たままま生活

子育ての間にこっそりおでかけ・手作り・韓国語・・・。
多趣味な毎日を紹介します。

『謝肉祭』ジョン・ソンテ

2012-06-12 22:18:20 | 韓国文学
ジョン・ソンテ作家の最初の短編集、『埋香ー매향』よりひとつ。

一番気に入った(方言が少ないので、一番理解できている)『사육제』をご紹介します。
タイトルはハングルで書かれていて、じ~っと見てると感じが浮かんでくるんですけど
(いえ、一発でわかる人にはわかるのでしょう)
『謝肉祭』ですね。

舞台は元炭鉱の町。閉山の際の抗議の記憶も、落書きも廃墟となった社宅も残っていますが、
にぎやかだった町も店は閉店し、人は消えました。
貯水池から、おぼれて死んだ少女の鳴き声が聞こえると大きな噂になり
ムーダンを読んでクッ(鎮魂のための祈り)も行われることになり、町は一時にぎやかさを取り戻します。
「カーニバルだね!」と町の人たちが言うのです。

主な登場人物は、一人称の나「僕」と 기복이 엄마 「キボギのかあちゃん」。
「僕」の視点で物語は進んでいきます。

「僕」は口を開くとひどいどもりがありますが、小学校さぼっているできの悪いこどもなんだろうな、くらいに感じます。「僕」がどんな子なのか、もう少し読んでみましょう。

본래 혀가 짧은 나는 침을 끊임없이 입 밖으로 흘러나와, 아마 그것이 사람들을 무척 부답스럽게 하는 모양이었다.
もともと舌が短い僕は絶えず口からよだれを垂らしていたが、おそらくそれで周りの人たちはずいぶん重荷に感じているようだった。p238

나는 오른손을 잘 쓰지 못했다. 손이 뒤틀린 채 굳었기 때문이다.
僕は右手がうまく使えなかった。手がねじまがったまま固まっていたからだ。p244

평소 뒤뚱거리는 몸
普段からグラグラしている体 p244


この辺までくると、あれ?何か障害があるのかな?と感じますよね。
そして、「僕」の認識と外の世界との間にもズレがあるのに気づきます。
地の文は「僕」の主観ですが、ただ描写しているだけでその意味までは理解できていなかったり、他の登場人物の行動や台詞からも現実がどんなものかがわかります。
 
그가 손가락을 옆머리에 올리고 몇 바퀴 동그라미 치자 /
"미친 여자?"/
"사내 아이는 그런 것 같은데."/
"등에 업은 인현을 보면 몰라요?/ 애가 차에 치어 죽었거든요."
彼が指を頭の横にあげて何周かくるくる回すと/
「彼女、気がふれてるのか?」/
「坊主の方はそうみたいだけど」/
「人形をおんぶしてるのを見てわからないか?/子供が車に轢かれて死んだんだよ。」
p247

하지만 그 날 같은 경우엔 기복이 제 엄마를 달랬어야 옳다고 나는 생각했다.녀석은 눈깔만 퍼렇게 부라릴 줄 알지, 도대체 할 줄 아는 게 아무 것도 없었다.
しかし、そんな日にはキボギが自分の母ちゃんを慰めるのがまっとうだとおもった。奴は青い目をぱちくりさせるばかりで、だいたいできることといったら何にもなかった。p 249

예전에 나에게도" 몹쓸 년" 이라는 이름을 가지는 엄마가 있었던 모양이다.
/ 더러 나를 바라보면 "몹쓸 년"하고 할아버지는 엄마의 이름을 한숨과 함깨 뇌까리곤 했다.
前には僕にも「アバズレ」という名前の母親がいたようだ。
(中略)時々僕を見ながら「アバズレ」と、じいちゃんは母ちゃんの名前を溜息と一緒に吐き出したものだ。
p249

구장이 할아버지에게 도장을 돌려주며/ 서류를 동글게 말아서 /
"영감님께서 언제까지 데리고 있을 수 없잖아요. 요번 일만 잘 되면 그 쪽 사람들한테 부탁해서 적당한 수용시설을 주선해 드리죠."
区長はじいちゃんに印鑑を返しながら/書類を丸めて/
「爺様がいつまでも一緒にいられるわけないじゃないですか。今回のことがうまくいけばあちらに頼んで、ちょうどいい預け先も選んでくれるでしょう。」p259


30ページちょっとの短編はp261で終わりなので、ここが最後のネタバレなのです。
ページを見てみると、絶妙に小出しにしているのがわかります。
一人称の小説で「나」って誰だろう??と探り探り読むのが好きな私のためにあるようなお話でした。
また、作者特有の端正な文を一人称で語っているというギャップが、効果的でした。

廃鉱の町の様子や、オオガエル(ハングルでは왕개구리 ですが、ウシガエルですかね?静岡では食用ガエルを縮めてショックウと呼んでいましたが)にこだわる話、キボギの母ちゃんの妊娠の話などが出てきます。

障碍の自覚もなく、母親に捨てられた「僕」にとって、キボギの母ちゃんとじいちゃんとすごす、炭鉱の町はユートピア。でもユートピアは終わるのです。

物語は「僕」が空に手を伸ばし"승천하거라!" 「成仏なされよ!」と叫んで終わります。
貯水池の少女の幽霊を鎮める、クッの言葉ですが、「僕」の言葉は誰の魂を救うことができるのでしょうか。