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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

沈黙-サイレンス-

2017-03-18 22:27:07 | 映評 2013~
スコセッシ映画でこんなにグッときたのはいつ以来だろう。個人的にはタクシー・ドライバー、グッド・フェローズ級だった。褒めすぎ?いやいや

深く感銘を受けたので今まで読んだことなかった原作も買って読んでみた。

聞くところによるとスコセッシは遠藤周作の原作にほれ込み、撮影中は脚本の横に原作の該当する部分の英訳を並べて置いて、遠藤がどう描いたかを常にチェックしながら撮り進めたのだという。

それだったら「ディパーテッド」の時も横に「インファナルアフェア」の脚本置いて比較しながら撮っていけば良かったのに!

原作読んでみると、実際かなり忠実に映画化したことが判る。
物語の前半部分、原作ではロドリゴの書簡の形をとっていた部分に関しては、映像への置き換えでむしろ味わい深くなったように思う。
ロドリゴの心の中をダイレクトに伝える書簡よりも、彼が観て聴いたことを共有することで彼の葛藤、苦悩を共に感じることができる。

肥前の百姓たちがポルトガル語に堪能すぎる気もする。
しかし、むしろ原作でのロドリゴの書簡が肥前言葉を駆使しすぎている違和感よりは遥かに現実的。

ロドリゴが捕まり棄教するまでのくだりはかなり原作に忠実
イッセー尾形さんら日本人キャストの演技も素晴らしい。

問題はエピローグ
自分としては素晴らしいと思うが

原作はお役所の記録の形をとっている。現代語で書かれていないためなんだかよくわからない。でもその突き放した淡々とした書き方故に深い余韻を残し謎も残す。

映画は現代語訳どころか映像化されるのでキチジロウのその後などもはっきりわかる。アンドリュー・ガーフィールド君が見せる疲れ苦しみ抜いた先の表情で映画は原作以上の余韻を残す。
自分はキリスト教徒ではないけど、「心ならずも望まない事に人生の一部どころか大部分を裂き、それから離れられなくなっていく人間の姿」として共感するところ大なのである。
辛く苦しい思いをほぼ一人で背負い込みながら信仰のために死んでいった彼を思うと、胸が締め付けられるようだ。

でももっと自分の心の中で賛否が分かれているのが、ラストショットだ

最後の最後の棺桶の中のロドリゴの手の中の、モキチのロザリオ。
これは原作にはない映画のオリジナル。
決して信仰を失いはしなかったことを描く秀逸なシーンともとれるが、一方でロドリゴの到達した信仰心はもっと精神性の強いもので、あのように物質的な表現でよいのだろうかという問いが自分の心の中でぶつかり合う。
これは小説を映画化することの永遠の課題を突き付けている場面に思える。
登場人物の精神のどこまでも奥深くに入っていける小説と、所詮は現実に起こっている出来事を写すことしかできない映画。
ロドリゴが絵踏をする際に聞こえる主の声ともども、目に見え耳に聞こえるようにしないと表現できない映画という表現手法が、自由のようでいてむしろ制約だらけであることを強く突き付けられた気がする。
小説版の精神性は、文章としての言語から映像としての言語への翻訳で薄められたことは否定し難い。
それでも虚ろのように見えて決して信仰の心を失わなかったロドリゴのエピローグがこの映画で一番心に突き刺さるシーンであるのも事実である。
映画と小説は違うものだという当たり前なことについて改めて色々考えさせられる作品だった

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その他雑感

---サウンド---
スコセッシ映画といえば良くも悪くも「音楽がうるさい」という印象があった。しかし今回は「サイレンス」という題名もあり音楽にはほとんど頼っていない。
お気に入りのハワード・ショアの出番はないと思ってか、無名の(失礼)作曲家に任せている。祭囃子などの音楽を除く劇伴部分はほとんどメロディのない、あるかないかわかんないくらいに電子音がうっすらのってる程度の音楽。
音楽の代わりにスコセッシがこだわったのは原作でも強調されていた自然の音。波の音。虫の鳴き声。それも嵐だったり狂ったように鳴いているでもなく、いつも通りの音が何事もなく穏やかに。
どんなに酷く恐ろしいことが起こっても、世界は何も変わらずにいつも通りの営みを続ける。なまじシーンと静まり返るよりも無情に、絶望的に。

そういえば、「沈黙」で拷問され担当として熱演して塚本晋也さんの「野火」も自然の音がすばらしかったっけ
きっと通じ合うところがあったんだな。
「映画秘宝」にて、塚本さんが磔のシーンではマジで命の危険を感じたけどスコセッシ映画で死ぬなら本望
みたいなこと書いてあってちょっと感動しました。
「野火」も21世紀を代表する傑作ですので、あわせてぜひ!

--スコセッシ節---
原作にもあるシーンだが、番人と信徒が他愛もない雑談をしていると信徒が突然斬られる場面。原作はロドリゴの聞く音で表現されているが、スコセッシは映像にした。
そういえば、仲良く世間話していた相手にいきなり殺されるみたいなシーン「グッド・フェローズ」にけっこうあった気がして。

シネフィル(映画オタク)スコセッシらしさ全開なのが、五島に渡るシーンの「雨月」オマージュ。
琵琶湖じゃないんだからあんなに波が穏やかなもんかねー、とも思うけど、一度やってみたかったんだ〜というスコセッシの叫びが沈黙の向こうから聞こえてきた。

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というわけで今年度のベスト候補の「沈黙-サイレンス-」をぜひ劇場で

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