ボルマンの返事を待たずに、私は言葉を続けた。
「君だけの覚悟を責めている訳じゃない。ナチス幹部の中で、私の他にもその覚悟がある人間がいるなら、私は総統に、我がナチス・ドイツの最高責任者としての全ての権力をその人間に継承させてから速やかに命を絶つように勧めよう。ただの殺人鬼としてな。もし幹部の連中にナチスを背負ったままの姿で全人類の敵となる勇気が無いなら、私は総統に、全ての責任をナチス総統としての自らの死で償うように勧めるようにしよう。」
私はさらに続けた。
「私がその役目を負えずに死ぬのは残念だが。」
私はここで改めてボルマンの返事を待った。ボルマンは、今までの人生を振り返るようにして、言葉を振り絞った。
「やはり、それしか道は・・・。」
「あぁ。もう、それしか道は無い。そして、もうこんなことは我々で最後にするのだ。」
打ちひしがれているように私の言葉を受け入れていたボルマンが、急に強い口調で言った。
「我々は間違っていない。たとえナチスが滅んでも、人間はまた、第二のナチスを造り出す。人間は、ナチスのような、自分以外の何かに常に自分の不幸な身の上の責任を押し付けていなければ生きていられない生き物だ。ナチスは必要悪なんだ。」
ボルマンには、総統の代わりは無理だ。彼は、自分は臆病でどんな理屈をつけてでも死を免れてみせる、と言っているに過ぎない。
「どうやら君にこの大役は耐えられそうもないようだな。総統一人に全責任を押し付けるのはかわいそうだが。」
「私は、自分の言ったことが間違っているとは思えない。」
頑なにボルマンがこう言うのもわからないではなかった。しかし、なんとかしてこの死の意味を理解させなければならないのだ。
「人類が愚かだったが故に我々がここまでのし上った。それは一理ある。しかしボルマン、そうやって責任を全て転嫁させて我々のしてきたことが許されるのか?我々のしてきたことは、我々ナチス幹部の命では決して償い切れない。が、これ以上に償えるものは何も無いのだ。言葉を換えれば、償いとして命を絶つことを許されているなら、せめて逃げも隠れもせず、ナチスの姿のまま死に臨むのが我々に残された道なのだ。」
(つづく)
「君だけの覚悟を責めている訳じゃない。ナチス幹部の中で、私の他にもその覚悟がある人間がいるなら、私は総統に、我がナチス・ドイツの最高責任者としての全ての権力をその人間に継承させてから速やかに命を絶つように勧めよう。ただの殺人鬼としてな。もし幹部の連中にナチスを背負ったままの姿で全人類の敵となる勇気が無いなら、私は総統に、全ての責任をナチス総統としての自らの死で償うように勧めるようにしよう。」
私はさらに続けた。
「私がその役目を負えずに死ぬのは残念だが。」
私はここで改めてボルマンの返事を待った。ボルマンは、今までの人生を振り返るようにして、言葉を振り絞った。
「やはり、それしか道は・・・。」
「あぁ。もう、それしか道は無い。そして、もうこんなことは我々で最後にするのだ。」
打ちひしがれているように私の言葉を受け入れていたボルマンが、急に強い口調で言った。
「我々は間違っていない。たとえナチスが滅んでも、人間はまた、第二のナチスを造り出す。人間は、ナチスのような、自分以外の何かに常に自分の不幸な身の上の責任を押し付けていなければ生きていられない生き物だ。ナチスは必要悪なんだ。」
ボルマンには、総統の代わりは無理だ。彼は、自分は臆病でどんな理屈をつけてでも死を免れてみせる、と言っているに過ぎない。
「どうやら君にこの大役は耐えられそうもないようだな。総統一人に全責任を押し付けるのはかわいそうだが。」
「私は、自分の言ったことが間違っているとは思えない。」
頑なにボルマンがこう言うのもわからないではなかった。しかし、なんとかしてこの死の意味を理解させなければならないのだ。
「人類が愚かだったが故に我々がここまでのし上った。それは一理ある。しかしボルマン、そうやって責任を全て転嫁させて我々のしてきたことが許されるのか?我々のしてきたことは、我々ナチス幹部の命では決して償い切れない。が、これ以上に償えるものは何も無いのだ。言葉を換えれば、償いとして命を絶つことを許されているなら、せめて逃げも隠れもせず、ナチスの姿のまま死に臨むのが我々に残された道なのだ。」
(つづく)