今回ご紹介するのは「響け!ユーフォニアム2 北宇治高校吹奏楽部のいちばん熱い夏」(著:武田綾乃)です。
-----内容-----
新しく赴任した滝昇の指導のもと、めきめきと力をつけ関西大会への出場を決めた北宇治高校吹奏楽部。
全国大会を目指し、日々練習に励む部員のもとへ突然、部を辞めた希美が復帰したいとやってくる。
しかし副部長のあすかは頑なにその申し出を拒む。
昨年、大量の部員が辞めた際にいったい何があったのか……。
”吹部”ならではの悩みと喜びをリアリティたっぷりに描く傑作吹部小説シリーズ第2弾。
-----感想-----
この作品は
「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」の続編となります。
プロローグは中学校時代の鎧塚みぞれと傘木希美が話す場面で始まります。
みぞれ達の通っていた南中学校は京都でそこそこ有名な吹奏楽部の強豪校で、関西大会には通算6回出場していますが全国大会にはまだ行ったことがないです。
希美が部長となり臨んだ最後の大会は全国大会に行くために猛練習しましたがまさかの京都府大会銀賞で、関西大会にも行けずに終わってしまいます。
全日本吹奏楽コンクールの京都府大会を終えた8月8日から物語が始まります。
京都府立北宇治高校は関西大会に出場出来ることになりました。
ユーフォニアムの特徴は深い響きを持つ柔らかな音色とありました。
私は以前聴いた演奏会で「ユーフォニアムは人間の声に最も近い音域の楽器」とユーフォニアム奏者が言っていたのが思い浮かびました。
北宇治高校はかつて吹奏楽の強豪校で、関西大会の常連で全国大会にも出場したことがあります。
しかし当時の顧問が別の学校に移ってから一気に弱体化し、ここ10年は大した結果を残せていませんでした。
それが今年、音楽教師の滝昇(のぼる)がやって来て吹奏楽部の顧問に就任し、優しい雰囲気ながらも口の悪いスパルタ指導で反発を受けましたが力を付け、見事に関西大会出場権を得たのでした。
関西大会で立ちはだかることになる「三強」の名前が3年生でユーフォニアム奏者の副部長田中あすかから語られます。
部長は3年生でバリトンサックス奏者の小笠原晴香ですが、あすかは変人ではあるものの天才でありカリスマ的な存在感があります。
三強は全て大阪の高校で、明静(みょうじょう)工科高校、大阪東照高校、秀塔(しゅうとう)大学附属高校とありました。
大阪東照高校は野球部の甲子園でもよく演奏しているとあったのでモデルは大阪桐蔭高校ではと思いました。
三校とも関西大会どころか全国大会でも金賞を取るレベルの超強豪校とあり、関西大会から全国大会に行けるのは二十三校中三校だけなので、三強のうちどれかを倒す必要があり北宇治高校が全国に行くのは非現実的と言わざるを得ないとあすかは語ります。
するとコントラバス奏者の1年生川島緑輝(サファイア。いわゆるキラキラネームで本人は嫌がって緑と呼ばせている)が明静工科高校の顧問が引退し、今年は弱くなっているかも知れないと語り三強に割って入るならそこしかないという雰囲気になります。
1年生でトランペット奏者の麗奈が同じく1年生でユーフォニアム奏者、そして主人公の久美子に一緒に帰らないかと誘ってきて同じ電車に乗ります。
麗奈は花火大会に一緒に行かないかと言い久美子と仲良くなりたそうでした。
久美子は部活にも一緒に行こうと言いますが、麗奈が毎日6時に学校に着いていると聞いて驚愕します。
麗奈は1年生にしてトランペットのソロ演奏を任される実力者で、やはり上手い人は人一倍努力しているのだと思いました。
そして麗奈よりさらに先に練習を始めている先輩が一人いて、2年生でオーボエ奏者の鎧塚みぞれだと語られます。
麗奈と別れると同じ電車に乗っていた秀一が話しかけてきます。
久美子は秀一を見ると息苦しくなるとあり、前作で秀一のお祭りへの誘いを断ってから気まずくなったのを引きずっているようでした。
二人で宇治橋を渡る場面で高欄という言葉が登場し、初めて聞く言葉だったので調べてみたら欄干のことと分かりました。
北宇治高校が全国大会に行けるかどうかの話になり、秀一が「ま、でも滝先生はめちゃくちゃ優秀やし。もし関西で負けても、それは俺ら部員側の問題やと思う」と言います。
人のせいにしない姿勢が素晴らしいと思いました。
吹奏楽における指導者の役割は大変重要で、指導者が別の学校に移って弱体化した学校はたくさんあり、反対に弱小校が新たな指導者を迎えて強豪校になることもあるようです。
久美子が麗奈のことを
「そういえば麗奈は滝のことが好きなのだ。もちろん、恋愛的な意味で。」と語っていて、この言い回しが高校生らしくて良いなと思いました。
久美子と麗奈二人で音楽室に行く時、音楽室からオーボエの音色が聴こえてきて、「オーボエ特有のしっとりとした音色」とありました。
クラシックを聴くようになってしばらくはオーボエの音色は蛇使いの音色のようなイメージを持っていましたが、モーツァルトのオーボエ協奏曲を聴いてから私もそのイメージになってきました。
また久美子と麗奈は音楽室に向かいながら聞こえてきた音色に「何か物足りない」という印象を持ちました。
オーボエを演奏していたのは鎧塚みぞれで、みぞれは会話に独特な神秘さがあります。
オーボエは構造上その場でぱっと音を変えるのが無理なので、オーケストラではオーボエを基準に音を合わせるとあり、実際の演奏会でのチューニング(音合わせ)で一番最初にオーボエが音を出し、それから他の楽器も音を出して行くのが思い浮かびました。
滝から8月16日~18日に夏合宿を行うと伝えられます。
滝は今の北宇治高校では関西大会の壁は越えられないと言い、夏合宿の間に府大会で出来なかったことを出来るようになろうと言います。
また夏休みの間は金管楽器が専門の滝に加え、木管楽器とパーカッション(打楽器)のために外部の指導者を呼ぶことになります。
まず橋本真博という北宇治高校OBのプロのパーカッション奏者がやって来ます。
橋本は陽気な性格をしていて一日でパーカッションの部員たちの人気者になっていました。
「低音は音楽の土台であり骨組み」という言葉が登場し、まさにそうだと思いました。
演奏会でも低音が「底」から支えて厚みのある音になるのを何度も聴きました。
「胡乱(うろん)げな視線」という言葉も登場し、どんな視線なのか気になりました。
調べてみると「胡乱げ」は正体が怪しく疑わしいという意味とのことで、この作品はたまに普段使わない言葉が登場するのが興味深いです。
ある日、2年生で久美子と同じユーフォニアム奏者の中川夏紀が昨年吹奏楽部を退部した傘木希美を連れて来ます。
希美は副部長のあすかに吹奏楽部に戻りたいと言いますが、あすかは冷たく断ります。
あすかはどうしても戻りたいなら顧問の滝に許可してもらえと言いますが、希美はあすかの許可が欲しいと言い、二人の間には何かがあるようでした。
久美子が緑のことを
「他人の心情をおもんぱかることに長けている彼女は、まるで好きなようにやっていますといわんばかりの顔をして、さりげなく他人をフォローする」と評していました。
天真爛漫に振る舞う緑の本当の姿をよく分かっていて、他の人のことをよく見ているのは久美子の良いところだと思います。
みぞれ、久美子、麗奈が朝早い音楽室で練習をしていると、その次に2年生のトランペット奏者、吉川優子がやって来たことがありました。
優子は麗奈が1年生にしてソロ演奏者に選ばれた時、3年生の中世古香織を推して麗奈と敵対していました。
みぞれが物凄くストレートに優子は2人と仲が悪いのかと聞き、久美子はあまりにストレート過ぎて緊迫した気持ちになります。
秀一が久美子に宇治川花火大会は誰と行くのかと聞く場面があり、やはり久美子のことが気になっているようでした。
花火大会の当日、久美子は練習が終わって帰る前に忘れ物を取りに行った時、みぞれが階段でうずくまっているのに遭遇します。
その様子は尋常ではありませんでした。
さらに階段の上からフルートの音色が聴こえてきて、久美子は北宇治高校のフルートソリスト(ソロ演奏者)より上手いと感じます。
演奏していたのは希美でした。
いったいこの二人には何があるのかとても気になりました。
久美子、麗奈、緑、チューバ奏者の加藤葉月の1年生四人で出掛けたプールで、久美子は一人で歩いている時に希美に遭遇します。
そして思い切ってなぜ吹奏楽部を辞めたのか聞きます。
なぜ希美が顧問の滝よりあすかの許可を得ることにこだわっているのかが分かりました。
また、希美は昨年まで平気で練習なんてせんでええやんと言っていた子が今になってケロッとした顔で関西大会に出ていることに凄く怒っていて、この怒りは分かる気がしました。
滝が顧問になって吹奏楽部の雰囲気が変わりはしたものの、その前の雰囲気に絶望して辞めた希美にはやり切れないものがあると思います。
麗奈は部活を辞めるのは逃げるということだと言っていましたが、久美子は希美が辞めたのはその時の彼女にとってベストの選択をしたのであり、逃げたわけではないと見ています。
私は思いやりがあって良い見方だと思います。
久美子はなぜ希美が復帰してはいけないのかを調べ、必ず復帰させると言います。
ついに合宿が始まります。
木管楽器の指導をする新山聡美という優しく穏やかな雰囲気のフルート奏者が新たにやって来て、滝の彼女ではという話もあり、麗奈が動揺していて面白かったです。
しかし指導を受けた緑は、新山は決して怒りませんが指導の中身は滝並に凄いと言っていました。
読んでいると滝と橋本は20代後半の印象があり、新山は二人の後輩とのことでもう何年か若いようです。
みぞれは久美子に、
音楽の芸術性の部分は審査員の好みになってしまうので技術が重要だと言います。
みぞれと話した後、久美子は夜遅いのに3年生の部長や各パートのリーダー達が集まって行うリーダー会議が行われているのを目撃します。
そして自身の部屋への帰り道、久美子の足取りは軽くなっていて、その心境は先輩達から良い影響を受けたのが分かり良いなと思いました
各パートでの練習から全体での合わせになった時、橋本がみぞれの演奏はロボットが演奏しているようだと言います。
橋本は
北宇治高校は技術では強豪校に引けを取らないようになったが表現力が足りていないと言い、みぞれの考えと逆のことを言っているのが印象的でした。
久美子はあすかとみぞれが話し合っているのを盗み聞きしてしまいます。
その様子からみぞれは希美を怖がっているようでした。
そしてついに、なぜ希美が吹奏楽部に戻るのをあすかが許可しないかが明らかになります。
新山が差し入れてくれた花火をみんなでする場面があります。
久美子が花火の光を
「まるで夜を追い払っているみたい。」と形容していて良い表現だと思いました。
辺り一面に広がる夜の闇の中にあって、花火が光っている間だけはそこに明るさがあります。
久美子は今度は夜の自販機の前で優子に遭遇していて、主人公だけあって色々な人に遭遇するなと思いました。
優子が意外にも麗奈の実力を認める場面があり、憎まれ口を叩いていてもきちんと見る人なのだと思いました。
夏合宿が終わりを迎えます。
新山のみぞれへの言葉が印象的で、次のように言っていました。
「楽器を吹くのはね、義務じゃないの。あなたの技術はとても素晴らしいけれど、なぜだか聞いていると苦しくなる。もっとね、楽しんでいいのよ。オーボエを好きになってあげて。そうすればきっと、ソロだって上手くいくと思うわ」
やはり楽しく吹くのと義務のように気乗りせずに吹くのでは音色に差が出るだろうなと思います。
麗奈が久美子にコンクールでの審査員の評価について、「もし圧倒的な上手さがあれば、コンクールで評価されへんなんてことはありえへんと思う。」と言います。
みぞれの「芸術性の部分は審査員の好みになる」と違い、圧倒的に上手ければ有無を言わさず評価されると見ています。
同じ「コンクール」についての考え方でも人によって全然違うなと思いました。
いよいよ関西大会の演奏の順番が発表されます。
滝が部員達に
「思う存分我々の演奏を見せつけてやりましょう」と言っていたのが夏合宿の自信が窺えて良いなと思いました。
しかし関西大会直前、みぞれが大きく取り乱す事件が起きます。
その中で「吐息がうっそりと漏れる。」という表現があり、「ぼんやりと」という意味のようで、これも珍しい表現だと思いました。
そして事件を経て常に塞ぎ込んでいるようだったみぞれの心がついに解き放たれる時が来ます。
夏紀の「綺麗な音やね。あの子、こんなふうに吹けたんや」という言葉が関西大会での善戦を予感させました。
関西大会でこの年の戦いが終わるのか、それとも全国大会に行けるのか、最後の盛り上がり方が凄く良かったです
今作では京都府大会を終えてから関西大会まで、短い時間の中で凄く濃密な物語になっていたと思います。
続編も出ていて、今作を通して物語の中心に居た鎧塚みぞれと傘木希美はかなりの実力者でもあり次作以降も活躍が予感されました。
北宇治高校吹奏楽部の演奏力もさらに上がり、関西大会の強豪達相手に引けを取らないまでになりました。
素敵な実力者達に囲まれた主人公久美子がユーフォニアム奏者としてどうなっていくのか、秀一との関係はどうなるのか、続編もぜひ読んでみたいと思います
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