今回ご紹介するのは「かがみの孤城」(著:辻村深月)です。
-----内容-----
あなたを、助けたい。
学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。
輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。
そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。
すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。
一気読み必至の著者最高傑作。
2018年第15回本屋大賞受賞作。
-----感想-----
近年色々あり、人間の心に迫ることも多い辻村深月さんの作品は読むのをためらっていました。
しかし「かがみの孤城」が今年の本屋大賞を受賞したニュースを見た時、「これはぜひ読まなくては」という強い思いに駆られ、書店に行って手に取りました。
「第一部 様子見の一学期」
主人公は南東京市にある雪科(ゆきしな)第五中学校一年生の安西こころです。
学校には4月しか行くことができず5月になると休むようになり、毎日家で過ごしながら学校に行けない自身に苦しんでいました。
カーテンの布地の淡いオレンジ色を通し、昼でもくすんだようになった部屋は、ずっと過ごしていると、罪悪感のようなものにじわじわやられる。自分がだらしないことを責められている気になる。
これは印象的な言葉で、カーテンを閉め切った部屋で絶望しているこころの姿が思い浮かびました。
こころは「心の教室」という不登校の子が通うスクールに行こうとしましたが最初の日の朝に普段中学校に行けない時のようにお腹が痛くなり行けなくなります。
そんなこころを見て母親はうんざりした目を向け仮病を疑い、こころが胸中で「仮病じゃない」と繰り返しているのが印象的でした。
いつものようにおなかが痛い。仮病じゃない。本当に痛い。
行かないんじゃなくて、行けない。
これは気持ちはスクールに行こうとしていますが、朝になると自身の意思とは無関係にお腹が痛くなって行けないということです。
中学校だけでなくスクールに行こうとしてもお腹が痛くなるのが印象的で、中学校での辛い経験で身体が「学校」的なものに拒否反応を示し、それが腹痛となって現れるのだと思います。
母親とスクールの見学に行った日、こころは責任者の先生が母親に「小学校までのアットホームな環境から、中学校に入ったことで急に溶け込めなくなる子は、珍しくないですよ」と言っているのを聞きます。
こころは「そんな、生ぬるい理由で、行けなくなったわけじゃない。」と胸中で語っていて、何があったのか気になりました。
スクールに行けなかった日のお昼、母親が家に電話をかけてきて「これからだよ、がんばろう!」と言います。
私は苦しんでいる人に頑張ろうという言葉は使わないほうが良いと思います。
今が頑張っていないように聞こえると思います。
こころの家には同じクラスの東条萌が毎日ポストに学校の手紙を入れに来ていて、こころは東条が来ると凄く緊張します。
東条は新学期が始まって少しした頃に転校してきて、最初はこころと仲が良かったです。
しかしこころは同じクラスの真田美織(みおり)達に目をつけられ、無視されたり陰口を言われたりするようになり東条も離れていきます。
こころは感受性が豊かで、さらに物事を常に悪いほうに考えているのが印象的です。
相手が自身のことを悪く思っているのではと気にしていました。
ある日、こころの部屋にある鏡が光り輝き、手を触れると鏡の向こうに引きずり込まれます。
鏡の向こうでは城の前に立っていて、狼の面をつけた少女が「安西こころさん、あなたは、めでたくこの城のゲストに招かれましたー!」と言います。
こころは怖くなって逃げようとしますが少女は「願いが叶うんだぞ!平凡なお前の願いをなんでも一つ叶えてやるっつってんだ!話、聞け!」と言って捕まえようとします。
もう一度鏡の中に入って逃げていくこころに少女は「明日は来いよ!」と言い、乱暴な口調なのが印象的です。
翌朝また鏡が光りこころは中に入っていきます。
今度は城の中に入り、こころと同じ中学生くらいの子どもがこころを入れて7人いました。
狼面の少女は自身を”オオカミさま”と呼べと言います。
そして「この城の奥には、誰も入れない、”願いの部屋”がある。入れるのは一人だけ」と言い、さらに次のように言います。
「お前たちには今日から三月まで、この城の中で”願いの部屋”に入る鍵探しをしてもらう。見つけたヤツ一人だけが、扉を開けて願いを叶える権利がある」
城が開いているのは今日から3月30日までで、毎日城が開くのは朝9時から夕方5時までです。
5時には鏡を通って家に帰らなければならず、城に残っていると巨大な狼に食われるという恐ろしいペナルティーがあります。
他の6人はマサムネ、アキ、スバル、ウレシノ、フウカ、リオンです。
右ページの右がこころ、左上がマサムネ(中学2年)、左下がオオカミさま。
左ページの右上がアキ(中学3年)、右下がスバル(中学3年)、左がウレシノ(中学1年)。
上がフウカ(中学2年)、下がリオン(中学1年)。
こころは6人を見て次のように感じていました。
ジャージ姿のイケメンの男の子(リオン)、ポニーテールのしっかり者の女の子(アキ)、眼鏡をかけた声優声の女の子(フウカ)、ゲーム機をいじる生意気そうな男の子(マサムネ)、ロン(ハリー・ポッターの登場人物)みたいなそばかすの、物静かな男の子(スバル)、小太りで気弱そうな、階段に隠れた男の子(ウレシノ)。
7人にはハワイの学校に行っているリオン以外は学校に行っていない共通点があります。
やはりこころは感受性が豊かで、再びお腹が痛くてスクールに行けないと言った日、「お母さんは、挨拶すら、今朝はしていってくれなかった」と気にしていました。
さらに初めて城に行った日、他の6人が自身より先に家に帰ったのを知り、仲間外れにされていないかと心配していました。
周りをとても気にしているのが分かります。
こころには叶えたい願いがあります。
真田美織が、この世から消えますように。
真田美織への恨みの深さが分かる怖い言葉でした。
こころが最初の日以来初めて城に行くと、マサムネとスバルがいます。
マサムネは鍵を探していますがスバルはあまり興味はなくマサムネの鍵探しに協力しています。
マサムネの両親が「あんなレベルの低い学校には行かなくて良い」と言っていることにこころは驚きます。
マサムネ、スバルと話した日、こころは
「ここに来るのは、怖くない。」と思います。
こころが初めて周りを怖がらなくなった場面で印象的でした。
アキのコミュニケーション能力の高さにこころは驚嘆し、こんな人がどうして学校に行けないのかと思います。
しかしこころが部活の話をするとアキは途端に冷めた反応になり、あまり学校関係の話はしたくないようです。
こころがウレシノに「よろしく」と言うとウレシノは「ライバル、増えちゃったな」と言い、それを聞いてこころは体が固まります。
「穏やかそうな人だって思ってたのに」と胸中で語っていて、相手のことをどんどん考え込んでいくのが分かりました。
ウレシノはアキが好きで、願いの鍵で叶えたい願いはアキと付き合うことです。
しかしとても惚れやすい体質で、今度はこころに惚れてやたらと話しかけるようになります。
そんなウレシノを見てフウカが「ばっかみたい」と言い、その声を聞いてこころは二度と思い出したくない声を思い出します。
「ばっかじゃないの、マジ死ね」
少しずつこころに何があったのか明らかになっていきます。
こころは男子と一緒にいるところを極力、他の女子に嫌な感じに見られないように気を遣ってきたとあり、男子が原因で真田美織に酷い目に遭わされたことが分かりました。
真田美織は池田仲太(ちゅうた)に告白して付き合います。
池田はこころが小学校6年生の頃に同じクラスだった子で、当時こころのことが好きでした。
真田美織はそれでこころを逆恨みし、ある日池田にこころと話をさせ、「俺、お前みたいなブス、大嫌いだから」と言わせます。
真田美織は離れた位置からその様子を見ていて、「仲太、お前のことなんか好きじゃねえんだよ!」「無視してんじゃねえ、ブース!」「ばっかじゃないの、マジ死ね」と言ってきます。
私はこれを見て真田美織は最低だなと思いました。
自身が付き合うことにした池田が他の子のことを好きだったのが許せず排除しようとしたのだと思いますが、池田の心を独占するためなら他人に平気で罵詈雑言を吐けるのはそれだけ内面が醜いということです。
そんな姿を見れば池田の心は遠からず離れていくと思いました。
こころは休みの日も家に籠っていて、「家の外に出てクラスメートに会ってしまったらどうしようと考えると気持ちが悪くなった。想像するだけで、足がすくんだようになる。」とありました。
これは学校に行っていない自身の姿をクラスメートに見られる嫌な場面が頭をよぎり、気持ちが押し潰されて動けなくなるのだと思います。
ウレシノに困っていたこころですが、何とウレシノは今度はフウカを好きになります。
アキの誘いで女子三人で食堂でお茶をします。
城には水道もガスも来ていませんが電気だけは来ていて、これは物語の最後で明らかになる城の正体につながっていました。
フウカが「こころちゃん」と呼んでくれてこころは嬉しくなります。
こころは二人に真田美織のことを話します。
ある日、真田美織がたくさんの友達を引き連れてこころの家に押し掛けます。
友達は乱暴に家の扉を叩き「出てこいよ、いるんだろ」などと言い、真田美織は「出てこい!卑怯だよー!」と言います。
何がどう卑怯なのかさっぱり意味不明な主張です。
家に押し掛けられたこころは恐怖で震えていました。
真田美織は「どうして出てこないの、ひどい」「卑怯だよ、こんなの」と泣きながら言い、なぜか自身を「卑怯なこころに苦しめられる可哀想な私」という被害者のポジションに置いていました。
私はこの手の、どう見ても非道で下劣なことをしているのは自身なのに、相手のせいにして被害者のポジションを取ろうとするような人は嫌いです。
そんな真田美織達をこころは「あの子たちの世界は、どこまでも自分たちに都合よくしか、回っていなかった。」と語っていて、そのとおりだと思いました。
「許せない」と誰かが言うと、こころは次のように思います。
許さなくていい、とこころは思った。
私も、あなたたちを絶対に、許さないから。
家への押し掛け事件で心が破壊され、翌日から学校に行けなくなります。
私も真田美織の所業は最悪であり、報いを受けさせるべきだと思います。
私の考えた案は次のようになります。
真田美織のような、口と立ち回りが上手く友達や先生を味方につけて好き放題やるタイプを始末するには、学校内に外道ぶりを見抜いている人がいるのを思い知らせるのが良いと思います。
真田美織のようなタイプは相手には平気で酷いことをしますが、その行為がばれて自身の評判や内申が悪くなり進学に響いたりするのは恐れる傾向があるように見えます。
なので、まず教師達に真田美織が嫌がらせをしたり罵詈雑言を浴びせたりしているのを伝えるのが良いと思います。
教師達に知らせることによって徹底して大問題化させ、真田美織の悪辣さに学校中の注目が集まるようにするのが重要です。
担任の先生が公平な立場で見てくれる人なら担任の先生に言い、真田美織に取り込まれているようなら学年主任の先生や保健室の先生など、他の先生に助けを求めるようにします。
その先生が真田美織の悪辣さを知れば全く何もしないことは考えずらく、教師達に悪辣さが知らされ、いずれかの先生が必ず真田美織を呼び出すことになると思います。
そこで真田美織は「自身の悪辣さを先生に知られている」ことを知ることになり、プレッシャーを与えることができます。
真田美織は口と立ち回りが上手いため、相談する先生に「口と立ち回りが上手いので被害者のふりをすると思いますが、実際には私にこのような悪辣なことをしています」という伝え方にするとより良いです。
二人に真田美織のことを打ち明け終え、こころは涙を流します。
それまで心が凍り付き涙も流さずにいたこころが初めて涙を流し、これは良い傾向だと思いました。
夏休みになり、こころは父に「これでお前、世の中から浮かないぞ」と言われショックを受けます。
かなり無神経な発言で、「学校に行けない」を「学校をさぼっている」と勘違いしている人はこのような認識になるのだと思います。
しかし母はこころをかばってくれ、この頃にはこころを仮病扱いはせずスクールに行けとも言わなくなっていました。
「心の教室」の喜多嶋先生という女性の先生と連絡を取り合ってアドバイスを受けていました。
城に来てアキやフウカに会うことはこころにとって何よりの楽しみになっていました。
しかしフウカとは学校の話が少しずつできるようになりましたが、アキには相変わらず話題に出してはいけない雰囲気があります。
ある日こころはフウカの誕生日プレゼントを買いに近所にあるカレオというショッピングモールに行こうとして、これは勇気が要ると思います。
久しぶりに家の外に出ると、雪科第五中学のジャージを着た男子二人の姿を見て足がすくみます。
男子二人が話しているのを見て、
「自分のことを悪く言ってるんじゃないか」という気持ちになるとありました。
こころはショッピングモールまではとても行けないことを悟ります。
ショッピングモールには行けなかったものの、より近所にあるコンビニでプレゼントを買ったこころはフウカに渡そうとしますが、フウカは夏期講習に一週間くらい行き城に来なくなります。
普段は女子三人でいることが多い食堂に珍しくリオンがやってきて、プレゼントを渡せなくて残念だったなと言い、その言葉を聞いてこころはショッピングモールに行けなかったことなどの胸のつかえが取れます。
こころと同じくマサムネも夏休みになってからもずっと城に来続けていました。
マサムネがこころに携帯ゲーム機を貸してくれると言いますが、こころがRPGはあまりやったことがないと言うと途端に不機嫌になります。
その日の午後マサムネが城に来なくなり、こころは「もう、あのオタク!」と呟きながらソファに載ったクッションを叩きます。
こころが怒るのを初めて見て、心が凍り付いた状態から変わってきているのが分かりました。
こころが城に行っている時に母が帰ってきて不在を知り、どこに行っていたのかと聞かれ、本当は苦しくて出掛けられないのに出掛けていたと言うしかないのが辛いとありました。
こころは胸中で「どうして、あの場所に黙って行かせておいてくれないのだろう。こころに、過ごし方をまかせておいて、くれないのだろう。」と語っていましたが、親は不登校の娘が昼間いなくなっていれば当然心配すると思います。
こころが一日休んで城に行くと、スバルが髪を茶色に脱色してピアスをしていて驚きます。
スバルは常に紳士的に爽やかにこころに接していたのでちゃらくなったのは意外でした。
またウレシノが突然二学期から学校に行くと言います。
「第二部 気づきの二学期」
今度はアキが髪を赤色に染めて香水を付けて現れます。
城に来ている子達に次々と変化が現れそれぞれ何かが起きているのだと思いました。
また、フリースクールに親が連れていかなかったかというマサムネの問いかけにフウカが「お母さん、忙しいから」と目を伏せて言う場面があり、フウカは母親と何かあるのだと思いました。
9月の中旬、学校に行くと言っていたウレシノが傷だらけの姿で再び現れます。
ウレシノの家は裕福で、中学になってから友達になった子達に出掛けた時のマック代などを何度か奢っているうちに段々それが当然のように接してくるようになり、友達の子達は変になっていきました。
喜多嶋先生がこころの家を訪ねてきます。
喜多嶋先生はなぜスクールに来ないのかやなぜ学校に行けないのかを聞いたりはせず、単に久しぶりにこころに会ってみたくて来たと言います。
こころが学校に行けないのはこころのせいではないと母に言ってくれていて、なぜ言ったのかを聞くと次のように言います。
「だって、こころちゃんは毎日、闘ってるでしょう?」
「闘ってる?」
「うん。――これまで充分闘ってきたように見えるし、今も、がんばって闘ってるように見えるよ」
自身の苦しさを知ってくれ、包み込むように穏やかに話す喜多嶋先生の存在は大きいと思います。
喜多嶋先生もかつて雪科第五中学校の生徒だった人で、物語の終盤になると包み込むような穏やかさは中学校の頃の辛い人生経験によってもたらされたものだと分かります。
10月にマサムネとアキから提案があり、全員で協力して鍵を探すことになります。
マサムネとアキはどちらもこっそりと鍵探しを真剣にやっていましたが一向に見つからないため、このまま3月30日まで見つからずに終わるよりは全員で協力して探し、見つかったら誰が願いを叶えるかはまた話し合うとなりました。
また誰かが鍵を見つけた場合、みんなギリギリまで城に居たいと思っているので3月30日まで願いを叶えないことも約束します。
久しぶりにオオカミさまが登場し、誰かが願いを叶えると全員城での記憶を失うこと、願いを叶えなければ記憶は失わないことが伝えられます。
願いを叶えればここで出会った彼らのことを忘れてしまうことにこころは衝撃を受けます。
リオン以外の5人も雪科第五中学校の生徒だと分かります。
リオンはハワイの学校に行っていますが最初は雪科第五中学校に通う予定でした。
雪科第五中学校に通う予定で通えなかった子が集められていることが明らかになります。
こころは「心の教室」が自身と同じ名前なことに気まずさを感じています。
しかし城で「心の教室」の話になった時胸中で次のように語っていました。
学校の子たちと違って、ここのメンバーがそのことをからかったりすることは絶対ないはずだ。そう、こころは確信していた。
これを見てこころがみんなを信頼しているのがよく分かりました。
担任の伊田先生が母に電話をしてきて、家に来てこころに会うと言います。
伊田先生はこころと真田美織が喧嘩したのではと言っていて、まるでこころも悪いかのような言い方にこころは愕然とします。
伊田先生は真田美織に取り込まれているのが分かりました。
母が「お母さんと一緒に、先生に会おう、こころ」と言います。
こころは伊田先生が自身の味方をするわけがないと諦めていますが、母にまで伊田先生と同じように思われるのは我慢ならないためついに真田美織と何があったかを話します。
家にやってきた伊田先生が真田美織を庇い母が怒ります。
伊田先生が真田美織も反省しているから会って話してみないかと言うとこころがとても印象的なことを言います。
「反省してるとしたら、それは、自分が先生に怒られたと思ったからだと思います。私のことを心配してるわけじゃない。自分がしたことが先生たちに悪く思われるのが怖いからだと思います」
これはそのとおりだと思います。
そしてこれこそが真田美織のような人物の特徴で、自身は平気で他人に酷いことをしますが、それが先生達にばれて自身の評判が悪くなるのは恐れています。
私の考えた真田美織に報いを受けさせる案はこの特徴を突くようにしています。
母がこころに「学校、かわりたい?」と聞いてくれます。
こころは転校は希望しても母が許してくれないと思っていました。
これは物事を悪い方に考えるこころの特徴が出ていると思いました。
12月のある日、マサムネがみんなに相談があると言います。
マサムネは三学期から違う学校に行くことを考えろと親に言われていて、転校するなら半端な三学期からより4月からのほうが良いのと、転校すると城に来られなくなるかも知れないため、三学期最初の一日だけ学校に行くことを考えます。
そしてみんなに三学期最初の一日だけ学校に来てくれないかと頼み、みんなも何とか学校に行くと言ってくれます。
「第三部 おわかれの三学期」
こころが「マサムネが、私たちが来るなら大丈夫って思ってるのと同じ気持ちで、私たちもマサムネを待ってる」と言っていて良い言葉だと思いました。
こころは心配する母に「学校にはみんなが登校した八時半の始業の後に行くこと」「教室には行かず保健室だけ行くこと」「辛くなったらすぐに帰ってくること」という作戦を伝えます。
また学校に行く日を「決戦の日」と表現していて、保健室に行くだけでもかなり大変だというのが分かります。
こころが勇気を振り絞って学校に行くと下駄箱に真田美織からの手紙が置いてあります。
伊田先生から明日こころが学校に来るから手紙を書いてみたらと言われたので書いたとあり、伊田先生は最悪なことをする人だなと思いました。
手紙は「私もこころも池田のことが好きで、それが原因で私はこころに嫌われている」という自身が被害者のような書き方になっていて、伊田先生も同じ認識になっていることが予想されました。
手紙を書いたことで真田美織は気が楽になったかも知れませんが酷すぎる内容を見てこころは打ちひしがれます。
こころがやっとの思いで保健室に行くとそこにはマサムネをはじめ誰もいませんでした。
擁護の先生にみんなは来ていないのかと訪ねると先生は学校にそんな人はいないと言います。
こころは直感でみんなとは城の外の世界で会うことはできないと悟ります。
伊田先生の酷さに愕然としたこころは次のように思います。
自分が見てきたことこそが現実なのに、学校にちゃんと来ているというだけで、先生たちも真田美織が言うことの方が真実だと思うのだろうか。
これは担任の伊田先生はそうですが全ての先生がそうということはないと思います。
学年主任、教科の先生、教務主任、生徒指導の先生、保健室の先生、教頭先生、校長先生など、公平に見てくれる先生は必ずいると思います。
こころが保健室に行った日はかなり緊迫していて、読んでいて胸が押し潰される気持ちになりました。
城に行くと他のみんなも誰とも会えなかったことが分かります。
マサムネが自身達はパラレルワールドの住人同士でそれぞれ違う雪科第五中学校に通っているのではと言います。
もしそうならみんな外の世界では絶対に会えないことになります。
しかしマサムネがオオカミさまに詰め寄ると「外で会えないこともない」と意味深なことを言います。
リオンがオオカミさまに「一番好きな童話は?」と聞くと「赤ずきんちゃん」と答えていて、そこに鍵探しのヒントがありました。
3月になり城に居られるのが残りひと月となり、お別れの月が始まります。
伊田先生が真田美織からの手紙に返事を書いてみないかと言いこころは幻滅します。
伊田先生はあくまで真田美織の肩を持つような発言をし、こころは二人を次のように思います。
言葉が通じないのは、子どもだからとか、大人だからとか関係ないのだ。自分がやったことを正しいと信じて、疑っていない。彼らの世界で、悪いのはこころ。
真田美織は自身を被害者のポジションに置き、伊田先生はそんな真田美織の肩を持ち、こういった人達は実際にいます。
喜多嶋先生から東条萌が4月から転校することを知らされます。
さらに「私もこころちゃんのお母さんも、こころちゃんを何が何でも学校に戻したいと思ってるわけじゃない」と言っていて、これは良い言葉だと思いました。
3月30日は城でお別れパーティーを行うことになります。
その前日、こころはパーティー用にお菓子を買うためにショッピングモールに行きます。
中学生くらいの子を見るたびに身がすくみそうになるものの何とかたどり着いていて、心が少しずつ確実に立て直されているのが分かりました。
その帰りに家の前で東条にばったり会い、東条は家に来ないかと言います。
東条からの「ごめん」の言葉をきっかけにたくさん話してこころは気持ちが明るくなります。
しかし家に戻る時、突然凄まじい音を響かせて部屋の鏡が割れるのを見ます。
アキが「5時以降城に居てはいけない」というルールを破ったため、アキだけでなく城に居た他の5人も連帯責任で大変なことになり、鏡の向こうからこころに助けを求めてきます。
唯一城に居なくて無事だったこころが願いの鍵を見つけてアキ達を助けるしかないです。
こころはルールを破って全て終わりでいいと感じるほどのアキの現実はどんなものだったのかと考えます。
願いの鍵を探す中でこころは6人が抱える心の苦しみを知っていきます。
アキの苦しさが一番印象的で、地獄のような家庭環境でした。
マサムネがパラレルワールドなのではと言っていた7人の住む世界の謎がついに明らかになります。
こころがアキに懸命に
「アキ、生きて!生きなきゃダメ!」と訴えているのが印象的でした。
未来に向かって命を続けていく尊さを感じる場面でした。
ジュンク堂書店広島駅前店にある辻村深月さんのサイン。
物語の最後はとても温かい雰囲気になります。
オオカミさま、鏡、城、願いの鍵、7人の住んでいる世界の謎などファンタジー要素がいくつもあり、その中で心の辛さについては現実なのが印象的です。
心の辛さがあるため読むのが辛い場面もありましたが物語には引きつけられる面白さがありました。
ファンタジーの中に身を置きながら、やがては完全に戻らないといけない現実の世界に向けて、特に主人公こころの最初は凍り付いていた心の立て直しが上手くいって本当に良かったと思います。
辻村深月さんはブログで交流のある方がまだ直木賞を受賞する前の頃から推している作家さんでした。
その作家さんが2012年に「鍵のない夢を見る」で直木賞を受賞し、「かがみの孤城」で今年の本屋大賞を受賞し、今や押しも押されもせぬ大作家になり嬉しいです
「かがみの孤城」は読んで良かったと思う傑作で、辻村深月さんの強い思いを感じる作品でした
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