読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

「珈琲店タレーランの事件簿3 心を乱すブレンドは」岡崎琢磨

2014-06-29 23:03:37 | 小説
今回ご紹介するのは「珈琲店タレーランの事件簿3 心を乱すブレンドは」(著:岡崎琢磨)です。

-----内容-----
実力派バリスタが集結する関西バリスタ大会に出場した珈琲店「タレーラン」の切間美星は、競技中に起きた異物混入事件に巻き込まれる。
出場者同士が疑心暗鬼に陥る中、付き添いのアオヤマと犯人を突き止めるべく奔走するが、第二、第三の事件が……。
バリスタのプライドをかけた闘いの裏で隠された過去が明らかになっていく。
珈琲は人の心を惑わすのか、癒やすのか―。
美星の名推理が光る!

-----感想-----
「珈琲店タレーランの事件簿」のシリーズ第三弾です。
純喫茶タレーランは京都市内、二条富小路の交差点を少し北上したところにひっそりとあります。
そこでバリスタを務めているのが切間美星。
バリスタとは珈琲を淹れる専門の職人のことです。
タレーランのオーナー兼調理担当を務めるのは藻川又次という老人で、美星の大叔父に当たります。

今作の舞台となるのは「第五回関西バリスタコンペティション」という大会。
第一回大会は全日本コーヒー協会によって定められた「コーヒーの日」に合わせ、10月1日に行われました。
第二回からは毎年11月初旬の週末に京都市内で開かれている食品関連企業の展示会の目玉イベントとして行われるようになったとのこと。
第四回大会である問題が起き、次の年は開催が中止になり、今年が第五回大会となります。
この第五回大会に美星が出場します。
会場となるのは「アーテリープラザ」という大きな施設。
大会は全四種目で二日間に渡って行われ、一日目の午前がエスプレッソ部門、午後がコーヒーカクテル部門、二日目の午前がラテアート部門、午後がドリップ部門です。
各種目における獲得点数をもとに総合成績が決まり、優勝者には賞金50万円が授与され、メディアにも取り上げられることからお店の注目度も上がるとのことです。

大会に出場するのは切間美星、黛(まゆずみ)冴子、石井春夫、苅田(かんだ)俊行、山村あすか、丸底芳人(まるぞこよしと)の6人。
黛冴子は前回大会の覇者です。
しかしその前回大会にはかなり暗い影があり、黛冴子によると色々あって最後には大会そのものがうやむやになってしまったとのことです。
そのせいか前回大会のことはどのメディアもほとんど取り上げず、黛冴子が覇者であることを知っている人も少ないようです。
第四回大会でいったい何が起きたのか、すごく気になりました。

また、かつてこの大会で伝説になったバリスタ、千家諒(りょう)の名前も興味を惹きました。
千家諒は第一回バリスタコンペティションに出場し、初代王者に輝き、さらに第二回と第三回も優勝し、三連覇を達成しています。
この千家諒と、今大会に出場している山村あすかの過去の物語が数ページずつ展開されていて、この二人は今回の物語に強く関わってくるのだろうなと思いました。

そして今大会、次々と”異物混入事件”が起こります。
バリスタの使うコーヒー豆やミルクに異物が混入され、被害に遭ったバリスタはその種目を棄権したり、大幅に評価が下がったりといった目に遭いました。
しかも異物の混入は密室の中で起きており、完全に密室トリック状態です。
さらには二年前の第四回大会でも混入事件があったことが明らかになります。
美星の見立てでは二年前の混入事件が今回の事件の引き金となっている蓋然性は高く、バリスタ達が腕を競い合う華やかな大会のはずが、非常にきな臭い大会になってきました。
注目は三連覇を果たした千家諒が第四回大会にも出場していたこと、しかし第四回大会では優勝していないこと、そして第四回大会でも異物混入事件があったことで、やはり第四回大会で起きたことが大きな鍵になっていました。

私的に興味深かったのがコーヒー豆の「フラットビーン」と「ピーベリー」について。
コーヒー豆は通常、コーヒーノキがつける赤い実ひとつにつき二つの種子、すなわち豆が入っていて、その豆どうしが接する面が平らに近くなり、そういった豆をフラットビーンと言うようです。
それに対し、赤い実にひとつしか豆が入っていない場合は丸みを帯びた形のコーヒー豆になり、それをピーベリーと呼びます。
ピーベリーは成分などの面ではフラットビーンと同じですが、焙煎の際に火が均一に通るため、フラットビーンよりも風味がよくなるとのこと。
収穫量の少なさから希少価値を付与されて取り引きされる場合も多いとのことです。

もうひとつ興味を惹いたのが山村あすかの勤務する「カフェ・ドゥ・ルナール」という店。
ルナールはフランス語できつねとのことで、境内に無数の白狐の像がある伏見稲荷大社の近くにあるため、この店名になったのだろうとのことです。
私は境内に無数の白狐の像がある伏見稲荷大社と聞いて、森見登美彦さんの作品群が思い浮かびました。
どうもその辺りの地名が出てくると森見作品が思い浮かんでしまいます(笑)
そんなわけで印象的なお店でした。

異物混入事件は、最終的に美星によって犯人が暴き出されます。
そしてこの終わり方だと第4巻も出るのだと思います。
第2巻の「珈琲店タレーランの事件簿2 彼女はカフェオレの夢を見る」が第1巻に比べてインパクトを欠いていて、第3巻は大丈夫かなとちょっと心配だったのですが、予想を上回る面白さでした。
早く寝るはずだった昨日の夜、面白かったためどんどん読み進め、予定より寝るのが遅くなったくらいです
第4巻を楽しみに待ちたいと思います


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「シアター!2」有川浩

2014-06-28 10:10:15 | 小説
今回ご紹介するのは「シアター!2」(著:有川浩)です。

-----内容-----
前途多難な小劇団を新たな危機が襲う…!?
「2年間で、劇団の収益から300万を返せ。できない場合は劇団を潰せ」
鉄血宰相・春川司が出した厳しい条件に向け、新メンバーで走り出した『シアターフラッグ』。
社会的には駄目な人間の集まりだが、協力することで辛うじて乗り切る日々が続いていた。
しかし、借金返済のため団結しかけていたメンバーにまさかの亀裂が!
それぞれの悩みを発端として数々の問題が勃発。
旧メンバーとの確執も加わり、新たな危機に直面する。
そんな中、主宰・春川巧にも問題が……。
どうなる『シアターフラッグ』!?

-----感想-----
以前ご紹介した「シアター!」の続編となります。
その時に「シアターフラッグの”その先”にも興味があるので、続編を期待したい」と書きましたが、本当に続編が出てくれて嬉しいです^^

劇団『シアターフラッグ』の主宰は春川巧、28歳。
主宰であり、脚本も書いています。
常にナヨナヨしているすごく頼りない感じの主宰です
前作「シアター!」で巧は『シアターフラッグ』を存続させるために兄の司から300万円を借りていました。
ただしそれには条件があって、2年間で劇団の収益から300万円を返さねばならず、それができなかった場合は劇団を解散しなければなりません。
もともと司は儲けの出ない”劇団”というものに冷淡で、弟の巧にもこの機会に演劇から足を洗ってほしいくらいに思っています。
前作でその300万円を返すために『新生シアターフラッグ』が走り出し、今作ではその奮闘ぶりがより詳細に描かれています。

「演劇ってもんは社会的に経済活動として成立してない」
序盤で出てきた司のこの言葉は核心を突くものでした。
スーパーメジャーな有名劇団ならともかく、『シアターフラッグ』のような小規模劇団では演劇で食べていくのは不可能です。
それゆえにみんなアルバイトをしながら演劇をしていて、生活も不安定になり、司はそこをすごく懸念しています。

今作では恋愛模様もかなりこじれてきています。
『シアターフラッグ』の看板女優、早瀬牧子は巧に惚れています。
巧はそんな牧子の想いには気付かず、『シアターフラッグ』新人女優にして”ディープインパクト”の異名を持つ羽田千歳を”シアターフラッグに舞い降りた天女”として何やら熱を上げています。
そして羽田千歳は巧の兄・司に惚れています。
こんな感じでぐるぐる回っているようです(笑)

また、今作では『シアターフラッグ』の公式サイトの掲示板が荒しの被害に遭います。
なぜか羽田千歳が集中的に狙われ、誹謗中傷のコメントが執拗に掲示板に書かれるようになりました。

有名な声優が入団したと聞いたのでどれほどのものかと思って『行こう、遥かなるあの山へ』をみましたが、しょせん……(苦笑)という感じでした。
私の好きなシアターフラッグが羽田千歳のせいでだいなしです。
羽田千歳が出るならもうシアターフラッグの舞台はみません。
私は大勢でわけあいあいとしてたシアターフラッグの雰囲気が大好きだったのに、羽田千歳のせいでシアターフラッグが分裂してしまいました。
私は絶対に羽田千歳を許しません。

↑こんな感じで、すさまじい怨念の書き込みが続いていました
書き込み内容からしてシアターフラッグの内情にかなり詳しい者であることが疑われました。
そして羽田千歳に強い恨みを持つ者。
その正体、実は上記の書き込みが仇となってバレることになります。
書き込み者は「大勢で和気あいあい」を「大勢でわけあいあい」と書いています。
ある人物との会話の中でこの癖を見抜いたシアターフラッグ看板女優の早瀬牧子さん、良い洞察力を持っているなと思います。

千歳とスズの大喧嘩も衝撃的でした。
”うっかりスズべえ”と呼ばれる清水スズは何をやるにもあたふたしがちで、日常的にうっかりを連発しています。
そんなスズをフォローしようと千歳が言った言葉にスズが激昂し、暴言に千歳も激昂し、まさかの大喧嘩に。
普段は喧嘩タイプではない両者の乱闘寸前の大喧嘩は意外だったなと思います。

主宰の巧は巧でテアトルワルツという劇場の支配人に啖呵を切り、それが引き金となってまさかの展開に。。。
その劇場を使わせてもらおうとしたのですが、支配人のあまりに傲岸不遜な態度と物言いに我慢ならなかったようです。
今作はなかなかトラブルが多いなと思いました。

そして嬉しいことに、あとがきを読むとさらに続編が出ることが明らかになりました
ここで終わってしまうのかという終わり方だったので、まだ続くと分かって嬉しいです^^
「2年間で劇団の収益から300万円返済」が実現できるのかどうか、色々こじれている恋愛模様がどうなるのか、第3巻を楽しみに待ちたいと思います


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日本、グループリーグ敗退

2014-06-25 23:59:16 | スポーツ
サッカーのFIFAワールドカップブラジル大会、各グループリーグの戦いもいよいよ終盤を迎えています
今日は日本時間の午前5時から日本対コロンビアの試合がありました。
結果は1対4。
残念ながら日本の決勝トーナメント進出の夢は打ち砕かれました。
ギリシャ対コートジボワールの試合でギリシャが2対1で勝ったので、日本がこの試合で勝っていれば決勝トーナメントに行けたのですが、そうはいきませんでした。
ギリシャはこの試合前はグループ4位だったのですが大逆転で決勝トーナメント進出です。

私が朝目が覚めてテレビを点けた時、ちょうど日本が3点目を取られた直後だったようです。
その後顔を洗っている間に4点目を取られたらしく、もはや万事休す。
そのまま試合は終了し、ザッケローニ監督や日本代表選手達のインタビューを聞きながら朝食を食べました。

ちなみに、前回大会の覇者でFIFAランキングもずっと1位のスペインやイタリア、イングランドといった強豪国もグループリーグで敗退してしまうくらいなので、日本がグループリーグで敗退するのもそれほど不思議なことではありません。
コロンビアもギリシャもコートジボワールも強いです。
今大会、日本の敗因は多くの選手がベストコンディションに整えられなかったことではないかなと思います。
長谷部誠選手など故障明けの選手が何人もいましたし、本田圭佑選手や香川真司選手など、不調とみられる選手もいました。
4年に一度の大会、短期決戦にベストのコンディションで望むことの難しさが表れていたと思います。
個人的には2011年のアジアカップの時のチーム状態でこの大会に臨んでほしかったです。
アジアカップの時とその後しばらく見せてくれた、躍動感のある流れるような攻撃が見たかった。

これで終わったわけではないですし、また4年後に向けて新たなチームを作り上げていってほしいと思います。

「f植物園の巣穴」梨木香歩

2014-06-24 23:26:15 | 小説
今回ご紹介するのは「f植物園の巣穴」(著:梨木香歩)です。

-----内容-----
『家守綺譚』『沼地のある森を抜けて』の著者が動植物や地理を豊かにえがき、埋もれた記憶を掘り起こす長編小説。
月下香の匂ひ漂ふ一夜。
植物園の園丁がある日、巣穴に落ちると、そこは異界だった。
前世は犬だった歯科医の家内、ナマズ神主、愛嬌のあるカエル小僧、漢籍を教える儒者、そしてアイルランドの治水神と大気都比売神(おおげつひめのかみ)……。
人と動物が楽しく語りあい、植物が繁茂し、過去と現在が入り交じった世界で、私はゆっくり記憶を掘り起こしてゆく。
自然とその奥にある命を、典雅でユーモアをたたえた文章にのせてえがく、怪しくものびやかな21世紀の異界譚。

-----感想-----
古風な文章の、怪しさの漂う物語です

歯の痛い主人公が、歯医者に駆け込んだところから物語は始まります。
この歯医者、かなり奇妙な歯医者で、白衣を着た歯科医の家内がいつの間にか犬に変身しています。
犬の姿でせっせと働く歯科医の家内に驚く主人公。
歯科医曰く、「前世が犬で、忙しくてなりふり構っていられなくなると、犬の姿に戻る」とのこと。
冒頭から怪しい物語になっていました。

歯医者で処方された薬を飲み、眠りにつく主人公。
眠りにつくと今度は夢の中での話が展開されていきます
その夢は実に不思議で、次から次へと場面が切り替わり、謎の人物達が出てきます。
ナマズのような神主であったり、カエルのような子どもであったり、この世ならざる雰囲気の人達ばかりです。

真夏の夜の香り、月下香。
この言葉は興味を惹きました。
真夏の夜の香り。。。実在する植物でもあり、どんな香りなのか気になるところです。
月下香は主人公の妻・千代の好きな花でもあったとのことです。
そしてこの物語には「千代」という名前の人が三人も出てきます。
一人は妻の千代、一人は主人公の家に仕えて幼き日の主人公の面倒を見てくれた千代、もう一人はスターレストランの女給・御園尾千代。
特に妻の千代と幼き日の主人公の面倒を見てくれた千代の二人は、何度も断片的に語られていき、物語が進むにつれその姿が見えてきます。

そこで目が覚めた。
この言葉が表すように、主人公は常に歯医者と夢の中を行ったり来たりしています。
そして行ったり来たりしながら、自分の過去を段々と思い出していきます。

蝶の幼虫が食べる葉の種類はそれぞれ決まっているというのは興味深かったです。
アゲハチョウはミカン科の木のみを食します。
ダイダイやキンカンがミカン科で、意外なことに山椒もミカン科の木とのことです。
モンシロチョウの食草はアブラナ科で、大根やキャベツや菜の花を食べます。
私は小さい頃よく祖父と一緒に畑に行っていたのですが、そこには大根やキャベツ、菜の花があったのでモンシロチョウがたくさん飛んでいたし、芋虫もいました。
しかしアゲハチョウはこの畑ではあまり見なかったなと思いました。
どこかから飛んできて通りがかったりはしたかも知れませんが、モンシロチョウのように大根やキャベツとヒラヒラたわむれているような姿は見たことがないです。

物語の後半になって、ようやく主人公の名前が分かります。
その名は佐田豊彦。
名前が出てきてから、にわかに物語はクライマックスに向けて動き出していきました。
佐田豊彦が最初は「カエル小僧」と描写していたカエルのような子どもも、その正体が誰であるのか分かります。
佐田豊彦はどんどんと、自分の過去のことを思い出していきます。
どうやら主人公はあまり自分の過去を顧みないで突き進んできていたようです。
この物語は自身の過去を振り返る物語なのだと思います。

椋(むく)の巨木の大きな巣穴が、怪しの物語への入り口となっていました。
最後まで読んでみると「なるほどそういうことか」と納得する終わり方となっていました。
梨木香歩さん、独特な雰囲気の作品を書く面白い作家さんだなと思います


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「ビブリア古書堂の事件手帖5 ~栞子さんと繋がりの時~」三上延

2014-06-22 23:55:27 | 小説
今回ご紹介するのは「ビブリア古書堂の事件手帖5 ~栞子さんと繋がりの時~」(著:三上延)です。

-----内容-----
静かにあたためてきた想い。
無骨な青年店員の告白は美しき女店主との関係に波紋を投じる。
彼女の答えは――今はただ待ってほしい、だった。
ぎこちない二人を結びつけたのは、またしても古書だった。
謎めいたいわくに秘められていたのは、過去と今、人と人、思わぬ繋がり。
脆いようで強固な人の想いに触れ、何かが変わる気がした。
だが、それを試すかのように、彼女の母が現れる。
邂逅は必然――彼女は母を待っていたのか?
すべての答えが出る時が迫っていた。

-----感想-----
横須賀線北鎌倉駅の脇にあるビブリア古書堂。
ここを舞台にした古書ミステリーのシリーズ第5弾です。

今作の時系列は東日本大震災から2ヶ月前後の、2011年4月~2011年5月でした。
前作の「ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~」が終わってからすぐ後となります。

ビブリア古書堂は篠川栞子が店主をしていて、妹の文香と二人で暮らしています。
文香は高校三年生になりました。
そしてビブリア古書堂でアルバイトをしているのが五浦大輔です。
今作では冒頭から大輔と栞子の恋愛模様に焦点が当てられていました。
大輔は前作で栞子に告白をしています。
その返事を栞子から貰おうとしているのですが、待ってくれと言われ、なかなか返事が貰えません。
返事が貰えないまま、物語は進んでいきました。

彼女は古書店主の他にもう一つの顔を持っている。とてつもない量の読書から得た膨大な知識を活かして、古書をめぐる謎を解決する――俺はその手伝いのような役回りだ。
上記は五浦大輔による篠川栞子の描写です。
とてつもない量の読書というのが本当に凄くて、何か本の名前を出せば即座にその本の内容や著者にまつわる答えが返ってくるほどの驚異的な知識です。

しかしその栞子をさらに上回る圧倒的な古書の知識、頭の切れを持つ人物がいて、それが栞子の母、篠川智恵子です。
10年前に突如栞子たち家族の前から姿を消し、全く行方が分からなくなっていました。
その智恵子がついに栞子の前に姿を現したのが前作の「ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~」でした。
智恵子の古書へのあくなき探究心は普通ではない狂気じみたものがあり、希少価値の高い古書を追うために夫、栞子、文香の家族を捨てて10年もの間追い求めていたほどです。
家族よりも古書を優先する智恵子のことを当然栞子は快く思っていないし、憤りを感じています。
しかし栞子にもどこか母と似た危ういところがあって、いつか自分も母みたいに近しい人を捨ててまで古書を追い求めるようになってしまうのではと恐れてもいます。
今作でもそんな場面がありました。

古書についての会話で出てきた「黒っぽい本」、「白っぽい本」というのは印象的でした。
黒っぽい本というのは長い年月を経た古書や専門書を指すようです。
そしてここ何年かで刊行された新しい本は「白っぽい本」とのこと。

今作の第一話に出てきた女性が言っていた「主人は休日になると神保町へ出かけていって、どっさり本を抱えて戻ってきたわ」も印象的でした。
あの街はまさしく「古書の街」ですからね。
※世界最大規模の古書店街、神田神保町のフォトチャンネルをご覧になる方はこちらをどうぞ。

同じく第一話において、栞子は以下のことを語っていました。
「事情があって逃げてしまった人間が、辿り着いた先で静かに暮らしたいと願う……それは分からなくもありません。でも、誰かが逃げ出した後には、取り残される人間もいます……そういう人間にも、抱えている思いがあります」
これも印象的な言葉で、急にいなくなった母親に取り残された自分のことを思い出してもいるようでした。

第二話は手塚治虫の「ブラック・ジャック」を巡る話なのですが、ここでも印象に残る言葉がありました。
なんの問題も抱えず、苦労もせずに活躍し続けるクリエイターなんているはずがない。時代は変化するし、どんな天才でもスランプはあるだろう。
手塚治虫に人気の浮き沈みがあったという話の中で出てきた言葉です。
これはそのとおりだと思いますし、手塚治虫のような偉大な人であってもそういう時があったということです。

ビブリア古書堂の事件手帖のシリーズも後半に入っているため、段々とぞっとするような言葉も出てきます。
本というのは持ち主の頭の延長みたいなものだ。他人の頭の中身を知りすぎると、そのうちおかしくなっていく気がする。突然家族も仕事も捨てて、どこかへ行ってしまった人のように。
私はかつて「ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~」のレビューを書いた時に「あまりにも希少価値の高い古書は時として人を狂気にしてしまうんだなと思った」と書きましたが、このシリーズ第5巻では再びこの言葉を思い出しました。

「あなたはどうかしら、栞子。一冊でも多く読みたい、より多く、より深い知識を手に入れたい、そういう欲求を持っていないと言いきれるの?」
「人の感じること、思うことはすべて、読むものでしかないのよ」
「人と深く交わらなくても、人の心を知る力がわたしたちには備わっている」
いずれも篠川智恵子の言葉です。
”人の心を知る力”が印象的で、智恵子には相手の目や言葉から胸中を瞬時に見抜くほどの洞察力があります。
持っている本の傾向を見ただけでその人物の人となり、さらには心境まで見抜いたりもします。
たしかに智恵子であればわざわざその人物と深く関わらなくても色々なことを知ることが出来ると思います。
そして智恵子ほどではないにしても、その力は栞子にもあります。
母を嫌ってはいてもよく似たところのある二人なのです。
智恵子は栞子を極めて希少価値の高い古書を追い求めるパートナーにしようとしていて、今作では常に智恵子の影がちらついているような感じでした。

そして、シリーズ第一巻の「あまりにも希少価値の高い古書は時として人を狂気にしてしまう」の人物がまた、動き出そうとしています。
今作の終わり方を見ても、またしても狂気に走るようにしか見えなく、次作は波乱の展開になるのだろうなと思います。
智恵子の動きともども、次作を楽しみに待っていたいと思います


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「対岸の彼女」角田光代

2014-06-21 10:37:05 | 小説
今回ご紹介するのは「対岸の彼女」(著:角田光代)です。

-----内容-----
専業主婦の小夜子は、ベンチャー企業の女社長、葵にスカウトされ、ハウスクリーニングの仕事を始めるが…。
結婚する女、しない女、子供を持つ女、持たない女、それだけのことで、なぜ女どうし、わかりあえなくなるんだろう。
多様化した現代を生きる女性の、友情と亀裂を描く傑作長編。
第132回直木賞受賞作。

-----感想-----
35歳の田村小夜子と、同じく35歳の楢橋葵。
年齢が同じで、出身大学も同じの二人、この二人を中心に物語は進んでいきます。
物語は田村小夜子の視点で描かれる話と、高校時代の楢橋葵の回想の話とが交互に進んでいきます。

小夜子には夫の修二と、3歳の娘のあかりがいます。
ある日小夜子は葵が社長を務めるプラチナ・プラネットという会社の採用面接を受けました。
結果の電話が来て晴れて採用となり、葵の会社で働くことになった小夜子。
仕事の内容は旅行に行く人のお掃除代行業務、ハウスキーピングとのことです。
プラチナ・プラネットは元々は旅行会社で、そこからお掃除代行へと業務を広げようとしていました。
しばらくは研修で、葵は義母にあかりを預けての研修です。
義母が嫌味ばかり言う人で、研修初日から
「私は子どもたちが帰ってくるとき家にいない母親にはなりたくなかった、子どもにさみしい思いをさせてまで働く人の気が知れない」
などと玄関を出る小夜子の背中に嫌味をぶつけていました。
小夜子はうんざりしながら、こういう人なんだから仕方ないと諦めの境地です。

もう一つの話は葵の高校時代の話。
高校一年生の入学式の日から回想は始まります。
葵は中学校の卒業式までは神奈川県の横浜市磯子区のマンションに住んでいました。
葵は中学校時代、酷いいじめに遭っていました。
やがて学校に行けなくなりました。
そこで家族で母の実家がある群馬県に引越し、高校は知っている人の誰もいない群馬の女子高校に通うことにしたのでした。
高校の入学式で葵に話しかけてきたのが野口魚子(ナナコ)。
魚の子どもと書いてナナコと読む珍しい名前です。
葵とナナコの関係はちょっと変わっていて、クラスは同じなのに教室ではほとんど話さず、しかし学校の外に出ると二人でよく話しています。
葵は何人かのグループに入っていて、ナナコはどこにも属さず、昼休みは派手なグループから爪の磨きかたを習っていたり、体育の直前は体育会系グループに混ざって張り切っていたりと、自由に動き回っていました。
そんなナナコを葵はいつかクラスから疎まれていじめに遭うのではないかと心配しています。
そしてそのナナコと仲が良いということで自分もいじめられるのではと葵は恐れていて、学校の中に居る時はナナコと話せないようです。
凄いのはナナコで、葵からその胸中を告白された時も「それでいい、私が無視とかされてもアオちんはべつになんにもしないでいいよ」と全てを受け入れたようなことを言っています。
この境地にはナナコが育った環境が大きく関わっているようでした。

小夜子の物語のほうは、段々と研修が進んでいって、プラチナ・プラネットの他の社員も研修に参加していくのですが、あまりにハードな研修に社員達は不満タラタラです。
やがて「元々旅行会社なのに、なんでこんなことにまで手を回してるんだ」と社員達は葵への不満を口々に言います。
社長と社員達の間に確執が渦巻いていきました。
真面目に研修に取り組み、お掃除代行業務を真剣に考えていたのは小夜子だけだったような気がします。

小夜子にとって葵は、何でも話せる存在になっていました。
「義母のことも、夫の不用意な発言も、口に出せば喜劇性を帯び、すぐに忘れられる。言わずにためこむと、些細なことがとたんに重い意味を持ち、悲劇性と深刻味を帯びる。そして葵になら、小夜子は躊躇なく話すことができた。
たしかに口に出さずに我慢しているとどんどんストレスが溜まっていきますし、話すことが出来る相手は貴重な存在だと思います。

小夜子の物語のほうで、会社の事務所で葵が言っていた言葉で印象的なものがありました。
「観衆の心をとらえる方法はひとつしかない。それは誠実かつ謙虚な姿勢で観衆に訴えかけること」
フランク・シナトラの名言とのことで、歴史上の著名な人の名言がよく出てくる伊坂幸太郎さんの作品が思い浮かびました。
そしてたしかに誠実かつ謙虚な姿勢がなければ観衆は振り向いてはくれないと思います。

葵の回想の物語は、高校二年生の夏へと進み、葵とナナコは伊豆急行の今井浜駅からバスで10分くらいのところにある「ペンション・ミッキー&ミニー」でアルバイトを始めました。
二人の運命が大きく変わる夏です。
夏の間ペンションに住み込んでのアルバイトで、夏の終わりにアルバイトも終わるのですが、その後がまさかの展開になっていきました。
横浜のポルタやジョイナス、モアーズやルミネといった名前が出てきたのは横浜と縁のある私には場所の想像がつきやすかったです。
「あたし、ナナコと一緒だとなんでもできるような気がする」
葵がナナコに言った言葉です。

そして小夜子の物語ではこんな言葉が出てきます。
「楢橋さんといっしょだと、なんだかなんでもできそうな気がする」
葵の言葉と全く同じでした。
葵は自らの過去を思い出したことでしょう。
やがて小夜子は葵の過去に気付きます。
決定的に亀裂が入るのか、それとも色んな心境を乗り越えてまた一緒に進んでいくのか、最後の展開は興味深かったです。


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「つむじダブル」小路幸也/宮下奈都

2014-06-18 23:09:06 | 小説
今回ご紹介するのは「つむじダブル」(著:小路幸也、宮下奈都)です。

-----内容-----
本邦初!?人気作家二人がつむぐ話題の合作!
小路幸也が兄の視点、宮下奈都が妹の視点で描く、家族の「ひみつ」の物語
小学生のまどかと高校生の由一は、年の離れた仲のよい兄妹。
ふたりとも、つむじがふたつあり、お母さんは「つむじダブルは幸運の証」と子どもたちに話している。
ある日、まどかがひとりで留守番をしていると、ひとりの女性から電話がかかってきた。
お母さんは知らないひとだと言うのだけど、なんとなく様子がおかしくて――
兄妹それぞれの想いが胸に響く、やさしい家族の物語。

-----感想-----
「つむじダブル」という一つの作品を二人の作家が交互に書いていくという珍しい小説です。
10歳の小学四年生、小宮まどかが語り手の章は宮下奈都さんが書いています。
17歳の高校二年生、小宮由一が語り手の章は小路幸也さんが書いています。
この二つが交互に語られながら物語は進んでいきます。

二人の兄妹は年は離れていますがとても仲良しで、まどかにとってバンドをやっていて格好も良い由一は自慢の兄です。
由一はキーボードとボーカルをやっています。
まどかのほうは柔道をやっていて、将来は家の道場の跡継ぎになりたいと思っています。
二人の家があるのは江ノ電沿いのようで、鎌倉のどこかかなと思いました。
由一のバンド仲間の住んでいる場所に「長谷」という地名が出てきて、過去に「長谷寺の紫陽花」「長谷寺を散策」のフォトギャラリーを作っていたので、場所のイメージが湧きました。

由一のバンドは由一、ザキ、マサヤ、ナルちょんの4人組です。
よく小さなライブハウスでライブもやっていて、いずれはプロになりたいと考えています。
バンドの名前は「Double Spin Round」。
ふたつのぐるぐる巻きという意味で、「つむじがふたつ」ということです。
なぜこのバンド名になったかのきっかけは、まどかにつむじが二つあったからとのことです。
「つむじダブルは強運」「つむじダブルはしあわせの証拠」といった言葉がまどかの口からよく出てきます。

この物語は、「感性」の物語。
まどかと由一それぞれが直面した出来事とそれに対して感じたこと、心境が描かれていました。
等身大の文章で好印象でした
物語に大きく関わってくるのが二人の母の小宮由美子。
旧姓山口由美子。
なぜか元アイドルと親友だったり、母には何やら「秘密」があるようなのです。
その秘密につながると思われる人達が徐々に二人に関わってくるようになります。
ある日芦田伸子という女性から電話がかかってきて、電話に出たまどかはその人物のことが気になりました。
由一のほうはDouble Spin Round(略してDSR)のライブ後に石郷プロモーションのプロデューサー、石郷樹(いしごうじゅう)なる人物から「メジャーになる気はあるか」とスカウトを受けたりもしました。
この人物もどうやら、二人の母のことを知っているようなのです。

まどかはまだ10歳ではありますが、相手の心の機敏を察知できるようになっていて、お母さんが何か「秘密」を持っていることに気付き、不安を感じていました。
そして由一もスカウトを受けたことから何やら上の空で、それもまどかから見るといつもと違っていて「どうしたんだろう」と思っていました。
母の由美子も由一もまどかのことをまだまだ子どもと思っていますが、いつの間にか感性が成長していて、由美子と由一のいつもと違う様子に気付いていたのです。

やがて最後は、お母さんの秘密が明らかになります。
ただおどろおどろしい事件の犯人とかではないので、安心して読んでいられました。
本の表紙も良く、物語の雰囲気も良く、読んで正解の良い作品でした


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「美女と竹林」森見登美彦

2014-06-16 22:11:26 | 小説
今回ご紹介するのは「美女と竹林」(著:森見登美彦)です。

-----内容-----
「これからは竹林の時代であるな!」
閃いた登美彦氏は、京都の西、桂へと向かった。
実家で竹林を所有する職場の先輩、鍵屋さんを訪ねるのだ。
荒れはてた竹林の手入れを取っ掛かりに、目指すは竹林成金!
MBC(モリミ・バンブー・カンパニー)のカリスマ経営者となり、自家用セグウェイで琵琶湖を一周……。
はてしなく拡がる妄想を、著者独特の文体で綴った一冊。

-----感想-----
森見登美彦氏自らを主人公にした、エッセイのような自伝的小説のような物語。
一人称は「登美彦氏」。
「エッセイのような自伝的小説のような」としているのは、ある程度自分の身の回りのことをエッセイ風に書いてはいるようなのですが、妄想が入ってぶっ飛んだ内容になっていて、どこまでが本当の話でどこからがフィクションなのかがよく分からなくなっているからです。

この雰囲気は「宵山万華鏡」に少し似ているとも言えます。

冒頭から
「森見登美彦氏は、今を去ること三年前、大学院在学中に一篇のヘンテコ小説を書いて、ぬけぬけと出版界にもぐりこんだ人物である」
とあってウケました(笑)
このヘンテコ小説とは「太陽の塔」のことです。
森見登美彦氏は京都大学農学部卒、さらに京都大学大学院農学研究科修士課程修了という農業学の王道を歩んだような経歴の人で、ここから大学院在学中に小説家への道を進んだのはかなり異例のことだと思います。

エッセイ風の作品だけあって、赤裸々な執筆事情も綴られていました。
「なりふりかまわずに大団円へ持ちこもうとしつつある『夜は短し歩けよ乙女』という小説」とあって、あれはなりふりかまわずに物語を終わらせていたのか…と思ったりもしました(笑)

登美彦氏は2006年の晩夏の夕暮れ、吉田山のふもとにある喫茶店にて、お気に入りのめんたいこスパゲティを食べていました。
小説家としての将来を不安視していた登美彦氏は思案に耽っていて、そして思いつきました。
「多角的経営!これだ!これしかない」
こうして登美彦氏は小説家の職業だけでは不安なので竹林ビジネスを始めることにしました。
ちなみにこの作品によると登美彦氏が大学院の研究室に在籍していた頃、研究対象は竹だったとのことです。

この当時登美彦氏は小説家をしつつ、職場で働いてもいたようです。
その職場の先輩に「鍵屋さん」という人がいて、鍵屋さんの実家が京都の桂にあり、竹林を所有しています。
鍵屋さんから竹林を刈る許しを得て、竹林整備に乗り出す登美彦氏。
内容紹介欄にあるような、とんでもない未来を夢見ているようでした。

竹林伐採は人生と同じである。彼の前に道はなく、彼の後ろに道ができる。
これは何だか良い表現でした。
あちこちに妄想が入ってはいますが、たまにシリアスな決め台詞的なものが出てきます。


登美彦氏は親友の明石氏に頼んで一緒に竹林を刈っていました。
しかし二人ともパワー系ではないので、すぐに体力的に限界になってしまいます。
この二人は「机上の空論(登美彦氏のこと)と司法試験勉強(明石氏のこと)にそれぞれ特化」とあって、まあこの二人で竹林を伐採するのは無謀だなと思いました。
明石氏は司法試験が近付いてきたため途中で離脱し、代わりに登美彦氏の担当編集の人達が援軍としてやってきたりもしました。

また、河原町BALのジュンク堂にて、「きつねのはなし」刊行記念としてサイン会を行ったとありました。
狐のお面をつけた関係者が威嚇する、たいそう薄気味の悪いサイン会だったとのことで、本当かどうか分かりませんが想像するとたしかに怖いなと思います

職場の同僚の恩田さんと桃木さんは、「聖なる怠け者の冒険」に出てきた、「充実した休日」を送ることに血道を上げている恩田先輩とその彼女の桃木さんのモデルになったのだろうと思いました。
結構森身見さんの作品を読んでいるので、こういうのが分かって面白かったです。

「登美彦氏が暮らしていた四畳半王国においては」などともあって、やはり登美彦氏は四畳半で暮らしていたのだなと思いました。
この経験が「四畳半神話大系」「四畳半王国見聞録」の執筆へと氏を導いたのでしょう。

竹林を刈りに行く道中、桂駅で降り立つのですが、「桂駅に降り立つ人間は、みな『阪急蕎麦』を食べなくてはいけない」とあって、阪急蕎麦がどんなものなのかちょっと興味を持ちました。
作中では食べるのが恒例になっていました。
ちなみに、竹林を整備するのがメインの題材のはずなのに、登美彦氏は色々やることが山積していてなかなか竹林を刈りに行くことができません。
その言い訳として色々な作品を執筆中だったらしく、「新釈 走れメロス 他四篇」「宵山万華鏡」のトップバッターを飾った「宵山姉妹」の名前が出ていました。
これらの執筆の大変さを熱弁し、竹林整備をさぼっているのを必死に正当化しているのが何とも面白かったです。

あと、2007年の本屋大賞で「夜は短し歩けよ乙女」が2位になったことにも言及がありました。
この作品によると、登美彦氏は本屋対象の授賞式に出席していたとのことです。
その受賞式会場での狼藉行為は本当なのか妄想なのか、よく分かりません(笑)
この時の上位三作品は

1位 「一瞬の風になれ」(著:佐藤多佳子)
2位 「夜は短し歩けよ乙女」(著:森見登美彦)
3位 「風が強く吹いている」(著:三浦しをん)

で、三作品全て読んだ私としては、この順位付けは妥当であったと思います。
「夜は短し歩けよ乙女」はその後「山本周五郎賞」を受賞しましたし、この辺りから登美彦氏の作家としての地位が磐石になっていったのではないかと思います。

本作「美女と竹林」で勉強になったのが、竹は百年に一度一斉に花を咲かせ、花が咲くと今度は一斉に枯れてしまうということ。
竹にそんな性質があるとは知りませんでした。

そして、なぜ本作のタイトルが「美女と竹林」なのか。
鍵を握るのはかぐや姫と本庄まなみさんかなと思います(笑)
美女は竹林であり、竹林は美女である、等価交換の関係にあると謎の理論を登美彦氏は語っていました。
最初から最後まで実話と妄想の境界線の見極めがつかない、くるくる回る万華鏡の世界に迷い込んだような作品だったなと思います。


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ワールドカップブラジル大会

2014-06-15 22:52:41 | スポーツ
先日からいよいよ始まったサッカーのFIFAワールドカップブラジル大会
EURO 2008(2008年欧州選手権)、2010年ワールドカップ南アフリカ大会、EURO 2012(2012年欧州選手権)とメジャーな大会を三連覇中で、FIFAランキングもずっと1位、名実ともに無敵艦隊と言われるスペインが、リーグ戦の初戦でオランダに1対5で大敗する波乱がありました。
開催国のブラジルはクロアチアに3対1で勝利。

そして本日の日本時間10時から行われた日本対コートジボワールの試合。
日本は前半に本田圭佑選手のゴールで先制しましたが、後半にコートジボワールの英雄・ドログバ選手が投入されてから流れが一変。
わずか2分の間に立て続けに2点奪われ、あっという間に1対2で追い掛ける展開に。
そのまま追いつくことは出来ず、1対2で敗れてしまいました。

前半のラストもそうでしたが、後半も途中から足が止まってしまっていました。
立て続けに2点取られた時も、動きが鈍くなっていたように見えます。
現地のコンディションが相当体力を消耗させるのかも知れません。
ただしそれは相手も同じなので、コートジボワールのほうが上手だったということです。

日本、敗れはしましたが、ここは最小失点差で済んで幸いと考えたほうが良いです。
あの流れではもっと崩れていてもおかしくなかったです。
ここはぜひ気持ちを切り替えてほしいと思います。

試合終了の直後、リアルタイムでツイッターを見ていたら悲観的な意見が結構ありましたが、前回大会の覇者・スペインは初戦まさかの敗戦から巻き返して決勝トーナメントに進んでいます。
日本も諦めるのはまだ早いです。
ぜひ次戦のギリシャ戦で勝利し、決勝トーナメント進出へ突き進んでいってほしいです
頑張れ日本

「きつねのはなし」森見登美彦

2014-06-14 14:48:50 | 小説
今回ご紹介するのは「きつねのはなし」(著:森見登美彦)です。

-----内容-----
「知り合いから妙なケモノをもらってね」
籠の中で何かが身じろぎする気配がした。
古道具店の主から風呂敷包みを託された青年が訪れた、奇妙な屋敷。
彼はそこで魔に魅入られたのか(表題作)。
通夜の後、男たちの酒宴が始まった。
やがて先代より預かったという”家宝”を持った女が現れて(「水神」)。
闇にわだかまるもの、おまえの名は?
底知れぬ謎を秘めた古都を舞台に描く、漆黒の作品集。

-----感想-----
物語は以下の四編で構成されていました。

きつねのはなし
果実の中の龍

水神

四つの作品は全くの無関係というわけではなく、それぞれ少しずつ繋がっているものがあります。
芳蓮堂という古道具屋であったり、謎のケモノであったり。
どの作品にも狐に似た胴の長い謎のケモノが出てきて、すごく不気味でした
一番面白かったのは表題作にもなっている「きつねのはなし」でした。

京都の一乗寺に芳蓮堂という古道具屋があります。
店主はナツメさんという30歳過ぎくらいの人です。
語り手はそこでアルバイトをする大学三回生の武藤。

物語に大きく関わってくるのが天城さんという変わったお客さん。
長い坂の上にある古い屋敷に住んでいて、裏手には常暗い竹林があります。
ある日、武藤が天城さんのもとへ行くことになった時、ナツメさんが言いました。

「お礼は後日、私が直接お持ちすると伝えて下さい。あなたは何をする必要もないのですよ。天城さんが冗談であなたに何か要求するかもしれませんが、決して言うことを聞いてはいけません。どんな些細なものでも決して渡す約束をしないで下さい。あの人は少し変わった人なのです」

武藤にくっつくほど額を寄せてゆっくりと語られたこの警告。
天城さんという人がただごとではない危険人物だということが窺える場面でした。
しかし武藤はつい天城さんのペースに乗せられ、部屋にある電気ヒーターが欲しいという天城さんにそれを渡してしまいます。
一件何事もなく日々が過ぎていくと思われましたが。。。
今度は天城さんが「探しているものを見つけてきてくれれば、ヒーターは返そう」と言ってきます。
その探しているものとは「狐の面」
ふとしたことで天城さんが探しているものと思われる狐面を見つけた武藤は、狐面とヒーターを交換。
ただし今度はその狐面が必要になって、武藤は天城さんに狐面を返してくれと頼みにいきます。
そこでもやはり狐面とある物を交換することになるのですが…
この交換がとんでもない事態を招いてしまいます。
何とかそれを返してくれと迫る武藤に天城さんは

「もう君は私の欲しいものを持っていない。可哀相に」

と冷たく突き放します。
顔に狐の面を被ってそんなことを言う天城さんを想像すると何とも不気味だなと思います。
全ての展開を見通したようなところのある天城さんに対しては、最初の要求に応じてしまったのが致命的な間違いでした。
終わり方もホラーチックで、おそらくナツメさんがそうしたのだと思いますが、なかなか謎めいた物語でした。

この作品は四編とも森見登美彦さんにしては珍しくシリアスな文章構成になっていました。
淡々とした語りになっていて、普段の独特な笑える言い回しが出てきません。
どの作品もミステリアスであり、ホラーの要素も含んでいて、森見登美彦さんの作品の中ではかなり珍しい部類になると思います。
私としては初めて読む森見作品としては「夜は短し歩けよ乙女」「有頂天家族」などの楽しい作品をお勧めしたいところです。
何作品か読んでからのほうが、この異色の作品を読むには良いのではないかと思います。


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