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映像作品とクラシック音楽 第50回 『ファンタジア』~主に「魔法使いの弟子」のこと~

2022-01-18 01:04:40 | 映像作品とクラシック音楽
お疲れ様です。映像作品とクラシック音楽シリーズ。ついに第50回となりました。
今回は、恐れ多くもディズニーの『ファンタジア』を取り上げてみます。
50回目にふさわしい作品を…と言いたいところですが、実はたまたま買った写真のCDを聴いていたら書きたくなっただけです。
ユージン・オーマンディ指揮、フィラデルフィア管弦楽団演奏の主に70年代の録音をおさめたCDです。
この中に「魔法使いの弟子」がありまして、そういえば『ファンタジア』もフィラ管(この略し方あってます?)だったなぁと思って、久々に『ファンタジア』を観てみたらすっかり魅せられてしまいました。

ファンタジアという映画について今更紹介するまでもないとは思いますが、簡単に…
1940年のディズニー制作のアニメ映画で、ある意味クラシック音楽PVといいますか、クラシックの名曲に雰囲気に合うアニメ映像をつけてみましたってやつです。
演奏はフィラデルフィア管弦楽団、指揮はレオポルド・ストコフスキーです。
作品で使われた音楽は

バッハ「トッカータとフーガ」
チャイコフスキー「くるみ割り人形」
デュカス「魔法使いの弟子」
ストラヴィンスキー「春の祭典」
ベートーベン「交響曲第6番"田園"」
ポンキエッリ「時の踊り」
ムソルグスキー「はげ山の一夜」~シューベルト「アヴェ・マリア」

余談かもしれませんが『ファンタジア』公開の1940年は、ヨーロッパで大戦争が行われていたころです。
その頃にこんなすごい映画、フルカラーだしステレオだし、現代の視点で観てもなお美しいし面白いし…こんな映画作れてしまう国と戦争しても絶対勝てそうにないなぁ…と思いますが、その翌年にアメリカと戦争を始めた我が国は案の定負けてしまいました。
1940年というとすでにフランスはナチスドイツに降伏し、独ソ戦はまだ始まってませんが衝突は時間の問題だったころで、ソ連はソ連で周辺国に戦争を吹っかけていたころです。
しかし『ファンタジア』の中では…
ドイツ・オーストリア(バッハ、ベートーベン、シューベルト)、イタリア(ポンキエッリ)、フランス(デュカス)、ロシア(チャイコフスキー、ストラヴィンスキー、ムソルグスキー)が平和な音楽の共演をしているのです。
(この当時アメリカで活動していたストラヴィンスキーをロシアくくりにするのは違うかもしれませんが)
まあでも戦争なんかやめて音楽で平和を目指そうじゃないか・・・と言ってる気もします。
この楽曲チョイスにそうした意図はなくて単にクラシックの名曲をチョイスしたら自然とそうなっただけかもしれません。
それでも、ナチスから退廃音楽の烙印を押されていたストラヴィンスキーをベートーベンと同列で扱ったのは政治的な意味があるのかもしれない・・などと深読みしたくもなります。


それはさておき、上記の作品群につけられたアニメーションは、作品の元となったバレエなどとは基本的に関係ない映像が付けられています。
この映画からクラシック音楽に入っていった人も多いと思うので、だから例えばくるみ割りの「中国の踊り」を聴いても私なんかは「きのこの踊り」が脳裏に浮かびますし、「春の祭典」を聴いても恐竜たちが闊歩する光景しか浮かんでこないのです。
そんな中で「魔法使いの弟子」だけはちょっと違っていました。

正直に言いましょう。
私は比較的最近まで『ファンタジア』の中の「魔法使いの弟子」の音楽はクラシックじゃなくてアニメのためのオリジナルだと思っていました。(正確に言うと「魔法使いの弟子」は『ファンタジア』の一篇ではなくて独立した短編映と勘違いしていました)
だってそれくらい、映像と物語にぴったりだったのです。
そうかクラシック音楽だったんだ・・・と知ってからも、その中で描かれるミッキーマウスが魔法使いの弟子になるあの物語はディズニーのオリジナルだと思っていました。
あの物語がゲーテの詩を原作にしたものだと知ったのはまたつい最近です。

いちお、その「原作」の内容を書きますと

Wikipediaよりコピペ
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老いた魔法使いが若い見習いに雑用を言い残し、自分の工房を旅立つところから物語が始まる。
見習いは命じられた水汲みの仕事に飽き飽きして、箒に魔法をかけて自分の仕事の身代わりをさせるが、見習いはまだ完全には魔法の訓練を受けていなかった。そのためやがて床一面は水浸しとなってしまい、見習いは魔法を止める呪文が分からないので、自分に箒を止める力がないことを思い知らされる。絶望のあまりに、見習いは鉈で箒を粉々にするが、さらに箒の破片が新たな箒となり、水汲みを続けていき、かえって速く水で溢れ返ってしまう。もはや洪水のような勢いに手のつけようが無くなったかに見えた瞬間、師匠の魔法使いが戻ってきて、たちまちまじないをかけて急場を救い、弟子を叱り付けるのだった。
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なんということでしょう。『ファンタジア』におけるミッキーマウスのエピソードは、「原作」の完全映画化だったに他ならないではないですか。
これほどまでに完璧に原作の物語を伝えきるとは…
デュカスは1935年に亡くなったとのことですが、あと5年生きて『ファンタジア』を観たら、完璧主義者の彼をしてなおとても感動させたのではないでしょうか?

とはいうもののデュカスが1940年まで生きていたらドイツの電撃作戦の前にフランスがなすすべもなく降伏する屈辱的な光景を目の当たりにし、そんな状況でとてもディズニーアニメなど観てる場合じゃなかったろうし、それどころかユダヤ人のデュカスは収容所に送られていたかもしれない…などとも思ってしまいます。
ああやっぱり戦争は誰をも不幸にします。

『ファンタジア』で使われた楽曲の作者のうちストラヴィンスキーだけは公開当時存命でした。
彼はファンタジアを観たのでしょうか。多分観たのでしょうね。
でもこれもWikipedia情報ですが、当時まだアメリカの市民権を持っていなかったストラヴィンスキーは著作権を主張できる立場になく、ディズニーに作品を勝手に使われたようです。多分あまりいい気分ではなかったでしょうね。

ちなみに最初に紹介したCDは「魔法使いの弟子」の他に、『ファンタジア』関係だと「はげ山の一夜」と「時の踊り」も聴けまして、他の収録曲も名曲ぞろいでしかも名演って感じでして、シベリウスのフィンランディアなんかもかなり聴きごたえある緩急のついた演奏で素晴らしいです。はい。

そんなところで目標としていた50回を書き終えましたが、今後も引き続き色々書いていこうと思いますので、またお付き合いいただけましたら幸いです。
それではまた、素晴らしい映画とクラシック音楽でお会いしましょう


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