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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

2015年劇場鑑賞映画マイベストテン

2016-01-02 18:54:31 | 私の映画年間ベスト
業務があまりに多忙で映画は全然見れなかった。映画館での鑑賞本数はたったの18
それでベストテンもないけど、一応私の毎年の恒例行事なので…

2015年映画マイベストテン

1位 セッション(デミアン・チャゼル)
2位 恋人たち(橋口亮輔)
3位 キングスマン(マシュー・ヴォーン)
4位 フォックスキャッチャー(ベネット・ミラー)
5位 彼は秘密の女ともだち(フランソワ・オゾン)
6位 アメリカン・スナイパー(クリント・イーストウッド)
7位 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ)
8位 007 スペクター(サム・メンデス)
9位 アンジェリカの微笑み(マノエル・ド・オリヴェイラ)
10位 裁かれるは善人のみ(アンドレイ・ズビャギンツェフ)

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「セッション」を超える感動があるかどうかが2015年映画の試金石でしたが、結局それを超える映画には出会えず、ちょっと残念。いや、でも「セッション」のラストの演奏バトルの壮絶さたるや!!

ベストテン作品の短評
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10位 裁かれるは善人のみ(アンドレイ・ズビャギンツェフ)

まんますぎるどころか悪意すら感じる邦題。原題の「リバイアサン」のままの方がいい。
国家権力を象徴する海の怪物リバイアサン。そのリバイアサンのメタファーとしてのクジラ、およびクジラの死骸。
射撃の的に使おうぜと楽しそうにスターリンからゴルバチョフまでのソビエト時代の指導者の写真を並べるシーン。
無神論者の善人たちがひどい目にあい、敬虔なロシア正教信者の悪得政治家の思い通りになるストーリー
などなど、国家と個人の関係、人を噛み砕き飲み込もうとする権力という怪物、しかもその怪物もきちんと民主的な手続きによって産まれているという皮肉。
あるいはクジラの死骸は国民を守るべき正当な権力の死を意味しているのかもしれない。
なんにせよ嚙めば噛むほど味の出てきそうな人と国家の物語である

9位 アンジェリカの微笑み(マノエル・ド・オリヴェイラ)

死せるヒロイン、アンジェリカは確かに心を惑わせる美しさがあった。ラストの主人公の嬉しそうな笑顔の前に、悲劇のはずの物語が違って見える。我々が大切にしているものって絶対的なものではない。色々な見方をせよと、問われたように感じた。

8位 007 スペクター(サム・メンデス)

正直「スカイフォール」の方が面白かったのだけど。しばらくシリーズに出なかったスペクターとブロフェルドにまた会えたことはファンとして単純に嬉しい。
そのブロフェルドを演じたクリストフ・ヴァルツのノリノリで拷問する描写も大好き。もっともいちばんノリノリだったのは多分拷問されるシーンが好きなダニエル・クレイグの方かもしれんけど。
オープニングからクライマックスまで個々に描かれるアクションシーンが素晴らしい…けどそういう点でもスカイフォールの方が面白かったかな
「ウォッカマティーニを、ステアせずシェイクで」

7位 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ)

アカデミー賞受賞の本作。さすが…と思う一方で、心を完全には動かされなかった。
全シーンワンカットであるかのような映像は確かにすごい。物語の時制をバラバラにしてつなぎ直す映画を得意としてきたイニャリトゥが時制をバラさずにまとめたという作家的興味。演劇人の舞台初日までのストーリーを演劇感覚でリアルタイムドラマに、しかも舞台では絶対にできないカメラワークや映画手法を用いて描く演劇への挑戦状っぷりも素晴らしいのだが、一方で「最新技術でバラバラにとった映像のつなぎ目消してます、どうだすごいだろ」感が何か鼻につくような不満も感じた。
むしろ同じワンカット映画ならソクーロフの「エルミタージュ幻想」のほんとにトリックなしでワンカットでやりました感の方が好き
とは言え、流石アカデミー賞、また観たくなる映画であることは間違いない。エドワード・ノートンのハチャメチャ役者ぶりはとても笑えた
「バカなことが好きだ。血が好きだ。アクションが好きなんだ。うっとうしい哲学的な戯言のおしゃべりではなくて。」

6位 アメリカン・スナイパー(クリント・イーストウッド)

やっぱりイーストウッドは絶対に外さない。
イーストウッドが戦争を描くと反発が起こる。「ハートブレイクリッジ」は左翼が批判し、「硫黄島からの手紙」は右翼がけなした。日本での話。念のため言うと私はどっちも大好きだ。
「父親たちの星条旗」で、兵士は国のためではなく戦友のために死んだ、と語られた。兵士たちにとっては今そこで起こっていることが全てであり、国家のためとか愛する者のためとかそんな美辞麗句で戦争を飾ることをイーストウッドは良しとしない。彼はまたこうも言う「戦争を美しく語る者を信用するな。彼らは決まって戦場に行かなかった者なのだから」
2015年は映画雑誌もほとんど読んでなかったので今回の映画で日本の左右がどう反応したのかは知らない。多分左翼は批判的に語っただろう。
私も左翼の一人だがイーストウッド映画を批判するような映画を知らない左翼は嫌いだし、スタローン映画を批判する大人気ない左翼にもなりたくない。
イーストウッドはイラク戦争に従軍した兵士が志願してから英雄になりそして犠牲になり伝説になるまでを個人的な主張を極力排して描く。イラク戦争について歴史的評価を下そうという意図は全くない。
9.11に衝撃を受け祖国を守ろうと純粋な動機から入隊する彼の姿を描く前半はイラク戦争肯定ととられても仕方あるまい。
しかしイーストウッドはこれまでの戦争映画と同様に今回も政治的意図よりも兵士が今何を考えそれが彼に何をもたらすのか、それだけを描く。
それも狙撃任務につきなごら家族と携帯で話す日常と非日常が同居する世界で、妻と家族に気を使いながら目の前で武器らしきものを持つ子供を撃つ判断を下さなければならない。目の前と言ったがスコープに写っているだけで、実際には1kmは離れているのかもしれない。
地球の裏の家族と話しながら数十キロ離れた司令部からの指示と、1km先の少年の命、そして10cm先の引き金。
物理的距離が歪められた世界。
だから敵のスナイパーとの闘いに彼は生き甲斐を感じたのかもしれない。お互いに距離を超越した存在同士、ある意味理解者。敵のスナイパーのかつての栄光をチラリと見せるところも娯楽映画としてあいつは強い、という説明だけでなく、何かしらのバックストーリーを想像させて闘いに深みをもたせている。
この映画を反戦映画だ、とまで言われるとさすがにそれは違うと思う。しかし極限のストレスで身体にも精神にも異常をきたしていく様は狙撃シーンよりはるかに緊迫感があり戦争の汚らしい面もきちんと描き、少なくとも兵士ってえらいねお疲れ様という単純な戦争賛美映画とは一線を画している。同じように戦場で異常をきたした者によって殺される結末は、権力と個人というイーストウッドが映画で追い続けたテーマをいやが応にも思い起こさせる。
「仲間を守っていただけだし、自分が撃ったことについては、神様に会って全部説明したいぐらいです。」

5位 彼は秘密の女ともだち(フランソワ・オゾン)

同性愛や性同一性の映画はいまや珍しくもないが、性的対象は女だが女装趣味がある男との間で恋愛は成立するのか?となると、珍しい。
我々が当たり前に感じている価値観から外れている者は、変態やキチガイなのか、いや彼らから見れば我らの方が狂っている。拒絶せずこちらから寄っていくことが相互理解につながるのだ。
差別のない社会とは何かという問題提起であり一級の恋愛コメディであり、先の読めないミステリーでもある
「陽気なイタリア人が言うように、人生は愛とワインがあればいい」

4位 フォックスキャッチャー(ベネット・ミラー)

アメリカ映画界に珍しい中だるみなど気にせず暗く真面目なドラマを組み立てる監督ベネット・ミラー。派手なシーンは何もなく、華がない、ユーモアがない、一般的にはつまらない映画に入るのかもきれないけど、ここまで兄弟の微妙な関係と人間の内なる悪の感情を描いた映画は多くない。まさかの展開、ラストの喪失感と、ドラマとしてもっともズッシリと心に残った作品

3位 キングスマン(マシュー・ヴォーン)

個人的な2010年代のベスト映画候補が「キックアス」なのだが、その「キックアス」の監督によるスパイアクション映画。「キックアス」と比べてしまうと残虐性が極端に下がり、当然血の海になって然るべきシーンで一滴の血も出ないところに不満はあるものの、予想の遥か斜め上を行く展開にただただ唖然愕然。主人公が延々殺戮を繰り返す中盤の教会でのアクションシーンは名シーンというより事件だった。大枠としては娯楽映画のセオリーにのっとりながら、一つ一つのパーツは娯楽映画のアンチテーゼのごとく、むしろ絶対やってはいけない、誰もが期待していないことばかりを繰り広げる。すごい。
フォースをかけらも感じないマーク・ハミル。当然悪だと思った奴が頼れるやつで、当然善人と思えた人たちがことごとく悪人で殺されるためだけの登場だったり、スターと役の関係性にも一石を投じるキャスティングも素晴らしい
「マナーが紳士を作るんだ」

2位 恋人たち(橋口亮輔)

「ハッシュ!」「ぐるりのこと」と特定の人間に密着して濃密なドラマを紡いできた橋口監督が、群像劇にチャレンジしてやっぱり傑作に仕上げてしまう。役者の気持ちを徹底的に高める演出。計算されたカメラワークや演出などではなく、役者のある瞬間の本気を追うことに全力を傾ける。映画は技術や金じゃないし、脚本だって付属品であって、やっぱり一番大事なのは気持ちだ。役者の気持ちであり、それを引き出す監督の気持ちの強さが見るものの心を動かす

1位 セッション(デミアン・チャゼル)

観てる間面白くて、観終わった後に考えても面白くて、また観たいと心から思える、脚本がしっかりしていて、予想を超える展開と予想できなかった壮絶描写、それでいて無理がない、そんな面白い映画の条件に完璧に当てはまる作品
何がすごいって、主人公2人が全く共感できない人間性最悪なやつでそいつらが人のためでなく自分のためだけに行動するその先に真の芸術が産まれるところ
爽快感ゼロ、泥まみれのカタルシス!
なんとなくこの映画観ることで2015年の映画に求めるテーマが設定された。モラルへの挑戦だった。
「アーティストにかける最悪な言葉は「グッジョブ」だ」

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【勝手に個人賞】
監督賞 デミアン・チャゼル「セッション」
脚本賞 デミアン・チャゼル「セッション」
女優賞 エマ・ストーン「バードマン」
男優賞 JKシモンズ「セッション」
作曲賞 ジョン・ウィリアムズ「スター・ウォーズ フォースの覚醒」

ベストシーン1位 「キングスマン」
ヒーローとち狂って一般市民推定100人と殺し合いの末全員惨殺
ベストシーン2位 「セッション」
もう許さねえ!お前の腐った性根を俺のドラムでぶっ潰す!ラスト10分間演奏という名の戦場
ベストシーン3位 「007スペクター」
俺、縛られたり拘束されたりして拷問されて悶絶する芝居大好きだぜなダニエル・クレイグの顔面ショー拷問シーン

【追悼ジェームズ・ホーナー】
2015年はオマー・シャリフ、クリストファー・リー、原節子など偉大な映画人が亡くなった年ですが、私にとっては偉大な映画音楽作曲家のジェームズ・ホーナーが亡くなった年として深い悲しみとともに記憶される年でありましょう
私を外国映画サントラファンに目覚めさせてくれたのはジェームズ・ホーナーです。彼がいなかったら外国映画サントラのみならず映画そのものにも興味を強くは持てなかったかもしれません。
ご冥福をお祈りいたします。そしてこれからもあなたの音楽は私の人生のパートナーです。
[歴代ジェームズ・ホーナー映画音楽のマイベストテン]
1. スニーカーズ
2. エイリアン2
3. ウィロー
4. スタートレック2
5. ボビーフィッシャーを探して
6. フィールド・オブ・ドリームス
7. アバター
8. 今そこにある危機
9. ゴーリキーパーク
10. ロケッティア


【2015年に映画館で観た映画一覧】
ホビット 決戦のゆくえ(68点)
インターステラー(65点)
アメリカンスナイパー(87点)
フォックスキャッチャー(90点)
バードマン(74点)
セッション(95点)
百日紅(50点)
ミッション・インポッシブル ローグネイション(48点)
キングスマン(93点)
黒衣の刺客(49点)
裁かれるは善人のみ(70点)
ミケランジェロ・プロジェクト(66点)
アンジェリカの微笑み(72点)
007 スペクター(73点)
靴職人と魔法のミシン(35点)
彼は秘密の女ともだち(88点)
恋人たち(94点)
スター・ウォーズ エピソード7 フォースの覚醒(60点)

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「マッドマックス 怒りのデスロード」はブルーレイで鑑賞。えらく絶賛されているが自分的にはそんなにこなかった。

2016年はもう少しは多く映画観るぞ~

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33名の映画ブロガーで選出した00年代映画ベストテン!
http://blog.goo.ne.jp/studioyunfat/e/3f4d73b090c5d44c04e46a999e462d60

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自主映画制作団体 ALIQOUI FILM
最新作「唯一、すべて」2016年春完成予定

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2 コメント

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こんにちわ (mori2)
2016-01-10 15:48:23
TBいただきました。
よかったです、お仲間がおられて。自分も「マッドマックス」そんなにこなかったので…(^^;。
返信する
マッドマックスそないに派 (aq99)
2017-01-15 21:27:40
遅くなってすみません。やっと2015年が片付き、今、16年版を鋭意製作中です。15年の私のベスト10は全部邦画にしてただけに、ブロガーでは、まだ洋画特にアカデミー賞ものが、お好きだとつくづく実感しました。16年もその傾向が変わりません。あまりメンバーが変わってないからでしょうね。若い人は、あまりブログやってないんでしょうかね。では、また後ほど。
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