すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「雪の降る光景」第3章24

2008年08月09日 | 小説「雪の降る光景」
 私は、いつか首を吊って死んでいったイギリスの将校に対して言った言葉を、そのまま今ボルマンに向かって言っているような錯覚に囚われていた。
「それにだ、我々がナチスとしての最期を迎えなければ、民衆は誰を憎めば良いのだ。我々が今までのことをあっさりと悔い改めてしまったら、民衆は、誰に死刑を宣告すれば良いのだ。我々が、ナチスであることを恥じてしまったら、民衆は、後世に何を語れば良いのだ。」
「君には君の論理があろう。それは構わない。しかし、君以外のナチスまでもが大衆のためになぜ死ななければならんのだ。君が一人で死ねば良い。私も総統も他の党員も、君と同じ思想を持ち合わせてはいない。」
 この男の勇気の無さを責めるのは止めよう。ナチスの罪を死を以って償う勇気の無い人間が、生涯陽の下にさらすことのできない自らの生を以って償う勇気を持ち合わせているとでも、彼は考えているのだろうか。
「ボルマン、よく聴いてくれ。総統を、彼を誰かが殺してやることが、彼にとって最後の、あまりにも幸福な道なんだ。」
ボルマンは、我が侭な私にはもう付き合い切れないと言うかのように、投げ遣りに足を組んだ。
「では君が全責任を取れ。君一人で、総統とこの戦争の二つを背負って死ねば良い。私はごめんだ。・・・私はナチスだ。たとえ君が死んでも、党が解散しても、ドイツが戦争に負けても、ナチスは、私の思想として生き続ける。そして、いつかまた・・・」
「そしていつかまた、世界を獲る、か?」
彼は人間だ、間違いなく。人間であるが故に愚かな行動を繰り返す。しかし、人間であるが故に、その愚かさに気づく事もできるのだ。



(つづく)

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