「おまえなんかに・・・、殺されてたまるか!おれを笑ったやつを1人残らず・・・殺して・・・殺して・・・。」
ハーシェルの視線が、床に滴り落ちる自分の血からゆっくりと私の方に向いた時を待っていた。
「言いたいのはそれだけか?」
今度は右肩を狙って撃った。彼は大きく仰け反り、両手首の手錠が皮膚に食い込んでいた。彼は何も言わず、目を大きく見開いて私の言葉を待っていた。
「あの時と同じように、おまえは卑怯者と言われるのだ。」
右の足首。
「幼稚な感情を持ったまま大人になってしまったおまえの、これがふさわしい最期だ。」
右わき腹。
「これがおまえの運命だ。」
左太もも。
「これが私の・・・。」
みぞおち。
私は、彼が死んでしまったかと心配になり、一度銃を下ろして呼吸を整えた。
「まだ・・・まだおまえを殺すわけにはいかない。」
「・・・そうだ・・・おれを・・・ころ・・・殺すこと・・・がおまえの・・・うんめ・・・。」
顔は血の気が無くなり、全身はボロ布のようにズタズタになっていたが、彼の目だけはギラギラと輝きを増していた。
私は再び銃を構え、5発の弾を彼に向かって撃ったが、彼はまだ死ななかった。いや、彼の中にある私への憎しみが死ななかったのだ。しかし、さすがに目もうつろだった。
「か・・・かな・・・らず・・・おまえ・・・ころ・・・。」
彼は一時私を見据え、がくっと首を落とした。
「ハーシェル・・・。」
彼は、もう顔を上げなかった。
私は、収容所を出た。銃は部屋の中で落としたのか、手には何も持っていなかった。誰も、何も、言わなかった。ハーシェルをこの手で殺し、晴れやかなはずの道のりが、人生の終焉に向かっているように思えた。その道の、そんなには遠くない果てに、ハーシェルが立っていた。
「ハーシェル・・・。」
終わったのだ。彼は死んだ。私が殺したのだ。それが彼の運命だった。そして、私を殺すことが自分の運命だと、彼は言った。必ず、自分が私を殺すと。そう。それが私の運命なのだ。
「ハーシェル・・・。」
彼は不運な男だった。彼の唯一ラッキーだったことといえば、私の手で殺されたことくらいのことだろう。私は・・・彼が大嫌いだった。
「ハーシェル・・・。」
彼の名は、口に出すたびに次第に意味を持たなくなっていった。私の意志とは関係無く、機械的に動いていた私の足が、ふっと動きを止めた。
私は、・・・涙を流していた。以前あの夢を見た時と同じ涙だ。涙が止めどなく、頬を流れ顎を伝って足元にポタポタと落ちていくのを、私はずっと眺めていた。
「ハーシェル!」
そうだ。・・・私は、殺してしまったのだ。お互いが絡み合ってこそ、その存在を証明し合えていたものを、お互いの存在でしかそのその価値をしることができないものを、私はこの手で断ち切ったのだ。もう、どこにも、私の存在理由を教えてくれる人間はいない。
「・・・ハーシェル!!」
もう、他の言葉は思い浮かばなかった。ただ、ただ、私という「人間」の中から込み上げて来るものが、足元を少しずつ、そして確実に濡らしていった。
(第2章終わり。第3章へつづく)
ハーシェルの視線が、床に滴り落ちる自分の血からゆっくりと私の方に向いた時を待っていた。
「言いたいのはそれだけか?」
今度は右肩を狙って撃った。彼は大きく仰け反り、両手首の手錠が皮膚に食い込んでいた。彼は何も言わず、目を大きく見開いて私の言葉を待っていた。
「あの時と同じように、おまえは卑怯者と言われるのだ。」
右の足首。
「幼稚な感情を持ったまま大人になってしまったおまえの、これがふさわしい最期だ。」
右わき腹。
「これがおまえの運命だ。」
左太もも。
「これが私の・・・。」
みぞおち。
私は、彼が死んでしまったかと心配になり、一度銃を下ろして呼吸を整えた。
「まだ・・・まだおまえを殺すわけにはいかない。」
「・・・そうだ・・・おれを・・・ころ・・・殺すこと・・・がおまえの・・・うんめ・・・。」
顔は血の気が無くなり、全身はボロ布のようにズタズタになっていたが、彼の目だけはギラギラと輝きを増していた。
私は再び銃を構え、5発の弾を彼に向かって撃ったが、彼はまだ死ななかった。いや、彼の中にある私への憎しみが死ななかったのだ。しかし、さすがに目もうつろだった。
「か・・・かな・・・らず・・・おまえ・・・ころ・・・。」
彼は一時私を見据え、がくっと首を落とした。
「ハーシェル・・・。」
彼は、もう顔を上げなかった。
私は、収容所を出た。銃は部屋の中で落としたのか、手には何も持っていなかった。誰も、何も、言わなかった。ハーシェルをこの手で殺し、晴れやかなはずの道のりが、人生の終焉に向かっているように思えた。その道の、そんなには遠くない果てに、ハーシェルが立っていた。
「ハーシェル・・・。」
終わったのだ。彼は死んだ。私が殺したのだ。それが彼の運命だった。そして、私を殺すことが自分の運命だと、彼は言った。必ず、自分が私を殺すと。そう。それが私の運命なのだ。
「ハーシェル・・・。」
彼は不運な男だった。彼の唯一ラッキーだったことといえば、私の手で殺されたことくらいのことだろう。私は・・・彼が大嫌いだった。
「ハーシェル・・・。」
彼の名は、口に出すたびに次第に意味を持たなくなっていった。私の意志とは関係無く、機械的に動いていた私の足が、ふっと動きを止めた。
私は、・・・涙を流していた。以前あの夢を見た時と同じ涙だ。涙が止めどなく、頬を流れ顎を伝って足元にポタポタと落ちていくのを、私はずっと眺めていた。
「ハーシェル!」
そうだ。・・・私は、殺してしまったのだ。お互いが絡み合ってこそ、その存在を証明し合えていたものを、お互いの存在でしかそのその価値をしることができないものを、私はこの手で断ち切ったのだ。もう、どこにも、私の存在理由を教えてくれる人間はいない。
「・・・ハーシェル!!」
もう、他の言葉は思い浮かばなかった。ただ、ただ、私という「人間」の中から込み上げて来るものが、足元を少しずつ、そして確実に濡らしていった。
(第2章終わり。第3章へつづく)