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映画作りの糧とすべく劇場鑑賞作品中心にネタバレ徹底分析
映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

小津安二郎記念 蓼科高原映画祭 短編映画祭の結果と感想

2006-11-05 21:14:01 | 自主映画関連
グランプリ「遺影」 15’45” 三宅 伸行  京都府八幡市
昆虫専門の写真家が、入院している叔父の遺影を撮る事を頼まれる。
写真嫌いの叔父は、交換条件に故郷の三宅島の写真を撮ってきてくれと頼む

再生に向かう三宅島の、まだ荒涼とした風景。対比するように死に向かっていく叔父。
癌が網膜に転移し視力を少しずつ奪われていく叔父は、主人公がやっと撮ってきた写真を見ることができない。
しかし叔父の思い出の場所はガスマスクをつけなくては行けないような危険地域になっており、叔父の記憶にある美しい故郷は見る影もなかったろう。見れなくて良かったのかもしれないし、それでも見せてあげたかったとも思う、そんなやるせない気持ちと死のイメージで全体に重厚な雰囲気が漂う。
ただ、終盤は台詞が多すぎたようにも思えたが・・・あそこまで説明しなくても良かったのでは・・・(って台詞だらけの「猫とり名人」の監督が言うのもどうかと)


準グランプリ「またたく魔」 16’30” 田平 衛史   島根県
占い師に見合い写真がラッキーアイテムと言われた男が、見合い写真を撮る為写真館に行く。
バイトの女の子に写真を撮ってもらうのだが、どうしてもシャッターを切る瞬間に目を閉じてしまう。
目をちゃんと開いた写真を撮る為、男とバイトの娘は四苦八苦する。

偶然だろうか?グランプリ、準グランプリともに、写真を題材とした作品が選ばれた。
映画は、撮られる俳優がいて、撮る監督やカメラマンがいて、見せる興行主や映画祭があって、見る観客がいる。
見ると見られる関係は映画の本質であるわけだが、写真を見ることのできない「遺影」、写真に撮られる人間の視点(しかしまばたきにより撮る側の姿を遮断する)で話が進んでいく「またたく魔」、いずれも見られる者と見る者との関係を描き、それは映画を見せるものと映画を見る観客との関係の暗喩になる。(自分の言葉でなく、大体の趣旨は審査委員長吉田喜重監督の発言から)。少なくとも「またたく魔」は映画を観ているはずの観客が、映画に見られているような錯覚を抱かせるあたりが素晴らしいと思う。
まばたきの瞬間、一瞬無音になる音響の使い方もうまいと思った

入賞
「うそつき由美ちゃん」 9’03” 宮本 正樹   神奈川県

主演は村上淳だったりする(縁があって出ていただいたんだって)。強盗犯が喫茶店に逃げ込み、そこに居合わせた客と店主を人質にする。ところがその居合わせた人たちがみんな不幸のどん底で、まるでそれぞれ不幸自慢大会に発展。ついには犯人も自分の不幸な境遇を語り出すが、最後の最後で人質のひとり由美ちゃんが、もっとも不幸な身の上を語る。それを聞き生きる希望がわいてくる一同だった

この映画で助監督としてクレジットされている宮永挙という男は、かつて山形大学映画研究会で私の後輩だった奴である。卒業後も私の映画のため松本まで呼びつけてカメラやらせたり、逆にあいつの映画二作で私が主演したり、あいつの大抵の作品のポストプロダクションは私がつとめたり(しかも私が仕事に入るのはエンドロール撮影後だったりするから、クレジットに名前がなかったりする!!)と、まあ、もちつもたれつの関係であった。
そんな奴のからんだ映画とまさか、蓼科映画祭でぶつかるとは思わなかった。そんなこんなで、デキに関係なくこの映画には正直負けたくないなと私的ライバル意識を燃やしたのだが、負けてしまった。
ま、しかし密室コメディとしてシナリオはきっちりまとまっていて、よく出来ている。第二の三谷幸喜を目指してほしい。


「SWING」 10’14” 杉原 俊一郎  東京都東大和市
ジャズミュージシャンがストリートで演奏している。興味なく通り過ぎる通行人たち。だが、一人の盲人が足を止め演奏をじっと聴きだす。やがて盲人が何人にも増えている。演奏が終わり盲人が握手を求める。メンバーたちは次の曲の演奏を始める。カメラは空に舞い上がり、都会の片隅で演奏するミュージシャンと聞き入る盲人たちを暖かく見守る。
・・・という内容を10分1カットで撮る
個人的には今回の短編映画祭で一番好きな作品である。技ありの一本。一本は技ありより上じゃないかとしょうもないこと言わないで
最初はミュージシャンの一人のPOVで展開。時々うつむくようにカメラが下を向き、吹いているサックスが大写しになりまた前に向き直ると、盲人の集団が・・・そんでラストの俯瞰はいつのまにクレーンを出してきたのかと、かなりびびる。カメラが下向いたり、後ろ向いたりしてるからクレーンが映るはずじゃないか?最初からクレーンだったのか、カメラが後ろ向いた隙にクレーンを出してきたのか?
(スタッフの方に聞いたら、クレーンの台にレールつけてその先にカメラが乗って、下向いても写んないようにしたとか)
ただ演奏し、ただ聞きほれるというそれだけの映画なのだが、夜のストリートミュージシャンのちょっと感じた幸せをおすそ分けしてくれたような、そんな感じを味わえる。


「吉野の姫」 8’11” 丸山 薫  東京都中野区
入選10作中唯一のアニメーション。
戦場に行く兄に桜の花を見せてあげたいという少女の願いにうたれた吉野の姫が桜の精をたたき起こして桜を咲かせる。

シンプルな物語。絵がきれい。キャラもかわいい。監督は普段はイラストレーターとして活躍しているそうである。イラストレーターのアニメ進出として、手堅くまとめ上げた作品


入選
「青い背中」 18’46” 佐々木 世雄  山口県宇部市

坊やは家の中で死んだおじいちゃんを見る。台所では寂しそうにお皿を洗っている母。じいちゃんいたよ、と訴えるが、母には聞こえていないのか、黙々と皿を洗う。坊やは一人外に出てボール遊びを始めるが、そこにはやはりおじいちゃんがいる。そして帰り道、坊やは転がったボールを追って、踏切の遮断機を越える。電車が迫ってくる。

最初見たとき、絶対これがグランプリだと思った。
室内シーンは構図もライティングも完璧な美しさ。ややノスタルジックな室内に差し込む柔らかい光。必要以上動かないカメラ。それについついほろりと泣けてくるいい話。
逆に評価されなかった要因はなんだろう。
屋外の映像に屋内シーンほどの美しさ・重厚さがなかったからか。編集だけで済ませてしまった踏み切りのシーンか。
やや緊張感のとぎれる中盤か。
しかし、おじいちゃん役の俳優からあふれる優しさと、子役のかわいさは、そんな欠点を補ってあまりあると思ったのだが・・・

「キユミの肘 サユルの膝」 5’00” 杉田 愉  新潟県柏崎市
物語らしい物語はなく、詩のような作品。
眼帯をした女の子を鎮痛な面持ちで見るもう一人の女の子。雪原で雪だまをぶつけあう少女たち。白い雪に飛び散る鮮血・・・と思えばカキ氷のシロップで、無邪気に雪を食べる二人
そんな緊張と弛緩の繰り返しが心地よい興奮を生む小品佳作。

主演は小学校の女の子2人。今作は冬篇だが、監督は彼女らが中学の時、高校の時、成人の時、それぞれで春夏秋篇を撮っていきたいと語る。壮大な計画だ。10年後くらいに全編撮ったら、一本の映画としてまとめてはどうだろうか?

「猫とり名人」 19’58” 斉藤 新  北海道札幌市
時は明治元年。戊辰の動乱さめやらぬ中、猫とりの技を封印した猫とり名人は一人黙々と仏像を彫る毎日。ある日一人の女が家に現れる猫たちにこまっているので退治してくれと頼みにくる。女の訳ありな雰囲気に引き込まれた名人は、封印を解き猫とりに赴く。待ち構えていたのは人の姿をした猫たち。
得意の技で人猫を蹴散らした名人は祝いの宴に招かれる。酔いにまかせ猫とりの歴史を語る名人。源平の時代に始まった猫とり衆は、織田信長に滅ぼされかけたこともあったという・・・

そんな話です。私の映画です。逆回しを多用したアクションとか、全部のタイトルを筆と墨で書いてたりとか、アナログ感全開の娯楽活劇にしてみたつもりです。最初は溝口の雨月物語みたいにするつもりだったのになあ

「爆弾探偵」 20’00” スパイシーマック  長崎県
ある日探偵が目覚めると背中に発信器があり、そこに向かってミサイルが飛んでくるという。犯人からの電話によると時間内にラスベガスの自由の女神に書いてある解除コードを装置に入力するか、ナカトミビル屋上にある鍵を使って装置を外すしかないという。急げ探偵

なんかアメリカで頑張って映画を撮っている方らしい。内容はドタバタコメディで、猫とりと違い、こちらはデジタル感全開で、CGがんがん、画面のあちこちに挿入されるサブ画面、編集むちゃむちゃな作品。大味なところがアメリカンというか、見た後何も残らない空っぽ感。特大打ち上げ花火みたいな映画。終わった終わった帰るか・・・ってそんな映画。
当日わざわざアメリカから監督が来るというので、同監督の入選しなかった作品3作も上映された。あわせて4作の中では入選作が一番面白かった。しかし、どの作品も演出は似たか寄ったか、俳優もいつも同じで、音楽も使い回していて、立て続けに見ると、そのマンネリ感がけっこう心地よい。人はそういうのを寅さん効果と呼ぶのだろうか?まあ、それはともかく、第二の石井克人とか中野裕之とかその辺は狙えそうな(すでに越えてるかも)そんな監督です。

「ひよっこ青春歌合戦」 16’23” 高木 優  大阪府吹田市

大阪の恋に恋する女子高生の前に、空から守護天使がふってくる。さえないにいちゃんな風貌の守護天使だが、女子高生の恋が成就すれば自動的に天に帰れることになっている。ところが守護天使はずっと空から見守っているうちその女子高生を好きになっていた。そしてその気持ちに気付いた女子高生も守護天使に心惹かれる。しかし恋の成就は2人の別れの時に他ならないのだ!!

入選10作中唯一のミュージカル!!
爆弾探偵より猫とりより、はるかに軽い!!当たり前だ。ミュージカルだ。哲学的なストーリーなんかいらん。心の機微を繊細なタッチで描く必要なんかあるか。話は超単純なほどよく、恋する男女が一組と歌と踊りがあれば作品は成立する。
いかにもセットなセットがまた楽しい笑いをさそい、心情の変化を編集とかカット割りとかカメラワークで表現するんでなく、スポットライトで表現しちゃうところも笑うしかなくて、楽しい楽しい16分はあっという間。

---------

まあ、そういうわけで、我が「猫とり名人」は残念ながら「入選」どまり
技術とアイデアで及ばないところはまあ仕方ないとして、観客に対する意識(楽しませることは勿論として、何を訴えかけるのか、何を提示できるのか)の面ですでに負けていたのかもしれないと、他の入選作品を観て思いました。
今度はもっと主張のある映画を撮りたいな

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6 コメント

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 (マダム・クニコ)
2006-11-08 11:22:35
入選おめでとうございます。
これからもがんばってくださいね。
いつか作品を拝見したいです。
返信する
コメントどうもです (しん)
2006-11-10 19:12:48
マダムクニコさま
私もいつかみなが見れるような作品を作りますので、それまで覚えていてください。
返信する
こんばんは (nyanco)
2006-11-21 23:35:28
こんばんは。
早速、TB&コメント頂きまして、ありがとうございました。

しんさんの「猫とり名人」ぜひ観たかったです。
HPのポスターも拝見しました。
本格時代劇で面白そうですね!^^
今回は見逃してしまいましたが、またいつか作品をぜひ拝見したいと思っています。
これからも映画制作がんばってくださいね。応援してます。

同じ長野県在住なので、こちらこそ情報交換できたらと思います。よろしくお願いします。
返信する
コメントどうもです (しん)
2006-11-24 05:30:40
>nyancoさま
本格ではないですが、時代劇です。
うえだ城下町映画祭でも入賞しまして、そこのHPでインターネット放映するそうですので、よろしければ御覧になってくださいな
返信する
論評をありがとうございます (スパイシーマック)
2006-12-18 09:46:31
斉藤新 殿

貴重な御意見ありがとうございます。たとえそれがネガティブなものであれ、今後自分が監督/プロデューサーとして成長していく上で、このような批評は避けては通れないものであり、むしろそこからこそ学び、自身の糧にしていかなければと痛感しています。自分が目指すのは誰もが楽しめるエンターテイメント作品であり、アート嗜好の強い日本映画からは敬遠される位置にいることも十分理解しております。また映画監督を目指して3年半と、まだまだ未熟なため演出や編集など稚拙な部分が沢山あることも認識しております。

アメリカに住んで初めて、日本人としての誇りを持つことが出来ました。アメリカでは日本の車、電化製品には絶大な信頼があり、改めて日本が技術大国であるということも再認識しました。だからこそ必ず映画でも世界中の人に受け入れられる作品を日本人なら作れると信じ、今ロスの安アパートで奮闘しています。製作の仲間はアメリカを初め、フランス、イタリア、イギリス、ロシア、ブラジルなど国籍はバラバラですが、世界中の人間が一つになって、日本人である自分がその陣頭指揮をとることで、日本人のプラスの波動を世界に広げていければと思っています。

斉藤さんも、自分の信じるスタイルで作品を製作し続け、ぜひとも日本で名を上げてください。お互いがんばりましょう!  スパイシーマック
返信する
コメントどうもです (しん)
2006-12-20 01:56:10
>スパイシーマックさま
蓼科でお話する機会がなくて残念でした。
世界を相手に戦う日本人という感じでかっこいいですね。
私もなんだかんだでエンタメ嗜好です。日本で敬遠されているのはエンタメ路線というより映画全般な気がします。その映画敬遠の一般人の心をこじ開けうるのはやはりエンタメ路線ではないでしょうか?
そういう意味でスパイシーマック作品が逆輸入され日本の自主映画界が活性化されれば素晴らしいことだと思います。
はちゃめちゃな内容ながらも一貫したスタイルを持つ頑固者監督としてがんばってください。
お互いがんばりましょう!!
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