ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

石の芽

2016-02-15 10:42:31 | 日記


寒い日が続く2月。日ごろの運動不足を解消しようと、霞ヶ浦湖畔にある土浦市・霞ヶ浦総合公園
にやってきた老夫婦が園内の広場で石のオブジェを見つけました。

夫: 「石の芽」って書いてあるよ。芽と言えば植物だよね。石だって芽が出てもおかしくないと
   考えたのかな?この発想はなかなか面白い。

妻: あら、芽が出るのは植物だけじゃないでしょ。人間だって“やっと芽が出た”なんて表現す
   る事があるわ。だけど、「石の芽」ってどういうこと?

夫: 説明を読んでみなくちゃ、解らないな。え~っと、どれどれ。“誕生して7500万年の茨城産
   の御影石は地球の種でもある”オ~、「地球の種」ときたか。これも面白い表現だぞ。
   御影石というのは花崗岩のことで、もともとは六甲山の麓、神戸市御影町エリアで産出する
   良質な石材の名前なんだけど、今では産地に関係なく花崗岩からできた石材を御影石と言う
   らしいね。

妻: 墓石とか、建築資材として使われているあの石よね。御影石って、結構ヒトの生活に密着して
   いるんじゃないの?

夫: そうだね。例えば、瀬戸とか信楽のように焼き物で有名な街は、花崗岩が地表に出ている地域
   に存在していることを知っていたかい?

妻: 突然、焼き物の話になっちゃうのね。御影石の説明に焼き物が必要なの?

夫: まあ、聞きなよ。花崗岩はマグマが地下でゆっくり冷えて固まってできた深成岩の一つで、変
   成岩とともに陸地を構成している重要な岩石だ。主成分は石英と長石で、他に10%程度の黒
   雲母などの有色鉱物を含んでいる。英名はGraniteだ。語源はラテン語のgranumで、種子と
   か穀粒を意味するらしいよ。

妻: 今、granite って言った?確か、a man of granite は頑固な男っていう意味だと英語の授
   業で習った覚えがあるわよ。40数年も前の話だから自信はないけどね。

夫: 英語の話は置いといて、御影石について言えば、その特徴は「緻密で硬いこと」「耐久性があ
   る」「風化に強い」「研磨して光沢を出せてスベスベにできる」ことだね。だから、墓石な
   どに使われるのさ。でも、これは石材となった御影石の話で、石材にならないような花崗岩
   は熱の変化には弱くて、風化しやすいんだ。理由は結晶粒子が大きく、かつ、構成する鉱物
   結晶の膨張率がそれぞれ異なるため、温度差が激しいと粒子間の結合が弱まるからだ。
   もっと具体的に言うと、主成分の一つである石英は風化しにくいので、より風化しやすい長
   石や黒雲母の粒子と分離してバラバラになって、もろく崩れやすくなる。こうして花崗岩が
   風化して砂となったものの内、白色から黄土色の粗い砂を真砂土、単に真砂(マサ)と言っ
   ている。
   花崗岩地帯にはこの真砂が広く分布していて土砂崩れを起こしやすいんだ。だから注意を喚
   起するために砂防地帯に指定されているところが多い。付け加えになるけど、この真砂土が
   河川によって海まで運ばれると、風化に強い石英主体の砂となり、白い砂浜になるんだ。
   君の郷里・瀬戸内海の白砂青松(はくしゃせいしょう)や山陰の砂丘は中国山地の大量の花
   崗岩が元になっているんだよ。

妻: ヘ~ェ、そうだったの。でも、焼き物との関係がなかなか出てこないわよ。

夫: さっき、花崗岩中の石英以外の成分である長石や黒雲母は風化を受けやすいと言ったね。この
   内、長石の一種、斜長石が分解してできるカオリナイトは粘土鉱物で吸水性が高くヌルヌル
   しているんだ。この成分が多いほど高温に耐える磁器の材料になるんだ。だから、焼き物の
   街はカオリナイトが産出する花崗岩周辺に存在しているのさ。

妻: ようやく焼き物とつながったわね。そういえば、いつも身近に感じている筑波山の麓には、御
   影石が産出される石の街・真壁があるし、陶器の町として有名な笠間や益子があるわね。
   今でも採掘しているのかしら。

夫: さあ、どうかな?現在、国内で流通している御影石は福建省を中心とした中国産がほとんどら
   しい。これもついでだけど、高い強度と滑りやすさを要求されるカーリングのストーンはス
   コットランドのアルサク島の花崗岩で作られている。一方、国会議事堂の外装は全て日本国
   産の花崗岩でできているんだよ。

妻: フ~ン、それくらいのことは知っておいた方がいいかもね。教えてくれてありがとう。

夫: いえいえ、どういたしまして。

妻:「石の芽」や「地球の種」の話に戻るけど、花崗岩の語源が種子であるなら、種子から芽が出
   るのは自然の成り行きよね。製作者はそれを熟知した上で、このオブジェに「石の芽」とい
   うタイトルを付け、説明に「地球の種」という言葉を使ったのね。
   ようやく、その意図が納得できたわ。

夫: 続けて書かれている「市民との触れ合う対話からは、石の芽が生まれる」って言うのがいまい
   ち理解できないけど。

妻: このゆったりした広場に市民が三々五々集まって、和やかに会話をすることで、新しい未来へ
   の芽吹きが生まれることを期待したのかな?地球を構成する岩石にも目を向けて欲しいとい
   うことかもね。

夫: そうかもしれないけど、まあ、これ以上の詮索はしないでおこう。

陶器産業だけではなく、灘などの有名な酒蔵も花崗岩の産地周辺に集まっています。理由は花崗岩
でろ過された清らかな水が美味しいお酒を作るからです。

偶然に見つけた御影石のオブジェを前に石について改めて想いを巡らしたひとときでした。石は奥
深い。もう少し掘り下げて学んでみたいと思いました。私にとってこのオブジェは石に関心を持つ
動機の芽となりました。石の芽からは、一体どんな花が咲き、どんな実を結ぶのでしょうね。
コメント
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