総統は、知能に乏しく野卑で残忍な心の持ち主であった。利己的な誇大妄想狂な上に酷い偏執狂の彼は、ナチス最高司令部を無能呼ばわりし、自分の周囲の者を不忠だと責め立てた。周囲の者は、総統のこのような変貌ぶりに少なからず動揺し、その彼らの動揺はまた、総統の不信を買った。
彼らは今初めて、総統が狂人であることに気づき、自分たちが狂人になり切れない偽善者に過ぎなかったことを思い知ったのだ。しかし既に時遅く、自らが狂人ではないのだと気づいて自分の懐から反発し去って行こうとしている者を、総統は容赦なく処刑していった。
狂人として生きるか、人間として死ぬか、その二者選択をせずにいつまでもふらふらと生き抜いていけると考えていた“その他大勢”が、このナチスという組織にどれだけたくさん存在していたのだろうか。
総統の本質は子供なのだ。彼は、思考することなしに、自分と同じにおいのする者を直感で嗅ぎ分ける。自分と同じ完璧なナチスにのみ彼は安らぎを感じ、共にしてきた歩みをほんの少しでも止めようとする者からは、一体感を感じられなくなる。そしてその時彼の知能は判断を下す。「彼は敵だ。」・・・これが彼の“思考回路”なのだ。
私はいまや、完璧なナチスではなかった。完璧に善人になったというのでもなかった。私は、自分がその両面を等しく持ち合わせている「人間」に過ぎないことを知ったのだ。
人の感情が、人を裁くことなどできはしない。
たとえそれが、善と悪、強者と弱者であっても、だ、
人の感情が、人を裁くことなどあってはいけない。
そのことに、私は気づいたのだ。
人が、生きる中で依りどころにするもの、
それは、人の感情ではない。
もっと、大きな力に支配された何か。
私に、人を殺させた何か。
私を、ナチスであり続けさせた何か。
私に、彼らを出会わせた何か。
私を、この時代に生まれさせた何か。
そして、私に、全てを気づかせてくれた何か。
そのことに、私は、気づいたのだ。
総統が、私に会いたいと言ってきたのは、国内外の情勢が緊迫していた、ある午後のことであった。
(つづく)
彼らは今初めて、総統が狂人であることに気づき、自分たちが狂人になり切れない偽善者に過ぎなかったことを思い知ったのだ。しかし既に時遅く、自らが狂人ではないのだと気づいて自分の懐から反発し去って行こうとしている者を、総統は容赦なく処刑していった。
狂人として生きるか、人間として死ぬか、その二者選択をせずにいつまでもふらふらと生き抜いていけると考えていた“その他大勢”が、このナチスという組織にどれだけたくさん存在していたのだろうか。
総統の本質は子供なのだ。彼は、思考することなしに、自分と同じにおいのする者を直感で嗅ぎ分ける。自分と同じ完璧なナチスにのみ彼は安らぎを感じ、共にしてきた歩みをほんの少しでも止めようとする者からは、一体感を感じられなくなる。そしてその時彼の知能は判断を下す。「彼は敵だ。」・・・これが彼の“思考回路”なのだ。
私はいまや、完璧なナチスではなかった。完璧に善人になったというのでもなかった。私は、自分がその両面を等しく持ち合わせている「人間」に過ぎないことを知ったのだ。
人の感情が、人を裁くことなどできはしない。
たとえそれが、善と悪、強者と弱者であっても、だ、
人の感情が、人を裁くことなどあってはいけない。
そのことに、私は気づいたのだ。
人が、生きる中で依りどころにするもの、
それは、人の感情ではない。
もっと、大きな力に支配された何か。
私に、人を殺させた何か。
私を、ナチスであり続けさせた何か。
私に、彼らを出会わせた何か。
私を、この時代に生まれさせた何か。
そして、私に、全てを気づかせてくれた何か。
そのことに、私は、気づいたのだ。
総統が、私に会いたいと言ってきたのは、国内外の情勢が緊迫していた、ある午後のことであった。
(つづく)
てん&しーです。
最近の2匹のじゃれ合いは、2匹がうちに来た当初に比べて、
体が大きくなっている分、ドタドタ騒がしいですが、
穏やかになってる気がします。
噛み合いもひどくないし、
私の手にじゃれつく時も、
今はちゃんと爪を立てないし、あま噛みもできます。
うちの大人ネコたちの教育のおかげでしょうか。
最近の2匹のじゃれ合いは、2匹がうちに来た当初に比べて、
体が大きくなっている分、ドタドタ騒がしいですが、
穏やかになってる気がします。
噛み合いもひどくないし、
私の手にじゃれつく時も、
今はちゃんと爪を立てないし、あま噛みもできます。
うちの大人ネコたちの教育のおかげでしょうか。
この年が暮れるまでに私は、このベッドの上で数多くのニュースを知った。私が入院していた6ヶ月近くの間に、数回にわたる総統暗殺未遂事件が起こり、その度ごとに我がナチスに対する造反者は数を増していった。
同じ時期に多くのナチス幹部が私を見舞ってくれたが、もう誰も、この戦争でのナチス・ドイツの勝利を信じてはいなかった。イングランドもロシアも我が手中に治めることができなかったばかりでなく、今やかなりの後退を余儀無くされていたのだ。フランスでは、ドイツ軍はアメリカ軍を相手にしていたが、敵軍優勢で、ドイツ軍は兵員、物資共に大きく劣り、短期日のうちに敵に叩きのめされることは避けがたいようだった。
総統は依然として、共産主義を恐れ憎んでいる民主国家であるイギリスがロシアと敵対し、ロシアに対する聖なる戦いに加わってくれることに望みを託していたが、その希望もあっけなく断たれてしまっていた。彼は、国家の存続を計るための合理的な提案を何一つ持っていなかった。彼はただ戦争を強化し、最後の一人まで戦うことにのみより多くの犠牲を求めただけであった。
総統は、自分個人の運命と国家としてのドイツの運命を同一視していた。先の一次大戦の敗北を招いた責任者であり総統の狂信者であるルーデンドルフ将軍が、その当時、「最後の攻勢に敗れた時はどうするのか」と尋ねられて、「その時にはドイツは滅びなければならない」と答えた、というのは有名な話だ。それはまさに、軍が勝利を収められなければドイツが生存するいわれは無いとする総統の思想そのものなのだ。ロマンティックな彼は、国民の運命を賭けて最後の瞬間まで奇跡を願い決定的な破局の回避を望んだが、残念ながらそう簡単に奇跡は起こるはずもなく、国民を惹きつけて離さなかった彼の自信に満ちた笑顔がメッキを剥がし始めた。
(つづく)
同じ時期に多くのナチス幹部が私を見舞ってくれたが、もう誰も、この戦争でのナチス・ドイツの勝利を信じてはいなかった。イングランドもロシアも我が手中に治めることができなかったばかりでなく、今やかなりの後退を余儀無くされていたのだ。フランスでは、ドイツ軍はアメリカ軍を相手にしていたが、敵軍優勢で、ドイツ軍は兵員、物資共に大きく劣り、短期日のうちに敵に叩きのめされることは避けがたいようだった。
総統は依然として、共産主義を恐れ憎んでいる民主国家であるイギリスがロシアと敵対し、ロシアに対する聖なる戦いに加わってくれることに望みを託していたが、その希望もあっけなく断たれてしまっていた。彼は、国家の存続を計るための合理的な提案を何一つ持っていなかった。彼はただ戦争を強化し、最後の一人まで戦うことにのみより多くの犠牲を求めただけであった。
総統は、自分個人の運命と国家としてのドイツの運命を同一視していた。先の一次大戦の敗北を招いた責任者であり総統の狂信者であるルーデンドルフ将軍が、その当時、「最後の攻勢に敗れた時はどうするのか」と尋ねられて、「その時にはドイツは滅びなければならない」と答えた、というのは有名な話だ。それはまさに、軍が勝利を収められなければドイツが生存するいわれは無いとする総統の思想そのものなのだ。ロマンティックな彼は、国民の運命を賭けて最後の瞬間まで奇跡を願い決定的な破局の回避を望んだが、残念ながらそう簡単に奇跡は起こるはずもなく、国民を惹きつけて離さなかった彼の自信に満ちた笑顔がメッキを剥がし始めた。
(つづく)
犬の声
2008年07月03日 | 猫
最近、夜中にけたたましい犬の鳴き声がします。
ネコたちも、横になるけど熟睡できない、って感じです。
ニワトリを飼っているお宅とは別の家みたいです。
誰かに何かを言われて、
(飼い主の責任ではなく)犬のせいにならなきゃ良いけど、
と、ちょっぴり心配な夜でした。
ネコたちも、横になるけど熟睡できない、って感じです。
ニワトリを飼っているお宅とは別の家みたいです。
誰かに何かを言われて、
(飼い主の責任ではなく)犬のせいにならなきゃ良いけど、
と、ちょっぴり心配な夜でした。