売り団体HHFAとの攻防が繰り広げられることになるようです。
季節が夏になります
凪子の娘、はるが事務所にやってきます。
三峯はるは4歳。
はるを一ヵ月半ほど預かることを行天には言わずにおいたため、この事態に行天は激怒します。
しかし何だかんだでしばらくはると暮らすことを受け入れたようでした。
「タダサン、あのひと……」
「行天だ」
「ギョーテンって、おかしいねえ」
この多田とはるの会話は面白かったです。
4歳時の率直な言葉が、多田便利軒に普段とは違う会話を生み出します。
はるが居る間は、はるも仕事場に連れていっていました。
山城町の岡老人の家に行ってみると、岡達は横中バスに対して決起しようと集会を開いていました。
「もちろんだ!」
「断固抗議すべし!」
「我々の要求を通すべく、いまこそ行動あるのみ!」
老人達の秘密会合は何やら不穏な気配を漂わせていました。
田村由良も登場。
由良は小学六年生になりました。
中学受験をする由良は塾の夏期講習に行っていて、六年生の夏休みは「天下分け目の戦い」と言われているとのことです。
そして同級生の松原裕弥の悩みについて、多田と行天に相談してきます。
裕弥は塾に行く傍ら親によって無理やり農作業をやらされていて、ここにもHHFAが関わっています。
「どんな背後霊救出作戦を考えてんの?」
「背後霊とか言うな。傷つきやすい年ごろなんだから」
「大丈夫大丈夫。それで行くと、俺は地縛霊だから」
行天はふんぞり返って言った。「多田便利軒に取り憑いている」
頼むから成仏してくれ。多田はため息のかわりにウィスキーを飲み下す。
多田と行天の掛け合いが面白かったです。
背後霊というのは松原裕弥のことで、親によって無理やり農作業させられている裕弥を助け出すことになったのでした。
行天は他人に興味がないようでいて、実はなんでもお見通しだ。
たしかに行天はハチャメチャなことばかりしていて相手のことなど何も考えていないように見えますが、実は注意深く見ています。
やがて物語は怒涛の後半へ。
「便利屋の助手、よく聞け。我々の目的地は、横浜駅前にある横浜中央交通本社だ!」
「もしかしてこれ、バスツアーじゃなくバスジャック?」
まさかの展開が待っていました。
そしてバスジャックだから緊迫した展開のはずなのに、展開が面白すぎて終始笑ってしまいました。
さらにバスジャックが起きたのに続き、星も登場。
まさに狂騒曲のような展開になっていきます。
またしてもHHFAの名前が出てきて、どうやらまほろ駅の南口ロータリーで大規模な集会をするとのことです。
星から多田への依頼は、この集会を邪魔しろというもの。
すべてはまほろ駅前の南口ロータリーに。
HHFA、バスジャック軍団、そして多田たちが大集結。
小説タイトルどおり、狂騒曲のような大混乱の展開が待っていました。
シリーズ一作目であった多田の「行天ー!」という台詞を、また見ることになるとは思いませんでした。
この作品のイラストは下村富美さんという方なのですが、渋くて格好良いイラストなので、作品世界がハードボイルドに見えます
ただ行天がだいぶハチャメチャなキャラなので、ハードボイルドさはだいぶ崩れています。
それでも多田は雰囲気的にハードボイルドなところがあり、行天も何だかんだで時折格好良いところを見せるので、やはりハードボイルドさのあるコンビだと思います。
作品の語りにもどことなくそんな雰囲気があります。
クライマックスに登場した
多田の手のなかで、風鈴はちりちりとかそけき音を立てた(かそけきとは、今にも消えてしまいそうなほど淡いという意味)。
という表現などはまさにこの作品世界の雰囲気に合っていると思いました。
それでいてかなり笑わせてもくれるのだから素晴らしい作品だと思います。
もしまた続編が出るようならぜひ読んでみたいです
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-----内容-----
まほろ駅前で起きる、混沌と狂乱の大騒ぎ!
まほろ市で便利屋稼業を営む多田と行天。
ある日多田は行天の元妻から子供を無理やり預けられて困惑する。
待望のシリーズ第三弾。
-----感想-----
※「まほろ駅前多田便利軒」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「まほろ駅前多田便利軒」-再読-のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「まほろ駅前番外地」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
まほろ駅前多田便利軒のシリーズ第三弾、以前から気になっていました。
私の好きな作家である三浦しをんさんの本でもあります。
だいぶ厚い本だったのでいつ読むかタイミングを考えていました。
先日書店に行ったら「10.18 全国ロードショー! 映画『まほろ駅前狂騒曲』 主演:瑛太×松田龍平」と帯にあり、来月映画が公開されることを知りました。
そこで気分も盛り上がってきて、ついにこの作品を読んでみることにしました
東京都の南西部に位置するまほろ市は、人口三十万人を擁する一大ベッドタウンです。
JR八王子線と私鉄箱根急行線(通称ハコキュー)が交差するまほろ駅前は、複数のデパートが林立し、商店街にも活気があります。
ハコキューで新宿まで30分なので、若いサラリーマン家庭向けの大型マンションも建設ラッシュです。
今作も冒頭でまほろ市の説明がされていました。
まほろ市は、東京都町田市をモデルにしています。
町田市は東京都南西部最大の都市として栄えています。
JR八王子線はJR横浜線をモデルにし、私鉄箱根急行線(通称ハコキュー)は小田急小田原線(通称オダキュー)をモデルにしています。
そして二つの路線が交差する町田駅前は、複数のデパートが林立し、商店街にも活気があり、まさにまほろ市のモデルであることが分かります。
多田啓介がまほろ市で始めた便利屋稼業は、低空飛行ながらも何とか収益を上げ、地道かつ堅実な商いで信頼を得て続けることができています。
そして多くの人が、忙しい日常の中でちょっとした雑事をこなすとき、だれかの手を借りられればなと思ったりする。
重い箪笥の後ろに年金手帳を落としてしまったとき、庭掃除をしなければならないのに気乗りしないとき、スーパーへ買い物に行きたいのにぎっくり腰になってしまったとき。
そこで登場するのが、多田便利軒だ。
色々な立場や事情の人々が住んでいるおかげで、多田はまほろ市で便利屋として暮らしていけるのだった。
多田便利軒にはもう一人、行天(ぎょうてん)春彦という男がいます。
多田とは都立まほろ高校時代の同級生で、多田の事務所兼自宅に居候しています。
行天が事務所に転がり込んだのは二年前のお正月で、そのまま居座って今に至っています。
今回の物語の冒頭もお正月なので、行天の居候は三年目に突入というわけです。
今作でも行天は相変わらずハチャメチャな発言や行動をたくさんしていました。
事務所にルルとハイシーがやってきてみんなでお正月を楽しんでいたところ、山城町の岡老人から電話がかかってきて今作の便利屋稼業が幕を開けます。
岡老人のところに向かう途中、まほろ駅前にあるバスターミナルへ向かうために南口ロータリーを突っ切った時、幟を立てた団体に遭遇しました。
幟には「家庭と健康食品協会~Home & Healthy Food Association~」と書かれていました。
通称「HHFA」と言い、無農薬野菜を栽培して販売している団体です。
物語の終盤まで関わってくることになる団体です。
行天には小さな子どもと接するのを嫌がるという性質があります。
多田はその理由が行天自身の子ども時代にあるらしいことを察していて、今回この謎が明らかになるかも知れないと思いました。
岡老人には横浜中央交通のバスの間引き運転を監視する習性があります。
「横中バスめ、今年も絶賛間引き運転実施中だ」
岡老人はさっそく気炎を上げていました。
そして多田便利軒によくバスの運行状況を監視するように依頼してきて、多田と行天はこの退屈すぎる依頼に辟易しています。
ちなみに何度監視してもバスは時間通りに運行されていて、未だに多田と行天が間引き運転を目の当たりにしたことはありません。
しかし今回、岡老人は今までのような監視だけでなく、何か別の方法を企んでいるようでした。
多田はそこに嫌な予感を覚えます。
便利屋稼業で大切なのは、地雷をなるべく避けることだ。
便利屋は、他人の家に入り込んで仕事をする。必然的に、依頼主やその家庭の、個人的な事情が垣間見えてしまうことが多い。
多田はそこには立ち入らないように気をつけています。
岡が何を画策していようが、顧客の事情に首を突っ込まないのが便利屋のたしなみというわけです。
季節が春になります
まほろ街道沿いにある「キッチンまほろ」は、地元発祥の洋食チェーン店。
大手のファミリーレストランほど画一的でも機能的でもないが、店内はいつも明るく清潔で、料理もなかなか美味しい。
まほろ市民にとって、「家族で外食」といえば、まっさきに浮かぶのが「キッチンまほろ」だとありました。
これもきっとモデルの店があるのだろうなと思い、どんなお店がモデルなのか気になりました。
多田は「キッチンまほろ」によく行っています。
柏木亜沙子は「キッチンまほろ」グループの社長。
多田は亜沙子に恋心を抱いていて、亜沙子に会えるかもという思いがあって「キッチンまほろ」によく来ています。
曽根田菊子、通称曽根田のばあちゃん。
曽根田のばあちゃんは高齢のため、以前からまほろ市民病院に入院しています。
多田はばあちゃんの息子から依頼を受け、見舞いの代行をしています。
曽根田のばあちゃんはたまに予言じみた物言いをすることがあります。
多田が依頼を受けてばあちゃんの見舞いに行った際にも予言のような発言がありました。
「便利屋さんは今年、なんだか騒ぎに巻きこまれそうだから」
タイトルに「狂騒曲」と付くだけに、今回は騒がしい展開になるんだろうなと思いました。
三峯凪子は行天の元妻です。
凪子は自身が海外出張になる一ヶ月半の間、娘のはるを預かってほしいと頼んできます。
しかし行天は大の子ども嫌いであるため、多田は困ってしまいます。
凪子のほうは行天に対し、この機会に行天の娘でもあるはると交流を持ってほしいと願っているようでした。
星良一はヤクザまがいの、自称「多少スネに傷を持つ一般市民」。
星のところにもHHFAの名が知れ渡ってきていました。
HHFAはヤクザに接触しています。
学校給食用に野菜を卸したいと考えていて、そのためにまほろ市をシマにしている岡山組を利用しようとしています。
沢村というHHFAの幹部の男がなかなかのやり手で、南口ロータリーに立つHHFAを追い払おうとした若頭を相手に一歩も引かず、いつの間にか仲良くなってしまいました。
「コーヒーの神殿 アポロン」はまほろ大通りに古くからある喫茶店。
これもモデルになっている喫茶店があるのかなと気になりました。
今作に何度か出てくるお店です。
やがて星が多田便利軒に依頼をしてきます。
HHFAは無農薬栽培の野菜を売っているのですが、実際には農薬を使っています。
星はHHFAが農薬を撒いている証拠の写真を撮るように依頼してきました。
「キッチンまほろ」の柏木亜沙子社長もHHFAに困っています。
HHFAの野菜販売車が『ご家庭で手作りした料理を』とスピーカーで流しながら「キッチンまほろ」のような外食のお店の周りを走るため、一種の営業妨害になっています。
さらに外食のお店に対し、HHFAの野菜を使ってくれとしきりに営業もしてきています。
「ここだけの話……HHFAって、なんだか胡散臭くないですか?」
「ここだけの話ですが、俺もそう思います」
やはり今作は謎の野菜売り団体HHFAとの攻防が繰り広げられることになるようです。
季節が夏になります
凪子の娘、はるが事務所にやってきます。
三峯はるは4歳。
はるを一ヵ月半ほど預かることを行天には言わずにおいたため、この事態に行天は激怒します。
しかし何だかんだでしばらくはると暮らすことを受け入れたようでした。
「タダサン、あのひと……」
「行天だ」
「ギョーテンって、おかしいねえ」
この多田とはるの会話は面白かったです。
4歳時の率直な言葉が、多田便利軒に普段とは違う会話を生み出します。
はるが居る間は、はるも仕事場に連れていっていました。
山城町の岡老人の家に行ってみると、岡達は横中バスに対して決起しようと集会を開いていました。
「もちろんだ!」
「断固抗議すべし!」
「我々の要求を通すべく、いまこそ行動あるのみ!」
老人達の秘密会合は何やら不穏な気配を漂わせていました。
田村由良も登場。
由良は小学六年生になりました。
中学受験をする由良は塾の夏期講習に行っていて、六年生の夏休みは「天下分け目の戦い」と言われているとのことです。
そして同級生の松原裕弥の悩みについて、多田と行天に相談してきます。
裕弥は塾に行く傍ら親によって無理やり農作業をやらされていて、ここにもHHFAが関わっています。
「どんな背後霊救出作戦を考えてんの?」
「背後霊とか言うな。傷つきやすい年ごろなんだから」
「大丈夫大丈夫。それで行くと、俺は地縛霊だから」
行天はふんぞり返って言った。「多田便利軒に取り憑いている」
頼むから成仏してくれ。多田はため息のかわりにウィスキーを飲み下す。
多田と行天の掛け合いが面白かったです。
背後霊というのは松原裕弥のことで、親によって無理やり農作業させられている裕弥を助け出すことになったのでした。
行天は他人に興味がないようでいて、実はなんでもお見通しだ。
たしかに行天はハチャメチャなことばかりしていて相手のことなど何も考えていないように見えますが、実は注意深く見ています。
やがて物語は怒涛の後半へ。
「便利屋の助手、よく聞け。我々の目的地は、横浜駅前にある横浜中央交通本社だ!」
「もしかしてこれ、バスツアーじゃなくバスジャック?」
まさかの展開が待っていました。
そしてバスジャックだから緊迫した展開のはずなのに、展開が面白すぎて終始笑ってしまいました。
さらにバスジャックが起きたのに続き、星も登場。
まさに狂騒曲のような展開になっていきます。
またしてもHHFAの名前が出てきて、どうやらまほろ駅の南口ロータリーで大規模な集会をするとのことです。
星から多田への依頼は、この集会を邪魔しろというもの。
すべてはまほろ駅前の南口ロータリーに。
HHFA、バスジャック軍団、そして多田たちが大集結。
小説タイトルどおり、狂騒曲のような大混乱の展開が待っていました。
シリーズ一作目であった多田の「行天ー!」という台詞を、また見ることになるとは思いませんでした。
この作品のイラストは下村富美さんという方なのですが、渋くて格好良いイラストなので、作品世界がハードボイルドに見えます
ただ行天がだいぶハチャメチャなキャラなので、ハードボイルドさはだいぶ崩れています。
それでも多田は雰囲気的にハードボイルドなところがあり、行天も何だかんだで時折格好良いところを見せるので、やはりハードボイルドさのあるコンビだと思います。
作品の語りにもどことなくそんな雰囲気があります。
クライマックスに登場した
多田の手のなかで、風鈴はちりちりとかそけき音を立てた(かそけきとは、今にも消えてしまいそうなほど淡いという意味)。
という表現などはまさにこの作品世界の雰囲気に合っていると思いました。
それでいてかなり笑わせてもくれるのだから素晴らしい作品だと思います。
もしまた続編が出るようならぜひ読んでみたいです
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