マクベスが観たくてついついApple TVに登録してしまった。
コーエン兄弟のお兄ちゃんの方が、奥さんをマクベス夫人にして、デンゼル・ワシントンをマクベスにして作った、なかなか渾身の一作…
とは言っても「マクベス」である。「忠臣蔵」みたいなもんで、次の展開はおろか台詞すら決まっているので、よく知ってる物語をどう料理したかを楽しむ映画である。
コーエンさん、Apple向けに配信映画撮ってくれませんか?奥さん主演で。
しゃーねーなー、一から考えるのめんどくせーからマクベスでもやるか
って感じで撮り始めたのかどうか知りませんが、しかしあえてのモノクロ、スタンダードサイズで挑む「マクベス」
あちこちキメキメの映像で、現代アートにマクベスの物語を付けて流したような映画。
コーエン兄弟はたしか黒澤が亡くなった時に一番好きなのは「天国と地獄」です、と言ってたのだけど、そんな黒澤好きなコーエンが「蜘蛛巣城」を意識しないはずがないだろう…モノクロ、スタンダードだしと、そんなふうに思って、似たところと違うところを探すつもりで見てみたけど、似たところはあんましなかった。彼らの誘拐映画が「天国と地獄」に全然似てないように、好きだから真似るって言う人ではないらしい
しかし、冒頭、深い霧から始まるのは蜘蛛巣城っぽいなと思ったけど、いやそれは誤解。
マクベス原作の冒頭で魔女たちが「さあ飛んで行こう、霧の中、汚れた空をかいくぐり」と言っているのだから、そもそもは黒澤がシェークスピアを真似ていたのだ。
黒澤はダイナミックな活劇映画にしていたのに比べてコーエンは静止画の連続のような、あえてセット感を強調するような演劇調、それも小さなハコのようなとてもミニマムな印象。
内へ内へと沈んでいくそんな人物の心理を追うような演劇風映像紙芝居に仕立てた。
が、しかし、原作に忠実なために感じる展開の速さ、あっけなさ
そもそも「マクベス」はその原作もなんだかページ数が少なくてあっという間に終わりすぎて物足りなさを感じる本なのだ。
内へ内へと沈む物語ならもっとどっぷりたっぷりと時間をかけた方が良かったのではないか?とそんなシェークスピアとコーエンさんに誰が上から目線で言ってんだか…
一番そりゃないぜと思ったのは、森が動いて攻めてくるのをマクベスが見るところ。
あれ、なんだいその演出。風が強かっただけみたいに思えちゃうぞ。そこはあんた違うでしょ。蜘蛛巣城のあれより凄いのとは言わんけど、でも3人の魔女が荒野の水たまりのほとりに現れたあのゾクゾクするような美しい映像で見せてほしかったなあ
関係ないけど森が攻めてきて負けると言えばロードオブザリンクのサルマンの負け方もマクベスオマージュだったのかなぁ
それで、マクベス観終わって、原作の読後感と同じくらいの食い足りなさを感じて、そのまま続けて蜘蛛巣城を見てしまったのです。
やっぱり黒澤はすごいなあ
脚色してるから単純比較はできないけど「マクベス」映画の最高峰は「蜘蛛巣城」だと思った。
原作は(そしてマクベスの名を冠した映画も)「森が動く」の種明かしを最初にやってしまう。
黒澤はマクベスならぬ鷲津が死んだ後で種明かしをする。鷲津の驚きと驚愕を観客は共有できる。その方が面白い。
と言ってもシェークスピアは人間目線で物語を書いてないからもっと俯瞰した目線だから種明かしを重視してないのはわかるけど
フランシス・マクドーマンドさんのマクベス夫人は良かったけれど、どっちかと言うと魔女役をやってるの観たかったかな
デンゼルのマクベスはとても良い。でもなんか途中過敏な動きで敵を葬るところ、「イコライザー」を思い出してしまう