[83点]
ファーストショットは新宿か渋谷かまあそういうところで人混みの中に佇むヒロインを遠巻きに写す。
そして人混みの中で初対面の男とスマホという現代的コミュニケーションと、手を振るなどの原始的なコミュニケーションを合わせてお互いを確認する。
孤独。きっとそれが映画の重要な要素。1人じゃないことを確かめたくて大勢ではなく大事な1人との時間と空間を共有しようとする。そのために嘘をつき見えを張りかえって孤独になっていく。
そんな生活の中でやっと出会えた自分の隙間をぴったり埋めてくれる人。
自然体で孤独を感じさせない人こそ愛の対象だ。それは異性とは限らない。
岩井俊二監督の新作と聞くとついテンション上がる。
久々の実写劇映画は、全作品中もっともコメディ要素が強く出てきた作品となった。年をとるに従ってシリアスさがどんどん剥ぎ取られていくような気がする。
ぼーっとしたヒロインは「四月物語」以降の薄味ヒロイン路線で、黒木華さんは物凄くハマってます。松たか子、蒼井優、というその系譜。
もう1人のヒロイン「リップヴァンウィンクル」を演じているCoccoがメチャメチャよい。痩せすぎじゃないのと心配させておいてそれも伏線だったとは。岩井俊二監督の映画はいつも隙だらけに見えてその実隙がない。
中盤から現れるミステリーパーソンで、どこかファムファタールで、強くて儚い、興味がつきないキャラクター。表現者としてのCoccoの奥深さを感じた気がする。
2人のヒロインがウェディングドレスを着て過ごす夜の寝室。満ち足りた表情。あふれ返る愛の空気。キスの美しさ。素晴らしいとしか言いようがない名シーン。それだけにその後の急展開に絶句する見事な構成。
綾野剛のアムロユキマスという役名のちょっとやりすぎ感のあるギャグも、なんか許せる。
岩井監督って漫画的な表現を実写の世界にごく自然に取り入れている。
少女漫画的世界観などと少女漫画もよく知らんのになんとなく納得してきたけど、漫画表現の実写転換であり、作風が輪郭のくっきりした少年漫画でなく、全体的にソフトフォーカスかかった少女漫画(東村アキコの言うところの海岸で麦わら帽子飛ぶ系漫画の世界なんだろうか)に近いからなのかな、などと思った。
もう一度「スワロウテイル」みたいな勝負作を作ってほしいけど(あれは価値ある失敗作だった)、自分にとっての岩井映画の居心地の良さを再認識したのでした。
お屋敷、宴の後、イモガイやヒョウモンダコなどの毒性の動物たちの水槽
現実感と現実離れのボーダー上にあるような美術が素晴らしい。
知ってたけど、美術監督は部谷さんじゃないですか!
追記
ギャグついでにCoccoさんに綾野さんを引っ叩かせてほしかった
「軟弱者!」
「親父にもぶたれたことないのに!」
色々混ざってるけど
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2016年4月3日 渋谷ユーロスペースで鑑賞
「リップヴァンウィンクルの花嫁」
監督・脚本 岩井俊二
撮影 神戸千木
美術 部谷京子
出演 黒木華、綾野剛、Cocco