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ハプニング [監督:M.ナイト・シャマラン]

2008-08-22 03:09:00 | 映評 2006~2008
個人的評価:■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

本作は「破局寸前の夫婦が、二人して凄まじい事件に巻き込まれてるうちにハイになって愛を取り戻す」というハリウッド式物語構成の鉄板フォーマットに則っています。似たような話は枚挙に暇がありませんが、「アビス」(ジェームズ・キャメロン)や「ツイスター」(ヤン・デ・ボン)や「ダイ・ハード」(ジョン・マクティアナン)などを代表代わりに上げておきます。
しかし、あれらの作品が巨大宇宙船の浮上とか、超ド級竜巻への突撃調査とか、大爆発するビルの屋上からホースまきつけてダイブといったすげー映像で考える力を奪って無理矢理説得力をもたせることで愛の美しさを強調していたのに対し、本作は草木が風にそよぐだけという自主映画でも可能レベルの映像で同じ効果を上げてしまいました。これは功績として認めてよいと思います。
本作は人類の環境破壊に警鐘をならす映画であると同時に、愛こそすべて、愛こそすべて、愛さえ、愛さえあれば何もいらない・・・ということをテーマにした愛の映画であったのです。
早い話、よくあるありふれた物語です。しかしながら「アビス」も「ツイスター」も「ダイハード」も好きな私に、この映画が面白くないわけないのでした。

そうなのです。夫婦愛ものはツボなのです。
わたしは、旦那がとち狂って子供達を惨殺して、あげく変なお面をかぶせられ、しかもせっかく生まれた双子の兄妹が敵対勢力に連れ去られてしまうような話より、夫婦が失った愛を取り戻す話の方がはるかに好きなのです。

また上記破局夫婦鉄板ストーリーのほとんどが怒涛の勢いの映像の後、愛を取り戻して感情的にピークに達したところで思考停止させるようにエンドクレジットへ突入するのに対し、本作はエピローグにたっぷり時間をとり、愛を取り戻したその後に愛の結晶の証をみせ、取り戻したものがさらに強固なものとなっていったことまで示します。
異常状況下で芽生えた愛は長続きしないと、「スピード」のサンドラ・ブロックは言ってましたが、異常状況下で取り戻した愛なら長続きすることを本作は示しました
つまり上述のサンドラ・ブロックの台詞を喋らせ、シニカルな恋愛感を見せたかに見えたヤン・デ・ボンは、「でもツイスターは別だよ」と言いたかったに違いないのです

ちなみに、異常状況下で愛が芽生え、異常状況に身をさらし続けて愛を育んで結婚し、異常状況ゆえにお互い殺し合い、殺し合いの中で愛を取り戻し、さらに殺し屋集団の襲撃を受けるという異常状況下で愛をより強固なものとした、夫婦愛もの映画として異常に忙しい「Mr.&Mrs.スミス」という映画を私が好きなのは言うまでもないでしょう

さて、もうひとつの映画鉄板パターンとして、死屍累々を描く中にちらっと「生命の誕生」を描いてバランスをとることが上げられます。
こないだDVDでみた、異常ぶりならシャマランと双璧をなすメル・ギブソン先生の「アポカリプト」も死体の山や惨殺シーンを見せつけまくった後、クライマックス付近に出産シーンを用意しました。(もっともあの水中根性出産はアクションシーン並に手に汗にぎりましたが)
本作も様々に工夫を凝らした自殺ショーをたっぷり見せた上で、生命の誕生を垣間見せます。
死体をたっぷり見せる異常状況で展開する物語を、愛=生命は素晴らしい、という文明人なら誰もが否定するはずの無い着地点に無事降下させます
屍の山と一つの生命誕生の対比、というのも極めてありがちでしょうが、「アポカリプト」好きな私が本作のオチを気に入らないはずがありません。(もっとも、「旦那がお面つけられる話」もラストに出産シーンがあったりしますが)

信じることで世界が救える「レディ・イン・ザ・ウォーター」に続き、愛することで滅亡から逃れられる「ハプニング」
なんだかシャマランにノーベル平和賞をあげたい気分になってきました。

そのシャマラン先生ですが、自身の監督作に出演することでも知られています。前作「レディ・イン・ザ・ウォーター」では各民族選りすぐりの不細工をズラリ並べて自分を相対的イケメンにしてしまいました。さすがにやりすぎで反省したのか、本作ではその姿を見つけることはできませんでした。
エンドクレジットを見る限り、ジョーイ役としてクレジットされておりました。でもジョーイって姿形は一切映らず、電話の向こうの声が一瞬聞こえたかどうかくらいの役だったと思うのですが、あの出たがりシャマランに何があったのでしょう。

最後にどうしても言っておきたいのは、本作終盤のクライマックスを独り占めするばあさんです。
歴代シャマラン映画怖がらせ担当キャラ史上、最恐です。
怪しさ爆発です。マネキンを身代わりにベッドに寝せる異常さとか理解不能です。そんでショッキング音楽と共に背後に出現するなどよく判らない異常さゆえに怖さ抜群です。あのばあさんの終盤の行動は毒素にやられたのではなく、ただ単に狂ってただけだったのかもしれません。

草木と風とばあさん1人で人類滅亡の恐怖とホラー&サスペンスものを作ってしまうシャマラン。彼は宇宙やファンタジー世界や危険な軍事国家に行かなくたって映画の題材なんてそこらじゅうに転がっていることを証明してくれたのでした。

-----音楽について----
みなさんはジェームズ・ニュートン・ハワードという作曲家を知っていますか?
「真実の瞬間」あたりから頭角を現しはじめ、90年代前半は「サウス・キャロライナ」や「逃亡者」でアカデミー候補になるなど売れっ子でした。
どんなジャンルの曲も作れる守備範囲の広さがウリで、それゆえどんなジャンルの映画にもそれなりの楽曲を提供します。可もなく不可もなくで個性に乏しい面はありますが、それゆえ映画作家たちから嫌われません。
個性の強い作曲家と個性の強い監督が対立して音楽担当が直前で交代・・・という話はハリウッドではざらですが、そういうときに代打屋として呼ばれることが多いのがJ.N.ハワードです。
 ジョン・バリーの降板した「サウスキャロライナ」
 ジェームズ・ホーナーの降板した「わが街」
 マーク・アイシャムの降板した「ウォーター・ワールド」
 最近では「キングコング」の音楽を突如降板したハワード・ショアの代わりに・・・
ハリウッド全般から広く浅く満遍なく好かれている感のあるハワードですが、90年代後半から1人の監督の溺愛を受けています。
もちろんそれはインドからきたハッタリスト、M.ナイト・シャマランです。「シックス・センス」でコンビを組んで以来、シャマランは全作の音楽をハワードに託しています。
「シックス・センス」の音楽はハワードらしい味気ないもの(と言っちゃ悪いのですが)でしたが、それ以降の作品ではハワードらしからぬ素晴らしい楽曲を提供しています。
ヒーローの哀歌を情感たっぷりに奏でる「アンブレイカブル」。古き時代のSF特撮音楽を再現したような「サイン」。久々アカデミー候補になった「ヴィレッジ」。とんでもストーリーに格調高い音楽で伝説的風格を持たせた「レディ・イン・ザ・ウォーター」。
なぜかシャマラン作品になると人が変わったように美しく、印象深い音楽を次々披露するJ.N.ハワード。よっぽとシャマランの作風とウマがあうのでしょう。
本作も無機的なチェロのソロで物悲しくも不安を煽りつつも、次第にオーケストラの厚みを加えて悲壮感を増していく素晴らしいオープニングに始まり、自殺シーンが始まると決まって鳴り出すハープ(?)の音が、来るぞ来るぞと期待と恐怖を盛り上げていくという、職人作曲家らしいウマさも光っており、ばあさんのシーンにおける古典的なショッキング音楽も味わい深いものでした。エンドクレジットの間も曲をじっくりと聞き込んでしまうほどの充実ぶりでした。
そろそろアカデミー獲ってほしい作曲家ですが、アカデミーの各部門賞って純粋にその技術や芸術性だけで取れるものではなく、ある程度以上の作品的評価も必要になってくるので・・・シャマランとのコラボではノミネート止まりかなあ。でも本作はアカデミー賞に値する仕事だったと私は信じています。

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