今回ご紹介するのは「高校生のためのアドラー心理学入門」(著:岸見一郎)です。
-----内容-----
若い人が自分で考え、自分らしく生きていくためにはどうすればいいのか?
自分や世界について新しい見方を学ぶためのアドラー心理学入門。
-----感想-----
「高校生のためのアドラー心理学入門」とありましたが、パラパラと中身を見てみると大人が読むにも良いのではと思ったので読んでみました。
「はじめに」に「私は本書において、若い人たちが自分で考え、生きていくための指針を提案したいと思います。」と書いてありました。
ちなみに本の行数を見ると16行構成になっていて、これは小説でもよく見られる行数です。
そしてページ数は189ページとそれほど長くはないので、高校生にも比較的読みやすいのではないかと思います。
P4「これまでの人生で何があったとしても、そのことは、これからの人生をどう生きるかということについては何の影響もない」
冒頭の「はじめに」で早くもアドラー心理学の中心の言葉が出てきました。
他のアドラー心理学の本の感想記事でも書いたように、これは女性が男性から酷い目に遭わされて激しいトラウマになり心身症を患っているようなケースでもこの言葉を浴びせるのかという問題があります。
なので何の影響もないと言い切るのは強引だなという印象を持っています。
実際には影響がありながらも(この例では男性恐怖症の症状が出たりなど)、その影響を和らげ最終的には普段の生活に支障がないところまで持っていくのを目指す結構長い期間が必要なはずで、この点において人生に影響が出ていると思います。
P18「もしも仕事やお金などを失ったことでがっかりするような人がいれば、そのような人は、あなたを選んだのではなく、あなたに所属したものを選んだのです。」
人生をともに生きていくパートナーについて書かれていたこの言葉は印象的でした。
これは交友関係についても言えることで、ある人がみんなの注目の的になっていたとして、その時には調子の良い言葉を並べて近付いてきた人が、注目の的になっていた人が何らかの理由で凋落してしまった場合に去って行ってしまうのであれば、その人は「注目の的になっている人と仲が良い自分」というステータスが欲しかっただけだと思います。
私は苦しい時にも見捨てずに支えてくれる人が本当の仲間なのだと思います。
なので高校生に言えることは、
苦しい時にも見捨てず助けになってくれる人は、生涯の友達になれる人なので大事にしましょうということです。
P19「サイコセラピー(心理療法)という言葉の由来」
これは興味深かったです。
まずギリシャの哲学者ソクラテスが何を語ったかが書かれたプラトンの「対話篇」という本の中で、魂(精神、心の意味)をできるだけ優れたものにすることが「魂の世話」と言われています。
そして英語のサイコセラピー(psychotherapy)はギリシャ語の原語、「魂(psyche)の世話(therapeia)」に由来しています。
P31「幸福について」
この本では幸福について何度も書かれていました。
このページでは「幸福になりたいと思っていても、その願いだけでは、幸福になることはできません。何が善であり、どの善が幸福を創り出すかについて知らなければならないのであり、もしも幸福になれないのなら、善と悪について知らないからです。」とありました。
たしかに願うだけではなかなか幸福にはなれないと思います。
善の行動の積み重ねが社会への貢献感となり、この貢献感はアドラー心理学での「共同体感覚」を育むことになり、やがて幸福な気持ちにつながっていくのだと思います。
共同体感覚については
「面白くてよくわかる!アドラー心理学」(監修:星一郎)の感想記事が参考になるかと思います。
P43「ある精神科医の言葉」
児童殺傷事件に遭遇した小学生についてある精神科医が、この子どもたちはこの事件に遭ったからには将来の人生のどこかで必ず問題が起こるとインタビューに答えていたとのことです。
岸見一郎さんはこの精神科医が「必ず問題が起こる」と断定していることに疑問を呈していて、これは私も同じ意見です。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)のような心身症を発症する子もいれば、全く何も起こらない子もいるかと思います。
ただし問題はその後で、岸見一郎さんはこの事件がトラウマになることは否定していて、「今のあり方は過去のトラウマによって決定されるのではない」としています。
私は道を歩いていて向こうから見知らぬ人が歩いてきた時に、事件のことが脳裏に鮮明に蘇る子がいたとしても不思議ではないと思いますし、これをトラウマと言うのだと思います。
トラウマの否定はアドラー心理学の特徴の一つなのですが、やはりこれには強引さを感じます。
P57「ライフスタイルについて」
ライフスタイルについて、自叙伝に例えて書かれていました。
人は生まれてから死ぬまでいわば自叙伝を書きます。この自叙伝はこの世に生まれた時から書き始められ、死で完結します。その自叙伝を書く時の文体をライフスタイルといいます。
アドラー心理学で言うライフスタイルは性格とほぼ同じような意味で、人が生きていく上での人それぞれの生き方です。
自叙伝を書く時の文体は躍動感たっぷりのものであったり、静かに流れるようなものであったりと様々です。
P79「”察して”について」
察しや思いやりが重要だと考える人は、他の人が黙っていても、他の人の気持ちを分かろうとし、分かるはずだと考えますが、同様に自分もまた何も言わなくても、他の人は自分が何を感じ、思い、要求しているかが分かり、分かるべきだと考えているとありました。
そして「しかし、黙っていたら、自分が何を考えているかはわからないはずです」とあり、これはそのとおりだと思いました。
私はなるべく察するように努力はしますが、「察して」という言葉はあまり好きではないです。
P92「周りを気にしすぎる」
「自分で判断しないで、他の人からどう思われるかを気にかけたり、人の顔色をうかがってばかりいると、事に着手する時期を逸してしまいます。あるいは、本当に自分にとって大切なことを後回しにすることになってしまいます。」とありました。
周りを気にしすぎて動けずにいると、肝心の自分自身が置き去りになってしまうということです。
P94「他者の評価から自由になる」
「自分の価値は人からの評価によって少しも下がりもしなければ、上がりもしません。」とありました。
他人が「あなたは○○だ」と浴びせてくる言葉を一切気にしないというのはなかなかできることではないと思いますが、他人の言葉にそんなにびくびくする必要はないのだと思います。
P102「自分に違う光を当てる」
これは自分自身の性格の短所と思っている部分について、違った見方をしてみるということです。
例えば明るく活発な子に比べて自分は静かで暗いと思っている子がいたとして、見方を変えるとその子は静かな分豊かな感受性を持っていて、人の痛みを知ることができる、と見ることができます。
これは「リフレーミング」という心理学の手法で、アドラー心理学でもこの言葉が出てくることがあります。
P107「減点法と加点法」
親は自分の理想から現実の子どもを減点法で見てしまいがちとありました。
このような親の子どもについての見方に対し、岸見一郎さんは「生きているという事実から加算して子どもを見る(加算法)」という見方を提案していました。
これは良い見方だと思います。
この見方をすることができれば、親が子に抱く不満、子が親に抱く不満ともに少なくなっていくのではと思います。
P115「幸福になるための原則」
幸福になるための原則があるとすれば、「この人は私に何をしてくれるだろうか」ではなく「自分はこの人に何ができるだろうか」と考えることです。
これは良い言葉だと思います。
そしてこれは他のアドラー心理学の本で「共同体感覚」として書かれていることそのものです。
くれ、くれと周りに要求するのではなく、自分が周りに貢献していくようにすることで、自然と幸福感を持てるようになっていくようです。
P129「他者からの援助」
「他者から援助を受けることは恥ずかしいことではありません。」とありました。
これは当然のように見えるかも知れませんが、実際には何もかもを自分一人の胸の内にため込み苦しんでしまう人がいるのも事実です。
「何もかもを自分一人で背負い込む必要はない」というのをそっと言ってあげることができれば、その人の苦しみを和らげることができると思います。
P159、160「課題とトラブル」
アドラー心理学の代表的な考え方、「課題の分離」について書かれていました。
まず、「あることの最終的な結末が誰に降りかかるか、あるいは、あることの最終的な責任を誰が引き受けなければならないかを考えた時に、そのあることが誰の「課題」であるかが分かる」とのことです。
例えば勉強する、しないは、あくまでも子どもの課題であって、親の課題ではないです。
しかし多くの親はこのことについて分かっていないため、勉強を親の課題であるかのように考え、当然のように子どもの勉強に干渉してきます。
「勉強に限らず、およそあらゆる対人関係のトラブルは、人の課題にいわば土足で踏み込む、あるいは踏み込まれることから起こります。子どもであるあなたが、親から「勉強しなさい」といわれて、なぜいやだったかはこういうわけがあるのです。」とあり、これはたしかにそうだなと思います。
P167「人に嫌われる勇気」
「嫌われることは、自分が自由に生きることの証であり、自由に生きるために払わなければならない代償です。」とありました。
これは
「嫌われる勇気」(著:岸見一郎 古賀史健)という本のタイトルにもなっているように、アドラー心理学の代表的な考え方です。
ただしこの意味を勘違いし、周りに対してとことん自分勝手に振る舞って良いというような解釈をしてしまうと、人間関係が壊れることになると思います。
アドラー心理学は書かれていることが具体的な分、読み手の「解釈」が凄く重要な心理学だと思います。
妙な解釈をして暴走すると、「スターウォーズ」で言うフォースの暗黒面に堕ちてしまいます。
「アドラー心理学とフォースの暗黒面」
P168「できないことをできないと言える勇気」
「できないことをできないといえるのは、勇気なのです。不完全である勇気を持っていいのですし、失敗を怖れないという意味で失敗する勇気を持つことも必要です。」とありました。
自分自身の不完全さを認めるというのは、自分自身と向き合っているということでもあり、悪くないことだと思います。
不完全である自分を認め、受け止めてあげて、そこから今よりも向上させることを目指していくのが良いと思います。
高校生に向けて書かれた本なので、「課題の分離」や「共同体感覚」などの専門的な言葉は用いずに、その考え方について分かりやすく説明していました。
高校生は進学するか就職するかや、目指している夢が実現できるか自分自身の力がある程度見えてきたり、友達関係、恋人関係など、悩みやすい時期でもあると思います。
アドラー心理学は「解釈」が重要ではありますが、良い面が人生を生きやすくするために役立つ可能性は高いと思うので、この本を読んでこれは良いなと思うものがあれば、ぜひそれを取り入れて自分自身を生きやすくしていってほしいです
今までに読んだアドラー心理学の本の感想記事
「マンガでやさしくわかるアドラー心理学 人間関係編」岩井俊憲
「嫌われる勇気」岸見一郎 古賀史健
「幸せになる勇気」岸見一郎 古賀史健
「面白くてよくわかる!アドラー心理学」星一郎
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