(チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲演奏後、観客の拍手に応える木村紗綾さん(写真中央))
昨年の2月27日、広島県広島市のJMSアステールプラザ大ホールで行われた「新進演奏家育成プロジェクト オーケストラ・シリーズ 第54回広島」を聴きに行きました。
当時新型コロナウイルスの混乱で何もかもが自粛になる前に聴くことが出来た、最後から2番目のコンサートでした(最後はエリザベト音楽大学2019年度卒業演奏会)。
文化庁の事業として行われる「新進演奏家の発掘及び育成」を目的とした演奏会で、出演者はプロのオーケストラ(広島地区では広島交響楽団)と共演します。
この演奏会に何度も演奏を聴いたことのある広島出身のヴァイオリニスト木村紗綾さんが出演されるということで、ぜひ聴きに行こうと思い足を運びました
広島交響楽団コンサートミストレス(オーケストラのまとめ役)の蔵川瑠美さんによるチューニング(音合わせ)。
演奏会では演奏の前に必ず行われます。
1.イベール:アルト・サクソフォンと11の楽器のための室内小協奏曲
(サクソフォンソリスト(ソロ演奏者)の井出崎優さん)
一楽章
アルトサクソフォンで演奏しました。
オーケストラのやや緊迫した速い演奏で始まり、サクソフォンは陽気な雰囲気で入って行きました。
陽気なサクソフォンの演奏をオーケストラがかなりの高音で支える場面があり、ヴァイオリンが目立っていました。
サクソフォンはずっとスピードが速く、そのスピードが作り出す世界観に聴き入っているうちにあっという間に時間が過ぎて行きました。
二楽章
サクソフォンのゆっくりとしたミステリアスな独奏で始まります。
オーケストラも始まり、こちらもゆっくりとした不気味な音色でした。
曲調が変わり、サクソフォンがスピードを上げて明るくなります。
そこからサクソフォンの独奏になりしばらく続きました。
最後は全体での明るい演奏になり、サクソフォンの物凄いスピードが印象的でした
2.チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 二長調 作品35
(ヴァイオリンソリストの木村紗綾さん)
一楽章
第一楽章を聴いたことはありましたが第三楽章までのフル演奏を聴くのはこの日が初めてでした。
冒頭、小さい音で始まったオーケストラの迫力がどんどん上がって行きました。
ソリストはややゆったりとした入り方で、雄大さを感じる音色が良かったです
ソリストとオーケストラの掛け合い、オーケストラの大迫力の演奏を経てソリストの独奏になります。
他に何の音もない中、少しミステリアスさのある独奏は印象的で、静寂の雰囲気を味方につけた印象もあり良い演奏だと思いました。
また一楽章最後のスピードがこれまでに聴いたことがないほど速いのも印象的で、同じ曲でも演奏する人によって解釈が全く違うのはクラシック曲の面白さだと思います。
(演奏の全景。楽器の演奏者にとって、ソリストで登場してオーケストラと一緒に協奏曲を演奏するのは一つの夢ではと思います)
二楽章
管楽器のゆったりとした雄大な音色で始まりました。
ソリストはもの悲しげに始まります。
やがて全体がゆったりとした、そして綺麗な音色になりました。
(演奏ではタイミングが特に重要になる場面もあり、写真のようにソリストと指揮者で演奏中に上手く息を合わせないといけないです)
三楽章
一気に力強い曲調に変わります。
ソリストの独奏になり、ピッチカート(弦を指でポロンポロンと弾く演奏)の力強さが特に印象的でした。
全体がピッチカートでソリストを支えます。
ソリストとオーケストラの掛け合いがあり、優雅で綺麗でした。
オーボエ、クラリネット、フルート、ファゴットの順に同じメロディを演奏し、それを引き取る形で最後にソリストが同じメロディを演奏する場面がかなり良かったです
最後は力強く凄い盛り上がりになりました。
木村紗綾さんは全体的に音の「切れ」がズバッと切れ味鋭くて良いと思いました
(演奏終了時はそれまでの緊張感から解き放たれた雰囲気になります)
3.ベッリーニ:歌劇「夢遊病の女」より”気も晴ればれと”
(ソプラノソリストの高橋梢さん)
第一部
二部構成に分けた歌唱になっていました。
凄く高い声でよく響き、明るい歌声でした
オーケストラも陽気になります。
第二部
こちらも明るい歌声でした。
オーケストラは穏やかで明るい雰囲気もありました。
オーケストラだけになる場面があり、凄く明るかったです。
ソプラノも入り、やがて独唱になりました。
タイトルに「気も晴ればれと」とあるように、終始明るい雰囲気なのが印象的で良いと思いました
(歌唱終了後、観客に礼をする高橋梢さん)
4.ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 作品15
(ピアノソリストの吉岡千佳さん)
一楽章
明るく堂々としたオーケストラで始まり、しばらく続きます。
ピアノが入り、明るくスピードが速く、軽やかで音色が良かったです。
曲調が変わりピアノは速さの中に安らぎも感じる音色になりました。
ピアノとファゴットが掛け合いをする場面があり、そこからオーケストラが冒頭のメロディをもう一度演奏しました。
ピアノも入りその軽やかさが凄かったです
ピアノの独奏になり、軽やかで凄いスピードで良い音色でした。
派手で力強くもなります。
この時コンサートミストレスの蔵川瑠美さんが、軽やかなピアノ独奏に体を揺らしていたのが印象的でした。
(演奏の全景。協奏曲でソリストが演奏する場所は、ほぼ必ずこちら側から見て指揮者の左側になります)
二楽章
ピアノとオーケストラ一緒に演奏が始まり、ややゆったりとした穏やかな音色でした。
音色はやはりとても良くて綺麗に響き、ゆったり目のスピードで演奏が進んで行きました。
最後は静かに終わります。
(これまでに聴いた演奏会で女性ピアニストが主役で登場した時は必ずドレスで、吉岡千佳さんのようなワンピース姿の人は初めて見ました。そしてそれ以上に演奏の物凄さに驚かされ、ぜひまたどこかの演奏会で聴いてみたいです)
三楽章
ピアノの独奏で始まりスピードが凄かったです。
オーケストラも凄いスピードで迫力もありました。
凄く盛り上がる演奏になり、それが繰り返されました。
そこから再び凄いスピードで演奏が進んで行き、スピードと軽やかさが非常に印象的な演奏でした
(演奏を終えて立ち上がる吉岡千佳さん)
昨年の2月終わり頃は新型コロナウイルスによる影響が日毎に強くなっていて、この演奏会にも例年なら行われる出演者によるお客さんのお見送りが中止になるという影響が出ました。
しかし今思えば、開催して頂けただけでも幸せなことだったのだと思います。
ぎりぎり開催出来たこの演奏会のステージに立てた4人の演奏者には天運が味方したと私は捉えます。
広島交響楽団と協奏曲を共演という貴重な経験を生かし、これからさらに活躍していってほしいです
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プロフィール 2020年2月時点
井出崎優
1993年山口県山口市出身。
上野学園大学音楽学部音楽学科を卒業。
在学中に同大学オーケストラとP.クレストンの協奏曲を共演(下野竜也氏指揮)。
第28回中国ユース音楽コンクール、第17回さくらぴあ新人コンクール、第6回秋吉台音楽コンクールなどに入賞。
NPO法人 芸術・文化 若い芽を育てる会 第5回牛尾シズエ特別賞を受賞。
これまでに工藤三千代、福光恒星、甲斐尚美、彦坂眞一郎、松原孝政、長澤範和の各氏に師事。
2019年5月ピアニスト高橋優介とのデュオユニット「ユーアート」として初のCDアルバム「for you」をティートックレコーズよりリリース。
現在、beautiful 珍 earth、東京中低域の各メンバーとして活動中。
木村紗綾
広島市出身。15歳で渡欧。
プラハ音楽院に主席入学。
第50回コツィアン国際ヴァイオリンコンクール第1位、第38回チェココンセルヴァトワール・ギムナジウム国際コンクール第1位、第2回ヴィッラフランカ・ディ・ヴェローナ国際コンクール第1位、並びに聴衆賞を受賞。
チェコフィルハーモニー管弦楽団オーケストラアカデミーに在籍中はプラハの春音楽祭、スメタナ音楽祭に出演。
2016年より大植英次氏と威風堂々クラシック in Hiroshima、チャリティコンサート等、多数共演。
これまでに村上直子、石川静、中村英昭の各氏に師事。
現在、プラハ音楽院にてイージー・フィッシャー氏に師事する傍ら、チェコフィルハーモニー管弦楽団、プラハ交響楽団などの客演奏者としても活動中。
高橋梢
1993年愛媛県出身。
広島大学教育学部音楽文化系コース(クラリネット専攻)卒業、同大学院教育学研究科音楽文化教育学専修博士課程前期修了。
22歳より本格的に声楽の勉強を始める。
学内オペラにて、『こうもり』(アデーレ)、『フィガロの結婚』(ケルビーノ)、『ジャンニ・スキッキ』(ゲラルディーノ)を演じる。
2019年ひろしまオペラルネッサンス『魔笛』クナーベⅠでオペラデビュー。
声楽を枝川一也、市村公子、佐藤ひさらの各氏に師事。
現在、二期会オペラ研修所に第65期予科生として在籍中。
吉岡千佳
ノートルダム清心中・高等学校を経て、桐朋学園大学音楽学部を卒業。
2015年いかるがコンクール(現・あおによし音楽コンクール)ピアノ音大生・音大卒業生部門第1位。
これまでに、ピアノを畑久美子、原田敦子、西佳子、横山幸雄、広瀬康に、室内楽を田野倉雅秋の各氏に師事。
現在、ウィーン私立音楽芸術大学にてローランド・バティック氏のクラスに在籍中。
末廣誠(指揮)
桐朋学園大学修了。
1989年、N.リムスキー=コルサコフのオペラ『サルタン王の物語』の日本初演において訳詞及び指揮を担当し、高い評価を受ける。
以降オペラを数多く手がけ、豊富なレパートリーを誇っている。
バレエでも多くの作品に参加しており、舞台作品における技量は各界から厚い信頼を得ている。
1990年ハンガリーにおいてサボルチ交響楽団を指揮。
同年、ワイマールで開催された国際セミナーでイェーナー・フィルハーモニー管弦楽団を指揮し、チューリンガー・アルゲマイネ紙に”真にプロフェッショナルな指揮者”と称賛される。
1991年、第4回フィッテルベルク国際コンクールにおいて第1位ゴールドメダルとオーケストラ特別賞を併せて受賞する。
翌年よりポーランド国立放送交響楽団をはじめとする各地のオーケストラに招かれ、クラコフ放送交響楽団の首席客演指揮者に就任。
また、国立シレジア歌劇場においてヨーロッパにおけるオペラデビューを果たし、定期客演指揮者として多くの作品を指揮している。
帰国後は群馬交響楽団を経て1995年から1999年まで札幌交響楽団指揮者を務め、多岐にわたる活動を続けている。
2016年には、ウィーン楽友協会合唱団のモーツァルト「レクイエム」を指揮し大好評を得た。
高いレベルの演奏を引き出す手腕には定評があり、今後の活躍が期待されている。
また、執筆活動のほか演奏会の司会や企画にもその才能は遺憾なく発揮されている。
レッスンの友社よりエッセー「マエストロ・ペンのお茶にしませんか?」を刊行。
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