Dream Gate ( 中野 浚次のブログ )   

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国家権力のウソを暴く  -山崎豊子『運命の人』四部作ー

2010-02-12 | 本日の○○






遅ればせながら、やっと読破しましたので山崎豊子さんの『運命の人』(新潮社)を紹介します。
読みごたえのある全4巻でした。

本書は、72年に実際に起きた「沖縄返還密約事件」をモデルにした社会小説です。
「社会小説」といったが、そんなジャンルがあるかどうかはともかく、小説仕立てになってはいますが、実名を変えてあるぐらいで、事件をかなり忠実に再現して、気楽に読める「実話小説」でした。

事件とは、沖縄返還交渉で日本政府が米側と密約を交わしていたのです。
つまり基地などの現状回復補償費400万㌦は本来、米側が負担しなければならないのですが、日本側が肩代わりする方向で、OECD閣僚会議の場を隠れミノに、交渉が行われていたのです。


小説は外務省記者クラブに所属する弓成記者が、その密約を交わしている機密文書を手に入れるのです。
その文書は外務省の女性事務官から渡されたものでした。女性事務官と弓成記者は男女関係がありました。
ニュース源を明かさずに、いかに政府のウソを明かるみに出すか?
結局、弓成は野党議員に文書を渡す。当然このことは国会で論議の的になります。
政府は「密約などしてないし、そのような文書もない」とシラを切る。
そればかりか、弓成と女性事務官は機密漏洩の公務員法違反で逮捕されてしまうのです。

世論は当初、国民を欺く密約だと政府を強く非難するのですが、弓成記者が「情を通じて」女性事務官に文書の持ち出しをそそのかしたとして、結果は「起訴」でした。

「国家権力のウソ」が暴かれたとき、権力は「ワイドショーもどきの薄汚い不倫事件」にすりかえらせて、国民をだまそうとした。

つまりは政府の見立て通り、世論はころりとだまされたのです。

筆者は新聞記者出身とはいえ、取材に賭けるエネルギー、旺盛さは、『不毛地帯』『白い巨塔』『華麗なる一族』などで定評があり、並ではない。
ことに裁判のやり取りは、細部まで具体的で息もつかせない。それはあたかかも傍聴席にいるような臨場感さえあります。

小説は4巻で完結しますが、現実の沖縄密約事件は終ってはいない。37年経った今も動き続けているのです。現に文書は米国ですでに公開され、密約が明らかになっています。


『運命の人』は、この国の国民と権力のありようを問うてはいるのですが、現代の普天間基地問題などを考えたとき、沖縄問題はあまりにもハードルが高いということです。
そして、「オキナワ」の傷はあまりにも深いのです。

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