今回ご紹介するのは「ビブリア古書堂の事件手帖 ~扉子と不思議な客人たち~」(著:三上延)です。
-----内容-----
ある夫婦が営む古書店がある。
鎌倉の片隅にひっそりと佇む「ビブリア古書堂」。
その店主は古本屋のイメージに合わない、きれいな女性だ。
そしてその傍らには、女店主にそっくりな少女の姿があった――。
女店主は少女へ、静かに語り聞かせる。
一冊の古書から紐解かれる不思議な客人たちの話を。
古い本に詰まっている、絆と秘密の物語を。
人から人へと受け継がれる本の記憶。
その扉が今再び開かれる。
-----感想-----
「ビブリア古書堂の事件手帖」は第7巻で本編は完結しました。
ただ7巻のあとがきに番外編がもうしばらく続くとあったので楽しみにしていました。
その番外編がついに発売されたので読んでみました。
「プロローグ」
2018年の秋になり、篠川栞子と五浦大輔が結婚して7年経っていました。
二人には扉子(とびらこ)という6歳になる娘がいて、扉子は栞子にそっくりな外見をしていてさらに栞子と同じようによく本を読みます。
栞子は急ぐと少し足を引きずりますが杖なしで歩けるようになりました。
大輔は栞子の母親の智恵子がまとめようとしている大口の取り引きを手伝うために上海に発とうとしています。
二人は7年前、
「ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~」でのシェイクスピアの貴重な戯曲集であるファースト・フォリオの争奪戦をきっかけに洋古書の売買を智恵子から学ぶことになり、今は夫婦交替で海外にいる智恵子の手伝いをしています。
羽田空港に居る大輔から栞子に電話がかかってきて、大輔が大事にしている青い革のブックカバーがかかった本をどこかに置き忘れたので探してくれと頼まれます。
扉子は栞子と同じように本のことになると異様に勘が鋭く、栞子が本を探しているのに気づいて「なんのご本、捜しているの?」と聞いてきます。
扉子は栞子と違って表情が豊かで受け答えもはきはきしていてそこは妹の文香(あやか)に似ています。
ただし誰とでも親しくなる文香と違って扉子には幼稚園にも近所にも全く友達がおらず、他の子供達に関心を示さずに「わたし、本が友達だから」と言い栞子を心配させています。
また栞子も子供の頃は扉子と同じように友達も作らずにずっと本を読んでいたとあり、本好きな部分がとてもよく似たのだなと思います。
扉子という名前は様々なことに興味を持ち沢山の扉を開けて欲しいという願いを込めて付けられました。
扉子が「からたちの花」という本を手に取り同じ本を逗子に住む坂口しのぶの家で見たと言います。
栞子がその本はしのぶの夫の昌志が家族から贈られたものだと言うと扉子は詳しい話を聞きたいとせがみます。
しのぶはかつて「論理学入門」という本を取り返すために入院していた栞子を訪ねてきた女性で、しのぶと昌志には小学生になった息子がいて栞子達とは家族ぐるみの付き合いが続いています。
栞子は扉子も本を通じてなら人と関わることに興味を持ってくれるかも知れないと思い、昌志が家族から「からたちの花」を贈られた詳しい話を語り始めます。
「第一話 北原白秋 与田準一編『からたちの花 北原白秋動揺集』(新潮文庫)」
語り手は平尾由紀子という38歳の女性で、物語は2011年に戻ります。
由紀子の叔父が坂口昌志で、昌志は平尾家とは絶縁になっています。
由紀子の父の和晴が脳梗塞で倒れ、和晴の8歳下の異母弟の昌志がどこかからその話を聞いて電話をかけてきました。
昌志から和晴に見舞いの品が届き、返礼は不要とメッセージがありましたが和晴は子供が生まれたばかりの昌志に出産祝いを届けたいと言います。
和晴は祝い金とともに北原白秋の「からたちの花」も届けてほしいと言い、由紀子は本をビブリア古書堂に注文しました。
ビブリア古書堂で栞子は「からたちの花」には古い版もあることを伝え、この本の好きな年配の人なら慣れ親しんだ古い版を選ぶ気がするのに和晴はどうして新しい版を選んだのだろうと気にします。
また栞子の左手薬指には結婚指輪があり結婚したのが分かりました。
栞子は由紀子と話しているうちに本を渡す相手が昌志だと気づきます。
栞子と大輔が昌志と親しいことを知った由紀子は驚き、本を持って慌てて店を出て行きます。
昌志としのぶの住むアパートを訪れた由紀子は昌志が不在のためしばらくしのぶと話します。
嫌々アパートを訪れた由紀子でしたがしのぶと話すうちに荒れていた気持ちが収まっていきます。
そしてしのぶも自身と同じように子育てで大変な思いをしているのに気づきます。
しのぶから昌志は「からたちの花が咲いたよ」の歌が好きと聞き、由紀子は和晴が「からたちの花」を贈るのには意味があったのだと思います。
「からたちの花」を開いたしのぶが自身の知っている歌詞と違うと言い、由紀子もしのぶと同じでした。
二人とも同じところで歌詞を間違えていて由紀子はその理由に気づきます。
やがて和晴の狙いが明らかになります。
物語の最後、再び2018年の栞子と扉子の場面に戻ります。
扉子が今度はゲームの本に興味を持ち、栞子は自身が関わったゲームの本にまつわる話を始めます。
今作は2018年の栞子と扉子が話しながら過去にあった本にまつわる話をしていくのだなと思いました。
「第二話 『俺と母さんの思い出の本』」
第二話の始まりは2011年のクリスマスの頃の元町が舞台です。
栞子と大輔は入籍して一緒に住み始めて二ヶ月経ち、大輔が五浦から篠川になりました。
文香は大学受験を控えています。
「横浜の山手は日本有数の高級住宅街」とあり、とても上品な雰囲気と見てはいましたが日本有数とまでは思っていなかったのでそれほどまでとはと思い少し驚きました。
智恵子の大学時代の友人の磯原未喜からどこにあるのか分からない本を見つけ出して欲しいと頼まれて二人は山手に来ました。
二人が未喜の住む豪邸を訪ねると未喜は息子が持っているはずの本をどうしても見つけたいと言います。
息子の秀実は31歳の若さで亡くなり、生前秀実がゲームに関する何らかの本を「俺と母さんの思い出の本」と言っていました。
未喜は秀実に立派な人になってほしいと思い語学や絵画、ピアノなどの英才教育を施し、有名私大の法学部に進学もしますが、中学生くらいからアニメやマンガに没頭していてやがてプロのイラストレーターとして仕事を始めました。
亡くなる頃にはイラストの仕事だけでなくアニメやゲームのキャラクターデザインも手がけるようになっていてかなりの才能でしたが、未喜はそういったものの一切をオタク趣味と嫌悪しています。
未喜は秀実が言っていた本について秀実の妻なら何か知っているのではと言います。
栞子はゲームには全く詳しくないですが滝野ブックスの二代目店主、滝野蓮杖(れんじょう)の受け売りでゲームの攻略本などには詳しいです。
栞子は未喜の探している思い出の本が秀実の仕事や趣味を少しでも理解する助けになればと思って依頼を引き受けていて、この考えは良いと思いました。
二人がビブリア古書堂に戻ると文香と同じ高校の玉岡昴が店番をしていました。
以前宮沢賢治の「春と修羅」の貴重な初版本を巡る騒動で二人と知り合いお店にもよく出入りするようになり、予備校通いで時間がない文香の代わりに店番をしてくれています。
陳列している100百円均一本の入れ替えの描写があり、ずっと同じ本を並べておくとお客が飽きると本編で語られていました。
これはやったほうが良いのをこの小説で知りました。
ライトノベルを読んでいる昴に聞き秀実が多くの人に愛されている有名なクリエイターだと分かります。
栞子と大輔は大船駅の近くにあるマンションに秀実の妻のきららを訪ねます。
秀実の思い出の本は秀実が小学生の頃、未喜が買ってくれた唯一のゲーム関係の本だったということが分かります。
きららもアニメや漫画やゲームが好きで、二人のマンションには大量の本棚がありそれらの古書で溢れています。
きららが寝室にまで本棚がある話をした時、大輔が自身達の寝室は本棚が置いてあるどころではないのを思い浮かべながら「古書マニアの寝室に、本が置いてあるのは全然珍しくないです。俺のよく知ってる人なんか……」とからかっていたのが面白かったです。
岩本健太という秀実の友達のゲームのコレクターでライトノベル作家をしている人が二、三日前に来て秀実に貸していたゲームや雑誌を大量に持ち帰ったことが明らかになります。
その時に故意に秀実の思い出の本を持って行ったと栞子は考えます。
栞子と大輔は岩本の家に行き核心に迫ります。
岩本が秀実の思い出の本を持っていったのではと栞子が言うと岩本は激怒して声を荒げこたつの天板を叩きます。
「アンダスタンド・メイビー(上)」(著:島本理生)でも同じようなことをしていた人がいて、悪いことをする人は何かを叩いて相手を威圧したがるなと思います。
最後は驚きの展開になり、岩本がやったことは外道だと思いました。
この話では「ファイナルファンタジーⅤ」というゲームの「はるかなる故郷」という曲が秀実と未喜、さらに秀実ときららにとって重要な曲として登場します。
子供の頃に「ファイナルファンタジーⅤ」はプレイしましたがどんな曲だったかは忘れているのでこの話を読んで聴いてみたくなりました。
「第三話 佐々木丸美『雪の断章』(講談社)」
2011年8月の小菅奈緒と文香の話です。
二人とも高校三年生で、奈緒と文香は志田から佐々木丸美の「雪の断章」を貰っていました。
志田は奈緒に自身が「雪の断章」が好きで古書店で見かけるたびに買ってまだ読んでいない人にプレゼントしていると語った後すぐ、住みかにしていた橋の下から姿を消しました。
しかし一昨日奈緒の携帯に志田からメールが来て世話になった礼の挨拶をしたいと言い、奈緒は文香と一緒に一時間後に大船駅前で待ち合わせていて、二人はモスバーガーで時間が来るのを待っています。
奈緒だけ二冊目の「雪の断章」を貰っていたことが明らかになります。
さらに志田にはもう一人奈緒のようによく志田から本の話を聞いている「生徒」がいて、それらのことを奈緒は志田と会う前に文香に話します。
5月下旬のある日、奈緒が橋の下に行くと志田の小屋がなくなっていました。
そこに紺野裕太という橋の近くに住む年下の高校生が話しかけてきます。
裕太は志田から「クーラーボックスの中に奈緒へのお礼が入っている」という伝言を預かっていて、奈緒がクーラーボックスを開けると二冊目の「雪の断章」が置いてあり、見返しを開くと「アリガトウ」と書いてありました。
もう二度と会えないのは納得が行かない奈緒が志田を探すと言うと裕太も一緒に探すと言います。
奈緒は裕太のことが好きになり、話を聞き終えた文香が「初耳だよ!そんな男の子の話!どういうことだ!」と怒っていたのが面白かったです。
栞子も大輔もそれほど喜怒哀楽を表に出さない中ではっきりと表に出る文香の存在は物語を明るく楽しくしています。
裕太は志田とのことで奈緒に隠していることがありました。
奈緒と文香が志田と再会し、奈緒が志田に裕太のことを話すと驚きの展開になります。
「雪の断章」の見返しに書いてあった「アリガトウ」の言葉の謎が解けます。
隠していた全てを話した裕太に奈緒は「自分のことを話してくれて、どうもありがとう。嬉しかった」「今から、あたしの話を聞いて欲しい」と言います。
この場面が良くて、奈緒がかつて自身が志田にしたことを話して裕太と向き合おうとしているのが分かりました。
「第四話 内田百聞『王様の背中』(樂浪書院)」
半年以上前の真冬のある日、舞砂道具店の吉原喜市の息子の孝二が山田要助という愛書家の家を訪ねます。
山田要助は先月亡くなり、孝二は買い取れる古書がないかと訪ねてきました。
昔の古書店主は新聞の死亡広告を欠かさずチェックしていて、愛書家が亡くなったのを知ると面識がなくても「故人から蔵書の処分を頼まれている」と上がり込み強引に本を買い取っていったとあり、これは怖いと思いました。
人の死を掘り出し物を手に入れる好機と捉えているところに狂気を感じます。
孝二は要助の妻から話を聞き、お葬式が終わった辺りから古本屋が次々と来てほとんどの本を持って行ったことと、残っていたわずかな古書は同居している息子がビブリア古書堂に持って行ったと知ります。
孝二は15年前に父の喜市の運転手になり、大学を出て就職したものの会社が倒産したため舞砂道具店で修業することになりました。
シェイクスピアのファースト・フォリオを巡る戦いでビブリア古書堂に敗れてから喜市はすっかり衰え仕事でミスを連発するようになり、心筋梗塞で倒れてからは介護の身になりベッドでぶつぶつと何事かを罵る日々になっています。
孝二がビブリア古書堂の前を通りかかると店番をしていた文香が声をかけてきます。
文香は就職していてこの日は店番をしてくれていました。
孝二は山田家を出る時に転んで自身のコートを汚してしまい、要助の妻が貸してくれた息子も着るコートを着ていたために文香は先ほど古書を売りに来た要助の息子だと勘違いしていました。
孝二は扉子が読んでいた要助の息子が売った本に目を奪われます。
内田百聞の「王様の背中」で、特製本でかなりの値段がつきます。
孝二は要助の息子のふりをしたまま古書を売るのを止めて「王様の背中」を持ち去ることを考えます。
上手くいくかと思われましたが扉子に「王様の背中」の話の続きを教えてくれと言われて戸惑います。
やがて文香が違和感を持ち本当に要助の息子かと疑い孝二は焦ります。
それでも孝二は何とか「王様の背中」を持ち去り、親子二代に渡って高価な古書を手に入れるためなら犯罪も厭わないところに恐ろしさを感じました。
孝二は電車に乗って逃亡しようとしますが出掛け先から帰ってきた大輔も間一髪のところで同じ電車に乗り物語が緊迫します。
最後に栞子と扉子が探していた本の内容が明らかになります。
栞子が何としても扉子には見せたくないと思っていたのがよく分かる本でした。
久しぶりに「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズの小説を読むことができて嬉しかったです。
まさか一気に7年も経ち扉子という栞子と大輔の子供が登場するような展開になるとは思っていなかったので驚きました。
本編では語りきれなかった部分のみならず、今作の最後の話のように7年後もしくは7年近く経った頃の話もまだまだ書けるような気がします。
番外編はまだ続くのでどんな話が読めるのか楽しみにしています
ビブリア古書堂シリーズの感想記事
「ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~」
「ビブリア古書堂の事件手帖2 ~栞子さんと謎めく日常~」
「ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~」
「ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~」
「ビブリア古書堂の事件手帖5 ~栞子さんと繋がりの時~」
「ビブリア古書堂の事件手帖6 ~栞子さんと巡るさだめ~」
「ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~」
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