首都圏に住んでいる高校の同級生3人が喜寿を迎えたことを契機に始めた街歩き。歴史探訪
や文学散歩を楽しんでいます。2016年、最初の訪問地として選んだのは初詣で賑わう浅草
寺です。
ノブ: 地下鉄の駅から、すでにすごい人波だ。昨年の初詣客は28万人だったらしいけど、
この混雑の中に身を置いてみると納得だ。雷門が遠く感じるよ。
ヒデ: 浅草寺は都内最古の寺なんだってね。一説によると約1400年前に隅田川で漁をして
いた兄弟の網に掛かった観音様を安置したのが始まりだということだね。
ヤス: 似たような話で、信州・善光寺の善光寺如来さんも難波の堀から見つかったとされ
ているよ。こうした話は他にもあるのだろうね。
ノブ: やれやれ、やっと雷門まで来たぞ。普段、雷門と呼んでいるこの総門は55年前に松
下電器(現パナソニック)の創設者、松下幸之助氏が病気快癒のお礼として寄進し
たそうだ。上からぶら下がっている大提灯には社名も記されているよ。左右の風神
・雷神像は頭部が江戸時代、胴体は明治時代のものなんだってさ。
雷門をくぐった3人は初詣にやって来た善男善女の人波にもまれながら仲見世通りを歩いて
いるのですが、とても89店舗あるお店に立ち寄るゆとりはありません。
ヒデ: 仲見世は浅草寺境内の掃除や様々な役割を課せられた近在の人々に対して、出店の
特権を与えたのが起源だそうだよ。
ヤス: それにしても外国の人が多いな。仲見世通りの風情と浅草寺境内は日本的情緒を感
じるには最適な場所かもしれないね。仲見世通りの通路上に飾られた装飾品も魅力
だ。
お正月だから羽子板やコマ、それに今年の干支のサルなども飾られて、いい雰囲気
をかもし出しているよ。ただ、この人波では情緒が棚上げになっちゃっているけど
ね。
ノブ: 宝蔵門に着いたよ。現在の宝蔵門はホテルニューオータニ創始者の大谷米太郎氏が戦
後に寄進したものだそうだ。ここの提灯も大きいね。この門の裏側には山形県村山
市が昭和16年に寄進を始めた長さ4.5m、500kgの大ワラジがあるよ。
宝蔵門を通ると、左手の五重塔が圧巻です。昭和48年に再建されたこの五重塔は京都の東寺
に次ぐ高さだとか。境内の露天にも人が集まっています。
ノブ: 浅草寺の年間行事は盛りだくさんで、三社祭りだけでなく、季節ごとに開催される市
(いち)も人を引き寄せる原動力になっていると思うんだ。
ヒデ: 僕は年末の12月18日に「羽子板市」に来たよ。毎月18日は観音様の縁日だけど、12月
はその納めの月だから、参詣する人も多かった。「羽子板市」も最初は正月用品や縁
起物を売る店が集まる「蔵の市」と呼ばれていたそうだ。
店の作り方、羽子板の飾り方、売り子さんとのやり取りなどは江戸時代の様子を色濃
く残していて、ここにいると江戸庶民の生活が見えると言われているね。フィギュア
スケートの羽生君やラグビーの五郎丸君の羽子板もあったよ。その年に活躍した人が
羽子板の絵柄になるから、羽子板も「時代と共にあり」だ。
ヤス: 羽子板って女の子を守る縁起物なんだよね。
ヒデ: その通りだよ。羽子板でつく「羽根」が害虫を食べる「トンボ」に似ているから、悪
い虫がつかないようにと願う親が娘のために買いに来るんだね。
ノブ: 市と言えば7月9日、10日の「ほおずき市」だ。7月10日に参拝すると、4万6千回お参
りしたのと同じご利益があるとされている。特に参拝者が多いから、それに合わせて
ホオズキを売る店が約120軒も並び、風鈴の涼しげな音色、ほおずきの鮮やかな朱色、
そして色とりどりの浴衣姿でそぞろ歩きを楽しむ人々で境内は下町らしい華やぎを見
せるんだ。今のホオズキはほとんどが観賞用だけど、昔は鎮静効果のある薬草として
利用されてきたんだよ。
ヤス:「朝顔市」もここだっけ?
ノブ: え~と、「朝顔市」で一番有名なのは「入谷鬼子母神」だったと思うな。浅草朝顔市
とも呼ばれるから浅草寺で行なわれると勘違いされやすいけどね。
ヒデ: 長い時間がかかって、ようやく本堂にたどり着いたよ。僕は今年も充実したウォーキ
ングが楽しめるように健康祈願をしようかな?
ノブ: 3代将軍徳川家光が建立したといわれる国宝の本堂が昭和20年の空襲で焼失した後、
昭和33年に信徒さん達の募金で今の本堂が再建されたんだそうだ。あの時の空襲で
消失を免れたのは浅草寺境内では二天門、伝法院、浅草神社かな?
ヤス: ということは、ここにある建物のほとんどが戦後に再建されたんだな。第2次世界大戦
後に人々が復興にかけた熱意と想いの強さをつくづく感じるね。焼け野原の状態を知
っている人は、昨今の賑わいをどのように感じているのだろう?
ヒデ: 戦後の復興は人々の地道な努力の積み重ねと、観音様のご加護のお蔭だね。
3人は参拝の後、一杯飲みながら、今年のウォーキング計画を話し合うようです。
今年はどんな場所を巡るのでしょう?
蛇足ながら、浅草寺のご本尊は聖観世音菩薩ですから、拝むときは合掌して「南無観世音菩薩」
とお唱えいたしましょう。