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Yさんのこと

私はタバコの煙が苦手で、
若い頃から悩みの種の一つであった。
最近になって世間の風潮が
「公共の場でタバコは遠慮しましょう」というふうに
なってきたので、だいぶ助かっている。
でも、この話のYさんの場合、
「タバコ、うまかったですか」と訊きたい気持ちがする。
Yさん、というのはもう故人で、
長らく肝臓を病んでいて、それで亡くなった方なのだが、
亡くなる少し前まで会社に出勤していた。
しかし病気が進行して腹水がたまり、
あまりに苦しそうなので人が尋ねても、
「大丈夫」と言っていたそうである。
しかしある日、とうとう具合がひどくなって、
会社から救急車を呼ぶ、ということになった。
救急車を待つわずかの時間の間、
Yさんは自席に戻り、
タバコに火をつけ、
それはうまそうにタバコを吸ったそうである。
周りの人はただそれを見守るしかなかった、という。
私はその場面を直接見てはいないが、
うまそうにタバコを吸うYさんの顔が見えるようである。
それからしばらくしてYさんは亡くなったのだが、
どんな気持ちで最後のタバコを吸ったのか、
私は今も想像することがある。
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