TABI天使日記

天使になったカナダのアジリティ犬と、ママ・パパの日常

House of Lies

2018-03-23 13:31:32 | その他
約束の時間にレストランへ着くと、彼女はすでにテーブルについてお茶を飲んでいた。

私の姿を見ると、「良かったわ、あなたの都合がついて。『妻は忙しくて同席出来ない』って聞いてたから、今回は会えないのかと心配してたのよ」と、その女性。私は心の中で、「え?『お前は一緒に来なくていいよ』ってしきりに言ってたのは、夫の方なのに」と不振に思う。私の横で夫は、表情をかえずにテーブル脇の暖炉の火を見ている。

その女性は、夫が若いころ初めての任地先で知り合い、彼が転勤になるまで交際していたいわゆる元カノである。その後はお互い西と東に分かれてしまい、彼女は結婚。夫も、私と結婚したのだが、結婚後も彼女の写真を大切に持ち歩き、応接間の壁にも大きくプリントした彼女の写真を飾っていた。彼女はいわば、夫の「心の恋人」である。

夫はFacebookで昔の同僚たちを探し出し、彼らを通じてさんざん苦労して元カノの連絡先をつきとめた。そしてその後は、メールや電話で密に連絡をとりあってきたらしい。昨年、彼女の配偶者が病死し、その前後はうちの夫が彼女の心の支えとなってたらしく、「彼の献身的なサポートがなかったら、今頃私はどうなってたことか」と彼女は言った。

たまたま彼女が出張でこの近くに来ることになり、夫が「ぜひ会いたい」と彼女に懇願して、今回の再会となった。私はほんの偶然からこの逢瀬を知ってしまい、夫と同伴することにしたのだ。しかし再会時の二人の様子からして、明らかに彼らは二人きりで会うことを予想していたようだ。

そりゃ無理もない。
元カレから熱烈なラブコールを受け、「君に会いたいんだ!」と言われたら、たいていの女は「あの人、私にまだ気があるんだわ」と思うだろう。

「昔は良かった」と言い出すと、トシをとったと言われる。
が、男というものは、若く希望があった時代をいつまでもなつかしみ、なんとかしてその時代へ戻るきっかけをつかもうとする動物だ。今の時代はSNSという便利なツールのおかげで、昔の恋人を探し出して往年の炎を燃やすことが可能なのだ。

この二人が恋人だったときから三十年ちかくの月日が流れ、彼女は体重が大幅に増えてレストランの椅子にお尻がおさまらず、しょっちゅう姿勢を変えながら会話していた。昨年の配偶者の死から、一気に体重が75ポンド増えたという。糖尿病の疑いで、通院しているとのことだった。うちの夫も中年となりハラが出てきたから、お互いさまだろう。昔の面影よ、いずこ、ということか。

別れ際、彼女は私たちにこう言った。「今日はとっても楽しかったわ。ぜひまた近いうちに会いましょう!」

私は「二度目は、ないよな」と思いながらも満面の笑みで「そうね、またお食事一緒しましょう」と握手し、レストランのドアへと向かった。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 思い出ワイン | トップ | Downsizing »
最新の画像もっと見る

その他」カテゴリの最新記事