(”心の怪盗”として活躍する左からモルガナ、奥村春(菅原りこさん)。写真はネットより)
今回ご紹介するのは舞台「PERSONA5 the Stage #3」(主演:猪野広樹)です。
-----内容-----
自身に課せられた“更生”のため、そして悪しき欲望から人々を救うため―――
“心の怪盗”となった主人公は、腐った大人たちをどう改心させるのか!?
謎とスリルあふれるストーリーが、爽快感たっぷりのバトル・アクション、友情を育み、絆を作りながら成長していく少年少女の丁寧な心理描写と共に描かれる。
-----感想-----
PERSONA(ペルソナ)は国内外で人気を博している日本発のテレビゲームで、本舞台はゲームシリーズ5作目の舞台のパート3となります。
私が初めて「ペルソナ」というテレビゲームを知ったのは、子供時代の1999年~2000年にかけて「ペルソナ2 罪」と「ペルソナ2 罰」が発売された時で、ゲームはしませんでしたが作品概要に興味を持ったのは覚えています。
新鋭の女優、タレントとして活躍する菅原りこさんが出演するということで舞台に興味を持ち、昨年12月19日に行われた横浜大千秋楽公演のアーカイブ配信を見てみました
人の心の奥底が描かれ、アクション、歌唱、ダンスも登場する多彩な舞台を興味深く見させて頂きました
(一番右の主人公(猪野広樹さん)と主要登場人物達)
(心の怪盗団の、上段左から主人公”ジョーカー”(猪野広樹さん)、”スカル”坂本竜司(塩田康平さん)、”パンサー”高巻杏(御寺ゆきさん)、下段左から”フォックス”喜多川祐介(松島勇之介さん)、”クイーン”新島真(石塚朱莉さん)、”ナビ”佐倉双葉(福田愛依さん)、”ノワール”奥村春(菅原りこさん)。それぞれにコードネームがあります。)
「ペルソナ」という言葉は、以前より臨床心理学の流派の一つ「ユング心理学」をモデルにしていると感じていて、本舞台を見た時にペルソナの他に「シャドウ」という言葉が登場したのを見て確信しました。
ユング心理学においてペルソナは「周囲に適応し、上手く付き合って行くために付ける仮面」、シャドウは「心の中に抑圧している、自身の認めたくない部分」となっていて、テレビゲームでは「ペルソナ」を「心の中に眠る別人格が、伝来の神や悪魔の姿となって出現した特殊能力」とし、「シャドウ」は心理学とほぼ同じ定義をしています。
上記写真を見ると心の怪盗団は「仮面」を付けているのが分かり、モデルとなった言葉の名残を感じます。
物語は大きく「前半」と「後半」の二つに分かれ、前半は佐倉双葉、後半は奥村春が重要人物として登場します。
主人公は公演の度に名前が変わり、横浜大千秋楽公演では赤瀬望となっていました。
「心の怪盗」とは何なのか気になりましたが、舞台を見て行くと「悪い人の心の中(パレス)に入り込み、悪の心を成すものを盗み去り、その人物を改心させる」という怪盗だと分かり、面白そうだなと思い興味が高まりました
物語前半
主人公のバッグの中から「全会一致で決めた大物だけを狙う。吾輩達怪盗団の掟だからな」という声が聞こえてきて、声の主は猫の姿をしたモルガナでした。
モルガナは元々は人間だったらしく、元の姿に戻るために怪盗団に身を置いているようです。
主人公は全編を通じてどこか影のある雰囲気を出していて、カリスマ性があり良い演技だと思いました。
(学生バージョンの7人)
(上段左から三島由輝(田村升吾さん)、明智吾郎(佐々木喜英さん)、新島冴(茉莉邑薫さん)、下段左から奥村邦和 (松本寛也さん)、佐倉惣治郎(森山栄治さん)、モルガナ(声の出演:大谷育江さん))
国際的ハッカー集団「メジエド」が日本の怪盗団に「偽りの正義を語るのをやめろ」と脅しのメッセージを発し、メッセージを受けて怪盗団の次のターゲットはメジエドにしようとなります。
この時点での怪盗団メンバーは主人公、坂本竜司、高巻杏、喜多川祐介、新島真、モルガナです。
「怪盗団の戦略的広報(メンバーではないが怪盗団に好意を持っている)」を名乗る三島由輝が大手ハンバーガーチェーン「オクムラフーズ」でくつろいでいると、奥村春が「あの、ペットボトルの蓋、良かったら私にもらえます?」と謎の言葉で話しかけてきます。
菅原りこさんの言葉の抑揚の付け方が、2020年2月に舞台「罪のない嘘 ~毎日がエイプリルフール~」で見た時より明らかに上手くなっている気がしました
ペットボトルの蓋をリサイクル会社が引き取ってくれてワクチンに換えられるとのことで、新型コロナウイルスの影響が依然としてある今タイムリーな話題だと思いました。
主人公のSNSにアリババという者から「君は怪盗だな?心を盗んでほしい人間が居る」とメッセージが来て、さらに「改心が成功すればメジエドの情報を渡す。君達が望めば片付けることも可能だ」と言ってきます。
ターゲットの名前は佐倉双葉とのことで、「やらなければ君の名前を世に晒し通報する」と脅しても来ます。
怪盗団は「佐倉」が主人公の居候する喫茶店「ルブラン」のマスターと同じだと気付き、佐倉双葉とどんな関係なのか聞いてみようとなります。
検察官の新島冴(真の姉)が佐倉惣治郎を訪れて、「若葉」という双葉の母親のことを聞こうとします。
「認知訶学(訶は摩訶不思議の訶)が精神暴走事件と関わっている疑いがある」と謎のことを言っていました。
新島冴が去った直後、主人公が双葉のことを聞くと佐倉惣治郎はなぜ知っているのかと動揺していました。
また、高校生探偵の明智吾郎が怪盗団の前に現れ、怪盗団の捜査チームに加わることになったと言い、怪盗団メンバーを疑っているのが分かりました。
物語の進み方がミステリー調なのでどんな展開になるのか引き込まれる面白さがあります。
モルガナが「パレスは強い欲望によって歪んだ認知が具現化したもの」と言います。
怪盗団メンバーは「アリババの力を借りるために佐倉双葉のパレスを盗もう」という意見になります。
また、佐倉双葉は母親が車道に飛び込んで亡くなったのは自身のせいだと思っていることを知ります。
佐倉双葉のパレスに行くと「シャドウ」が出て来て暗い雰囲気をしていました。
パレスは簡単に盗れそうではなく怪盗団はピンチになり一旦現実世界に戻ります。
やがて佐倉双葉が一人で歌う場面になり、何もかもを諦めているような表情の絶望感が凄かったです。
(佐倉双葉(福田愛依さん))
怪盗団は再び佐倉双葉のパレスに行き、敵も出て来てバトルアクションになります。
敵を倒しながらパレスの奥に進んで行くと母親が亡くなった時の記憶が明らかになってきます。
喜多川祐介の「忘れたくて記憶を隠したのか」という言葉は印象的でした。
心の奥底に閉じ込めてしまいたいのはとてもよく分かります。
私はパレスの「核心」に迫って行くのが怖いと感じました。
佐倉双葉自身がその記憶を無くしてしまいたいと思っていて、心を楽にしたいと願うのもよく分かります。
喫茶店「ルブラン」での佐倉惣治郎のくせ者感満載の演技も面白かったです。
「ん?誰かに見られているような」が何度も登場し、「マスクを付けた人達に見られてるような」「また横浜に来てねって思ってる人達に見られてるような…」とお客さん達のことを言っていて、舞台ならではのアドリブだと思いました。
高巻杏が佐倉双葉に言った「助けてほしいって自分から伝えるのはそんなに簡単じゃないんだよ」という言葉は印象的でした。
弱さを見せるのを恥と感じたり、あるいは相手に迷惑になるのではと心配したりして、なかなか伝えられないこともあると思います。
(新島真(石塚朱莉さん)。かなり利発なキャラで、怪盗団の会話を常にリードする活躍を見せていました。)
もう一度佐倉双葉のパレスに行くと、シャドウとはまた違う「佐倉双葉の認知が生み出した怪物」が登場し、物凄い強さで怪盗団は苦戦します。
佐倉双葉もパレスに入ってきて、母親の死の真相に気付きます。
そしてついに覚醒の時を迎えます。
「自分の目と心を信じて真実を見抜く!」
それまでの抑圧された演技から一気に激情へと変わり対比がとても印象的で良かったです
物語後半
主人公、坂本竜司、新島真、高巻杏、三島由輝の5人は秀尽(しゅうじん)学園という同じ高校に通っていて、ハワイに修学旅行に行きます。
ハワイに来て1分くらい経った時に主人公と三島由輝で話す場面があり、三島由輝が「修学旅行も終わりだね」と言うと、主人公がサングラスを外して「もう終わりか!」とあまりの尺の短さに驚愕しながら言っていたのが面白かったです。
修学旅行から帰ってきて、佐倉双葉を仲間に加えた怪盗団の次のターゲットは株式会社奥村フーズ社長の奥村邦和にしようとなります。
しかし賛成の坂本竜司と反対の喜多川祐介で意見が割れ、坂本竜司が引き下がるとモルガナが苛立ちます。
坂本竜司がついモルガナにきつく当たりモルガナも怒って怪盗団を出て行ってしまいます。
怪盗団が奥村邦和のパレスに行くとロボットが出て来て早くもバトルになり、「シフトは厳守。嫌なら辞めろ。ただし手当無し」と言っていて、それが奥村邦和の認知だと坂本竜司が言います。
さらにロボットがやられて倒れると管理者ロボットが「廃棄」と言い、「社長から見た奥村フーズの社員だ」と主人公が言います。
奥村邦和がブラック企業の経営者なのがよく分かる場面でした。
先に進もうとする怪盗団に「お待ちなさい、あなた達」と言い怪盗姿の奥村春が登場し、モルガナも登場します。
モルガナが「お宝を狙って来たのなら、尻尾を巻いて帰ったほうが良い。お宝は我輩と、この美少女怪盗が貰うからだ」と言い、奥村春も台詞を言いますがその場面が面白かったです。
奥村春が「いいですか、立派な怪盗とは…あなた、どう考えてるんです!」と主人公に言うと、「俺のような正統派なイケメンのことを言う」と言い格好良く仮面を外します。
主人公が「惚れるなよ!?」と言った時の奥村春の反応に会場から笑いが起きていて、面白いアドリブ場面だったと思います。
新手の敵が出てきて怪盗団が一旦引くと言って撤収しても奥村春はおろおろしていて、モルガナに「逃げるんだよ!」と言われると慌てて逃げていて戦いに慣れていないのが分かりました。
また奥村春は奥村フーズ社長奥村邦和の娘でもあり、その人が父親のパレスに怪盗として侵入してきたということです。
現実世界に戻り、奥村邦和と春で話す場面になります。
奥村邦和は春を有力議員の息子と政略結婚させようとしていて、娘を自身の勢力を拡大するための道具としか見ていないのが分かりました。
春が下を向きながら「精一杯、務めます」と言っていたのが印象的で、言葉と対照的にとても悲しそうでした。
(奥村邦和と春)
奥村春が一人で歌う場面になり、とても上手いと思いました。
声に張りがあり、腹の底から出ているのがよく分かり、昨年8月の「辰巳真理恵 菅原りこ 追川礼章 SPECIAL CONCERT」での経験が生きていると思いました。
ソプラノ歌手辰巳真理恵さんとの共演は得るものが大きかったと思われ、良い歌唱の師に巡り合えたのではと思います。
モルガナと奥村春で話す場面になるとそこに婚約者がやって来ます。
「僕の、フィアンセからの電話はすぐに出ろ!」と言い乱暴に奥村春の腕を掴み、態度の横柄な人だなと思いました。
モルガナが立ち向かいますがやられてしまい、高いハッキング能力を持つ双葉によって家を突き止めた怪盗団がやって来て何とか事なきを得ます。
再び奥村邦和と春で話す場面になり、勝手に春を一週間後にフィアンセの家に迎えてもらうことにしていて春は驚愕します。
春が怪盗団のみんなに相談すると、喜多川祐介が「君の父を改心させれば罪人の娘というレッテルが一生付きまとうんだぞ?それでも良いのか?」と言います。
春は「他人の不幸で成り立つ幸せに甘んじたら私もお父様と同じだから」と言い、決意を固めていました。
和解したモルガナが帰って来た怪盗団と春は再び奥村邦和のパレスに行きます。
やがて奥村邦和とフィアンセの「認知上の存在」が現れ、二人揃って春のことをまるで「物」として扱っているようなことを言います。
ここからの場面が凄かったです
春「私自身も、会社のために浴して育った娘。会社のための政略結婚なのだと一度は受けました!でもこんなの話が違います!」
この時点で言い方がかなり上手くて驚きました。
最後の方になると金切り声で叫ぶような言い方になっていて、声に怒りや切迫感が強く出て、やはり以前より明らかに演技が上手くなっていると思いました。
春「お父様個人の野心のために、この男のおもちゃになれと!?」
邦和「(悪役丸出しの顔で)なあーーにを今さら。お前など最初からその程度の価値でしかないわ!」
フィアンセ「飽きるまで、たーーっぷり遊んでやるよ!」
春「下の下(げのげ)ね!」
この言い方が吐き捨てるように言っていてかなり上手く、相当稽古したのではと思いました。
後半の「下ね!」は一瞬「溜め」を作ってから言っていて、吐き捨てる雰囲気が非常に良く表されていました。
声もそれまでの可憐な高音の声から低めの力強い声に変わっていて、その差がとても際立っていて上手かったです。
怒りが限界を迎えた春の「ペルソナ」がついに完全に目を覚まします!
ペルソナ「ミラディ」が春に話しかけると、春は「心はとうに決まっています!」と力強く言います。
「心は」はゆっくりとドスを効かせて言い、「決まっています!」は速く力強く言うという特徴があり、一つの台詞の中でのスピードや抑揚の変化が印象的で良かったです。
(奥村邦和、フィアンセとの対決)
春「さようなら!お父様!私はもう、あなたには従わない!」
怪盗団、春と敵達のバトルになり、春が物凄く強くなっていました
新島真が「これが、春の本当の力!?」と驚愕していました。
斧を地面と水平に敵に向けて突き出して構えながら、段の高い位置から低い位置に降りて行く場面がかなり上手かったです。
姿勢も洗練されていて、緊迫感と凄味が出ていて「隙がない」という言葉がピッタリで、まるで時代劇の「殺陣(たて)」で侍が刀を敵に向けて構えながらゆっくり歩いている時のようでした。
まさかここまで演技が上手くなっているとは驚きました。
最高に良かったです
みんなでダンスをする場面もあり、途中から春がセンターポジションに出てソロでダンスをして目立っていました。
動きが指先まで洗練されていて非常に上手かったです。
奥村春のペルソナの力の開花に、菅原りこさんの女優としての開花が重なりました。
この先さらに飛躍して行くと確信する素晴らしい演技を見せて頂きました。
声がよく通り細身でスタイルも良く、雰囲気がとてもステージ映えするという高い素質を持っているところに演技力も上昇著しい今、才能完全開花の時を迎えていると思います。
歌唱力、ダンス力、演技力の3つを備えた菅原りこさんならではの幅広い活躍の道を歩んで行けると思います。
現在21歳で今年11月に22歳を迎え、このくらいの年齢から大きく名を上げた女優には仲間由紀恵さん、有村架純さん、松岡茉優さんなどいくつもの例があるのも心強いです。
お芝居を作る人達の目に留まり良縁を得る場面も増えて行くと思われ、これからの益々の活躍がとても楽しみです
「PERSONA5 the Stage #3」、パート3から見ても十分楽しめる面白い作品でした。
たくさんあるアクションシーンや、それまで抑圧されていた人が覚醒を迎える時など見ていて気持ちが盛り上がる場面がいくつもあり、さらにはアドリブ満載と思われる笑える場面もたくさんあり、シリアスもユーモアも豊富に備えた素晴らしい舞台になっていました。
悪い人の心の「パレス」に入り込み、悪い部分を形作るものを盗み去って改心させるというのも面白く、いずれパート1から全作品を通しで見てみたくなりました。
今年はぜひパート4が上演され、素晴らしい舞台をまた見られたら良いなと思います
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