すずりんの日記

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小説「雪の降る光景」第3章19

2008年07月05日 | 小説「雪の降る光景」
 この年が暮れるまでに私は、このベッドの上で数多くのニュースを知った。私が入院していた6ヶ月近くの間に、数回にわたる総統暗殺未遂事件が起こり、その度ごとに我がナチスに対する造反者は数を増していった。
 同じ時期に多くのナチス幹部が私を見舞ってくれたが、もう誰も、この戦争でのナチス・ドイツの勝利を信じてはいなかった。イングランドもロシアも我が手中に治めることができなかったばかりでなく、今やかなりの後退を余儀無くされていたのだ。フランスでは、ドイツ軍はアメリカ軍を相手にしていたが、敵軍優勢で、ドイツ軍は兵員、物資共に大きく劣り、短期日のうちに敵に叩きのめされることは避けがたいようだった。
 総統は依然として、共産主義を恐れ憎んでいる民主国家であるイギリスがロシアと敵対し、ロシアに対する聖なる戦いに加わってくれることに望みを託していたが、その希望もあっけなく断たれてしまっていた。彼は、国家の存続を計るための合理的な提案を何一つ持っていなかった。彼はただ戦争を強化し、最後の一人まで戦うことにのみより多くの犠牲を求めただけであった。
 総統は、自分個人の運命と国家としてのドイツの運命を同一視していた。先の一次大戦の敗北を招いた責任者であり総統の狂信者であるルーデンドルフ将軍が、その当時、「最後の攻勢に敗れた時はどうするのか」と尋ねられて、「その時にはドイツは滅びなければならない」と答えた、というのは有名な話だ。それはまさに、軍が勝利を収められなければドイツが生存するいわれは無いとする総統の思想そのものなのだ。ロマンティックな彼は、国民の運命を賭けて最後の瞬間まで奇跡を願い決定的な破局の回避を望んだが、残念ながらそう簡単に奇跡は起こるはずもなく、国民を惹きつけて離さなかった彼の自信に満ちた笑顔がメッキを剥がし始めた。


(つづく)

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