史上もっともグダグダなオリンピックが始まろうとしておりますが、そういうのと関係なく、映画とクラシック音楽の話です。クラシックといっても今回は現代クラシック。何気に買ったルドヴィコ・エイナウデイという作曲家のアルバムが非常に良かったので紹介してみます。
今年(2021年)はコロナ禍で映画館にほとんど行けてないのですが、それでも多分今年のベストワンはこれに決まりでしょ!と確信できるくらい素晴らしかった映画が『ノマドランド』です。ご存知の通り、在米中国人女性監督のクロエ・ジャオさんが監督し、アカデミー賞でも作品賞、監督賞、主演女優賞を受賞しました。映画の内容はいったん置いといて、その映画で流れる澄んだ空気のような音楽も素晴らしいと思いました。
そして、これも今年の映画ですが、少し前にも別の記事で紹介しましたがアンソニー・ホプキンスがアカデミー賞で主演男優賞を受賞した『ファーザー』も素晴らしい映画でした。そしてこの映画でも映画を邪魔しない影のようにそっと寄り添う劇伴音楽が素晴らしいと思っていました。
今年を代表するであろう2作品『ノマドランド』と『ファーザー』の両方で音楽を担当したのがルドヴィコ・エイナウデイというイタリア人作曲家です。
今年まで全然知らなかったのですが、調べてみると2017年の是枝裕和監督作品『三度目の殺人』でも音楽を担当していました。流石は是枝監督、慧眼!
どんな人かとネットでプロフィールを調べてみると、笑っちゃうくらいセレブ感溢れる方でした。
https://www.universal-music.co.jp/ludovico-einaudi/biography/
より引用
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現在、イタリア政府音楽大使を務めるルドヴィコ・エイナウディは1955年11月23日、トリノの名門に生まれた。
祖父ルイージ・エイナウディはイタリア共和国第2代大統領を務めた経済学者、父ジュリオ・エイナウディは老舗出版社「ジュリオ・エイナウディ・エディトーレ」(現在はベルルスコーニ一族が率いる大手出版社モンダドーリ傘下)の創立者。
〜〜〜〜〜引用終わり
そんな上級国民感あふれるエイナウデイさんのアルバム「cinema」を書いました。
上述の『ノマドランド』『ファーザー』『三度目の殺人』などこれまでにエイナウデイが手がけた映画音楽をまとめたアルバムで、どの曲もとても美しいです。
ただ、映画音楽であることを意識させたくないのか、ジャケを観ても曲名を観てもどの曲がどの映画の曲なのかほとんどわからないようになっています。
例えば『ファーザー』で使われた楽曲は、2枚組CDの中で、CD1の6曲目と12曲目、CD 2の14曲目に分散されています。(厳密にはファーザーのための書き下ろし曲は一つで、他の2曲はエイナウデイの準音楽作品をファーザーで使ったというところのようですが)
『ノマドランド』の曲も、CD1の2曲目と、CD2の7曲目に分散させて、曲名にもどこにも「music from NOMADLAND」などと書いているわけでもなく、あくまで映画サントラではなくエイナウデイのベスト盤的企画アルバムという感じになっています。
どこか、フィリップ・グラスやマイケル・ナイマンの音楽に系統が近いように感じました。実際調べてみるとグラスやナイマンのような「ミニマル・ミュージック」のアーティストとして紹介される事が多い様です。
とは言え、グラスやナイマンのような、ゴリゴリなアーティスティック感というよりは、クラシカルだけどポピュラーミュージックに寄ったような作風で、口当たり爽やかです。うっすらフュージョンジャズっぽい感じもまたのどごしさわやか感に一役買っているのでしょう。
ミニマル系で括られることから判るように、「立ったメロディ」とか「AメロBメロサビ」みたいな構成でなく、ごく短いフレーズを流れるように何度も繰り返していく感じの楽曲です。
雰囲気作りのための音楽。
ジョン・ウィリアムズのような何種類ものライトモチーフを出したり引っ込めたりして映像の変化と音楽を完全に同調させるような、そんなオールドスタイルな映画音楽が大好きな私としては、本来好きなタイプの作曲家ではありません。(実を言えばグラスやナイマンもあまり好みではありません。と言いつつ何枚かアルバムは持っていて中には愛聴版もありますが)
しかしエイナウデイはそんなミニマルな連中ををいけすかない奴らと思ってる私にもすんなり受け入れられるほど、雑味が無いと言いますか、すっと入ってきます。
こういう音楽は今の時代の映画には合っているような気がします。
そういえばハンス・ジマーは普通はミニマル系で括られない人ですが、2010年代以降の彼の映画音楽はメロディよりも、短いフレーズをひたすら繰り返していく音楽作りに徹しています。ミニマルの定義をよくわかってはいないのですが、広義ではジマーだってミニマルですよね?
そんなジマーが映画音楽の巨匠として君臨している昨今、映画が音楽に主張しすぎないことを求めるような時代に、エイナウデイがジマーの縄張りではないアート系映画の世界で活躍するのは、さもありなんという気がします。
『ノマドランド』と『ファーザー』で一気に知名度の上がったエイナウデイはこれから映画の世界で「来る」作曲家だと思います。(と言っても今66歳、かなりのベテランの方に失礼ですかね)
5年以内にアカデミー賞を取ると思います。
流石にハリウッドの娯楽大作には向かないだろうなぁと思うのですが、『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督の次作がマーベルスタジオのヒーロー映画『エターナルズ』とのことで、もしかするとエイナウデイに作曲依頼をするかもしれないですね。(そこはさすがに無難にアラン・シルベストリとかに回すべきと思いますが。)
そんなところで、カンヌ狙いの作品など中心にちょっと、ルドヴィコ・エイナウデイという方に気をつけながら映画音楽を聴いていってみようと思いますが、とりあえずはクラシックファンの皆様にも、エイナウディのアルバム「cinema」はオススメです!
言いきっちゃった。あーこわ
そんなところで、また素晴らしい映画と素晴らしいクラシック(系)音楽で会いましょう!