個人的評価:■■□□□□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]
BS2にて鑑賞。
東宝マークよりも先に「撃ちてし止まむ」のテロップがでかでかと映し出されて始まる太平洋戦争の敗色が濃くなってきた1944年の国策映画。
戦中の日本の国策映画を現代に伝える作品であるとか、黒澤明の監督第二作目として黒澤論を語る上で重要とか、そうした資料的価値を抜きで考えると、全然面白くない映画であった。
現代人の目で見ると
「人格の向上なくして、生産の向上は有り得ん」と立派そうな訓示をたれる工場長(志村喬!!)だが、そんな無茶苦茶な思想を押し付ける工場長の人格ってどうよ、とか思う。
精神論だけで戦争に勝とうとすることを国策として掲げる。なんてアホな・・・
増産率50%でいいというのに66%を目指して、無理して頑張る女子労働者たちは結局無理な苦労がたたって、生産性を落とし、部品を紛失し、サービス残業でカバーしてどうにかする。
現代の企業でそんなことしたら労使間で大問題になるだろう。
いや、今でも中小企業やパート労働者にはよくあることなのかもしれないが、国としてそのような行為を奨励していたかのような本作での描き方はとても異様に見え、むしろお国への腹立たしさをかきたてる。
精神でなく、計画と見積もりで具体的な数値を出して生産性向上を図るようになった現代社会に生まれて本当に良かったと思える。
ただ「頑張れ、頑張れ」というだけのリーダーも、無能にしか見えない。
具体的数字だけで考えたら到底勝てるはずのない戦争に、頑張れ頑張れ、撃ちてし止まむ、と根拠のない叱咤激励だけして、無償奉仕する連中を愛国的だと称える、当時のお国のバカっぷり、無能さが伝わってくる。
当時そんな報国献身を美徳と信じていた人たちの気持ちまで馬鹿にするのは間違っているだろうが、それを美徳と信じ込ませたお国のマインドコントロールには怒りを覚える。
確実にこの国はあのころよりはまともになったことがわかる。
あんな時代のあんな国に生まれなくて本当によかった。ましてあんな時代のあんな国のために誰が死んでやるものか。そんなことを感じた作品であった。
ひたむきに生きる女の子たちの姿はたしかに美しくも見えるのだが国に利用されているだけで、人間的感動がほとんど感じ取れないのが、国策映画の弱みだろうか。
最近の映画・・・学校のためブラスバンドをする女の子たちを描いた映画や、地域社会のためフラダンスをする女の子たちを描いた映画・・・と、内容的には似ているかもしれない。しかし最近のそうした佳作では、学校のため地域のためにと頑張りながらもそれをはるかに超えて個人的に音楽やダンスに熱狂し陶酔する姿を見せるから共感できる。
「一番美しく」にはそうしたパーソナルな興奮がなく、ひたすらお国のため。レンズの製造なんて作業に陶酔できるはずもなかろうが、レンズの球面の美しさにほれぼれ見惚れる女の子がレンズの美しさや薀蓄を語るような描写でもあれば、まだ少しは面白くなったろう。
黒澤の理想主義と国策とか悪い感じで融合し、ただの勤労奉仕啓蒙映画に終わってしまった感のある映画である。
黒澤ファンには興味深いところは多々あり、興味本位で見る分にはだれることはない。
興味深いところを列挙
・黒澤の女性観をうかがい知るのにいい映画である
・渡辺さん(矢口陽子)が自分のミスを思い出したところのフラッシュバックにおける効果音の使い方(いつも通る踏み切りの前で思い出し、台詞はなく背後を走る貨物列車の通貨音がやけに強調される)に後年の黒澤のサウンド演出の雛形を見ることができる
・思いやりあふれる寮母さんや工場の監督官たち姿に後年の黒澤人道主義が垣間見える
・・・などなど
とはいえ、黒澤映画のワーストスリーには楽に入る作品だろう。
私的黒澤ワーストスリー(好きとか嫌いとかよりも単純につまらないと思う3本)
●一番美しく
●素晴らしき日曜日
●隠し砦の三悪人
「七人の侍」とかリメイクしたってどうせオリジナルにはかなわず、あうだこうだと叩かれるのがオチなんだから、黒澤リメイクならこれら駄作をチョイスするのがいい。ダメでもともと。うまくいけば世界の黒澤を越えたとかなんとか言われる。そういう意味で樋口シンジの今度のチョイスは上手く、リメイク権を売った黒澤プロは頭悪い。
「影武者」も好きじゃない。「生きる」も。まあでも俳優の演技と、映像と、ワンシーンワンシーンの演出などには見ごたえがあるから、ワーストってほどでもない。
ちなみに木下恵介は黒澤映画で「一番美しく」が一番好きと言ったとかなんとか。女好きの木下監督としてはまっすぐな女たちがズラリそろったこの映画は魅力的だったのかもしれない。あるいは黒澤映画でもかなりマイナーなこの作品をあえて選んでみんなに紹介したかったのかもしれない。
ちなみのちなみに黒澤は木下恵介作品では「カルメン故郷に帰る」が好きだと、なんかの本に書いていた。
あと、黒澤で見ていないのは「続・姿三四郎」だけだなあ
********
↓面白かったらクリックしてね
人気blogランキング
自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]
BS2にて鑑賞。
東宝マークよりも先に「撃ちてし止まむ」のテロップがでかでかと映し出されて始まる太平洋戦争の敗色が濃くなってきた1944年の国策映画。
戦中の日本の国策映画を現代に伝える作品であるとか、黒澤明の監督第二作目として黒澤論を語る上で重要とか、そうした資料的価値を抜きで考えると、全然面白くない映画であった。
現代人の目で見ると
「人格の向上なくして、生産の向上は有り得ん」と立派そうな訓示をたれる工場長(志村喬!!)だが、そんな無茶苦茶な思想を押し付ける工場長の人格ってどうよ、とか思う。
精神論だけで戦争に勝とうとすることを国策として掲げる。なんてアホな・・・
増産率50%でいいというのに66%を目指して、無理して頑張る女子労働者たちは結局無理な苦労がたたって、生産性を落とし、部品を紛失し、サービス残業でカバーしてどうにかする。
現代の企業でそんなことしたら労使間で大問題になるだろう。
いや、今でも中小企業やパート労働者にはよくあることなのかもしれないが、国としてそのような行為を奨励していたかのような本作での描き方はとても異様に見え、むしろお国への腹立たしさをかきたてる。
精神でなく、計画と見積もりで具体的な数値を出して生産性向上を図るようになった現代社会に生まれて本当に良かったと思える。
ただ「頑張れ、頑張れ」というだけのリーダーも、無能にしか見えない。
具体的数字だけで考えたら到底勝てるはずのない戦争に、頑張れ頑張れ、撃ちてし止まむ、と根拠のない叱咤激励だけして、無償奉仕する連中を愛国的だと称える、当時のお国のバカっぷり、無能さが伝わってくる。
当時そんな報国献身を美徳と信じていた人たちの気持ちまで馬鹿にするのは間違っているだろうが、それを美徳と信じ込ませたお国のマインドコントロールには怒りを覚える。
確実にこの国はあのころよりはまともになったことがわかる。
あんな時代のあんな国に生まれなくて本当によかった。ましてあんな時代のあんな国のために誰が死んでやるものか。そんなことを感じた作品であった。
ひたむきに生きる女の子たちの姿はたしかに美しくも見えるのだが国に利用されているだけで、人間的感動がほとんど感じ取れないのが、国策映画の弱みだろうか。
最近の映画・・・学校のためブラスバンドをする女の子たちを描いた映画や、地域社会のためフラダンスをする女の子たちを描いた映画・・・と、内容的には似ているかもしれない。しかし最近のそうした佳作では、学校のため地域のためにと頑張りながらもそれをはるかに超えて個人的に音楽やダンスに熱狂し陶酔する姿を見せるから共感できる。
「一番美しく」にはそうしたパーソナルな興奮がなく、ひたすらお国のため。レンズの製造なんて作業に陶酔できるはずもなかろうが、レンズの球面の美しさにほれぼれ見惚れる女の子がレンズの美しさや薀蓄を語るような描写でもあれば、まだ少しは面白くなったろう。
黒澤の理想主義と国策とか悪い感じで融合し、ただの勤労奉仕啓蒙映画に終わってしまった感のある映画である。
黒澤ファンには興味深いところは多々あり、興味本位で見る分にはだれることはない。
興味深いところを列挙
・黒澤の女性観をうかがい知るのにいい映画である
・渡辺さん(矢口陽子)が自分のミスを思い出したところのフラッシュバックにおける効果音の使い方(いつも通る踏み切りの前で思い出し、台詞はなく背後を走る貨物列車の通貨音がやけに強調される)に後年の黒澤のサウンド演出の雛形を見ることができる
・思いやりあふれる寮母さんや工場の監督官たち姿に後年の黒澤人道主義が垣間見える
・・・などなど
とはいえ、黒澤映画のワーストスリーには楽に入る作品だろう。
私的黒澤ワーストスリー(好きとか嫌いとかよりも単純につまらないと思う3本)
●一番美しく
●素晴らしき日曜日
●隠し砦の三悪人
「七人の侍」とかリメイクしたってどうせオリジナルにはかなわず、あうだこうだと叩かれるのがオチなんだから、黒澤リメイクならこれら駄作をチョイスするのがいい。ダメでもともと。うまくいけば世界の黒澤を越えたとかなんとか言われる。そういう意味で樋口シンジの今度のチョイスは上手く、リメイク権を売った黒澤プロは頭悪い。
「影武者」も好きじゃない。「生きる」も。まあでも俳優の演技と、映像と、ワンシーンワンシーンの演出などには見ごたえがあるから、ワーストってほどでもない。
ちなみに木下恵介は黒澤映画で「一番美しく」が一番好きと言ったとかなんとか。女好きの木下監督としてはまっすぐな女たちがズラリそろったこの映画は魅力的だったのかもしれない。あるいは黒澤映画でもかなりマイナーなこの作品をあえて選んでみんなに紹介したかったのかもしれない。
ちなみのちなみに黒澤は木下恵介作品では「カルメン故郷に帰る」が好きだと、なんかの本に書いていた。
あと、黒澤で見ていないのは「続・姿三四郎」だけだなあ
********
↓面白かったらクリックしてね
人気blogランキング
自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
できますよ。
こういう単純労働を経験されたことがないと
わからないでしょうけど。
それから、私はこの映画好きです。